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書き出し

疼痛症状における概日時計機能の解析と新規鎮痛標的分子の探索

安河内, 冴 YASUKOCHI, Sai ヤスコウチ, サイ 九州大学

2023.03.20

概要

九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository

疼痛症状における概日時計機能の解析と新規鎮痛標
的分子の探索
安河内, 冴

https://hdl.handle.net/2324/6787543
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(臨床薬学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (2)

(様式5)




:安河内



論文題名

:疼痛症状における概日時計機能の解析と新規鎮痛標的分子の探索



:甲

















【背景・目的】
「痛み」は有害な刺激から生体を防御するための危険信号を伝える重要なシグナルであるが、痛
みの原因が排除された後も持続する慢性疼痛は、患者の QOL を著しく低下させるため適切な治療
が必要となる。現在慢性疼痛の罹患者は世界人口の 20%に上ると推定されているが、既存の鎮痛薬
が奏効しない場合も多く、新規治療法の開発が望まれている。一方、様々な要因で発症する疼痛の
症状にも概日リズムが認められることが報告されていが、当研究室では神経障害性疼痛モデルマウ
スを用いた検討で、脊髄アストロサイトに発現する serum and glucocorticoid-inducible kinase1(SGK-1) が神経障害による疼痛症状の概日リズムを制御していることを見出している。このこと
は、疼痛の概日リズムに着目したメカニズムの解析を通じて、新たな鎮痛標的分子の探索や同定が
可能になることを示している。本研究では、神経障害性疼痛の概日リズムに着目した新規鎮痛薬の
同定と、がん性疼痛モデルマウスにおける疼痛症状の概日リズム制御メカニズム解析を通じた新規
鎮痛標的分子の探索を試みた。
【結果・考察】
第一章:SGK-1 を標的とした神経障害性疼痛に対する新規治療医薬品の探索
無細胞系でヒト SGK-1 酵素活性を評価できるスクリーニング系を構築し、SGK-1 酵素活性阻害
薬の探索を行なった。国内で承認されている既存薬 1,271 種類を含むライブラリーを用いて SGK1 酵素活性阻害薬を探索した結果、SGK-1 酵素活性を阻害する候補薬として sulfasalazine(SSZ)
が同定された。SSZ を神経障害性疼痛モデルマウス(partial sciatic nerve ligation mice; PSL マウ
ス)に対して髄腔内投与したところ、有意な疼痛緩和効果が認められた。
一般的に、SSZ は経口投与で用いられるが、PSL マウスに対して SSZ を経口投与した際には
有意な疼痛緩和効果は認められなかった。髄腔内投与した SSZ が鎮痛作用を示したにも関わら
ず、経口投与では効果を発揮できなかったことから、SSZ の脊髄移行の重要性が示唆された。そ
のため、経口投与後の SSZ のバイオアベイラビリティーを改善し、脊髄移行性を増加させる手法
について検討した結果、SSZ は小腸に発現する breast cancer resistance protein (BCRP)の基質
となり細胞外へ排泄されることで消化管からの吸収が妨げられるとともに、血液脳脊髄関門に発
現する BCRP によっても中枢への移行が妨げられることが明らかになった。実際に、BCRP KO
(Abcg2-/-)マウスを用いて PSL マウスを作製し(PSL-BCRP KO マウス)、疼痛強度と脊髄内
SSZ 含量を測定したところ、SSZ の経口投与は PSL-BCRP KO マウスに対して鎮痛効果を示し、
脊髄内 SSZ 含量も増加していた。この結果より、SSZ が経口投与では神経障害性疼痛に対して緩
和効果を発揮できなかった原因が BCRP による吸収抑制であることが明らかになったことから、

次に、BCRP 阻害作用を有する医薬品 febuxostat(FBX)との併用投与を検討した。SSZ と FBX
を併用経口投与後に疼痛強度および脊髄内 SSZ 含量を測定したところ、BCRP KO マウスで見ら
れた脊髄内 SSZ 含量の増加と有意な疼痛緩和効果が得られた。これらの結果から、SSZ のバイオ
アベイラビリティーを改善することで SSZ は経口投与でも神経障害性疼痛に対して鎮痛効果を
示すことが明らかになった。
第二章:時計遺伝子に着目したがん性疼痛の概日リズム形成メカニズムの解析
坐骨神経周囲に肉腫細胞 NCTC2472 を移植して担がんマウスを作製し、腫瘍の増殖に起因する
疼痛症状の時刻変動を解析したところ、明期後半で疼痛が緩和し、暗期後半で疼痛が増悪する明瞭
な概日リズムが認められた。神経損傷による疼痛過敏の発症時には、脊髄後角でのグリア細胞の増
加やプリン受容体などの発現増加が認められるが、担がんマウス脊髄ではグリア細胞の増加は認め
られず、主要な疼痛関連因子の発現も変化していなかった。このことから、がん性疼痛は神経損傷
による疼痛とは異なるメカニズムで制御されている可能性が示唆された。そこで、がん性疼痛の概
日リズムに着目した解析を行い、腫瘍移植によって脊髄中で発現が増加し、がん性疼痛の概日リズ
ムと対応した発現変動を示す因子を探索した結果、cancer-induced pain factor (CIPF;仮称)が候
補因子として選出された。正常マウスに対して CIPF リコンビナントタンパクを髄腔内投与すると
疼痛症状が誘導され、CIPF 中和抗体を担がんマウスに対し髄腔内投与するとがん性疼痛に対して
鎮痛効果を示したことから、CIPF ががん性疼痛の概日リズム形成に重要な役割を担っていること
が示唆された。
CIPF の発現リズム制御機構については過去に報告がないため、さらに解析を進めたところ、
CIPF の発現リズムは時計遺伝子である RORαおよび Rev-erbαによって制御されていることが
明らかになった。
【結論】
本研究では、病態の概日リズム制御機構に着目し、ドラッグ・リポジショニングによる神経障害
性疼痛に対しての有効な治療薬の探索と、がん性疼痛に対する新規鎮痛標的分子の探索を行い、複
数の新知見が得られている。第一章で同定された SSZ は、過去に見出された神経障害性疼痛の概日
リズム制御因子 SGK-1 の活性を阻害することで鎮痛効果を示した。一方、がん性疼痛の概日リズ
ムは脊髄に発現する CIPF によって制御されていることが明らかになった。これらの結果は、神経
の障害により引き起こされる疼痛症状と、複合的な要因によって引き起こされるがん性疼痛では概
日リズムの形成機構が異なることを示唆しており、疼痛病態における概日リズム形成機構の理解に
は多角的な解析が必要であることを明示している。本研究では疼痛の概日リズムを基盤にした解明
を行うことで、新規鎮痛標的分子の同定や新しい作用機序を有した鎮痛薬の探索が可能になること
を示した。本研究を通じて得られた成果や方法論によって、慢性疼痛に対する新たな治療法の構築
につながることが期待できる。

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