【令和2年度山梨県医師会優秀賞 受賞記念要旨】ボイスプロテーシス除去後の気管食道瘻閉鎖術を行った喉頭全摘出術患者3症例
概要
喉頭全摘術は進行喉頭,下咽頭がん患者に対する治療法の一つであり,一部の患者に対しては根治を目指すためには必要不可欠な術式である。しかし,喉頭全摘出術を受けた患者は術後,永久に失声となる。失声による患者のQOL(Quality of life)低下は著しく,代用音声による音声の再獲得は術後の社会復帰,QOL向上には欠かすことはできない。
代用音声として,最近では,ボイスプロテーシス(プロヴォックス®)を用いたシャント発声法はわが国でも普及してきており,その音声獲得率の高さが注目されている。当科でも2011年6月から2018年5月までに47例にボイスプロテーシスを用いたシャント法による音声再建を行っている。
一方で,合併症の報告も多く,過去の報告では40%の症例でシャント周囲からの漏れ,それに伴う誤嚥性肺炎や脱落を繰り返す等の合併症を認めている。
当科で気管食道シャント形成術を行ったのち,上記のような合併症を理由に閉鎖術を行った3症例を提示し,それぞれの症例について考察し,今後の当科としての対応を検討した。
まず,当科で気管食道シャント形成術を行った症例のうち音声獲得率は98%と過去の報告同様良好な結果を得た。そのなかでメリットよりも合併症等のデメリットによりシャント閉鎖を選択した症例もある。閉鎖理由は発声不能,シャント孔周囲からの漏れであり,これらが生じた理由としてシャントの管理が不十分であったこと,そもそも使用されていなかったことがあげられた。
このことから,気管食道シャント形成術は手術前から手術後まで瘻孔周囲の組織やデバイスに対する十分な管理が必要であり,患者および家族へのデバイスの定期清掃等,適切な指導と発生訓練や定期外来受診などをはじめとする,長期的なサポートが重要であると考えられた。そのため,気管食道シャント形成術は手術前から手術後まで患者,患者の家族を多職種でサポートしていくことが重要である。