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大学・研究所にある論文を検索できる 「真菌胞子の物理的殺菌プロセスにおける損傷の解析と動態評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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真菌胞子の物理的殺菌プロセスにおける損傷の解析と動態評価

堀切 茂俊 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00016964

2020.07.07

概要

⽷状菌は、住宅環境や⾷品衛⽣分野などで品質劣化や環境悪化のリスク要因となり、中毒やアレルギー疾患などの深刻な健康被害を引き起こすため、防除対策が求められている。真核⽣物である⽷状菌は、単純分裂増殖細胞である細菌とは異なり、胞⼦や菌⽷などの複数の細胞形態をとるため、その⽣⻑過程が複雑である。胞⼦は、細胞壁構造を有し、細胞内にトレハロースなどを貯蔵しており、乾燥などの環境変化に対して耐性を⽰す。また、菌⽷は胞⼦から発芽によって出現し、活性の⾼い先端部分から伸⻑することによって⽣⻑する。さらに菌⽷が成熟すると、胞⼦を形成して、これを拡散させることによって環境中に⽣育範囲を拡⼤させる。このような⽷状菌の発育や⽣⻑を抑制し、殺菌するためには、⽣育過程における細胞形態の対象を定め、これに対して有効性と安全性が担保された適切な処理を⾏う必要がある。

殺菌処理⽅法には、物理的処理や化学的処理など様々な⼿法が知られており、殺菌効果や品質劣化などの様々な側⾯を勘案して、適切な⽅法が選択される。物理的殺菌処理は、古来より⽤いられてきた⼿法であり、加熱処理や紫外線処理などのほか、ガンマ線照射処理などの電離放射線が⽤いられている。近年、主に⾷品衛⽣分野において、⾷品の品質劣化を防ぐ⽬的で、殺菌処理のミニマムプロセッシングが進んでいる。そのため、検体中に亜致死的(sub-lethal)な損傷菌(injured cells)が発⽣する可能性が⽰唆されており、対策が求められている。損傷菌は、通常の平板培養法では検出されないか、遅れて検出されるために⽣菌数の過⼩評価につながる。しかし、このような損傷菌の性質や検出⽅法、処理⽅法など関連する研究の進展や情報の整備はあまり進んでいない。特に⽷状菌に関する損傷菌研究の事例は殆ど知られていない現状にある。そのため、微⽣物の損傷化やそこからの回復に⾄る現象を考慮し、これらを抑制できる低負荷な殺菌処理技術の構築が求められる。そのような課題に対し、本研究では、①損傷菌を検出する⼿法の構築、②損傷菌の発⽣を抑制できる低負荷な殺菌処理制御の向上、が必要であると考え、環境中の⽷状菌である Cladosporium cladosporioides と Aspergillus niger を対象とし、物理的殺菌⼿法である加熱殺菌とガンマ線照射殺菌に関する損傷菌の⽣成とその機序を解明することを⽬的とし、以下の研究を⾏った。

第2章では、⽷状菌の損傷菌解析法の構築を⾏った。⽷状菌の低負荷殺菌おいて、亜致死損傷を受けたものは⽣⻑の遅延現象として現れることを⾒出し、これに着⽬して⽣⻑曲線における遅延時間から逆算して試料中の⽣残菌数を求める発育遅延解析法を活⽤し、⼆重培養法による損傷菌解析法を確⽴した。この遅延現象を速度論的に解析すると、⽣⻑までの遅延時間に基づくλ損傷と、⽣⻑速度低下に基づく µ 損傷の2つの損傷モードからなることが明らかとなり、これらを個別のパラメータとして設定するとともに、それぞれ定量化するための解析理論を構築した。この⽅法を低負荷の加熱処理に適⽤したところ、λ損傷と µ損傷を個別に算出し、かつ加熱時間に応じた⽣成過程を知ることができた。このとき、従来の包括的な損傷菌解析法による損傷菌数(overall 損傷)に対してバラつきが⼤幅に⼩さくなり、2つの損傷モードはそれぞれ有意に求められることを確認した。

第3章では、第2章で構築した解析法の評価を⾏うため、物理的殺菌⼿法として確⽴されている加熱処理を⽤いて、環境中に⾼頻度で検出される⽷状菌である Cladosporium を低温域の加熱処理に供したときの亜致死損傷の⽣成を評価した。Cladosporium の熱感受性を評価するため熱死滅反応のアレニウスプロット解析を⾏った結果、47℃を境に低温側では主に熱変性によらない特徴的な損傷機序であると考えられたため、45℃を代表値とした低温域での加熱処理を、本解析法で評価することとした(対照:従来の致死的加熱条件として 52℃での評価)。その結果、45℃は加熱時間が⻑いほどλ損傷が顕著に増加し、µ 損傷は加熱時間の増加によってわずかではあるが有意に⽣成することを確認した。さらに、タイムラプス顕微画像解析によって、これらのλ損傷と µ 損傷に関与する⽣育特性値を検証した。その結果、45℃の低温域による加熱では、λ損傷に関するものとして発芽膨潤開始のタイムラグ増加(1.8 倍)と発芽胞⼦数増加率の低下(0.13 倍)が影響し、µ 損傷に関するものとして分岐形成率の低下(0.60 倍)が影響することを確認した。胞⼦の膨潤と発芽にかかる変化は、λ損傷の発⽣機序を⽰唆するとともに、制御⼿法の構築や、⽣理学的な解析へのアプローチにも⼀考を与えるものである。これらの結果より、本解析法が損傷菌の検出と定量化に有効であることが⽰された。

第 4 章では、構築した解析法を⽤いて、⽷状菌である Cladosporium と Aspergillus のガンマ線照射による死滅過程の評価と損傷菌⽣成の検出と定量化を試みた。2 種類の菌種は、いずれもガンマ線に対する感受性が認められ、D 値となる照射線量は Cladosporium で 0.46kGy、Aspergillus で 0.28kGy であった。発育遅延解析法ではいずれの菌種でも µ 損傷が⼤きく、λ損傷は加熱に⽐べて⼤幅に⼩さくなった。ガンマ線の作⽤機序が DNA 損傷によるものであり、発芽過程よりも⽣⻑過程において影響したものと考えられる。Aspergillusの⽣⻑曲線では照射線量に応じた⽣⻑速度の低下が顕著に認められ、µ 損傷の増加を⽰した。⼀⽅、⽣⻑が⼀定のレベルに達すると⽣⻑速度は急激に変化して未処理に近いレベルに増加した。顕微画像解析でこの過程を検証すると、発芽胞⼦は、⽣⻑する集団と⽣⻑速度が低下して⽣⻑停⽌する集団が認められ、このような亜集団によって統合された⽣⻑曲線を⽰したものであった。ガンマ線照射は、加熱処理とは損傷菌の⽣成機序が異なり、本解析法ではそれらを個別に検知できることが⽰された。

第 5 章では、⽷状菌の亜致死損傷過程を⽣理学的に解析するため、低い活性化エネルギーで細胞損傷と細胞死が引き起こされるメカニズムとして、液胞損傷と分解酵素の活性化の可能性について仮定し、蛍光染⾊を⽤いて検証した。細胞内の分解酵素としてプロテアーゼ活性に着⽬し、CMAC 誘導体による染⾊および⽐活性の測定を⾏ったところ、低温加熱による亜致死損傷過程では、作⽤量の増加に伴って活性の増加を確認した。さらに、細胞内の局在を観察したところ、未処理では液胞に局在したが、加熱後には細胞原形質内に分布がみられた。液胞局在性のプロテアーゼが細胞原形質に移⾏している可能性が⽰唆された。そこで、液胞局在性の酸性染料であるキナクリンを⽤いたところ、低温加熱によって胞⼦の原形質への染⾊が確認され、液胞膜の透過性の亢進と原形質の酸性化がおこったものと考えられた。液胞プロテアーゼも、加熱によって細胞原形質に漏出し、細胞内で障害を与えることで亜致死損傷が発⽣した可能性が⽰唆された。

修復に関わる因⼦として、トレハロースの消⻑を評価したところ、低温加熱による亜致死損傷を与えた後、発芽前に⼀過性のトレハロースの増加が起こることを確認した。これは修復過程において合成系が誘導された可能性が⽰唆され、遅延からの回復にはエネルギー⽣産能の回復が重要であるものと推測される。また、トレハロース濃度の変化による低温加熱および⾼温加熱による熱死滅速度への影響を評価したところ、⾼温加熱においてトレハロースによる熱抵抗化を確認したが、低温加熱は熱死滅速度への影響はみられなかった。これは、トレハロースの保護機能および各温度域の熱死滅機序を反映したものと考えられ、低温側では熱変性によらない損傷の影響が⼤きいことを⽰唆している。

第 6 章では、本論⽂の結論を述べ、本研究で得られた結果を総括し、今後の展望について述べた。本研究では、⽷状菌の亜致死的な殺菌処理による損傷菌の検出⽅法の構築と、加熱殺菌とガンマ線照射殺菌による損傷化現象の解析を⾏ったが、今後、さらに詳細な⽣理学的解析の推進による機序の解明と定式化をすすめ、これを⾃動解析できる数学モデルの構築と、汎⽤機器のプログラム構築を⽬指す。これにより、市場における⽷状菌の損傷菌研究促進と、殺菌⼯学の進展、ガンマ線照射処理の有効利⽤促進が期待される。

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