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Twisted light-induced spin behavior in a chiral helimagnet

後藤 佑太朗 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017348

2021.04.20

概要

磁気と⼈間との関係は有史以前から続いてきたものであり,現在も連綿と続いている.磁気は現代の⽣活に⽋かせない役割を果たし,我々はその性質を利⽤して⽅向を知るだけではない様々なことへ利⽤している.このような磁気をどのように理解し,制御するかということは基礎的・応⽤的に⼤変重要な課題である.その制御技術の⼀つに光が考えられる.電磁気学の発展の中で,光と磁気は物質を介して相互作⽤することが理解され,量⼦⼒学の発展とともにスピンの存在が磁気の本質を理解する鍵となっている.

電⼦⼯学・磁気学・光学の 3 つの重要な領域は物性物理学,材料物理学において互いに密接に関連している.それらの重なる領域は特に重要であり,盛んな研究とともにこれまでに多⼤な成果を挙げてきた.電⼦⼯学と光学の間には光エレクトロニクスが広がり,これは光を伝送・検出・制御するための電⼦デバイスの応⽤に関係する技術分野である.光エレクトロニクスデバイスは,医療機器・遠距離電気通信機器などのなかで光を電気,またはその逆に変換する.磁気学と光学の間にまたがる磁気光学は,準静的磁場の存在により変化した媒質を介した電磁波の伝播について多くの現象を明らかにし,利⽤している.スピントロニクスは電⼦⼯学と磁気学からなり,電⼦の電荷とスピンの⾃由度の両⽅を積極的に利⽤している.例えば,巨⼤磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗効果は,コンピュータハードディスクの実⽤化とその産業発展に⼤きく貢献してきた.本論⽂では電⼦⼯学・磁気学・光学が重複する光スピントロニクスと呼ばれる領域を対象とする.光スピントロニクスは,固体中の電荷を制御しながらにして材料の磁気的性質と電気的・光学的性質の相互作⽤を利⽤するという特徴を持つ.この領域では⾰新的な研究領域を切り開き,新しい磁気デバイスなどの将来の産業応⽤が期待されている.

磁性体の光学応答は磁気光学の理論では,光の⾓運動量が電⼦系へ遷移して電⼦の⾓運動量に変換されることに由来するとされる.通常このような場合の光の⾓運動量とは,スピン⾓運動量,すなわち円偏光の⾃由度のみを指すことがほとんどであった.光のスピン⾓運動量が電⼦に伝達できるのならば,光の軌道⾓運 動量もスピン軌道相互作⽤を介して伝達することができることは,容易に推測さ れる.実際理論・実験の両⾯で,光渦による光学遷移が従来の平⾯波とは異なる ことが⽰されている.これまでに光学遷移が影響する磁性体の電⼦状態の変化が 伴う物性の探索は,直線偏光・円偏光ともに多く為されてきたが,光の軌道⾓運 動量と電⼦スピンとのスピン軌道相互作⽤を通じた光学遷移を基にした研究は ほとんど知られていない.また,電磁波と磁性体との相互作⽤は通常 GHz〜MHz 帯の磁場との磁気共鳴や光による熱励起を議論することがほとんどであり,光の 軌道⾓運動量は間接的にしか考慮されていない.本論⽂では,特に可視光領域付 近において光と電⼦スピンのスピン軌道相互作⽤による光学遷移に着⽬するこ とで,直接的に光の軌道⾓運動量が影響した磁性体の電⼦状態の変化を取り扱う.

さて,光渦はキラリティを持つものとしても理解される.キラリティは,3 次元の物体や現象が,その鏡像と重ね合わすことができない性質のことを指す.光渦は等位相⾯がらせん状になっており,らせんの巻く⽅向・数によりトポロジカルな性質を表現する.これは光渦の軌道⾓運動量そのものであり,スピン⾓運動量の持つ 2 値の⾃由度以上の,原理上は無限⼤の⾃由度を有する.それに加え中⼼は位相特異点により光強度は零になる.こうした⾼い⾃由度やトロイダル状の場を利⽤して,物質へ⾓運動量を転写し運動を制御,⾼調波発⽣やもつれ光⼦対の⽣成など⾮線形・量⼦光学,光通信での応⽤や誘導放出抑制顕微鏡法といった超解像イメージングなど,光渦は新たな光源として光を扱う全ての分野に広がっていった.

⼀⽅で,凝縮系物理学におけるキラリティとは,巨視的な秩序状態の安定化のための物質中のキラル対称性の破れのことである.こうした対称性の破れが⾃発的に⽣じる物質としてキラルヘリ磁性体が知られている.このヘリ磁性構造には⼆つのタイプがあり,⼀つは吉森型構造と呼ばれる.このタイプの磁気構造の微視的なメカニズムは,対称的な交換相互作⽤の間のスピンフラストレーションである.もう⼀つは,キラルヘリ磁性構造と呼ばれている.このタイプの磁気構造は,反対称な交換相互作⽤によって与えられる.またその微視的な構造はスピン 軌道相互作⽤によるものであることが知られている.スピン磁気モーメントのら せん構造は,対称相互作⽤と反対称相互作⽤との競合の程度で特徴づけられる.特に本論⽂ではクロム⼆硫化物ニオブ(CrNb3S6)に着⽬した.この物質はキラル 磁性体の⼀つとして注⽬されていて,理論的にも実験的にも広く研究されてきた.この物質の磁性は遍歴電⼦を介在させた局所的なスピン間の相互作⽤によって よく説明されている.光渦とキラルヘリ磁性は,幾何学的にキラリティーの観点 から⾒て類似した空間構造を有しており,両者のキラリティーに基づく⾮⾃明な 相互作⽤が期待できる.本研究は,これまで取り⼊れられてこなかった光の軌道⾓運動量とスピンの相互作⽤をより広い枠組みでの磁気光学の原理に組み込むための基礎的な現象の解明を⽬的とする.磁気秩序の光応答を理論的に解明することで,光による磁気秩序制御の可能性を提⽰し,光スピントロニクス研究の分野に道を拓くことができると期待する.

本論⽂では,これらの研究成果を以下の5章にまとめた.
第1章では本研究の背景と⽬的をまとめた.

第2章では,光渦場を吸収することにより誘起される⾦属キラルヘリ磁性体 CrNb3S6 中での新たな局所スピン間相互作⽤を提案した.またこのスピン間相互作⽤を,⼀次元のスピン系における電⼦と光渦の間の微視的相互作⽤をもとに基礎⽅程式から緻密に定式化することで,従来とは全く異なる⽅法で 1 次元のキラル磁気秩序を制御できることを⽰した.磁性体と光渦との相互作⽤は通常,GHz〜MHz 帯の光磁場との磁気共鳴や光による熱励起として考えられてきたが,本成果では 3d バンド内の近⾚外〜可視光領域の光渦の軌道⾓運動量と遍歴電⼦スピンとのスピン軌道相互作⽤を基にする吸収励起過程を介した,新しい局在スピン間相互作⽤を導き出した.さらに,系としてヘリ磁性体のらせん軸に同軸と垂直な 2 つの⼊射光渦の幾何的配置を考慮し,ランダウ・リフシッツ・ギルバート (LLG)⽅程式を⽤いて局在スピン磁気モーメントの光渦照射による変調を確認した.結果として,物質が光の軌道⾓運動量を使って光を吸収するならば,その限りにおいて遍歴電⼦を介した様々な磁気構造を制御することが可能であることが⾔える.また光渦のパラメータ,例えば強度,ビーム半径,偏光,軌道⾓運動量などには多くの⾃由度があり,これらの⾃由度は柔軟な磁気構造制御に役⽴つ.第3章で議論する,スピン波のような準粒⼦の輸送特性に影響を与えることや,第4章で議論する,空間的に制約された光は局所的に磁気構造を変調することなどが期待される.

第3章では,第2章で導出した光渦とキラルヘリ磁性体 CrNb3S6 の結合による局在スピン間相互作⽤が影響する⾮⾃明なスピン波のエネルギー分散関係に注⽬した.線形スピン波近似したスピンハミルトニアンをボゴリューボフ変換すると,原点付近に分散関係が分岐する 2 つの例外点が現れ,その例外点の間では固有値に虚部を持つことを確認した.これは単に⼀様な外部磁場を印加しても現れず,光渦とスピンが結合し,光渦の波数とキラルヘリ磁性体のらせん波数のずれによるうなりが相互作⽤の波数として有意に現れることで系が複雑化するからである.また例外点は, スピン波準粒⼦の「粒⼦」モード(エネルギーが正)と「正孔」モード(エネルギーが負)の重ね合わせによって⽣じている.本成果は分散関係に虚部が存在するときは系が「動的」となり, 系の全エネルギーを保存した状態で,ある種の不安定性が増⼤していると結論づけた.同種のメカニズムによる例外点については,光格⼦中のボーズ・アインシュタイン凝縮体の準粒⼦について議論されているものの,量⼦スピン系についてはこれまで報告されておらず,⾮常に重要な結果を得た.本成果はスピン波の制御性を向上させ,多値記憶領域を持つ光スピントロニクス素⼦としての利⽤の可能性を広げた.

第4章では,第2章に基づき,光渦場と⼀次元キラルヘリ磁性体の相互作⽤について,光渦場をパルス光源としたときの局在スピン磁気モーメントの変調がどのように時間変化するかを調べた.ここで時間発展は LLG ⽅程式を⽤い数値計算を⾏った.その結果,光渦パルスが通過するのに従って変調が育つように⼤きくなることがわかった.また,パルスが数波⻑を通過するのにかかる時間程度では光変調のない基底状態にまで緩和されない.そのため,変調されたスピンが基底状態に緩和する前に新しいパルスで励起すると,前のパルスの変調と重複してより⼤きな変調が⽣じることも確認した.本成果は,時空間制御されたパルスビーム形成により,電⼦スピンと光渦との結合を利⽤してスピンテクスチャを時空間的に柔軟な制御ができる可能性を⽰した.

第5章では,以上の成果を総括し,本論⽂を結ぶ.

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