Application of Dynamic-Nuclear-Polarization NMR to Structural Analysis of Synthetic Polymer, and ESR Study of the Polarizing Agents
概要
本論文の内容は、動的核分極[Dynamic-Nuclear-Polarization]-核磁気共鳴(DNP-NMR)分光法の活用例と、測定に必要となる電子スピンの磁化を供給するためサンプルとともに添加される分極剤の研究である。DNP-NMRはサンプル中に導入した分極剤の持つ磁気回転比の高い電子スピンをサンプルの磁気回転比の低い核スピンに磁化移動することでNMR信号を増強させる。信号が増強(感度向上)することで、今まで検出や解析が困難であった合成高分子や蛋白質、医薬品など有機化合物の性能にかかわる微細構造の情報を得ることができる。本論文では合成高分子としてポリビニルアルコールの架橋構造をDNP-NMRにて調査し、その架橋機構を明らかにした。そして、DNP-NMRに有効な新規分極剤を合成し、その電子スピンの物性を調査してDNPにおける感度向上の有効性を確認した。
はじめに、NMR分光法における分極とDNPの概要と機構、さらに測定に用いた大阪大学蛋白質研究所における高磁場DNP-NMRの装置の概要について述べた。
そして、DNP-NMRを用いた活用例として水溶性合成高分子であるポリビニルアルコールの架橋構造を解析した。固体13C NMRの感度は強い電子の分極を用いることで高磁場のDNPによって向上された。それからアセトアセチル化PVOHと架橋剤であるアジピン酸ジヒドラジドの反応を解析した。増強された13C NMRの感度からアセトアセチル化PVOHのカルボニル部分(CO)がイミン結合(>C=N-)を形成してアジピン酸ジヒドラジドと結合して分子が架橋していることが判明した。その部分を定量することで重合度(繰り返し単位)が1000のうちの7つが架橋しており、合成高分子の機能発現部分の機構解明にDNP-NMRが有効な手段であることが分かった。
次に、蛋白質や合成高分子に適したDNP-NMR用の分極剤として、媒体に分散しやすく、高磁場に有利なDNP機構である交差効果が期待できるニトロキシルラジカルの長さを変えたCyclen(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)誘導体を合成し、その電子スピン特性から溶液中のコンフォメーションや溶液やガラス状態におけるラジカル間距離、飽和挙動を調査した。鎖の長さとラジカル間距離に相関があり、鎖の短い誘導体は飽和挙動からラジカル部分において動きにくいことが示唆された。
さらに、ニトロキシルラジカルを有するCyclen誘導体の特性について調査した。DNP-NMRでは4つのニトロキシルラジカルをもつCyclen誘導体において4.5倍の感度増強が認められた。また交差効果が期待できる遷移金属であるマンガンとニトロキシルラジカルを有するCyclen誘導体の錯体の可能性について調査した。ニトロキシルラジカルとCyclenが長い分子鎖で結合した誘導体において錯体が形成された。さらに電子のスピン-格子緩和時間(T1e)を分子科学研究所にて測定した。ニトロキシルラジカルと短い分子鎖で結合しているCyclen誘導体のT1eは非常に長く、飽和挙動から推定された結果と同じ傾向であった。T1eが長いことは分子が動きにくく、媒体や測定サンプルへ長時間磁化移動ができ、分極剤として応用できる可能性を見出した。