リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「LC-MS/MSによる畜産物中のβ2作動薬分析法開発と流通食品における残留実態」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

LC-MS/MSによる畜産物中のβ2作動薬分析法開発と流通食品における残留実態

林, 孝子 HAYASHI, Takako ハヤシ, タカコ 九州大学

2022.03.23

概要

β2作動薬は平滑筋にあるβ2アドレナリン受容体に作用し、平滑筋を弛緩させる機序を持つ医薬品である。気管支拡張作用、子宮収縮抑制作用等によりヒト臨床および動物用医薬品として広く使用されている。一方、β2作動薬にはこれら本来の用途に加えて肥育効果があり、ヒトの筋肉増強や畜産動物の増体重等の成長促進剤としての使用実態がある。β2作動薬であるクレンブテロールを家畜に違法投与したことに起因する中毒事例が、各国で報告されている。また近年、β2作動薬のうちラクトパミンとジルパテロールは、海外の一部の国で成長促進剤としての使用が認められている。EUや日本ではβ2作動薬の成長促進剤としての使用は全て禁止されている。しかし、我が国ではラクトパミンやジルパテロールの使用が許可されている国々からの畜産物の輸入実績があることから、食の安全性確保を目的に輸入畜産物のβ2作動薬監視体制の強化が必要とされている。そこで本研究では、LC-MS/MSを使用した選択性の高いβ2作動薬分析法を開発し、畜産食品中のβ2作動薬残留実態を調査した。また、畜産物の夾雑成分の影響を低減した特異的LC-MS/MS/MS分析法を構築し、確認分析を行った。

 第一章では、海外で中毒事例が報告されているクレンブテロールについてLC-MS/MSによる簡便で特異性の高い測定系を構築し、豚肝臓への適用を試みた。本法では、試料に内標準物質としてクレンブテロール-d9を添加したのちアセトニトリルを用いて抽出を行い、C18粒子による分散固相および陰イオン交換PSAカートリッジによる精製を行うことで、これまでより簡便な前処理法を確立した。LC分離では、逆相分配系のODSカラムを固定相としたセミミクロカラムを選択することで、高感度で短時間(4.7min)のクレンブテロール溶出分離を可能とした。MS/MSによる検出を行った結果、豚肝臓試料ではクレンブテロールの保持時間付近に夾雑成分が認められ、添加試料ではクレンブテロールと試料由来の夾雑成分が共溶出し双方の分離は困難であった。そこで夾雑成分の影響を低減した分析法として、LC-MS/MS/MS測定の検討を行った。LC-MS/MS/MS法は良好な真度および再現性が得られ、LC-MS/MS法と同様に内部標準法による定量分析が可能であった。LC-MS/MS分析で豚肝臓から検出された夾雑ピークはLC-MS/MS/MS分析により除去され、夾雑成分の多い畜産物組織において特異性の高い定量分析を達成した。
 
 クレンブテロールによる食中毒では、畜産動物の様々な部位の摂取により中毒が引き起こされていた。このためクレンブテロール分析法では、畜産物の様々な可食部での適用が必要とされている。第一章では豚肝臓への適用を実施したが、第二章では対象試料を拡充し、豚と牛の内臓可食部での適用を行った。LC-MS/MS分析の結果、豚と牛の肝臓、腎臓、小腸からクレンブテロールの保持時間近傍に夾雑ピークが溶出し、この影響で添加回収試験の真度は67.6-185.6%と大きく変動した。そこで第一章で開発したLC-MS/MS/MS法により試験溶液を測定した結果、試料の夾雑ピークは全て除去され、真度は92.0-106.0%と大きく改善された。LC-MS/MS分析で畜産可食部から検出されたピークはLC-MS/MS/MS測定では認められず、今回調査した畜産試料にクレンブテロールが含有していないことが確認された。LC-MS/MS/MS法は特異性の高い定量分析法として、今後も引き続き夾雑成分の多い畜産内臓可食部や様々な食品分析での利用が期待される。

 我が国では残留基準の設定されているβ2作動薬3種(クレンブテロール、ラクトパミン、ジルパテロール)について試験法が厚生労働省より通知されている。しかしいずれも個別試験法であり、効率の良い一斉分析法が切望されている。そこで第三章では、β2作動薬一斉分析法の構築および評価を行い、流通畜産食品における残留実態を調査した。国内で規制のあるクレンブテロール、ラクトパミン、ジルパテロールに、海外での使用報告があるシマテロール、イソクスプリン、サルブタモール、テルブタリンを加えた7化合物を選定し、LC-MS/MSを用いた一斉分析法を開発した。マトリックス添加検量線を用いた定量によりいずれの対象化合物も良好な真度および再現性が得られた。構築した一斉分析法を用いたβ2作動薬残留実態調査により、国内に流通している輸入食品(米国産)からラクトパミンのピークが検出された。LC-MS/MS/MS測定により、ラクトパミンの保持時間に定量範囲未満ではあるが明確なピークが確認され、ラクトパミンが流通輸入食品に残留していることが示された。本研究で開発したLC-MS/MSによるβ2作動薬一斉分析法およびLC-MS/MS/MSによるラクトパミン分析法により、微量のβ2作動薬(ラクトパミン)を食品試料から検出可能な実用性のある高感度分析を達成した。

 以上のように、本研究で開発したクレンブテロール分析法およびβ2作動薬一斉分析法は、従来の方法と比較して簡便な前処理と高感度分析を実現した。本分析法を用いることで、食中毒や輸入違反事例の報告があるクレンブテロールおよび海外で成長促進剤として使用され輸入食品の安全性が危惧されるラクトパミン、ジルパテロールについて様々な畜産食品での適用が可能である。またLC-MS/MS/MS法の開発により、更に選択性が向上した確認分析を達成した。いずれの分析法も妥当性が確認されており、神奈川県では開発したクレンブテロール分析法を用いて行政検査を既に実施している。さらに2022年度からはβ2作動薬一斉分析法を用いた行政検査に移行し、輸入食品の検査体制が拡充される。本研究で開発した分析法は輸入食品の監視体制強化の一助となり、我が国における食品の安全性確保に貢献できるものと考えられる。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る