リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスを用いた全身性強皮症におけるB細胞除去の影響に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスを用いた全身性強皮症におけるB細胞除去の影響に関する研究

沼尻, 宏子 東京大学 DOI:10.15083/0002002481

2021.10.15

概要

全身性強皮症は、免疫の活性化・血管病変・線維化の3つの病態からなる全身性炎症性疾患である。特に肺等の内臓諸臓器の線維化は、しばしば致死的である。B細胞は全身性強皮症の病態において重要な役割を果たしていることが動物実験を含めた数多くの研究から明らかとされ、近年、全身性強皮症に対するB細胞除去療法は、線維化病変に対して有用である可能性が示唆されており注目を集めている。しかしながら、B細胞が病態を引き起こす機序については未だ十分に明らかとされていないままである。

 今回我々は、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスを対象とし、抗CD20抗体によるB細胞除去を行うことにより、B細胞の全身性強皮症に及ぼす影響を検討した。今回の研究により、抗CD20抗体によるB細胞除去は、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスにおける皮膚と肺の線維化を抑制することが明らかとなった。加えてB細胞除去はブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスにおいて皮膚と肺のサイトカイン上昇とT細胞の炎症性サイトカイン産生を抑制した。B細胞除去による線維化抑制作用の機序をさらに検討するため、まずブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスからB細胞を抽出し、サイトカイン産生能を評価した。ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスB細胞では、炎症性サイトカインであるIL-6やIFN-γの産生能が亢進しており、抑制性サイトカインであるIL-10の産生能は低下していた。さらに、B細胞とT細胞を共培養したところ、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスB細胞は、T細胞からの炎症性サイトカイン産生を促し、逆にIL-10産生を阻害した。今回の検討ではB細胞除去の時期をBLM投与開始時を起点に、pre-depletion群とpost-depletion群にわけて検討を行った。この両者の比較では、線維化病変はpre-depletion群で有意に抑制されていたが、皮膚と肺、T細胞の炎症性サイトカインの発現量はpost-depletion群において有意に抑制されていた。従来、全身性強皮症の線維化病変にはT細胞分化や、皮膚と肺局所における炎症性サイトカイン産生が大きく関与していると考えられて来たが、今回の結果は、T細胞分化や皮膚におけるサイトカイン産生が必ずしも線維化の程度と相関しないことを示している。従って、T細胞と組織中のサイトカインバランス以外にも、全身性強皮症の線維化病変には重要な因子が関わっていると考えられた。

 そこで、引き続き線維化に大きな役割を果たすと考えられているマクロファージに注目して検討を行った。M2マクロファージは線維化に重要な役割を果たしていることが分かっているが、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスではM2マクロファージが増加していた。さらにマクロファージとB細胞を共培養し検討したところ、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスB細胞はマクロファージと直接接着することにより、B細胞から産生されるIL-6依存的にマクロファージ分化をM2へと誘導していることが示唆された。さらにB細胞によって分化したM2マクロファージはCCL18を産生し、線維化を惹起していることが示唆された。実際にリツキシマブによるB細胞除去療法を行われた患者では血清中のCCL18濃度が減少していることが明らかとなり、このことは全身性強皮症の線維化病変にはB細胞とマクロファージの関係が重要であることを裏付けるものであると考えられた。

 今回の研究により、全身性強皮症患者においてB細胞はマクロファージの分化を制御し、線維化病変を悪化させることが示唆され、B細胞除去療法はマクロファージのM2分化を抑制することで線維化を抑制することが考察された。B細胞がマクロファージをM2マクロファージへと分化させることは、今回の研究のみならず、他の研究によっても示唆されている。しかしながら、どのような機序を介してB細胞がマクロファージを分化させるのかについての検討は、これまで十分に行われていなかった。B細胞をはじめ、種々の免疫細胞には細胞接着分子であるLFA-1が発現することが知られている。LFA-1は平常時には不活性型として存在しており、炎症などの刺激によって初めて接着活性を持つ。活性型となったLFA-1は、血管内皮細胞などに発現するICAM-1と結合し、免疫細胞の組織への浸潤と炎症に関与する。ICAM-1はマクロファージにおいても発現が認められており、LFA-1とICAM-1の相互作用は、B細胞によるM2マクロファージ分化に影響を及ぼしている可能性が考慮される。加えて、B細胞は膜表面にCD22を発現する。CD22の生体内における特異的なリガンドは明らかとなっていないが、糖鎖構造をリガンドとして認識することが明らかとなっている。近年の研究から細胞接着分子の多くは糖タンパクであることが知られており、B細胞がCD22を介してマクロファージとの接着に関与している可能性がある。今回、B細胞によるM2マクロファージ分化誘導作用は、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスから得られたB細胞がマクロファージとLFA-1あるいはCD22を介して接触したときに発揮されることが明らかとなった。CD22とLFA-1に対する抗体を用いた検討では、LFA-1の接着能を阻害した際にM2マクロファージへの分化が有意に抑制されたことから、LFA-1とICAM-1との結合がマクロファージの分化に特に重要であることが示唆された。さらに、その際、B細胞から産生されるIL-6がM2マクロファージへの分化に必要とされることが示された。LFA-1とICAM-1の結合は、単に細胞同士を接着させるのみならず、細胞内への刺激伝達に関与することが知られている。今回の検討においても、マクロファージと接触したブレオマイシン誘発モデルマウスB細胞では、STAT3のリン酸化が亢進していた。STAT3のリン酸化はIL-6の産生を亢進させることが明らかとなっており、これらのことから、LFA-1とICAM-1の相互作用によりB細胞におけるSTAT3のリン酸化が亢進し、その結果B細胞からのIL-6産生が誘導されたことが示唆された。以上をまとめると、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスにおいて、B細胞は主にLFA-1を介してマクロファージへ結合し、その際にB細胞から産生されたIL-6の作用でマクロファージをM2マクロファージへと分化させていると考えられた。

 近年、全身性強皮症に対するB細胞をターゲットとした治療戦略は大きな注目を集めている。特にB細胞自体の除去を目的とした抗CD20抗体製剤であるリツキシマブや、全身性強皮症においてはB細胞から主に産生されるIL-6の除去を目的とした抗IL-6受容体抗体製剤であるトシリツマブを用いた臨床研究では、これらの薬剤が全身性強皮症の線維化病変を改善することを示しており、全身性強皮症の治療薬として保険適用の承認を得ることが期待されている。しかしながら、これらの治療法には易感染性などの副作用も知られており、どのような患者へ適応とするかを慎重に判断する必要があるため、全ての患者へ用いることが出来る治療法とは言えない。従って、B細胞がどのような機序を介して病原性を発揮するかを引き続き検討し、治療ターゲットを明確にした、より副作用の少ない治療法の開発が必要となる。今回の研究は、B細胞とマクロファージの相互作用が全身性強皮症の病態形成に関与する機序を紐解いたものであり、さらに検討を進めることで新規治療法開発へと結び着くことが期待される。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る