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大学・研究所にある論文を検索できる 「急性冠症候群患者における臨床的特徴、責任プラークの形態的特徴、及び長期予後についての検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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急性冠症候群患者における臨床的特徴、責任プラークの形態的特徴、及び長期予後についての検討

Nagasawa, Akira 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景と目的】
我が国における急性冠症候群(Acute coronary syndrome: ACS)の発病率は、近年増加傾向にある。また ACS 発症後の院内死亡率は、80 歳以上の高齢患者で高く、男性に比べて女性の方が高率であることが示されている。

一方、ACS の責任病変には病理学的にいくつかのタイプがあることが報告されているが、それら責任プラークの特徴について年齢・性差の観点から分析した研究は少ない。血管内超音波(Intravascular ultrasound: IVUS)を用いた検討では、65 歳未満の若年層では血栓、粥腫の破綻、冠動脈の内腔の狭窄が起こる過程で冠動脈自体の断面積が大きくなるという現象がみられる。その一方で、80 歳以上の高齢者では石灰化が多いことが報告されている。IVUSにより、年齢による ACS の責任病変の性状の違いが一部明らかにされてきたが、IVUS はその使用が簡便である反面、解像度が低く、責任プラークのさらなる詳細な評価が困難である。そこで近年、IVUS よりも解像度の高い光干渉断層撮影(Optical coherence tomography: OCT)を用いることで、より詳細な病変の観察が可能であることが示されてきた。 OCT を用いて ACS の責任病変を観察した過去の論文では、ACS の責任病変はその性状により、「Plaque rupture(PR)」、「Plaque erosion(PE)」、「Calcified nodule(CN)」の 3 群に分類することができ、それぞれの全 ACS に占める割合は、PR は約 50%、PE は約 40%、CN は約 10%と報告されている。しかしこれら ACS の責任プラークの特徴を年齢・性別をはじめとした患者背景の観点から検討し、予後との関係を見た研究は数少ない。

そこで我々は、ACS における責任プラークの形態的特徴を、年齢・性別や臨床背景の観点から明らかにし、予後との関係を明らかにすることを目的とし、本研究を行った。

【方法】
研究デザインと患者群
本研究は、2013 年 4 月から 2018 年 7 月までに神戸大学医学部附属病院、大阪府済生会中津病院、兵庫県立淡路医療センター、及び兵庫県立姫路循環器病センターにおいて ACS を発症した患者の冠動脈の責任病変を OCT で観察し得た患者を対象とした、後ろ向き観察研究である。ACS は不安定狭心症(Unstable angina:UAP)、非 ST 上昇型心筋梗塞(Non-ST elevation myocardial infarction: NSTEMI)、ST 上昇型心筋梗塞(ST elevation myocardial infarction: STEMI)のいずれかと定義した。また、それぞれの患者は責任病変により PR群、PE 群、CN 群のいずれかに分類された。ステント内再狭窄やステント内血栓症により ACSを発症した患者、画像解析不能な患者、OCT による観察前に 2.5mm 以上のサイズのバルーンにて前拡張が施行された患者は除外した。患者データに関しては、電子カルテ上の診療録より後方視的に得た。

OCT 画像の撮像手順及び解析
OCT 画像収集は、全例専用のシステム(ILUMIEN OCT Imaging System; Abbott Vascular, Santa Clara, CA, USA)と専用のカテーテル(C7 and C8 Dragonfly Optis; Abbott Vascular, Santa Clara, CA, USA)を使用し、標準的手法に基づいて実施した。また、解析は専用のワークステーション(ILUMIEN Off-line Viewer)を用いて行った。

責任病変の分類
PR は線維性被膜の断裂と内部に空洞を伴う病変として、PE は線維性被膜破壊がなく、血栓付着のある病変として、CN は内腔に突出する石灰化結節として、それぞれ定義した。全ての責任病変は OCT 画像により、主に線維性成分主体の病変(均質に観察される減衰の少ない高信号領域)、脂質成分主体の病変(びまん性境界を伴う減衰の多い低信号領域)、または石灰化成分主体の病変(表面にカルシウム沈着を伴う、内腔に突出した石灰化)に分類した。 OCT 上の不安定プラーク(Thin-cap fibroatheroma: TCFA )は線維性被膜厚が 65 µm 未満の脂質性プラークとして、また血栓は管腔内で浮遊する直径 250 µm 以上の塊として定義した。

【結果】
患者背景
対象期間に ACS を発症し PCI 前にOCT 画像を撮像された 505 例のうち、ステント内再狭窄もしくはステント血栓症例 36 例、画像解析不能症例 32 例、責任病変が橈骨動脈グラフト(冠動脈バイパス術後)であった症例 1 例を除外し、最終的に 436 例が解析対象として登録された。これらの症例は ACS 責任病変の OCT 所見により 201 例(46.1%)が PR 群、174例(39.9%)が PE 群、61 例(14.0%)が CN 群に分類された。PE 群に分類された患者は他の 2 群よりも有意に若かった(PR 群; 67.2±12.5 歳、PE 群; 65.8±12.6 歳、CN 群; 75.3±10.5 歳、P <0.001)。その一方で CN 群の患者は他の 2 群よりも有意に高齢で、血液透析を行っている割合が有意に高かった(PR 群; 1.5%、PE 群; 1.1%、CN 群; 9.8%、P <0.001)。年齢と性別ごとの分布を見てみると、PE 群は 60 歳未満の患者の割合が多く認められた。一方 CN 群は、60 歳未満の女性には認めず、男女ともに 80 歳以上の患者が占める割合が有意に高かった(男性; 36.8%、女性; 27.5%、P <0.001)。

3 群の OCT 所見の比較
PR 群では 94.0%において脂質プラークが、CN 群では 95.1%が石灰プラークが主体であった。線維性プラーク(PR 群; 5.0%、PE 群; 25.9%、CN 群; 4.9%、P <0.001)および血栓(PR 群; 93.1%、PE 群; 100.0%、CN 群; 58.1%、P <0.001)の割合は、PE 群で他群よりも有意に高かった。

3 群それぞれに関連する独立因子
多変量回帰分析により、PR 群には STEMI であること(Odds ratio [OR], 1.487; 95% CI, 1.002–2.205; P = 0.049)、TCFA が存在すること(OR, 2.459; 95%CI, 1.663–3.635; P <0.001)がそれぞれ独立して関連していた。また、PE 群には若年であること(OR, 0.983; 95%CI, 0.967–0.999; P = 0.035)、左心室駆出率が維持されていること(OR, 1.022; 95%CI, 1.002–1.042; P = 0.029)、 および TCFA が存在しないこと(OR, 0.506; 95%CI, 0.336–0.762; P =0.001)がそれぞれ独立して関連していた。さらに、CN 群には高齢であること(OR, 1.052; 95%CI, 1.021–1.083; P = 0.001)、NSTEMI または UAP であること(OR, 0.511; 95%CI, 0.274–0.950; P = 0.034)、BNP 値が高値であること(OR, 1.001; 95%CI, 1.000–1.001; P =0.008)、および TCFA が存在しないこと(OR, 0.485; 95%CI, 0.252–0.930; P = 0.029)がそれぞれ独立して関連していた。

臨床転帰について
多変量回帰分析により、CN 群であること(OR, 1.990; 95%CI, 1.231–3.219; P = 0.005)、男性であること(OR, 2.012; 95%CI, 1.244–3.255; P = 0.004)、高齢であること(OR, 1.036; 95%CI, 1.018–1.053; P <0.001)は、追跡期間 757 日(中央値)の間の有害事象(全死亡、心筋梗塞、標的血管再血行再建、非標的血管再血行再建、うっ血性心不全)の発生とそれぞれ独立して関連していた。

【論考】
本研究における 3 群それぞれの比率は、過去の OCT を用いた少数例の研究結果と同様であった。PE 群の分布については、年齢層の観点からは 60 歳未満の若年患者において最も多く認められ、これに関しては従来の報告と合致していた。一方性別の観点からは、以前の剖検研究では PE 群は 50 歳未満の若年女性に多く認められたと報告されているが、本研究では 60歳未満の PE 群において性差は認められなかった。その理由として、以前の研究とは患者集団が異なることが考えられる。すなわち、以前の研究は突然死症例のみを対象としていたが、本研究は軽症から重症まで死亡例以外も含む全ての ACS 症例を対象としている。また、以前の研究で対象となった患者は、本研究の患者群よりも有意に若年であった。心臓突然死は血栓状態などプラークの形態以外の要因も関連している可能性がある。若年女性は女性ホルモンの影響により血栓をより形成しやすいことから、若年女性の PE 症例において形成された血栓はより致命的になりやすく、男性よりも突然死を引き起こす頻度が高くなるのではなないかと考える。結果として、心臓突然死症例における女性患者の PE 群の割合が高くなることから、非死亡例を対象とした今回の研究が以前と異なる結果を示したのではないかと考えている。

先述のように本研究において、STEMI であること、及び TCFA が存在することがPR 群の独立した関連因子であり、高齢であること、NSTEMI または UAP であること、BNP 値が高値であること、及び TCFA が存在しないことが CN 群の独立因子であった。また、CN 群の患者はより高齢で末梢動脈疾患(Peripheral arterial disease: PAD)などの併存疾患が多く、血液透析を受けている患者の割合が高かった。詳細なメカニズムは不明であるが、患者背景のこのような違いは、PR 群と CN 群の間にみられるプラークの特徴の違いを表している可能性が考えられる。

本研究では、3 群の中で CN 群が最も予後不良であるという結果が得られた。CN 群の患者は、他の 2 群と比較して NSTEMI の発生率や血液透析を受けている患者の割合、PAD を併存している割合が高く、また血中ヘモグロビン値が低く、BNP 値が高い傾向がみられ、これら全ての要因が予後不良と関連していることにより CN 群は他の 2 群と比較してより予後不良であると考えられた。また CN 群では他の 2 群と比較して、原因病変以外の冠動脈の進行性動脈硬化が原因による非標的血管再血行再建率が高いことを考慮すると、強固な脂質低下療法や抗血小板療法などの二次予防がより重要であると考えられた。

本研究の limitation として、まず、レトロスペクティブの観察研究であることが挙げられる。さらに、PCI 前に OCT 画像が撮像された患者のみを対象としており、選択バイアスの存在も挙げられる。また、血栓吸引後もなお血栓が残存した症例では、OCT 画像による責任病変の分類が正確にできなかった可能性があることも limitation であると考える。

【結論】
本研究では、患者背景やプラークの形態学的特徴が ACS の病変形態に関連していることが示され、このことは ACS の病変形態ごとの特徴及び予後に対する知見を明らかにする可能性があると考えられた。ACS の原因病変の形態学的プラークの特徴と予後との関連についてさらに理解を深めるには、今後大規模な前向き研究が必要であると考えられる。

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