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Isoschizogamineの全合成

林, 法幸 東京大学 DOI:10.15083/0002004157

2022.06.22

概要

【背景・目的】
Isoschizogamine(1)は東アフリカに生息するキョウチクトウ科の潅木Schizozygia caffaeoidesに含まれるアルカロイドの一種である。1963年にRennerらによって単離され、当初はSchizogamine(2)の7位エピマー体として考えられていた。しかし1998年にHájíčekらによる詳細なNMR解析により、インドリンではなくテトラヒドロキノリン骨格を有することが提唱され、それがHeathcokらによるラセミ体での全合成によって証明された。薬理活性に関しては、抗菌活性が知られているものの、まだ十分な評価が進んでいない。その一方でアミナール構造及び第四級炭素を含む四連続不斉中心を軸に複数の環が縮環している特異な構造が多くの合成化学者の興味を引いており、今回筆者は初の不斉全合成を目指して合成研究を開始した。

【初期ルートの検討結果と考察】
Isoschizogamine(1)の全合成に向けた初期ルートの概要を示す(Scheme1)。このルートでは二環性骨格の特徴を生かして立体選択的に炭素-炭素結合を形成する合成戦略を志向した。まずは合成検討ということで文献既知のラセミ体3を出発原料とした。3の水酸基をTBDPS基で保護し、エトキシアセチリドを付加することで4を合成した。4に対してルイス酸としてSc(OTf)3を用いたMeyer-Schuster転位を行いα,β-不飽和エステル5を得た。5をDIBALによって環元し6とした後に、酸触媒としてオルトニトロフェノールを用いたClaisen-Johnson転位を行なうことで立体選択的に第四級炭素の構築を行ない単一のジアステレオマーとして7を得た。続いて7のビニル基をエーテル構造の形に保護し8とし、過トリフルオロ酢酸を用いてBaeyer-Villiger酸化を行ったところ、目的のラクトン体9を得ることが出来た。9に対してスルフィンイミドクロリドを用いた酸化反応を行いα,β-不飽和ラクトン10へと導いた。10へのロジウム触媒を用いたボロン酸の1,4-付加反応は、完全な立体選択性で進行し、目的のラクトン11を得た。続いてビニル基の再生を行ない、鍵中間体に設定していた12の合成に至った。最後の炭素-炭素結合であるシスオレフィンを閉環メタセシス反応(RCM)によって構築するために12から4工程を経てジエン13に変換した。後述するように、13はIsoschizogamine(1)全合成の最終ルートの中間体の一つであり13を基質としたRCMによる14への変換は円滑に進行することが分かった。

【最終ルートの検討結果と考察】
初期の合成検討により、Isoschizogamine(1)全合成の見通しは立ったものの、ビニル基の保護と再生などを含み多段階を要する合成経路となった。そこで、より効率的な全合成を達成すべく、合成経路の再検討を行なった。文献既知である(+)-exo-norborneol15を出発原料とし、15から4工程を経てノルボルネンオキシド16を合成した。続いてルイス酸としてo-tolMgIを用いた条件でWagner-Meerwein転位反応を行なったところ収率68%で転位体17を得ることに成功した(Scheme2)。

この反応で想定されるメカニズムを示す(Scheme3)。Grignard試薬のマグネシムがルイス酸としてエポキシドの酸素原子に配位することにより、協奏的なメカニズムで1,2-shiftの骨格転位が進行し目的物17を与えると考察した。

得られたアルコール17をアクリル酸クロリドと縮合し、18へと変換した。ジエン構造を有する18に対して1,6-heptadiene存在下、CatalystAを用いてタンデムメタセシス反応を行なったところ収率73%で目的の二環性ラクトン19を得ることが出来た(Scheme4)。

この反応で想定されるメカニズムを示す(Scheme5)。まずCatalystAは、1,6-heptadieneと反応し、メチリデン錯体20へと変換される。20は18の電子不足なアクリル酸部位ではなく、立体的に遮蔽されてはいるものの、より電子密度の高いノルボルネン骨格の二重結合とルテナシクロブタン21を形成する。この際、ルテニウム触媒の嵩高いNHCリガンドとノルボルネン骨格の橋頭位側鎖との立体反発を避ける形で21は形成される。続いて中間体22を経由して、アクリル酸部位とのRCMが進行し、目的物19の生成とルテニウム触媒20の再生が起こると考察した。

得られたα,β-不飽和ラクトン19に対して初期ルートと同様な条件でジメトキシベンゼンユニットの導入を行ない、完全な立体選択性で鍵中間体に相当する24を合成した。初期ルートでは鍵中間体の合成には17工程を要したが、ルートの改良によりわずか8工程に短縮された。さらに24から4工程の変換を行ない初期ルートと共通の中間体であるジエン25を光学活性体として得た。ジエン25に対する閉環メタセシス反応は97%の収率で進行し、多環式骨格を有する26を得た。そこから7工程を経て全合成に必要な全ての置換基を備えた27に変換した。27のFmoc基を除去することによりHeathcockらがラセミ体合成の際に経由した中間体へ導き、以降はHeathcockらの方法を踏襲することによりIsoschizogamine(1)の不斉全合成を達成した。得られた化合物の旋光度を測定したところ、文献値と良い一致を示した(Scheme6)。

【本研究の意義】
初の不斉全合成を達成したことにより(–)-Isoschizogamine(1)の絶対構造が決定された。本全合成を行なう過程で確立されたWagner-Meerwein転位反応とそれに続くタンデムメタセシス反応を用いた二環性ラクトンの構築方法は、短工程かつ独創性を有しており、合成化学的な観点で新たな知見を提供している。他方で創薬における意義としても、Isoschizogamine(1)は、骨格内に多くのsp3炭素を含み三次元的にユニークな空間を占有可能なため、医薬品創出のための興味深いリード化合物になることが期待出来る。本合成法では、出発原料であるノルボルネオール類縁体が多数知られていることに加え、合成ルート中盤以降での、ボロン酸及びアリルアミン導入工程での構造の多様化が可能であり、誘導体合成にも適したルートとなっている。

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参考文献

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