経営資源の編成と飼養管理が大規模酪農経営の経済性格差に与える影響
概要
本論文では,今日における北海道酪農での生乳生産の主要な担い手である,経産牛100頭以上の大規模経営における土地利用等の経営資源の利用の差異と,生産効率や経済性ついて,大規模経営間での格差に注目して,そうした格差とその要因を明らかにすることを課題とした。第一の課題として,近年の与件変動下での土地利用を含む資源利用と経済効果の発揮の関係について,経営資源の利用が異なる頭数規模聞と各規模での経営間のばらつきに注目して,一定数の実態データに基づいて明らかにすることを試みた。第二の課題として,主たる担い手層である経産牛100~200頭程度の家族経営でも,生産効率や経済性には経営間格差があるとみられる点について,経産牛100頭台の経営聞においても,土地や労働力といった経営資源には差異があり,そうした経営資源の利用の違いも,生産効率や経済性に影響していることを明らかにすることを試みた。こうした課題へ接近するに際しては,一定数の酪農経営の実態調査や実績データを用いた分析と検証を行い,生産効率やコスト,そして経済性に貢献する経営資源の利用実態を分析することを重視した。
第1章では,統計資料等を用いて対象地域の酪農経営の特徴と課題として,経営展開や経営資源、の利用,経済性について整理した。その結果,経産牛100頭以上の経営における費用の特徴として,飼料等の価格高勝以降,高コストかつ経済性の経営問差を依然として内包していた。そこでの課題を明確にするためには,経産牛に対する飼養管理をはじめとする経営管理と,自給飼料の利用と濃厚飼料の購入と関係する自給飼料作地の土地利用の2点に注目することが重要とみられた。
第2章では,前章の結果を踏まえ,対象地域である根釧地域の大規模経営群を対象として,規模と効率に注目して経済的な再生産性との関係を分析した。経産牛100頭以上の酪農経営の中には,安定的な現金余剰の確保に必ずしも至っていない経営群が存在する恐れがあった。牛乳生産や個体販売の産出を向上させる生産効率が重要なことを示していた。
第3章では,自給飼料が同質化した経営群を対象とすることで,飼料による影響を除いたTMRセンター参加経営を分析した。さらに,自給飼料の確保による効果とその要因を1頭当たり面積の大小と経済的な効果との関係から明らかにする。この結果,単に飼料基盤を同質化するだけではコストに課題は残り,経営間の経済性格差は解消されないとみられた。また,経産牛100頭以上層においても,自給飼料の確保は飼料費以外の疾病や賃料に係る費用を抑制し,経済的効果をもたらすと考えられた。
第4章では,根釧地域の酪農経営への実態調査により,酪農経営における経産牛管理と労働力・作業分担に注目し,経済性が異なる経営体間での労働力の変遷と作業分担,及び経済性が良好な経営における経産牛管理の特徴を明らかにした。その結果,経済性上位層の経営においては,経営主が経産牛に直接携わる作業を担当したうえで,経産牛に対する作業管理のポイントを実践していることを明らかにした。すなわち,経産牛に対する観察機会の確保とその機会において飼養や繁殖の状態を把握することが意識されていた。さらに,こうした経営にみる作業管理のポイントの関係性の分析からは,ふん尿搬出作業等の機械化・省力化により,経産牛に直接携わる作業を経営主が担当することが可能になり,これにより,経産牛の直接観察の機会が確保されていた。こうした経営では,疾病や繁殖の早期発見のような飼養・繁殖成績を改善する具体的な行動を採っており,これが,個体乳量や生産効率の差につながり,経産牛の長期利用や販売牛確保をもたらしていると判断された。
以上から,大規模化して飼養形態が変化する,また労働力が変遷すると,作業分担が必要となるが,このとき,経営主の作業がオベレータ一作業等に限定され,乳牛の観察時聞が乏しくなることで,経済性が低下する経営がみられる。この問題の解消には,上位層の経営の特徴からは,作業分担の再編による経営主の経産牛に対する観察時間の確保と,経産牛の飼養・繁殖管理に対する意織の向上が重要であることが指摘できる。こうした点を実践するためには,短期的には農業経営診断の視点が参考になると考えられる。