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大学・研究所にある論文を検索できる 「イオンチャネル阻害薬の内臓痛治療への応用に関する基礎研究と心有害事象予防に向けた臨床研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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イオンチャネル阻害薬の内臓痛治療への応用に関する基礎研究と心有害事象予防に向けた臨床研究

松井 和樹 近畿大学

2022.03.02

概要

過去47年間(1970~2016年)に上市された低分子医薬品のデータを解析した医薬産業政策研究所の報告によると、上市医薬品で、最も多いのが酵素を標的とする医薬品(500品目)で、第2位が受容体を標的とする医薬品(434品目)、それに続くのがイオンチャネルとトランスポーターを標的とする医薬品(それぞれ75品目)である。

イオンチャネル阻害薬は、抗てんかん薬、高血圧治療薬、虚血性心疾患治療薬、抗不整脈薬、鎮痛薬など幅広い疾患の治療に応用されている。一般に、各イオンチャネルに選択性の高い化合物が医薬品に適すると考えられてきたが、ヒトでの有効性と安全性に関するエビデンスが蓄積されるに伴って、複数のイオンチャネルに作用する化合物の有用性も再評価されている。L型、N型、P/Q型、R型の高電位活性化Ca2+チャネルに共通するα2δ調節サブユニットに作用する神経障害性疼痛治療薬のpregabalinやマルチチャネル阻害薬に分類される抗不整脈薬のbepridilなどはその代表例である。

過敏性腸症候群(IBS)に伴う結腸痛の発現には侵害受容ニューロン上に発現するtransient receptor potential vanilloid 1 (TRPV1)やtransient receptor potential ankyrin 1 (TRPA1)チャネル及びCav3.2T型Ca2+チャネル(Tチャネル)などが関与する。TRPV1の機能はprotein kinase Aやprotein kinase C (PKC)によるリン酸化に伴って増強される一方、脱リン酸化酵素であるcalcineurinによって抑制的に制御されている。川畑らのグループは、知覚神経に発現するproteinase-activated receptor2(PAR2)を刺激することでPKC依存的にTRPV1の感受性が増大し、TRPV1アゴニストであるcapsaicin結腸内投与による結腸痛が増強されることを報告している。また、結腸内腔の硫化水素(H2S)が結腸痛を誘起すること、さらに、この痛みの発現にCav3.2TチャネルとTRPA1チャネルの活性上昇が関与することを、両チャネルの遺伝子ノックダウン実験によって証明している。これらの知見に基づいて実施された別のグループの研究により、ラットにおけるbutyrate誘発性結腸過敏がCav3.2のノックダウンで抑制されることが証明され、IBS患者の結腸痛にCav3.2が関与する可能性が示唆された。その後、IBS患者の結腸粘膜生検においてCav3.2mRNAレベルの上昇が報告された。これらのことから、Cav3.2TチャネルはIBS患者における腹痛・結腸過敏に対する治療標的分子になりうると考えられている。現在までに、多数の選択的Tチャネル阻害薬が開発されているが、ヒトの体性痛に対する明確な抑制効果が証明されたものはほとんどない。一方、ヒトにおいて結腸痛を含む内臓痛に対する有効性を評価した研究はまだない。既存医薬品の中には、一般に知られている作用機序に加えてTチャネル阻害活性を有するものがあり、ヒトでの安全性が既に確立しているそれらの医薬品をIBS患者の結腸痛治療に応用できる可能性が考えられる。狭心症や不整脈の治療薬であるbepridil及び定型抗精神病薬であるpimozideはCav3.2阻害活性を有することが報告されており、Cav3.2が関与する内臓痛を抑制する可能性が考えられる。以上、これまでに報告されている結腸痛とイオンチャネルの関係についての知見を踏まえて、本論文の第1~4章では、TRPV1チャネルとCav3.2Tチャネルに焦点を当てて、結腸痛の病態への関与と治療標的分子としての可能性を検討した結果を述べる。

Cav3.2を含む多様なイオンチャネルを阻害するbepridilは、抗不整脈薬として有用である。一方、bepridilは副作用としてQT延長やそれに伴うtorsadedepointes(TdP)を引き起こす可能性があり、therapeuticdrugmonitoring(TDM)の対象薬剤にもなっている。しかし、bepridilの血中濃度とQT間隔の延長との相関性についてはまだ不明な点が多い。そこで、本論文の第5章では、心房細動患者において抗不整脈薬bepridilの血中濃度とQT延長との相関性を解析した臨床研究の成果を示す。

第1章では、calcineurin阻害薬tacrolimusがcapsaicin誘起結腸痛に及ぼす影響を検討した。マウスにおいて、tacrolimusは、capsaicinの結腸内投与により誘起される腹部関連痛覚過敏を増強し、結腸を支配する知覚神経が入力するレベルの脊髄後角におけるERKリン酸化を促進した。これらの知見より、tacrolimusによるcalcineurin阻害は、恐らくTRPV1のリン酸化を促進することで知覚神経の感受性を増大させることでTRPV1依存性の結腸痛を増強することが示唆された。

第2章では、Cav3.2の遺伝子欠損(KO)マウスを用いて、H2S供与体であるNa2Sにより誘起される体性痛と結腸痛におけるCav3.2の役割を検証した。その結果、野生型C57BL/6Jマウスでは、Na2S足底内投与によって機械的アロディニア、Na2S結腸内投与によって結腸痛様侵害受容行動が認められたが、Cav3.2-KOマウスではNa2Sによる体性痛・結腸痛は認められなかった。これらの知見より、H2Sによる体性痛及び結腸痛の誘発にはCav3.2Tチャネルの存在が不可欠であることが示唆された。

第3章では、butyrate誘起IBSモデルマウスの結腸痛および結腸の知覚神経過敏におけるCav3.2の役割を検討した。ddYマウスにbutyrateを反復結腸内投与すると、腹部関連痛覚過敏が認められた。また、butyrate処置マウスでは、結腸進展刺激あるいはCav3.2活性を促進するNa2Sの結腸内投与による侵害受容行動と、結腸からの知覚神経が入力するレベルの脊髄後角におけるERKリン酸化が増加していた。Butyrateにより誘起される関連痛覚過敏および結腸進展刺激あるいはNa2S刺激に対する過感受性は、各種Tチャネル阻害薬あるいはアンチセンス法によるCav3.2のノックダウンによって抑制された。さらに、butyrate処置マウスでは、TRPV1、TRPA1およびPAR2のアゴニストの結腸内投与に対する過感受性も認められたが、これらはすべてTチャネル阻害薬によって抑制された。また、野生型C57BL/6Jマウスにおいてもbutyrate処置により腹部関連痛覚過敏および結腸伸展刺激あるいはNa2S刺激に対する過感受性が認められたが、Cav3.2-KOマウスではbutyrate処置によるこれらの変化は全く生じなかった。同様の腹部関連痛覚過敏および結腸伸展刺激に対する過感受性は、2,4,6-trinitrobenzensulfonicacid(TNBS)処置ddYマウスにおいても認められ、これらはいずれもTチャネル阻害薬により抑制された。本章で得られた知見より、IBSに伴う結腸痛および知覚神経過敏にはCav3.2が極めて重要な役割を演じている可能性が示唆された。

第4章では、マウスにおいて、Tチャネル阻害活性を有する既存薬であるbepridilおよびpimozideがTNBSによる結腸炎あるいはcyclophosphamide(CPA)による膀胱炎に伴う内臓痛に及ぼす影響を検討した。TNBS処置マウスでは腹部関連痛覚過敏および結腸伸展刺激に対する過感受性が認められ、これらはbepridilおよびpimozideによって有意に抑制された。また、CPA処置マウスで認められる膀胱痛様行動および関連痛覚過敏もbepridilおよびpimozideにより有意に抑制された。これらの知見より、Tチャネル阻害活性を有するbepridilおよびpimozideは内臓痛の治療に応用できる可能性が示唆された。

第5章では、抗不整脈薬bepridilを服用している心房細動患者におけるQT間隔とbepridil血中濃度との相関性について調査した。Bepridilを服用している心房細動患者において、bepridil服用後のQTc間隔はbepridil服用前のQTc間隔に比して有意に延長していた。Bepridilの投与量と血中濃度の相関性を評価したところ、今回の研究では有意な相関が認められた。次に、bepridil開始後のQTc間隔およびΔQTc(bepridil治療開始前後のQTc間隔の差)と投与量および血中濃度の相関性について評価したところ、QTc間隔は投与量および血中濃度と有意な相関性を示したが、ΔQTcは血中濃度とのみ有意な相関性を示した。続いて、QTc間隔が500msec以上を示したQTc延長群では、QTc非延長群に比してbepridil血中濃度は有意に増加していた。これらの知見より、bepridil服用後のQTc間隔およびΔQTcは血中濃度依存的に延長することが示唆され、TdPなどの致死的不整脈を予防するために心電図評価と共に血中濃度モニタリングに基づく投与量調整が重要であることが示唆された。

今回の基礎研究により、IBS患者などでみられる結腸痛におけるTRPV1チャネルとCav3.2Tチャネルの役割の一端を明らかにすることができた。また、本知見から、IBS患者におけるtacrolimus使用に伴う腹痛増悪の可能性が示唆され、さらにCav3.2がIBSを含む難治性内臓痛の治療標的分子として極めて有望であることが明らかとなり、Tチャネル阻害活性を有する既存薬が内臓痛治療に応用できる可能性も示唆された。一方、マルチチャネル阻害薬である抗不整脈薬bepridilによるQT延長やTdPなどの致死的不整脈を予防するための臨床研究では、bepridilの血中濃度に依存してQTc間隔が延長することが検証され、血中濃度に基づく投与量の調整が重要であるとのエビデンスを得ることができた。以上、今回の基礎および臨床研究によりイオンチャネル阻害薬の新たな治療応用と適正使用に関する重要な知見を得ることができた。

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