Reproducibility of the T-SPOT.TB test for screening Mycobacterium tuberculosis infection in Japan
概要
1.序論
インターフェロンガンマ遊離試験(interferon-gamma release assay; IGRA)は,Bacille Calmette–Guérin(BCG)ワクチンの接種が行われている国において,結核の感染診断法として非常に有用である(Andersen et al., 2000).しかし近年,一般集団や医療従事者に対し IGRA の反復検査を行った研究において,高い陽転化率と陰転化率が報告されており,IGRA の再現性に疑問が持たれている(Dorman et al., 2014; Joshi et al., 2014; Slater et al., 2013).
現在日本で市販されている IGRA には,クォンティフェロン🄬🄬 TB ゴールドプラス(QFTPlus)と T-スポット🄬🄬 TB(T-SPOT)の 2 種類が存在するが,QFT は T-SPOT と比較し使用開始時期が早く臨床現場で広く使用されていたことから,再現性に関する研究は QFT で多く行われており,T-SPOT に関する研究は少ない.またこのような研究のほとんどは結核低蔓延国で実施されており,日本のような結核中蔓延国からの報告は乏しい(Tagmouti et al., 2014).さらに T-SPOT の再現性に関する研究の多くは一般集団と医療従事者を対象としており,実臨床の患者を対象とした報告はほとんど存在しない.
本研究は,結核中蔓延国である日本の実臨床の患者を対象とした T-SPOT の再現性の評価を目的とした.また T-SPOT の結果は測定地域の結核発生率に影響を受けると考えられており,T-SPOT の再現性の評価を行うために T-SPOT の陽性率についても検証する必要があると考えた.そのため,日本の横浜市に位置する 2 病院で結核スクリーニング目的に T-SPOT が測定された症例のデータを後ろ向きに収集し,T-SPOT の陽性率を検証した.また T-SPOT の反復検査が行われた症例を解析し,再現性について検証した.
2.実験材料と方法
2014 年 4 月 1 日から 2016 年 3 月 31 日までに,日本の横浜市に位置する横浜市立大学附属市民総合医療センターと横浜南共済病院の 2 病院で T-SPOT が施行された患者を対象とした.すでに活動性結核と診断されている患者は除外した.また T-SPOT の結果は陽性,陰性,判定保留,判定不能に分類されるが,本研究の目的上判定保留と判定不能の症例は除外した.2 病院の患者背景,T-SPOT の陽性率と陰性率について解析した.また T-SPOT の再現性を検証するため,期間内に T-SPOT の反復検査を受けた症例を集積した.T-SPOT の陰性から陽性への変化を陽転化,陽性から陰性への変化を陰転化と定義し,2 病院の陽転化率と陰転化率について解析した.
3.結果
2 病院で計 3890 の T-SPOT テストが施行された.患者背景としては,横浜市立大学附属市民総合医療センターでは横浜南共済病院と比較し,有意に年齢が若く(中央値/範囲 61/15-96 vs 71/15-100 P<0.0001),また男性が多かった(51.3% vs 41.4% P<0.0001).
基礎疾患は患者数が多い順に,横浜市立大学附属市民総合医療センターでは関節リウマチ(17.8%),潰瘍性大腸炎(10.0%),肺癌(8.6%),クローン病(6.7%)であり,横浜南共済病院では関節リウマチ(28.0%),関節リウマチ以外の膠原病(11.8%),肺癌(8.8%)であった.T-SPOT を施行した理由は 2 病院とも,生物学的製剤使用前の結核スクリーニングが最多であった.T-SPOT の陽性率と陰性率は,横浜市立大学附属市民総合医療センターでは 9.0%と 86.8%,横浜南共済病院では 7.5%と 88.6%であり,2 病院間で有意差は認めなかった.また年齢ごとに区分したところ,2 病院とも 20~59 歳までの患者では陽性率は約 5%であったが,60 歳以上の年齢層では陽性率が著しく高くなった.これらの結果について,2 病院間で有意差を認めなかった.
反復検査は横浜市立大学附属市民総合医療センターで189例,横浜南共済病院で184例,計373例施行された.横浜市立大学附属市民総合医療センターでは初回陰性例が177例で,そのうち 1 例(0.6%)が陽転化し,横浜南共済病院では初回陰性例が 172 例で,そのうち 3 例(1.7%)が陽転化した.また横浜市立大学附属市民総合医療センターでは初回陽性例が 12 例で,そのうち 2 例(16.2%)が陰転化し,横浜南共済病院では初回陽性例が 12 例で,そのうち 1 例(8.3%)が陰転化した.2 病院をあわせた陽転化率と陰性化率はそれぞれ 1.1%と 12.5%であり,初回陰性であった症例のうち,ほとんど全て(98.9%)の症例で反復検査も陰性であった.
4.考察
結核低蔓延国で施行された IGRA の再現性に関する研究では,疫学的に予測された頻度よりも頻繁に陽転化と陰転化が発生することが報告されている(陽転化率 3.2~8.3%、陰転化率 38.7%~63.9%)(Dorman et al., 2014; Joshi et al., 2014; Slater et al., 2013).しかし近年米国で施行された T-SPOT の再現性についての最大規模の研究では,陽転化率 0.8%,陰転化率 17.6%と以前の研究よりも低かった(King et al., 2015).本研究での T-SPOT の陽転化率と陰転化率はそれぞれ 1.1%と 12.5%であり,この結果と類似していた.これらのデータは、結核中蔓延国である日本の病院において,T-SPOT は再現性良好な結核スクリーニングツールであることを示している.結核中蔓延国では HIV 感染者や免疫抑制剤による治療を受けている等の免疫抑制患者の潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection:LTBI)を治療することにより活動性結核のリスクを低減できると報告されている(Ai et al., 2016).よって結核スクリーニングは非常に重要であり,そのためのツールとして T-SPOTが有用であることが示唆された