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大学・研究所にある論文を検索できる 「高比重リポ蛋白の新たな機能評価法であるコレステロール取り込み能の経皮的冠動脈形成術後再血行再建予測に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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高比重リポ蛋白の新たな機能評価法であるコレステロール取り込み能の経皮的冠動脈形成術後再血行再建予測に関する検討

藤本, 大地 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景と目的】
高比重リポ蛋白 (High-density lipoprotein: HDL) は末梢組織からコレステロールを回収し肝臓に輸送することを主な働きとする。 近年このコレステロールの回収・運搬機能の低下は、冠動脈疾患の発症に関わる重要な因子であることが報告されている。従来、HDL のコレステロールの回収・運搬能は、コレステロール引き抜き能の測定により評価されてきた。この方法は、放射性同位体で標識したコレステロールを取り込ませた培養細胞から HDL がどの程度のコレステロールを引き抜けるかを測定した指標であるが、手技が煩雑であり、測定にも時間を要する。我々は HDLのコレステロールの回収・運搬能の新たな指標として、Cholesterol uptake capacity (CUC)を開発した。これは、ビオチンで標識したコレステロールを HDL とインキュベートし、取り込まれたコレステロールをストレプトアビジン結合アルカリホスファターゼで標識して化学発光シグナルを得ることで、どの程度のコレステロールを HDL が取り込むことができるかを評価する手法であり、簡便かつ短時間での測定が可能である。

これまで、冠動脈治療歴のある患者において、遠隔期の CUC 値の低下が、冠動脈の再治療に関与することや、冠動脈ステント留置後のステント内の新規動脈硬化の発生に関与することが報告されている。一方で、経皮的冠動脈形成術 (Percutaneous coronary intervention: PCI) 施行時の CUC 値と、その後の再血行再建に関しては依然昭なにされていない。また、HDL のコレステロール回収・運搬能の経時的な変化と心血管イベントの発症についても、十分な検証はなされていない。そこで、我々は PCI 施行時の CUC 値およびその後の CUC 値の変化と、PCI 施行後の再血行再建の関連について検討することとした。

【方法】
研究デザインと患者群
本研究は、神戸大学医学部附属病院で、2014 年 12 月から 2019 年 3 月の間に PCIを施行し、その後に冠動脈造影検査 (Coronary Angiography: CAG) による冠動脈評価を施行した患者を対象とした後ろ向き観察研究である。再血行再建を、PCI の治療部位の再狭窄病変、あるいは、非治療部位の新規あるいは進行する狭窄病変に対する PCI と定義し、CAG の結果に応じて再血行再建を要したか否かで 2 群に分け、解析を行った。神戸大学医学部附属病院では、CAG もしくは PCI を施行した患者において、手技直前に取得した血液検体を凍結保存しており、本研究ではそれらの凍結血液検体を用いて CUC 値を測定した。CUC 値は初回の PCI 施行時と、遠隔期に測定したが、再血行再建を施行した患者においては再血行再建時、再血行再建を施行しなかった患者においては CAG 施行時の CUC 値を遠隔期の CUC と定義した。いずれかの時点で凍結血液検体が保存されていなかった患者および、血液透析患者は除外した。

本研究においては、再血行再建を施行した患者群と施行しなかった患者群の比較を行い、再血行再建に関与する因子の検討を行った。また、傾向スコアを用いて、初回 PCI 施行時の 16 の患者背景 (年齢、性別、Body mass index、冠動脈疾患の既往の有無、冠動脈疾患の家族歴の有無、喫煙歴の有無、スタチン内服の有無、高血圧の有無、糖尿病の有無、脂質異常症の有無、、初回 PCI が多枝病変か否か、推算糸球体濾過量、HDL コレステロール値、LDL コレステロール値、中性脂肪値、HbA1c 値)を揃えた後、初回 PCI 時の CUC 値、遠隔期のCUC 値、その間の CUC の変化量について、再血行再建との関連について検討を行った。

CUC の測定方法
①アポリポ蛋白 B 含有リポタンパク除去血清の作成
血清試料を氷上で解凍し、ポリエチレングリコール溶液と混合。室温で 20 分経過した後、860 g で 15 分間遠心分離した。すべてのアポリポ蛋白 B 含有リポタンパクを沈殿させた後、上清を回収した。

②マウス抗ヒトアポリポ蛋白 A1 モノクローナル抗体 8E10 の作製
C57BL/6 マウスへヒトアポリポ蛋白 A1 を投与して作成したハイブリドーマ細胞株から、モノクローナル抗体を作成した。非酸化型 HDL と酸化型HDL を同等に認識する結合特異性を有する抗体を含むハイブリドーマ培養上清を、ELISA 法によりスクリーニングした。

③Biotin-PEG7-cholesterol の合成
3β-Hydroxy-Δ5-cholenic acid (Wako) 15mg を N, N-dimethylformamide 500μlに 溶 解 し た 後 、 1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide 7.7mg 、 hydrochloride (Doujindo)、N-Hydroxysuccinimide (Sigma) 4.6mg、Biotin-PEG7- amine (BroadPharm) 23.8mg、 Triethylamine (Wako) 8.4 μL を添加し、得られた溶液を室温で 2 時間撹拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、Biotin- PEG7-cholesterol を透明固体として得た。

④CUC アッセイの自動化
研究用全自動イムノアッセイシステムである HI-1000TM システム (Sysmex)を用いて CUC を測定した。血清試料をHDL-C 試薬 ”kokusai” (Sysmex) の R1 試薬を含む PBS で 200 倍に希釈した。続いて、希釈したアポリポ蛋白 B 含有リポ蛋白除去血清 10 μL を、90 μL の Biotin-PEG7-cholesterol 溶液に加えインキュベートした。インキュベート後の溶液中の HDL は、磁性粒子にコートしたマウス抗ヒトアポリポ蛋白 A1 モノクローナル抗体 8E10 を用いて捕捉し、洗浄後にアルカリホスファターゼ結合ストレプトアビジン (Vector Laboratories) を加えた。洗浄後、CDP- Star 化学発光基質を加え、化学発光を測定した。

【結果】
患者背景と再血行再建に関連する因子
対象期間に 703 例の PCI が施行され、追跡期間に 403 例の CAG による冠動脈評価が施行された。凍結血液検体が保存されていない 120 例と、血液透析患者 26 例が除外された。最終的に、257 例が解析対象となり、再血行再建を施行した 74 例と、再血行再建を施行しなかった 183 例の比較を行った。再血行再建を要した患者群においては、PCI 施行時のCUC 値は、再血行再建を施行しなかった患者群と比較して有意に低値 であった (84.3 [75.2-98.9] vs. 92.0 [81.6-103.3 A.U.]; p=0.004)。ロジスティック回帰分析の結果、CUC 値が低値であること (odds ratio [OR], 0.98; 95% confidence interval, 0.969–1.000)、糖尿病を有すること (OR: 2.19, 95% CI: 1.24-
3.89) が再血行再建に独立して関与する因子であった。

傾向スコアによるマッチング
傾向スコアによるマッチングを行い、両群からそれぞれ 64 例を抽出した。再血行再建を施行した患者群において、PCI 時の CUC 値 (85.0 [76.0-99.9] vs. 93.8 [82.1-109.5 A.U.]; p=0.01)、遠隔期の CUC 値 (87.8 [80.5-100.8] vs. 103.5 [92.0-120.7A.U.]; p<0.001)、CUC の変化量 (0.5 [-7.25-12.5] vs. 9.0 [-2.0-18.0 A.U.]; p=0.007)は、再血行再建を施行しなかった患者群と比較して有意に低値であった。Receiver operating characteristic curve を用いて、PCI 施行時の CUC 値および、遠隔期の CUC 値について、再血行再建に対する Cut-off 値を算出した。PCI 施行時の CUC値の Cut-off 値は 90.7 A.U. (感度; 67.2%, 1-特異度; 60.9%, area under the curve [AUC]; 0.63, 95% CI: 0.54-0.73)、遠隔期の CUC 値の Cut-off 値は、92.5 A.U. (感度; 62.5%, 1-特異度; 71.9%, AUC; 0.72, 95% CI: 0.63-0.81) であった。PCI 施行時、遠隔期ともに CUC 値が Cut-off 値を下回る患者群においては、いずれも CUC が Cut-off を上回る患者群と比較して、再血行再建に対する odd 比は、6.06 (95% CI: 2.44-15.1, p<0.001) であった。また、Net reclassification improvement (NRI)、 Integrated discrimination improvement (IDN) を用いて、再血行再建に対する予測精度の検討を行い、PCI 施行時の CUC に CUC の変化量を加えたモデルは、PCI 施行時の CUC によるモデルと比較して、より高い予測精度を示した (NRI=0.47, 95% CI: 0.13-0.81, p=0.006; IDI=0.12, 95% CI: 0.06-0.17, p <0.001)。

【論考】
従来の HDL の機能指標であるコレステロール引き抜き能の低下は動脈硬化の進展や、冠動脈疾患の発症、冠動脈疾患患者における死亡率に関与することが報告されているが、測定が煩雑で時間を要するという短所がある。HDL の新たな評価指標である CUC は簡便で短時間での測定が可能であり、その臨床上の有用性を示すいくつかの報告がなされている。しかしながら、PCI 施行時の CUC 値とその後の再血行再建との関与については知られておらず、また、経時的な CUC 値の測定の有用性についても明らかになっていない。

本研究では、PCI 施行時の CUC 値の低下は、その後の再血行再建に独立して関与する因子であることが示された。このことから我々は、CUC 値は PCI 後の 2 次予防におけるリスクの層別化に有用であると考えている。CUC 値が PCI 後の再血行再建と関与する明確な機序は明らかでないが、光干渉断層法により冠動脈を観察した既報では、CUC は冠動脈のプラーク量やマクロファージの集積と負の相関を示すことが報告されている。このことから CUC は、HDL が血管壁のマクロファージからコレステロールを取り込むことで動脈硬化の進展を抑制する機能を正確に反映している可能性が考えられる。また、コレステロール引き抜き能は、抗炎症作用や抗酸化作用、抗血小板作用との関与が知られていることから、CUC 値の低下が、これらの抗動脈硬化作用の低下を反映している可能性も考えられる。

本研究のもう一つの特筆すべき点は、傾向スコアを用いた解析において、再血行再建を施行した患者群では、再血行再建を施行しなかった患者群と比較して、PCI 施行時から遠隔期までの CUC 値の変化量が有意に小さいという結果が得らえたことである。これまで、HDL の機能の変化と心血管疾患の関与や、機能を変化させる要因についての検討は極めて少ない。本研究により、CUC 値を改善させることが、冠動脈疾患の 2 次予防における治療の標的となる可能性が示された。残念ながら、本研究においては CUC 値の改善に関与する因子を特定するには至らず、今後の更なる研究が期待される。

本研究の limitation として、まず、単施設の後ろ向き研究であり、サンプル数が限られていることが挙げられる。本研究では、PCI 施行後に CAG による冠動脈評価が施行された患者のみを対象としており、CAG が施行されていない患者が含まれていない。しかしこの研究デザインにより、再血行再建を要した患者群と要しなかった患者群のより厳格な比較が可能になったと考えている。また本研究では、凍結血液検体が保存されていない患者は除外されており、特に急性冠症候群の一部では時間的な制約から血液検体が得られていなかった。これらの limitation から、選択バイアスが存在する可能性あることから、より多くの症例を対象とした、更なる前向き研究が必要であると考える。

【結論】
新たな HDL の機能評価法である CUC 値の低下は、PCI を施行した患者において、その後の再血行再建に独立して関与する因子であり、PCI 施行時の CUC 値の測定、および、その後の経時的な CUC 値の測定は、PCI 後の再血行再建の予測に有用である可能性が示された。

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