Infliximab for the Treatment of Refractory Kawasaki Disease: A Nationwide Survey in Japan
概要
【序論】
川崎病は川崎富作博士(1967)が報告した小児に好発する全身性の血管炎で, 第25回川崎病全国調査では, 年間15, 000人以上の発症を認めている(日本川崎病研究センター川崎病全国調査担当グループ, 2019).原因は不明だが, 川崎病では感染を契機として, 免疫の過剰な活性化が起き, 血管炎が惹起される.また, 宿主要因もあり, 多因子が複雑に絡み合って発症すると考えられている.川崎病の症状は, 発熱, 眼球結膜の充血, 口唇の発赤, 発疹, 四肢末端の変化, 非化膿性頸部リンパ節腫脹の6症状のうち5症状以上を認めて診断に至る(日本川崎病研究センター厚生労働科学研究難治性血管炎に関する調査研究班, 2019).血管炎は主に小・中動脈を主座とし, その後遺症として無治療では, 約25%に冠動脈瘤を発症することが知られている(Kawasaki et al., 1974).川崎病の急性期には, C-reactive protein(CRP)を含めた炎症性マーカーが上昇し, これらは炎症性サイトカインの上昇を示唆している.上昇しているサイトカインはtumor necrosis factor(TNF)-α, interleukin(IL)-1, IL-4, IL-6, IL-10, interfereon(IFN)-γ, monocyte chemotactic protein(MCP)-1などが挙げられる(Furukawa et al., 1988;阿部, 2014).川崎病で高頻度に侵襲されるのは冠動脈である.治療が進歩したことで, 川崎病の後遺症である心臓血管後遺症発生率は1983年の16.7%から2017年には2.3%へと低下した.致命率も1970年代には1%を超えていたが, 現在では0.01%に低下している.川崎病の治療で, 最も信頼できる治療方法は免疫グロブリン療法(IVIG)療法であり, 川崎病患者の94.6%がIVIG療法を受けている.その一方で, IVIG療法不応(IVIG投与終了24時間以内に37.5℃未満が持続しない)例が19.7%存在している.IVIG療法不応例の方が, 冠動脈瘤の発症率が高いことも知られている.IVIG療法以外の治療方法は, ステロイド療法(プレドニゾロン(PSL), メチルプレドニゾロンパルス(IVMP), シクロスポリン(CyA)療法, ウリナスタチン療法, 血漿交換療法, インフリキシマブ(IFX)療法がある(日本小児循環器学会学術委員会, 2020).本研究ではこれの治療方法のうち, IFX療法に着目し, IFX療法の全国的な使用実態調査を実施した.
IFXは遺伝子組み換え技術によって開発されたキメラ型抗TNF-αモノクローナル抗体製剤である.IFXはキメラ型の抗体で, ヒトTNF-αに特異的な可変領域はマウスに, 定常領域はヒトIgG1に由来する.ヒトTNF-αに対して特異的に結合し, 可溶性TNF-αの生理活性を中和するとともに, 膜結合型TNF-α発現細胞を補体依存性あるいは抗体依存性に傷害する, ならびに細胞表面の受容体に結合したTNF-αを解離させるなどの機序により, TNF-αを抑制する(田辺三菱製薬HP).川崎病に対してWeiss et al.(2004)はIVIG療法不応, ステロイド療法不応の3歳男児へのIFX投与を初めて報告し, 本邦ではSaji et al.(2006)による使用経験が初めて報告された以降, IVIG療法不応例に対して投与が行われてきた.現在では, IFXはIVIG不応川崎病の追加治療として承認され, IFXの投与例も増加している.その一方で, 詳細な多施設のデータを用いたIVIG不応川崎病患者に対するIFX療法の有効性は検討されていない.さらには, リウマチ性疾患や炎症性腸疾患を含むIFXの適用疾患は乳幼児が好発年齢でないため, 乳幼児におけるIFXに関する安全性情報は乏しい.本研究の目的は, IFX使用実態アンケート調査結果に基づき, 本邦における川崎病患者に対するIFX療法の安全性と有効性を評価することである.
【対象と方法】
本研究は本邦における川崎病患者に対するIFXの使用実態を明らかにするための全国規模多施設共同後方視的アンケート調査を日本川崎病学会会員が在籍する274施設に対して実施した.川崎病に対して, IFXを使用した患者の性別, 年齢, IFXの投与タイミング, IFXの解熱効果, IFX療法前後の血液検査値, 冠動脈病変(CAL), 有害事象を評価した.
【結果】
2005年3月〜2014年11月の間にIFXを投与した川崎病患者の434例を解析した.発症時の月齢の中央値は33か月(範囲1〜138)で, 66例の患者(15.2%)が1歳未満だった.IFXの投与病日の中央値は, 第9病日だった.IFXは全例で追加治療として使用され, 275例(63.4%)が3rdlinetreatment(以下Line)として, 106例(24.4%)が4thLineとして投与された.IFX療法後には363例(83.6%)が2日以内には解熱を認め, 白血球数や好中球数やCRPが有意に低下した.その一方で, IFX療法後にも119例(27.4%)が追加治療を実施した.IFX療法前に, 132例(30.4%)がCALを発症していた.IFX療法前にCALを認めていない302例のうち, CALはIFX療法後に36例(11.9%)で新たに発生した.IFX療法前にCALが発生した132例のうち, 32例(24.2%)がIFX療法後にCALの重症度の悪化を認めた.69例(15.9%)でのべ80件の有害事象を認めたが, 重篤な有害事象は認めなかった.
【考察】
本研究は, 本邦におけるIFX療法症例の全国調査結果であり, IVIG不応川崎病患者に対するIFX療法に関する最大の報告である.IVIG療法不応川崎病に対するIFX療法により, 約80%の症例で投与開始2日以内に解熱し, 炎症マーカーも速やかに改善した.約3分の1の症例にCALを発症したが, その90%がIFX療法前からすでにCALを認めていた.有害事象を約15%に認めたが, 重篤な有害事象は少なく, いずれも治療介入によって改善した.
IVIG不応川崎病患者に対するIFX療法は有効性と耐忍性に優れた治療である可能性が考えられた.