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大学・研究所にある論文を検索できる 「役職定年者の組織内再適応に関する研究―大企業の従業員を対象として―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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役職定年者の組織内再適応に関する研究―大企業の従業員を対象として―

須藤, 章 筑波大学

2022.11.22

概要

急速な高齢化が進む日本では、年齢に関わりなく働き続ける環境整備が重要な政策課題となっている。一方、企業は中高年齢者に定年前の退職を促す人事施策を実施し、役職者に定年を設ける役職定年制度はその施策の一つである。大企業を中心に日本企業の1/3以上に導入されている役職定年制度は、後進の育成や組織活性化、ポスト不足対策に有効とされる一方で、役職定年者のモチベーションの低下や若い世代への間接的な悪影響が懸念されている。しかし、役職定年者を対象に心理学的アプローチをとった研究はほとんど見当たらない。

 そこで本論文では、役職定年者のキャリアに関する思考や感情、行動に焦点をあて、役職定年時から60歳定年前までの変化のプロセスと影響関係を明らかにすることを目的とする。

 本論文は5つの研究で構成されている。研究1、研究2、研究3は半構造化面接を用いた質的研究、研究4、研究5は質問紙を用いた量的研究である。また研究1が本論文の全体像を表す研究となり、研究2と研究5、研究3と研究4がそれぞれ同じ範囲のプロセスを対象とした研究となる。

 研究1(第4章)では、大手製造業5社に所属する役職定年者16名を対象に半構造化面接を行い、役職定年者の会社に留まるキャリア選択と組織内再適応プロセスを探索的に検討した。改訂版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下、M-GTAと表記)による分析の結果、69概念、6サブカテゴリ、22カテゴリ、9カテゴリグループが生成された。役職定年者の会社に留まるキャリア選択プロセスは、転職や異動の探索活動の結果、客観的な判断材料を獲得し、留まる意思決定をする場合と、探索活動を行わず留まる意思決定をする場合があることが確認された。また留まる意思決定には、役職定年適用の受け止め方、能力面の自己分析、そして役職定年後の展望が影響を与えることが確認された。さらに、身近な役職定年者や家族状況も影響を与えることが明らかにされた。

 研究1(第4章)ではさらに、留まるキャリア選択後に展開される、新たな役割への再適応プロセスが生成された。新たな役割を担う場合、同僚や現場からの刺激を受けながら、新たな役割を学び実行し、周囲からの承認や組織貢献を実感することで役割貢献を認知し、実践的に再適応する。一方、役職定年による働く状態の変化は、役職定年者に役職喪失への心理的反応を引き起こす。しかし、新たな役割を学び実行することで、仕事や組織へとかかわることとなる。仕事や組織へのかかわりが原動力となり、学び実行することがさらに進む。そして、役割貢献を認知することで、自己価値の再認識を行い、心理的にも再適応する。

 研究2(第5章)では、研究1(第4章)の研究協力者の内、役職定年を機に役割に変化があり、かつ研究1のインタビュー時に60歳未満であった12名を対象に半構造化面接を行い、役職定年者の組織内再適応によるキャリア形成態度の変容を探索的に検討した。M-GTAによる分析の結果、15概念、5カテゴリ、1カテゴリグループが生成された。研究1より、役職定年時には内面的整理により消極的、消去法的に会社に留まるキャリア選択の意思決定がなされていたが、役職定年後に自分を見つめ直すことと、役職定年後の新たな役割に再適応することで、今後のキャリア形成に自分らしさを追求する態度が醸成されることが明らかにされた。しかし、自分を見つめ直すことができず、諦めの態度で、キャリア形成態度が消極的なままの場合があることも確認された。

 研究3(第6章)では、大手製造業3社に所属する、役職定年になったばかりの役職定年者17名を対象に半構造化面接を行い、役職定年後の役職定年者の行動や会社や組織、仕事に対する思考や感情の変化をリアルタイムに捉え、役職定年者の新たな役割への再適応プロセスと次のキャリアへの模索プロセスを探索的に検討した。M-GTAによる分析の結果、56概念、4サブカテゴリ、15カテゴリ、8カテゴリグループが生成された。研究1(第4章)と同様に新たな役割へ実践的、心理的に再適応するプロセスが抽出された。加えて、役職定年を機に会社や組織への想いが否定的に変化する場合と肯定的なままである場合があることが明らかにされた。なお、その想いは調査期間中に変化することはなかった。また、役職定年によるキャリアの喪失や不安などの途絶感から現在を暫定のキャリアと考え、今後のキャリアを探索し、感情が揺れ動くプロセスが抽出された。しかし現実の壁に直面し、今を受容する心理状態に落ち着き、探索を保留し目の前に集中することとなる。それにより、新たな役割を学び、実行することがさらに促進されることが明らかにされた。

 研究4(第7章)では、研究1、研究2、研究3にて生成された結果図をもとに、役職定年後の心理的再適応プロセスの中核にある仕事と組織へのかかわり態度に対して、組織コミットメント、職務特性、役職喪失の心理的反応、時間展望が与える影響と、仕事と組織へのかかわり態度が心理的再適応の到達点である自己価値の再認識に与える影響を、縦断的質問紙調査にて検討した。研究協力者は民間企業で働く60歳未満の役職定年者129名である。因子分析の結果、役職喪失による心理的反応として6因子構成が確認された。また自己価値の再認識として2因子構成が確認された。共分散構造分析によるパス解析の結果、仕事へのかかわり態度には組織コミットメントと職務特性が影響を与え、組織へのかかわり態度には職務特性と役職喪失による心理的反応が影響を与えることが確認された。役職喪失の心理的反応では、役職への執着的反応の一部が組織へのかかわり態度を促進していた。役職喪失による寂寥感や葛藤意識を解消するために、新たな役割の遂行を促す可能性が推察された。そして、仕事へのかかわり態度と組織へのかかわり態度は自己価値の再認識を促進することが明らかにされた。従って、目の前の現在の仕事に取り組むことが次のキャリア形成に向けた資源を形成するのに重要であることが研究3と同様に確認された。

 研究5(第8章)では、研究1、2により生成された結果図をもとに、役職定年という転機を組織内再適応という形で乗り越えることが、キャリア形成態度に与える影響を質問紙調査にて検討した。研究協力者は民間企業で働く58~59歳の正社員である役職定年者151名である。また、同じ年齢の現役役職者、役職未経験者にも調査を行い、役職定年者との比較検討を行った。因子分析の結果、キャリア形成への再燃として2因子構造が確認された。また、自分らしく歩むキャリア形成態度として新しくキャリア純化を確認した。役職定年者を役職定年からの経過期間で3年未満と3年以上の2群に分けて、現役役職者、役職未経験者との比較分析を行った結果、現役役職者と役職定年者(3年以上)は役職未経験者よりも有意に高く、一部変数では役職定年者(3年未満)も役職未経験者よりも高い数値を示した。共分散構造分析によるパス解析の結果、自己価値の再認識から自分らしく歩むキャリア形成態度への直接的な影響と、次のキャリア形成への再燃を介しての間接的な影響が役職定年者、現役役職者ともに確認された。パス解析における役職定年者と現役役職者との結果の相違は、現役役職者に役割貢献感から自分らしく歩むキャリア形成態度に多くの有意なパスが確認された点である。従って、現役役職者のキャリア形成態度には現在の役職者としての役割や職位が大きく関係していると考えられる。今後、現役役職者が役職を離れた際に自分らしく歩むキャリア形成態度の低下が想定される。一方、役職定年者は役職定年後の組織内再適応を完了することで、現在の地位に必ずしもとらわれず、自分らしく歩むキャリア形成態度を持ち続けられる状態にあることが推測される。

 本論文の学術的意義として、以下3つの視点について述べる。

 第1に、役職定年というキャリアの連続性を分断する転機への対処として、役職定年後の新たな役割への組織内再適応プロセスを明らかにしたことである。先行研究では、中年期の適応における時間的連続性の感覚と状況変化への柔軟性、積極的な対処の有効性が示されている。組織内再適応プロセスでは現在における積極的な取り組みが重要となり、過去の経験に捕らわれない柔軟な姿勢が必要とされる。そして現在で実績を積むことで、過去の経験や培われた能力を現在に位置付けることが実体験を伴って可能となり、未来に対するビジョンを前向きに描き、時間的連続性が回復する。このように、現在、過去、未来の視点と、時間的連続性、柔軟性、積極性を考慮した組織内再適応プロセスを抽出したことが第1の学術的意義である。

 第2に、役職定年者が役職という社会的役割を喪失することに伴い生じる心理的反応を明らかにしたことである。また、役職喪失への心理的反応が、仕事へのかかわり態度に影響を与えず、組織へのかかわり態度にのみ影響を与えることを実証したことである。特に、ネガティブ感情と考えられる寂寥感や葛藤意識が職責の遂行を促進することが確認され、第1の学術的意義で示した現在に取り組む積極的な姿勢を形成する上で重要な要素になると考えられる。

 第3に、役職定年を乗り越えた結果、自分らしく働くキャリア形成態度を抽出したことである。特に自分のアイデンティティにとって中核となるものを最優先し、他を潔く捨てるキャリア純化は、時間的展望が狭まる中で重要な適応的態度であると考えられる。第2の学術的意義で示したように転機初期を乗り越えるために役職に執着する感情も有用である可能性が考えられる。しかし長期的には自分らしさとは何かを考え、キャリア形成に臨む態度がより適応的であると考えられる。

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