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大学・研究所にある論文を検索できる 「受診間の低密度リポ蛋白コレステロール値の変動と急性冠症候群の原因となるプラーク破裂の関連性について」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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受診間の低密度リポ蛋白コレステロール値の変動と急性冠症候群の原因となるプラーク破裂の関連性について

Nakano, Shinsuke 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景と目的】
本邦における急性冠症候群 (Acute Coronary Syndrome: ACS)の発症率は、1974 年には 100,000 人あたり年間 7.4 人であったのに対し、2008 年には 27.0 人と、過去 30 年で増加傾向にある。これまで多くの研究が、ACS 発症に関連する因子を報告しているが、血中脂質値、特に Low-density Lipoprotein Cholesterol (LDL-C)が ACS 発症に関連していることが繰り返し示されている。一方近年、血中脂質値だけでなく、その受診間の変動が将来の心血管イベントと関連していることも明らかになってきた。Boey らは High-density Lipoprotein Cholesterol (HDL-C)及び LDL-C の変動が ST 上昇型心筋梗塞患者における全死亡に独立して寄与していることを報告している。また、Bangalore らは LDL-C の変動が、全死亡及び心血管死に独立して関連していることを報告している。さらに、Clark らは、血管内超音波を用い連続的に観察することで、冠動脈内のアテローム性動脈硬化の量的進行と Total Cholesterol (TC)、non-HDL の変動に密接な関係があることを示している。

ACS は、安定型狭心症と異なり、冠動脈プラークが不安定化することにより発症する。近年の光干渉断層撮影 (Optical coherence tomography: OCT)を用いた検討では、ACS の責任病変には、1) プラークの破たん (plaque rupture: PR), 2) びらん (plaque erosion: PE), 3) 石灰化結節 (calcified nodule: CN))の3つのパターンが存在していることが報告されている。前記の如く、これまで受診間の血中脂質値の変動と冠動脈イベント発症や動脈硬化の量的進行の関連が報告されているが、血中脂質値の変動と ACS の発症様式やプラークの質との関連は依然明らかになっていない。

以上より本研究では、ACS を発症し、OCT で責任病変を観察できた症例及び非 ACS 症例を、後向きに多施設で登録し、受診間の脂質値の変動と動脈硬化病変の特徴を検討することで、脂質値の変動が動脈硬化局所に与える影響について検討する。

【方法】
研究デザインと患者群
本研究は、2014 年 1 月から 2020 年 6 月までに神戸大学医学部附属病院、大阪府済生会中津病院、兵庫県立淡路医療センター、及び兵庫県立姫路循環器病センターで ACS に対して percutaneous coronary intervention (PCI)を施行され、責任病変を OCT で観察し得た患者の中で、過去に 3 回以上血中脂質値が計測された患者を対象とした後ろ向き観察研究である。ACS は不安定狭心症、非 ST 上昇型心筋梗塞、ST 上昇型心筋梗塞のいずれかと定義した。また、それぞれの患者は責任病変により PR-ACS 群、非 PR-ACS 群 (NPR-ACS 群)に分類された。NPR- ACS 群には、PE、CN が含まれた。また、対照群として、上記患者とは別に過去に 3 回以上、血中脂質値の計測が行われた非 ACS 患者を、ACS 患者の 3 倍割り付けた。PR-ACS 群、NPR- ACS 群、対照群の3 群間で過去の血中脂質値の平均値及び変動性について比較検討を行った。患者データに関しては、電子カルテ上の診療録より後方視的に得た。

責任病変の分類
全ての責任病変は OCT 画像により、以下のように分類した。PR は線維性被膜の断裂と内部に空洞を伴う病変、PE は線維性被膜破壊がなく、血栓付着のある病変または、血栓がなく内膜が不規則になった病変、CN は内腔に突出する石灰化結節を伴う病変として、定義した。

血中脂質値の変動指標
Corrected variability independent of the mean (cVIM)を本研究の主な変動性の指標として、 TC、LDL-C、HDL-C、Non-HDL、triglyceride (TG)について算出した。VIM は血中脂質値の標準偏差/平均値βにより算出され、cVIM は血中脂質値の VIM×coefficient of variation の平均値/VIM の平均値によって算出された。βは標準偏差を従属変数、平均値を独立変数として導き出す回帰係数として算出された。これらの算出には過去3~6 回の血中脂質値の結果を用いた。

【結果】
対象期間に ACS を発症し、PCI 前に OCT 画像を撮像された 1047 例のうち、除外基準に該当した 973 例を除外し、最終的に 74 例が解析対象として ACS 群に登録された。対照群はその 3 倍の 222 例が登録された。ACS 群のうち、OCT 所見により、44 例 (59.5%)が PR-ACS 群、 30 例 (40.5%)が NPR-ACS 群として分類された。

3 群間で患者背景に差は認めなかった。ACS 群は対照群に比べて、LDL-C の平均値 (ACS群: 114 [85–136] mg/dl, 対照群: 90 [75–107] mg/dl, p<0.001)及び LDL-C の cVIM 値 (ACS 群: 11.9 [7.46–18.04], 対照群: 8.5 [5.89–11.43], p<0.001)ともに高値であった。さらに ACS 内で比較すると、LDL-C の平均値には差を認めなかったが (PR-ACS 群: 116 [84–138] mg/dl, NPR-ACS群: 111 [85–129] mg/dl, p=1.00)、LDL-C の cVIM 値に関しては PR-ACS 群が、NPR-ACS 群に比べて有意に高値であった (PR-ACS 群: 14.0 [10.05–18.70], NPR-ACS 群: 9.2 [5.01–13.39], p=0.026)。その他の脂質に関する cVIM 値においては、PR-ACS 群、NPR-ACS 群の 2 群間で有意差を認めなかった。

ACS 発症に関連する独立因子を調べるために多変量解析を行ったところ、CRP 高値 (odds ratio [OR] = 2.85, 95% CI = 1.70–4.76, p < 0.001)、HDL-C 低値 (OR = 0.97, 95% CI = 0.95–1.00, p= 0.020)、LDL-C 高値 (OR= 1.02, 95% CI = 1.01–1.03, p < 0.001)、LDL-C の cVIM 高値 (OR =1.04, 95% CI = 1.00–1.08, p = 0.049)が ACS の発症に独立して関連していた。

次に、PR-ACS の独立因子を調べるために多変量解析を行ったところ、ACS と同様に CRP高値 (OR = 1.54, 95% CI = 1.10–2.15, p < 0.001)、HDL-C 低値 (OR = 0.97, 95% CI = 0.94–0.99, p= 0.014)、LDL-C 高値 (OR = 1.02, 95% CI = 1.01–1.03, p = 0.005)、LDL-C の cVIM 高値 (OR = 1.06, 95% CI = 1.01–1.10, p = 0.018)が PR-ACS に独立して関連していた。

【論考】
本研究では、ACS 群は対照群に比べて、LDL-C の平均値、cVIM 値共に有意に高値であった。また、ACS 群内の比較では、PR-ACS 群は NPR-ACS 群に比べて、LDL-C の平均値に有意な差がないにもかかわらず、LDL-C の cVIM 値が有意に高値であった。また、LDL-C の cVIM値は、ACS の発症、なかでも PR による ACS 発症に独立して関連していた。

今回、我々は、LDL-C の変動が、PR による ACS の発症と関連していることを初めて明らかにした。PR, PE, CN はそれぞれ異なる病理学的、臨床的特徴があることから、これらは異なる病態生理によって引き起こされている可能性がある。故に、潜在的な要因とその予防については個別に検討する必要がある。特に、PR は ACS の原因病変の半数以上を占める最も一般的な発症機序であることから、PR の発症に関連する潜在的な要因を調べることは重要である。本研究の結果は、過去に示された血中脂質値の変動と心血管イベント発生の関係について、そのメカニズムを解明する一助になると考えられる。

本研究では、LDL-C の変動に関連する因子を明らかにすることはできなかったが、過去の研究から炎症性ストレス、全身状態、スタチンの服用状況等が、潜在的に LDL-C 値の変動に影響を与える可能性がある。故に我々は、これらに介入することで LDL-C の変動を抑制できる可能性があると考えている。

本研究にはいくつかのlimitation があげられる。複数回の脂質の採血が行われているという 特性上、一般的な ACS 患者に比べ、スタチンの投与率が高く、選択バイアスがかかっている 可能性がある。また、後ろ向き研究であり、血中脂質値の採血間隔が一定ではないことや、血 栓や予備拡張により責任病変を誤認する可能性があることも本研究の重要な limitation である。

【結論】
本研究では、LDL-C の受診間の変動が、プラーク破裂を伴う ACS イベントに関係している可能性が示唆された。LDL-C の変動を抑制することで、ACS 発症を予防できるかどうかは、更なる前向き研究が必要である。

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