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大学・研究所にある論文を検索できる 「単一細胞解析を用いた強皮症患者およびモデルマウスのB細胞の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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単一細胞解析を用いた強皮症患者およびモデルマウスのB細胞の検討

江畑, 慧 東京大学 DOI:10.15083/0002005113

2022.06.22

概要

全身性強皮症は、皮膚や内臓諸臓器の線維化と血管障害、自己免疫異常を3主徴とする予後不良な自己免疫疾患である。最も多い死因は間質性肺炎で、これを合併する患者の10年生存率は29-69%と報告されている。病態についてはいまだに不明な点が多く残されているが、B細胞が病態形成において中心的な役割を果たしている可能性が示唆されてきた。B細胞に特異的に発現するCD19の量は全身性強皮症患者で健常者よりも約20%増加している。CD19はB細胞抗原受容体からのシグナルを増強させる働きを有していることから、全身性強皮症患者ではB細胞、特に常に自己抗原に暴露されている自己応答性B細胞が活性化していると考えられる。この結果、全身性強皮症患者では様々な自己抗体が検出され、さらにその種類は予後予測に有用とされている。特に、抗トポイソメラーゼI抗体の抗体価は、皮膚や肺の線維化の程度と相関することが知られている。また、全身性強皮症の遺伝的モデルマウスであるtight-skinマウスは皮膚の著明な線維化を呈するのみならず、抗トポイソメラーゼI抗体も検出される。Tight-skinマウスでCD19を欠損させると、自己抗体の産生が抑制され、皮膚硬化が改善することが示されている。さらに皮膚硬化の早期から抗CD20抗体によりB細胞を除去すると、自己抗体産生と皮膚硬化が著明に改善することが報告されている。

これらの知見を踏まえ、現在全身性強皮症のB細胞をターゲットとした臨床研究が多数行われている。中でも、抗ヒトCD20ヒト-マウスキメラ抗体であるリツキシマブが、有望な新規治療薬として注目を集めている。CD20は、B細胞の分化段階においてプレB細胞から活性化B細胞にまで発現する、B細胞特異的な表面分子であり、リツキシマブは抗体依存性細胞傷害活性、補体依存性細胞傷害活性、およびアポトーシスの誘導などを介してB細胞を除去する。すでに各国で臨床研究が行われており、これらの研究は概ねリツキシマブの全身性強皮症に対する有用性を示唆している。本邦では、筆者らが2011年から自主臨床試験を施行し、標準療法であるシクロフォスファミドで加療された群と比較して、リツキシマブ群では皮膚硬化及び肺機能が著明に改善したことを報告している。さらに筆者らは、2017年12月から多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較医師主導治験(Double Blind, parallel-group comparison, investigators initiated phase II clinical trial of IDECC2B8 [Rituximab] in patients with Systemic Sclerosis; DesiReS試験)を施行し、リツキシマブの全身性強皮症に対する有効性・安全性を検証した。主要評価項目である24週目時点のmodified Rodnan Skin Scoreはリツキシマブ群でプラセボ群よりも顕著に低下しており、全身性強皮症における皮膚硬化を主要評価項目としたプラセボ対照二重盲検比較試験としては、史上初めて有効性を示した。副次評価項目である%努力性肺活量も、リツキシマブ群においてプラセボ群と比較して有意に改善しており、皮膚だけではなく肺の線維化に対する効果も認められた。これまで全身性強皮症に対する疾患修飾薬は開発されておらず、全身性強皮症に対する新規治療開発は喫急の課題とされてきた。筆者らは今回の治験の結果から、リツキシマブは全身性強皮症に対する新規治療法になり得ると考えており、現在薬事承認申請に向けて規制当局と相談中である。このように全身性強皮症に対してリツキシマブが目覚ましい効果を発揮したことは、B細胞が全身性強皮症の病態において中心的な役割を担っていることを裏付けるものである。しかしながら、リツキシマブに対して治療抵抗性を示す症例も存在する。全身性エリテマトーデスなどの研究により、リツキシマブ投与後に残存するわずかなB細胞が、この治療抵抗性に関わっている重要な一因と考えられている。これまではsingle B cellを蛋白質レベルで解析する技術が無かったため、これらのB細胞の役割を解析するのは困難であった。今回、筆者らは最新のマイクロ流体力学を応用し、マイクロ血管モデルを作成して血管内皮細胞と反応する自己応答性single B cellの解析を行った。

マイクロ化学チップ内に血管内皮細胞をconfluentになるまで培養し、マイクロ血管モデルを作成した。このモデルを用いることで、全身性強皮症におけるin vivoの組織中での毛細血管と類似した環境の再現に成功した。マイクロ血管モデル内に全身性強皮症患者やトポイソメラーゼI誘発強皮症モデルマウスの末梢血中B細胞を導入したところ、血管内皮細胞と接着するB細胞の存在を認めた。これらのB細胞について新規技術のマイクロELISAシステムを利用して単細胞解析を施行したところ、抗トポイソメラーゼI抗体、抗血管内皮細胞抗体を産生する自己応答性B細胞であることが明らかになった。健常人やコントロール群のマウスの末梢血B細胞中には、血管内皮細胞と接着するB細胞は見られなかった。血管内皮細胞と接着するB細胞は、強い溶液流れ下でも血管内皮細胞と接着し続ける接着力が強い亜集団と、弱い溶液流れ下でしか血管内皮細胞と接着できない接着力が弱い亜集団とに分類することが出来た。前者の亜集団を強接着B細胞、後者の亜集団を弱接着B細胞と定義すると、全身性強皮症での皮膚や肺の線維化の程度と相関しているのは強接着B細胞の数のみであり、弱接着B細胞数との相関は認めなかった。強接着B細胞の亜集団は、抗トポイソメラーゼI抗体産生量が多く、BAFF受容体を高発現し、かつ炎症性サイトカインであるIL-6を産生していた。一方、弱接着B細胞の亜集団は、抗トポイソメラーゼI抗体産生量が少なく、BAFF受容体は低発現で、かつ抑制性サイトカインであるIL-10を産生していた。強接着B細胞を移植してからトポイソメラーゼI誘発強皮症モデルマウスを作成したところ、コントロールとして血管内皮細胞と接着しないB細胞を移植したマウスと比較して皮膚厚や肺線維化スコアは増悪した。逆に、弱接着B細胞を移植してからトポイソメラーゼIでの免疫を行ったところ、コントロール群のマウスと比較して皮膚厚や肺線維化スコアは軽減していた。全身性強皮症では、血管内皮細胞との接着力が強いB細胞亜集団が組織の線維化増悪に関与しており、血管内皮細胞との接着力が弱いB細胞亜集団は組織の線維化を抑制していることが示唆された。

リツキシマブ投与後も肺機能が改善しなかった全身性強皮症患者で投与後に残存しているわずかなB細胞を検討したところ、強接着B細胞の弱接着B細胞に対する比率が投与前よりも上昇していた。トポイソメラーゼI誘発強皮症モデルマウスに抗CD20抗体を投与した場合でも、投与前よりも投与後で強接着B細胞の弱接着B細胞に対する比率が上昇した。強接着B細胞が抗CD20抗体によるB細胞除去に抵抗性を示し、これらの残存B細胞が治療抵抗性に関与していると考えられた。しかし、トポイソメラーゼI誘発強皮症モデルマウスに対して抗CD20抗体の後で抗BAFF受容体抗体を併せて投与した場合では、強接着B細胞も弱接着B細胞と同程度で効率的に除去することが出来ており、強接着B細胞の弱接着B細胞に対する比率は投与前後で変化していなかった。トポイソメラーゼI誘発強皮症モデルマウスへ抗CD20抗体を単独で投与した場合でも皮膚厚や肺線維化スコアの改善は見られたが、抗BAFF受容体抗体と併用することで皮膚厚や肺線維化スコアの改善の程度がより向上することが確認された。

本研究により、全身性強皮症の発症には血管内皮細胞との相互作用が強い自己応答性のB細胞が関与しており、それらのB細胞はIL-6を産生し、自己抗体の産生量が多く、BAFF受容体の発現量が高いものが多いことが明らかになった。また、これらのB細胞はアポトーシスに拮抗的に働くBcl-2を誘導するBAFF受容体の高発現により抗CD20抗体を投与しても他のB細胞より相対的に残存しやすく、その残存数が抗CD20抗体投与後の治療反応性を予測する因子になりうることが示された。加えて、血管内皮細胞と強く接着するB細胞は抗CD20抗体投与後にも残存しやすいがBAFF受容体の発現が強いため、抗BAFF受容体抗体を追加投与すると効率的に除去されること、実際にマウスモデルで抗CD20抗体と抗BAFF受容体抗体を併用することで皮膚や肺の著明な線維化改善効果が確認されたことにより、血管内皮細胞との反応性が強い病原性のB細胞を効率的に除去し、血管内皮細胞との反応性が弱い制御性のB細胞との比率を拡大させないことが全身性強皮症に対する新たな治療戦略になりうることが初めて示された。

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