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腹膜透析導入期のパラメータと予後についての解析

東邑, 美里 東京大学 DOI:10.15083/0002005063

2022.06.22

概要

序文
腹膜透析(PD)は腹膜の生体半透膜としての性質を活かして行われる透析療法である。本邦は諸外国に比してPDの占める割合は低いが、腎不全の初期治療としてPDを選択する考え方が評価されており、PDは今後とも透析療法において重要な位置づけにあるといえる。

心血管疾患(CVD)による死亡は透析患者の死因の39%を占める。慢性腎臓病患者のCVDや死亡のリスク因子の1つとして左心室肥大(LVH)があり、維持透析患者の75%がLVHを有する。左室肥大様式(左室ジオメトリ)は、心臓エコー検査によって求められた左室心筋重量係数と相対的壁厚の値に基づき、求心性左室肥大(cLVH)、遠心性左室肥大、求心性リモデリング、正常ジオメトリの4パターンに分類される。LVHは通常、cLVHと遠心性左室肥大の両者を指す。透析患者ではcLVHが最も多いとの報告があるが、PD導入期の左室肥大様式と予後の関連を報告した文献はない。

また、透析患者において低栄養は死亡のリスク因子である。geriatric nutritional risk index (GNRI)は包括的栄養評価の指標の1つであり、血清アルブミン値、身長、現体重、理想体重を用いて算出される。透析患者においても栄養障害のリスク評価のために広く使用されているが、PD導入期のGNRIと予後を検討した報告は少ない。本研究では、PD導入期のLVH・cLVHおよび、GNRIと予後との関連を検討した。

目的
[研究1]では、PD導入期におけるLVH・cLVHが予後に与える影響を検討した。また、腹膜導入期のLVH・cLVHに共通して関連するパラメータを探索した。本邦では透析患者の高齢化が進み、また左室肥大が年齢と強い相関をもつことが知られていることから、65歳以上の高齢患者群をサブグループとして同様の解析を行った。[研究2]では、PD患者の導入期におけるGNRIと予後との関連を検討した。さらに、PD導入期のGNRIと左室ジオメトリとの関連を検討した。

方法
東京大学医学部附属病院にて、2001年7月から2017年12月までの期間に最初の腎代替療法としてPDを選択し、導入した成人症例148例を対象とした後ろ向き観察研究を行った。[研究1]ではPD導入期に心エコーが行われなかった17例を除外し、[研究2]ではPD導入期の血清学的データが欠損していた1例を除外した。PD導入期の臨床パラメータに加え、[研究1]では心臓超音波検査結果、[研究2]ではGNRI値を収集した。一次アウトカムとしてPD導入からPD離脱6か月後までの生存率を、二次アウトカムとしてPD継続中の主要心血管イベント(MACE)発生率および、観察期間中のPD継続率を評価した。

結果
[研究1]にて、PD導入期のLVHは43例(33%)に、cLVHは29例(22%)に認めた。全患者の観察期間は35.0[19.6-63.4]か月、65歳以上の症例では32.7[18.3-58.6]か月であった。Kaplan-Meier分析では、LVH群は非LVH群よりも患者生存率(p<0.001)、MACE非発生率(p=0.002)、PD継続率(p<0.001)のいずれも有意に低かった。cLVH群と非cLVH群に分けた場合でも、cLVH群は非cLVH群よりも患者生存率(p<0.001)、MACE非発生率(p=0.002)、PD継続率(p=0.013)のいずれも有意に低かった。高齢患者群でも同様の結果を示した。

Cox比例ハザードモデルによる解析では、LVHおよびcLVHは死亡(HR[95%CI]は各々5.63[1.06-29.88]、4.84[1.09-21.54])およびPD離脱(2.31[1.43-3.73]、1.72[1.03-2.89])の独立危険因子であった。高齢患者群では、LVHおよびcLVHは死亡(5.22[0.90-30.39]、5.00[1.19–20.99])、MACE(4.18[1.27-13.83]、3.33[1.32-8.43])およびPD離脱(4.25[1.86-9.74]、2.98[1.37-6.46])の独立危険因子であった。

二項ロジスティック回帰分析において、PD導入期のLVHと関連するパラメータとしては年齢、cLVHと関連するパラメータとしては年齢および血清アルブミンが抽出された。高齢患者群では、血清アルブミンは年齢で調整した場合もcLVHの独立関連因子であったが、LVHの独立関連因子とはならなかった。

[研究2]において、対象患者の年齢は61.5±13.5歳、GNRIは92.9[86.7,97.9]であった。ROC解析にてGNRIは死亡を予測し、予測精度はAUC-ROC値として0.79[0.55-0.92]、Youden indexは0.58、その際のGNRIは83.5であった。対象患者をGNRI83.5をカットオフ値とし、低GNRI群と高GNRI群で分割したKaplan-Meier分析において、低GNRI群では生存率、MACE非発生率、PD継続率のいずれも有意に低かった(すべてp<0.001)。[研究1]と共通する対象患者群131人において、LVMIはGNRIと有意な負の相関を示し(R2=0.14、β=-1.62、p<0.001)、左室ジオメトリ毎の評価ではcLVH群のみが他の3つのジオメトリの群のGNRIと比較し有意に低値であった(対正常群;p<0.001、対求心性リモデリング群;p=0.002、対遠心性左室肥大群;p=0.014)。低GNRIと高GNRI、cLVHと非cLVHの両者を組み合わせた場合のKaplan-Meier分析において、低GNRIを合併したcLVH群は合併していないcLVH群よりも患者生存率(p=0.008)、MACE非発生率(p=0.012)が有意に低かった。低GNRIおよびcLVHの両者を変数に組み込み多変量解析を行ったところ、低GNRIが死亡(HR[95%CI]:5.72[1.15–28.50])およびPD離脱(HR[95%CI]:2.82[1.11–7.17])の独立危険因子として残存した。

考察
透析患者の左心室は、体液過剰による量負荷と高血圧による圧負荷を受けており、末期腎不全患者の左室肥大は遠心性と求心性の両方の要素を併せ持つことが多い。[研究1]にて最も多い左室肥大様式はcLVHであり、対象患者の年齢が60.8±12.7歳であったことを加味すると、過去の報告と概ね矛盾しない結果であった。

Cox回帰分析では、年齢も死亡やMACEの独立予測因子であった。また、2項ロジスティック回帰分析において、年齢はPD導入期のLVH・cLVHに重大な関連を示していた。加齢とともに心筋の重量低下、残存心筋の代償性肥大、細胞内基質の線維化といった組織学的変化が起こり、cLVHへの形態学的変化をもたらすとされている。全患者群においては年齢の交絡因子としての影響が大きいが、高齢患者群においては年齢が独立関連因子としては残存せず、年齢の分布が狭まることで他のパラメータの影響がより強く反映される結果となった。

LVH・cLVHが透析患者の予後と関連するメカニズムは明らかでないが、以下の可能性が推定される。第1に、PD患者のLVH・cLVHとCVD・死亡のリスク因子は共通しており、PD患者がCVDや死亡にいたるまでの前段階として、左室のジオメトリ変化を見ている可能性がある。第2に、LVH・cLVHでは左心室の心筋が硬化し、拡張障害をきたしやすく、左室充満が障害され1回拍出量の低下が起こる。適切な体液管理が行われていないPD患者では、前負荷の増大に打ち勝てず、血行動態が破綻し予後悪化をきたす可能性がある。第3に、特にcLVHにおいては、肥厚した心筋の酸素需要に比して冠動脈血流量が相対的に低下することから酸素供給のミスマッチがおこりやすく、微小血管レベルでの虚血が起こり、CVDに至りやすくなる可能性がある。

[研究1]では、PD導入期の血清アルブミン濃度がcLVHの独立関連因子であることも示された。低栄養や炎症などに起因する低アルブミンは、心筋壁の肥厚に代表される心臓の構造に悪影響を与えている可能性がある。

[研究2]では、PD導入期のGNRIが死亡やMACE、PD離脱の独立予測因子であることが示された。末期腎不全患者における低栄養は、尿毒症やアシドーシスなどによる栄養摂取量減少、炎症・感染・心不全合併による蛋白異化、透析膜の生体不適合性、透析液への栄養喪失、PD液貯留時の腹部膨満感など、様々な原因で引きおこされる。今回、PD患者においても血液透析や保存期の患者同様、低栄養がCVDや死亡のリスク因子となる可能性が示唆された。

さらに、左室ジオメトリではcLVH群においてGNRIが有意に低かった。Kaplan-Meier分析にて、低GNRIとcLVHを合併したPD患者は有意に予後が悪化しており、Cox回帰分析においてPD患者の予後には低GNRIがより強く関与していたことから、cLVHによる予後悪化は低栄養の存在に依存した結果である可能性が考えられた。

結論
本研究において、PD導入期のLVH・cLVHとGNRIがPD患者の予後を予測しうることが示された。LVH・cLVHに至るには、従来のリスク因子に加え保存期の栄養状態にも注目する必要がある。PD導入前までの栄養状態改善がcLVHに代表される心室構造変化を予防し、PD開始後の心血管病変および死亡、PD離脱のリスクを減少させる可能性があるため、さらなる研究が望まれる。

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