Frequency and duty-cycle dependence of photo-induced displacement current in organic MISIM photocells
概要
学位報告4
別紙4
報告番号
※
甲
第
主
号
論
文
の
要
旨
論文題目
Frequency and duty-cycle dependence of photo-induced displacement
current in organic MISIM photocells
(有機 MISIM 光電セルにおける光誘起変位電流の周波数およびデュー
ティー比依存性)
氏
名
富松 明宏
論 文 内 容 の 要 旨
有機半導体は有機物に特有の柔軟性や軽さなどの性質を持つため従来の無機半導体
では適用が困難だった用途に対する応用が見込める。しかし、有機半導体は一般的に無
機半導体と比べてキャリア移動度や安定性が低く、これらの改善を目指した研究が活発
に展開されている。それに対して、近年、キャリア移動度が低い有機半導体を用いた光
電セルにおいて巨大な過渡光電流が見いだされ、有機半導体内における、バルクの分極
と電極界面での光電荷分離の相乗効果として解釈された。この発展形として、
[金属|絶
縁体|半導体|金属]
(MISM)構造をもつ有機光電変換セルが考案され、S 層の光電荷
分離と I 層の分極の相乗効果が確認され、光センサーや有機交流太陽電池への発展が検
討されている。そして、究極の光誘起変位電流発生機構とも言えるのが[金属|絶縁体
|半導体|絶縁体|金属]構造(MISIM)で、光感応部位である S 層が I 層によって完
全に電極から遮断されており、界面を通過するキャリア移動は一切ない。この MISIM セ
ルについては、誘電率の大きい絶縁体と小さい絶縁体を組み合わせることにより、光強
度の変化に対して高速な応答と高い応答性が得られることが分かっているが、そのメカ
ニズムについてはほとんど調べられていない。本論文では MISIM セルに対して、セルの
構造や照射する変調光を変化させることでそのメカニズムを検討した。
学位関係
本論文は4つの章で構成されており、第1章では本研究の背景として、有機エレクト
ロニクスと有機光電変換が発展してきた経緯と実用化に対する現状を述べ、本論文で扱
う MISIM セルのもととなった MISM セルについて概観した後、本論文の構成が記述さ
れている。
第2章では有機半導体としてドナー材料の亜鉛フタロシアニン(ZnPc)とアクセプタ
ー材料のフラーレン(C60)を用いた二層膜、有機絶縁体としてパリレン C(PC)を使用
した MISIM セルに対して、電極に使用する金属の種類や ZnPc と C60 の積層順、変調光
(光照射の on/off)の周波数をそれぞれ変化させて、MISIM セルで生じる光誘起変位電
流のメカニズムを探った。この構造においても、光照射時には S 層の光誘起分極に起因
する変位電流が外部回路に流れ、光遮断時には S 層内の脱分極(キャリア再結合)に起
因する負の電流が流れることが分かった。金属の種類と有機半導体の積層順を変化させ
た場合では、生じる電流の方向は ZnPc と C60 間の電荷移動によって生じる半導体層の分
極の方向によって支配され、電極の仕事関数の差による影響は小さいことが分かった。
つまり、S 層内の光誘起分極の方向が、外部回路を流れる変位電流の方向を支配する。
さらに、変調光の周波数を変化させた場合、光照射時の変位電流は周波数に大きく依存
するのに対して、光遮断時には周波数依存性はほとんどないことが示された。これは、
光照射時と光遮断時の初期状態の違いによるものと考えられ、S 層における光照射時の
分極が極めて速く、常に分極飽和の状態から光遮断時の脱分極が生じるのに対して、光
遮断時の脱分極は遅く、これが次の光照射時において初期状態の差となると解釈できた。
第3章では第2章と同じ材料を用いたセルに対して、変調光の光照射時間と光遮断時
間を 0.2~2.0 s の範囲で独立に変化させることで、変調周波数に加えて変調周期におけ
る光照射時間が占める割合であるデューティー比に対する光誘起変位電流の依存性を
探った。その結果、光照射時および光遮断時の光誘起変位電流の大きさはそれぞれ光遮
断時間および光照射時間に大きく依存し、光照射時および光遮断時の光誘起変位電流が
その直前の光遮断時および光照射時の分極状態の影響を大きく受けることが示唆され
た。また、立ち上がり時間に関しては光照射時と光遮断時の両方で光照射時間が長いほ
どより短くなることから、変調光のデューティー比を変化させることで、同じ周波数で
あっても光誘起変位電流の立ち上がり時間を短くできることが分かった。変調周期当た
りに生じる電荷の量はデューティー比がおよそ 40%で最大となり、変調周波数が高くな
るにつれて次第に増加することも明らかにした。さらに、MISIM セルのモデル回路を組
み立てることで、光誘起変位電流の周波数依存性を定量的に説明できることを見出した。
第4章では本研究結果を簡潔にまとめた。本研究から、MISIM セルのさらなる性能の
向上には光遮断時における半導体層内での電荷の再結合をいかに速くするかが重要で
あることや、半導体層のドナー・アクセプター界面が光誘起変位電流の方向に強く影響
することが明らかになった一方で、MISIM セルではより幅広い種類の金属を電極に使用
できる可能性や、同じ変調周波数においてデューティー比を大きくすることでより高速
な応答を得られる可能性が見出された。