リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「紫外線高感受性マウスにおける222nm-UVC殺菌ランプの長期繰り返し照射の影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

紫外線高感受性マウスにおける222nm-UVC殺菌ランプの長期繰り返し照射の影響

山野, 希 神戸大学

2022.03.25

概要

背景と目的
紫外線は波長の長いものより順に UVA、UVB、UVC に分類され、短い波長ほどエネルギーが高く、傷害性が強い。太陽光に含まれるUVC(100-280 nm)は、オゾン層での吸収により地表に到達しないが、日常で広く使用される殺菌灯の主要波長は 254 nm-UVC である。殺菌灯による有害事象として、マウス背部皮膚への連続照射による発がん、ヒトへの単回曝露で角膜炎による目の痛みや結膜充血の誘発などの報告があり、生体への照射を目的とした使用は禁止されている。一方で、254 nm-UVC より短波長である 207 nm-UVC、222 nm- UVC は、254 nm-UVC と同等の殺菌力を示し、さらにマウスへの単回照射、10 日間の繰り返し照射において、紫外線により生成される主要な DNA 損傷であるシクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)や紅斑の形成を認めないと報告されている。222 nm-UVC を主波長とした殺菌灯の安全性をより確実に評価するために、我々は紫外線高感受性マウスである色素性乾皮症 A 群モデルマウス(アルビノヘアレス mXpa -ノックアウト(Xpa-KO)マウス)を用いた照射実験を行なった。色素性乾皮症 A 群は常染色体潜性(劣性)の遺伝性疾患であり、紫外線により生じる DNA 損傷の修復機能の先天性欠損により露光部において皮膚悪性腫瘍が若年から多数生じる。本研究の目的は、222 nm-UVC 殺菌灯を Xpa-KO マウスに照射し、222 nm-UVC 殺菌灯の生体への影響を検証することである。

材料と方法
222 nm-UVC 殺菌灯は、222 nm-UVC をピーク波長とするクリプトンクロライドエキシマランプに対して 200-230 nm の積分強度を 1 とすると、235-280 nm では 0.13%の積分強度となるように制限するフィルターを用いて改良された照射機 A(Safe Zone UVCⓇ)と、照射機 A に改良を加え 235-280 nm の積分強度が 0.001%となるよう制限した照射機 B を使用した。陽性対照に用いた 254 nm-UVC は低圧水銀ランプ、BB-UVB は TL20/12RS ランプを使用した。マウスは 9-20 週齢の Xpa-KO と野生型アルビノヘアレスマウス(WT)を使用した。紫外線照射は、いずれもランプから 30 ㎝離れた場所から、波長ごとに照度を測定し、目的線量となるように照射した。

単回照射後の紫外線により誘発される DNA 損傷を評価するため、222 nm-UVC では 1.0 kJ/m2、5.0 kJ/m2、10 kJ/m2、陽性対照とした 254 nm-UVC では 1.0 kJ/m2、BB-UVB では 1.0 kJ/m2 の線量を Xpa-KO とWT に照射し、3 時間後の皮膚組織でCPD 染色を施行した。次に、単回照射後の炎症反応を検証する目的に、222 nm-UVC では 10 kJ/m2、陽性対照とした 254 nm-UVC では 5.0 kJ/m2 の線量を Xpa-KO と WT に照射し、BB-UVB では 1.0 kJ/m2 を Xpa-KO に単回照射した。その後、照射 24, 48, 72, 96 時間後に背部の皮膚を肉眼的に観察し、同じタイムポイントで耳介腫脹を測定、ヘマトキシリンエオジン染色(HE 染色)を施行し、各々の変化を経時的に評価した。また、単回照射後の炎症性サイトカインの変動を検証する目的に、222 nm-UVC 10 kJ/m2 を Xpa-KO と WT に照射、陽性対照とした 254 nm-UVC 5.0 kJ/m2、BB-UVB 1.0 kJ/m2 を Xpa-KO に照射し、照射後 48, 72 時間後の血清を採取して、CXCL1 の値を ELISA にて評価した。

長期繰り返し照射による紫外線発がんを検証するため、222 nm-UVC 照射群では、WT に対し 5.0 kJ/m2 を週 3 回、Xpa-KO に対し 0.5 kJ/m2 と 1.0 kJ/m2 の 2 種類の線量を各々週 2回照射した。10 週間の照射期間の後、15 週間の観察期間を設け、皮膚腫瘍の個数を経時的に評価した。陽性対照である BB-UVB 照射群は、以前に我々が Xpa-KO に対し 0.25 kJ/m2を週 1 回照射した結果を用いた。繰り返し照射後のマウスの眼球は、皮膚の評価終了後に共同研究者の協力を得て肉眼的、組織学的に評価した。

高線量照射後の紫外線により誘発されるDNA損傷、炎症反応を評価するため、照射機A、照射機Bを用いて222nm-UVC 100kJ/m2 を照射した。照射 3 時間後の皮膚組織でCPD染色を施行、照射 24, 48, 72, 96 時間後の皮膚組織のHE染色を施行し、耳介腫脹を計測した。

紫外線により誘発される局所免疫抑制について検証するため、モデル動物を用いた接触 性過敏反応の系を用いて実験を行った。Xpa-KO の両耳介を遮光し、腹部に 222 nm-UVC 30 kJ/m2、陽性対照ではBB-UVB 2.0 kJ/m2 を照射した。照射 3 日後に 7% 2,4,6-トリニトロクロロベンゼン(TNCB)とオリーブオイルの混合液を腹部に外用し感作を成立させ、感作 6 日後に 1% TNCB 溶液を両耳に外用し、24 時間後の耳介腫脹を測定した。

結果
単回照射後の影響を検証するため、222 nm-UVC 1.0 kJ/m2、5.0 kJ/m2、10 kJ/m2、陽性対照として 254 nm-UVC 1.0 kJ/m2、BB-UVB 1.0 kJ/m2 の線量を Xpa-KO と WT に照射し、 3 時間後の皮膚組織でCPD 染色を施行した。陽性対照では表皮全層に陽性細胞を認めたが、222 nm-UVC 照射群では 1.0 kJ/m2 照射では陽性細胞を認めず、5.0 kJ/m2 照射では表皮の最外層の細胞にのみ陽性細胞を認めた。次に、222 nm-UVC 10.0 kJ/m2 を Xpa-KO とWT、陽性対照として 254 nm-UVC 5.0 kJ/m2 を Xpa-KO とWT に、BB-UVB 1.0 kJ/m2 を Xpa- KO に照射し、背部皮膚と耳介腫脹を照射 24, 48, 72, 96 時間後に評価した。明らかな紅斑と耳介腫脹を呈した陽性対照とは異なり、222 nm-UVC 照射群では遺伝子型に関わらず、紅斑や耳介腫脹を認めなかった。さらに、炎症性サイトカインである CXCL1 の値を、照射後 48, 72 時間後の血清を用いて測定すると、陽性対照では照射 48 時間後に有意な上昇を認めたが、222 nm-UVC 照射群では照射後の変化を認めなかった。

長期繰り返し照射の影響を検証するために、222nm-UVCの繰り返し照射をWT に対して5.0 kJ/m2照射を週3回、Xpa-KO に対して0.5 kJ/m2 照射群と1.0 kJ/m2 照射群を各々週2回の3群で行った。10週間の照射期間の後、15週間の観察期間を設け、皮膚腫瘍の個数を計測したところ、合計25週間の照射観察期間中に、222nm-UVCを照射したマウスはいずれも皮膚がんの形成を認めなかった。陽性対照とした以前の結果ではXpa-KO に対し BB- UVB 0.25 kJ/m2を週1回、同様の期間照射し観察したところ、観察5週以降に皮膚がんの形成を認めた。繰り返し照射後のマウスの眼球を肉眼的、組織学的に観察したところ、BB- UVB を照射した Xpa-KO では角膜混濁、角膜潰瘍、白内障、網膜の変性を示した一方、222nm-UVC照射群ではXpa-KO、WT共に照射に伴う明らかな変性像は認めなかった。

222 nm-UVC 10.0 kJ/m2 照射 3 時間後の CPD 染色では、5.0 kJ/m2 照射時と比較して明らかな陽性細胞を表皮表層に認め、照射 24, 48, 72, 96 時間後の組織では、WT では変化を認めない一方、Xpa-KO では照射 72 時間後にピークを認める表皮肥厚を呈した。陽性対照である 254 nm-UVC 5.0 kJ/m2 を Xpa-KO に照射すると、同様の所見を認めた。表皮肥厚の原因として、222 nm-UVC そのもの、もしくは照射機 A のスペクトルに含まれる 235-280 nm-UVC によるものを考えた。照射機 A と比較し 235-280 nm の波長出力を更に抑制した照射機 B を作成し、照射機 A、B を用いて 222 nm-UVC 100 kJ/m2 を照射したところ、照射 3 時間後の CPD 染色において、照射機 A と比較して照射機 B を用いた組織では表皮表層に認める陽性細胞数の明らかな減少を認めた。照射 24, 48, 72, 96 時間後の組織でも、照射機 A を用いて Xpa-KO に照射した組織では照射 72 時間後に表皮肥厚を認めたが、照射機 B では認めなかった。同様に耳介を観察すると、照射機A を用いた Xpa-KO では耳介腫脹と毛細血管拡張を認めたが、照射機 B ではわずかな毛細血管拡張は認めたものの耳介腫脹は認めなかった。WT では照射機 A、B 共に 222 nm-UVC 100 kJ/m2 照射後に耳介腫脹や毛細血管拡張は認めなかった。

考察
222 nm-UVC 殺菌灯の長期繰り返し照射後の観察では、紫外線高感受性マウスにおいても皮膚がんの形成を認めなかった。この理由としては、CPD の作用波長についての以前の報告から、222 nm-UVC により CPD が形成される効率は 254 nm-UVC の約 70%であること、また、222 nm-UVC は角質層のケラチンによって吸収され、皮膚がん形成に関与する表皮基底層に到達できないためであると考えた。そこで、実際にヒトの角層を用いて 222 nm-UVC の角層透過率を測定すると、透過率は 0.001%であり、222 nm-UVC は角層をほとんど透過しなかったとの考えを支持する。照射機 A を改良し 235-280 nm の波長出力をさらに抑制した照射機B を用いて 222 nm-UVC 100 kJ/m2 を照射した結果からは、照射機 A による結果と比較して照射 3 時間後のCPD 染色像では明らかに陽性細胞数の減少を認めた。この結果からは、照射機 A による 100 kJ/m2 照射 3 時間後の CPD 染色で表皮の最上層に陽性細胞を認めた結果には、222 nm-UVC の効果というよりは、照射機 A に含まれる 235- 280 nm のコンポーネントによる影響と考える。ただし、照射機 A に含まれる 235-280 nmは 200-230 nm の 0.13%の積分強度と制限されており、222 nm-UVC 100 kJ/m2 を照射した場合にも CPD 陽性細胞は表皮表層の細胞に限局して表皮基底層には認めず、また照射機 Aを用いて施行した長期繰り返し照射においても、Xpa-KO、WT ともに皮膚発がんを認めなかった。

紫外線により誘発される皮膚発がんの要因として、紫外線照射による DNA 損傷、紫外線炎症の持続、紫外線誘発性の局所免疫抑制があげられるが、今回の研究では、222 nm-UVC照射後に耳介腫脹や血清の炎症性サイトカインである CXCL1 の上昇を認めることはなく、222 nm-UVC 照射による炎症反応は認めなかった。また、222 nm-UVC による紫外線誘発性の局所免疫抑制を検証するために、接触性過敏反応の動物実験系を用いて実験を行ったところ、陽性対照としたBB-UVB 照射群では免疫抑制を認めた一方、222 nm-UVC 照射群では局所免疫抑制を認めなかった。

222 nm-UVC の照射による生体への影響としては、1960 年代にウサギの皮膚に 222 nm- UVC 0.5 kJ/m2 を照射した結果、紅斑形成を認めたと報告がある。この結果は、紫外線高感受性マウスに対し 222 nm-UVC 殺菌ランプを用いて 10 kJ/m2 照射し紅斑形成を認めなかった、我々の結果とは大きな差を認めている。235-280 nm を制限した 222 nm-UVC 殺菌ランプによる今回の結果は、222 nm-UVC そのものは、生体に安全に使用可能な波長である可能性を示唆している。

結論
結論として、今回の実験に使用した 222 nm-UVC 殺菌ランプは、野生型ヘアレスアルビノマウスだけでなく紫外線高感受性マウスへの照射においても、単回照射後の炎症反応や長期間の繰り返し照射による皮膚発がんを呈さず、眼への有害事象も認めなかった。このことから、本実験に使用した 222 nm-UVC 殺菌ランプは、生体へ安全に使用可能な殺菌灯である可能性を示唆している。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る