大型動物ミニブタ肝線維化モデルにおける多能性幹細胞Muse(Multilineage-differentiating stress enduring)細胞移植の有効性の検討
概要
[背景]
肝硬変患者では肝移植が唯一の根治療法である。近年、間葉系幹細胞 Mesenchymal stem cell (MSC) を応用した肝再生療法が試みられている。MSC の中には再生療法に有効な幹細胞が存在しており、その一つに Multilineage-differentiating stress enduring (Muse) 細胞がある。マウスモデルを用いた Muse 細胞移植実験において肝線維化改善効果が示されているが、大型動物では明らかではない。本研究ではミニブタ肝線維化モデルを作製し、新規肝再生療法としての Muse 細胞移植による肝再生、肝線維化の改善効果について検討した。
[方法]
Muse 細胞と MSC はミニブタ(Göttingen 種、オス)の骨髄細胞より採 取した。レシピエントのミニブタ(Göttingen 種、メス)に 12 週間の四塩化炭 素腹腔内反復投与を行い、肝線維化モデルを作製し、Muse 細胞および MSC を耳 静脈から投与した。細胞移植後に採血と肝生検を行い、Muse 群(n=6)、MSC 群(n=6)、 Vehicle 群(n=7)の 3 群で肝再生、肝線維化について評価を行った。
[結果]
ミニブタへの四塩化炭素投与 12 週後の肝組織ではエラスティカ・マッソン染色で肝線維化を認めた。移植 4 週後にレシピエントのミニブタ肝内に移植細胞の生着と肝細胞への分化を確認した。Muse 細胞群において移植 4 週後に血清アルブミン値の有意な改善を認めた(p<0.05)。Proliferating cell nuclear antigen 免疫染色では、Vehicle 群と比して Muse 細胞群で有意な陽性細胞数の上昇を認めた(p<0.05)。肝線維化の評価では、移植 12 週後に Vehicle 群と比して Muse 細胞群で、エラスティカ・マッソン染色での肝線維化の有意な改善 (p<0.05) とα-Smooth muscle actin 免疫染色での陽性領域の有意な低下 (p<0.05)、Muse 細胞移植で肝線維化の改善を認めた。
[考察]
本研究では四塩化炭素腹腔内投与によるミニブタ肝線維化モデルの作製に成功した。Muse 細胞移植により肝予備能、肝線維化の有意な改善が確認できた。その理由としては Muse 細胞の肝細胞へ分化と Muse 細胞による線維化改善が考えられた。本研究で使用したミニブタは多数の個体確保及び同時期の解析が困難で、個体間のばらつきもあり、本研究の限界と考えられた。
[結論]
大型動物ミニブタを用いて肝線維化モデルの作製に初めて成功した。ブタ Muse 細胞移植により肝予備能と肝線維化の有意な改善を認めた。今後、Muse細胞の肝硬変患者への臨床応用に向けて、投与法や安全性について、さらに検討することで新たな肝再生療法につながる可能性がある。