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大学・研究所にある論文を検索できる 「心外膜脂肪組織に着目した心機能および運動耐容能低下予防に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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心外膜脂肪組織に着目した心機能および運動耐容能低下予防に関する研究

杉田, 洋介 筑波大学

2023.01.16

概要

【背景】
心機能や運動耐容能の低下は心血管疾患発症や生命予後の悪化と密接に関連する指標である。近年では,その関連因子の一つとして心臓に蓄積する内臓脂肪組織である心外膜脂肪組織 (epicardial adipose tissue: EAT)が注目されている。EAT は他の脂肪組織と比較して炎症性サイトカインなどの生理活性が高く,肥満者や 2 型糖尿病といった心血管疾患の発症リスクが高い有疾患者,および左室駆出率が保持された心不全 (heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF) 患者において蓄積することが報告されている。EAT と心機能,および運動耐容能の関連については一部の横断研究によって有意な関連が報告されているが,心機能の重症度との関連,幅広い年代や性差における検討,他脂肪組織との比較,運動中の血行力学的反応指標を含めた検討,および定期的な運動による心機能や運動耐容能の変化にEAT の量的変化が関与するかは不明なままであった。

【目的】
本研究の目的は,心臓超音波検査と心臓磁気共鳴画像検査を用いて定量的に測定された EAT と心機能,最大下運動中の血行力学的反応,および運動耐容能との関連を横断的,縦断的に検討することにより,定期的な運動の心保護効果をEAT の観点から明らかにすることであった。

【研究課題Ⅰ】対象と方法
研究課題Ⅰでは心臓超音波検査で測定した右心室自由壁上での EAT の厚さ (EAT thickness)と安静時の左心室構造機能 (左心室縦ひずみ: LV-GLS,左心室拡張機能: E/e',求心性リモデリング: CR,遠心性肥大: EH,求心性肥大: CH),および運動耐容能指標である最高酸素摂取量 (peak oxygen uptake: peakV̇ O2)の関連を無症候性心不全期の 2 型糖尿病患者 176 名,および健常対照者 62 名で横断的に検討した。

結果
3 群間で年齢,性別,体格指数(body mass index: BMI)を一致させた場合でも,無症候性心不全群 (stage A heart failure: SAHF,stage B heart failure: SBHF)は EAT thickness が有意に厚く (対照群: 5.5±1.2mm vs SAHF: 6.4±1.0mm,および SBHF: 9.3±1.7mm,p< 0.001), peakV̇ O2 も低値(24.1±3.3mL/min/kg vs SAHF: 19.1±2.0mL/min/kg vs SBHF16.9±3.1mL/min/kg,p< 0.001)を示した。左室構造機能異常がある場合,対照群と比較してEAT thickness は有意に厚く (対照群: 5.7±1.5mm,LV-GLS≧-18.0: 8.0±2.1mm,E/e'≧ 13.0: 8.6±2.0mm,CR: 8.3±2.2mm,EH: 8.8±2.1mm,CH: 9.0±2.2mm,p< 0.001),peakV O2 (対照群: 24.1±3.3mL/min/kg,LV-GLS≧-18.0: 17.2±2.0mL/min/kg,E/e'≧13.0: 16.3±2.6mL/min/kg,CR: 17.0±3.4mL/min/kg,EH: 15.4±2.1mL/min/kg,CH:14.8±2.0mL/min/kg,p< 0.001) も低値を示した。多変量を調整した重回帰分析において, EAT thickness (β= -0.189,p= 0.004)は peakV̇ O2 と独立して関連した (R2 = 0.457)。これらの結果から,EAT が 2 型糖尿病患者の心不全症状の悪化に関連する指標である可能性が示唆された。

【研究課題Ⅱ】対象と方法
研究課題Ⅱでは,心臓磁気共鳴画像検査で測定した EAT 容積 (EAT volume) と非侵襲的経胸壁生体インピーダンス装置で測定した最大下運動時の血行力学的反応指標である心拍出量 (peak cardiac output index: peak CI),1 回拍出量 (peak stroke volume index: peak SI),心拍数 (peak heart rate: peak HR),推定動静脈酸素較差(peak arteriovenous oxygen difference: peak a-vO2 diff),心拍数回復 (heart rate recovery: HRR),および peakV̇ O2 の関連を幅広い年代 (21 - 85 歳) の日本人男女 120 名で検討した。加えて,腹部内臓脂肪や皮下脂肪も含めた各脂肪間で関連の強さを比較した。

結果
研究対象者を年齢(≧40 歳)と性別で 4 群に分類した結果,体表面積で補正した EAT volume は中高齢女性群で最も蓄積していた (若年男性群: 50.9mL/m2,中高齢男性群: 65.8mL/m2,若年女性群: 52.4mL/m2,中高齢女性群: 81.3mL/m2,全て中央値)。心血管疾危険因子の有無に応じたEAT volume の分布は,メタボリックシンドローム構成要素 (高血圧,高血糖,脂質異常症),左室肥大,日常身体活動量低下,および運動耐容能低下を有する群は,有さない群と比較して EAT volume が有意に増加していた (p< 0.05)。BMI,空腹時血糖値,左室肥大の有無を制御変数とした偏相関分析において,EAT volume は peakV O2 (r= -0.592),peak CI (r= -0.582),peak SI (r= -0.375),peak HR (r= -0.658)と有意に負の相関を示した (p< 0.001)。このEAT volume と peakV̇ O2 の相関係数は,腹部の内臓脂肪面積 (r = - 0.428, p< 0.001),および皮下脂肪面積 (r = -0.169)よりも高かった。多変量を調整した重回帰分析において,EAT volume (β= -0.359,p< 0.001)は peak CI と✲➴して関連した (R2 = 0.778)。しかしながら,peak SI やpeak HR といった Fick の式の構成要素を含めた検討をした場合,EAT volume は peakV O2 の予測因子からは除外された.これらの結果から,幅広い年代の日本人男女において,EAT volume の増加が異常な血行力学的反応を媒介してpeakV O2 の減少と部分的に相関している可能性が示唆された。

【研究課題Ⅲ】対象と方法
研究課題Ⅲでは,有酸素運動とレジスタンストレーニングを中心に構成された習慣的な運動トレーニングが EAT thickness に及ぼす影響をHFpEF 患者 99 名で検討した。また,運動トレーニングによるEAT thickness の変化率と心機能,peak CI,peak SI,peak HR,peak a-vO2 diff ,HRR,および peakV̇ O2 の変化率の関連を検討した。

結果
5 か月間の心臓リハビリテーション介入後,EAT thickness (介入群: -10.2% vs 対照群:+7.4%),LV-GLS (介入群: -12.6% vs 対照群: +6.0%),E/e' (介入群: -12.1% vs 対照群:+5.2%),RWT (介入群: -4.5% vs 対照群: +1.5%),peakV̇ O2 (介入群:+ 8.4% vs 対照群: - 12.4%),および peak CI (介入群:+4.1% vs 対照群: -6.8%)で有意な交互作用を認めた (p<0.001)。偏相関分析において EAT thickness の変化率と LV GLS (r = -0.693),E/e' (r = 0.664), LVMI (r = 0.260),RWT (r = 0.643),peak CI (r = -0.631),peak SI (r = -0.461),peak HR (r = -0.639),peak a-vO2 diff (r = -0.624),HRR (r = -0.509),および peakV̇ O2 (r = -0.687)の変化率と有意に相関していた(p< 0.001)。多変量を調整した重回帰分析において,EAT thickness の変化率は peakV̇ O2 (β = -0.069,p= 0.002,R2 = 0.989),および peak CI (β= -0.404,p< 0.001,R2= 0.989)の変化率と✲➴して関連していた。これらの結果から,HFpEF 患者において,EAT thickness の増加が心機能異常や血行力学的反応低下を媒介して peakV̇ O2 の減少と✲➴して関連している可能性が示唆された。

【まとめ】
本研究により得られた知見を以下に示す。
1. 2 型糖尿病を伴った無症候期心不全患者において EAT thickness が心機能指標,心機能障害の重症度,および peakV̇ O2 と有意に関連することが示唆された。
2. 心血管疾患のない幅広い年代の日本人男女において EAT volume が最大下運動時の血行力学的反応指標である peak CI,および peakV
3. O2 と有意に関連することが示唆された。
4. HFpEF 患者における 5 か月間の運動トレーニング介入によって減少した EAT thickness変化率と心機能指標,最大下運動時の血行力学的反応指標,および peakV O2 の変化率が有意に関連することが示唆された。

以上の結果は,心不全の無症候期から EAT が心機能,最大下運動時の血行力学的反応指標,運動耐容能指標に一定の有害な影響を与えている可能性を示唆しているものであり,心血管疾患の発症リスクが高い有疾患者における心不全重症化予防のための有用な知見となり得る可能性がある。特に,研究課題Ⅲは効果的な内服治療が存在しない HFpEF 患者の心不全症状の改善や重症化予防のための有用かつ重要な新知見を提供するものであると考える。したがって,本研究で得られた一連の結果から,定期的な運動と EAT の制御が心保護に有効である可能性が示唆された。

今後は,EAT の減量が心機能や運動耐容能を直接改善して心保護的に作用するのか,それとも単なるバイオマーカーの一つであるのかを明らかにするために,血漿中の炎症性サイトカイン,運動負荷中の自律神経活性に関与する末梢血カテコールアミン濃度,右室機能評価,そして薬理学的介入も含めた新たな研究が必要である。

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