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大学・研究所にある論文を検索できる 「思春期臓器移植患者における移植に関する自己開示の満足度が、health-related quality of lifeと服薬アドヒアンランスに及ぼす影響に関する縦断研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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思春期臓器移植患者における移植に関する自己開示の満足度が、health-related quality of lifeと服薬アドヒアンランスに及ぼす影響に関する縦断研究

菊池, 良太 東京大学 DOI:10.15083/0002002076

2021.10.04

概要

1. 緒言
1) 小児臓器移植の現状と課題
 固形臓器移植(以下、臓器移植)は、重度の臓器不全状態にある小児患者における、生存率とhealth-related quality of life(HRQOL)の向上を目的とした治療における有効な選択肢となっている。思春期の臓器移植患者においては、健康集団や慢性疾患患者の集団と比較し低いHRQOLを有していることが明らかとなっている(Taylor, 2009; 他)だけでなく、アドヒアランス不良の発生率が高いことが指摘されている(Dew, 2009; 他)。思春期臓器移植患者のHRQOLと服薬アドヒランスの先行研究は、多くが横断的研究デザインであり、縦断的なデザインによる評価が繰り返し求められてきたが、それらの推移は十分には明らかになっていない。
2) 思春期臓器移植患者のHRQOLと服薬アドヒアランスに影響を及ぼす要因
 思春期臓器移植患者のHRQOLと服薬アドヒランスにおいては、自尊感情(Fredericks, 2008; 他)や家族機能(Guilfoyle, 2011; 他)、抑うつなどの心理社会的問題(McCormick King, 2014; 他)など、様々な関連要因が明らかにされてきたが、思春期特有の問題に着目した要因が検討されてこなかった。自己に対する考えや友人との関係といった、思春期において特に問題となりうる領域に着目する必要があると考えられ、臓器移植に関する自己開示の満足度はHRQOLと服薬アドヒランスの双方に関連する要因となると考えられる。自己開示の満足度をHRQOLと服薬アドヒアランスの関連要因として検討する上で、進学または組替えが生じる進級・進学の前後にかけて評価することは適切な時期の一つであると考えられる。

2. 目的
 第一に、思春期臓器移植患者のHRQOLと服薬アドヒアランスの変動の有無を確認すること、第二に、HRQOLと服薬アドヒアランスに対して、臓器移植に関する自己開示の満足度が関連していることを確認することを目的とした。

3. 仮説
1) 思春期臓器移植患者のHRQOLと服薬アドヒアランスの変動
 HRQOLと服薬アドヒアランスの推移を2時点でモニタリングした場合、それぞれ変動するものと考えた。
2) 思春期臓器移植患者のHRQOLと服薬アドヒアランスの関連要因
 T1からT2にかけてのHRQOLの上昇と服薬アドヒアランスの改善には、T1からT2にかけての臓器移植に関する自己開示の満足度の上昇が影響していると考えた。

4. 方法
1) 研究デザイン
 本研究は、多施設共同による、移植後2時点での仮説検証型パネル研究とした。
2) 調査期間
 思春期臓器移植患者の学校生活において、進学や組替えに伴う最も大きな変化が予想される、新年度の開始の4月を跨いだ2期とし、1回目調査は2016年1月-3月(T1)、2回目調査は2016年4月-7月(T2)(2016年4月1日-8日は除く)とした。
3) 対象
 肝臓移植、腎臓移植もしくは心臓移植のいずれかを行った、T1調査時点に小学校6年生から高校2年生の患者とその保護者とし、精神的に不安定などの理由のため主治医により研究参加が不適当と判断された者については、除外する基準を設けた。保護者は、患者1名につき1名に参加協力を依頼した。対象者は、患者の主治医と移植コーディネーターにより選定された。調査施設は、日本における代表的な小児臓器移植施設である6医療施設とした。
4) 調査手順
 T1調査期間内において包含・除外基準を満たした70組の対象者のうち、外来受診時に説明を行い、68組より研究参加への同意が得られた。T1の質問紙は同意取得後に、T2の質問紙は外来受診時に手渡しにて配布し、郵送または手渡しにて回収した。T2までの質問紙は、63組より返送が得られた(T2回収率:90.0%)。T2質問紙の無効回答1組と進学または組替えの無かった者4組を除き、T1とT2を通した有効回答は58組であった(有効回答率:82.9%)。患者の診療情報は、同意書を取得した患者について、医師が診療情報調査票に基づき、T1とT2にて調査を行った。
5) 調査内容
 (1) 患者用質問紙
 全般的HRQOL(日本語版PedsQLTMコアスケール)(Kobayashi, 2010)、移植特異的HRQOL(日本語版PedsQLTM移植モジュール)(Kikuchi, 2017)、服薬アドヒアランス(Medical Adherence Measure:MAM)(Zelikovsky, 2008; 他)、臓器移植に関する自己開示の満足度、自尊感情(日本語版Rosenberg自尊感情尺度)(山本, 1982)、家族機能(日本語版Family APGAR)(国分, 2013)、患者の基本属性(T1とT2にて変更あり)
 (2) 保護者用質問紙
 心理社会的問題(日本語版Pediatric Symptom Checklist:PSC)(石崎, 1997)、保護者と家族の基本属性(T1とT2にて変更あり
 (3) 診療情報調査票
 患者の医学的属性(例:移植臓器、内服薬の1日の錠数)(T1とT2にて変更あり)
6) 統計解析
 人口統計的変数、医学的変数、各尺度の得点(合計得点と下位尺度得点)に関して、記述統計を算出した。目的1について、PedsQLTMコアスケールとPedsQLTM移植モジュールの得点、そしてMAMでは内服忘れと内服遅れの差について、それぞれT2の得点からT1の得点を引き、平均値の±1/3SDを基準として、維持群、改善群、悪化群の3群に分け、検討を行なった。そして、目的2について、構造方程式モデリングにより、T1からT2にかけてのHRQOLと服薬アドヒアランスの得点の差に対する、臓器移植に関する自己開示の満足度の得点の差との関連についてモデルを作成し、適合度を確認した。検定は両側検定とし、5%を有意差ありとした。IBM SPSS 25 J for Macintosh、Amos 24(SPSS, Inc. Chicago, IL, USA)を用いた。
7) 倫理的配慮
 東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会、並びに共同研究施設の倫理委員会の承認を得た上で、本研究を遂行した(東京大学審査番号:10973)。対象者には、調査の趣旨や協力の任意性、個人情報の保護、同意撤回の期日と方法について、文書と口頭で説明を行い、研究参加にあたっては患者と保護者より書面にて同意を得た。

5. 結果
1) 参加者の属性
 患者は35名(60.3%)が女児であり、T1時点での調査時年齢は平均14.7(SD=1.6)歳、移植後平均10.6(SD=4.1)年が経過していた。移植臓器は、肝臓49名(84.5%)、腎臓9名(15.5%)であり、生体移植は55名(94.8%)であった。保護者は51名(87.9%)が母親であり、患者のドナーとなっていたのは32名(55.2%)であった。
2) HRQOLと服薬アドヒアランスの変動
 T1からT2にかけて、全般的HRQOLの維持群は28名(48.3%)、改善群は13名(22.4%)、悪化群は17名(29.3%)であり、移植特異的HRQOLの維持群は24名(41.4%)、改善群は16名(27.6%)、悪化群は18名(31.0%)であった。服薬アドヒアランスのうち、内服忘れにおいて、維持群は39名(67.2%)、改善群は7名(12.1%)、悪化群は12名(6.7%)であり、内服遅れでは維持群は39名(67.2%)、改善群は11名(19.0%)、悪化群は8名(13.8%)であった。
3) HRQOLと服薬アドヒアランスに対する、臓器移植に関する自己開示の満足度の関連についてのモデルの検討
 T1からT2にかけての臓器移植に関する自己開示の満足度の上昇は、T1からT2にかけてのHRQOLの上昇に有意(p=0.049)に関連しており(パス係数0.33)、また、T1からT2にかけての服薬アドヒランスの改善にも有意(p=0.049)に関連していた(パス係数-0.29)。モデルの適合度は、χ2適合度=22.726(p=0.594)、df=25、CFI=1.000、GFI=0.955、AGFI=0.782、RMSEA=0.000(90%信頼区間0.000-0.094)であった。

6. 考察
1) HRQOLと服薬アドヒアランスの変動(仮説1の検証)
 T1からT2にかけて、HRQOLと服薬アドヒアランスには、維持群、改善群、悪化群が存在することを確認した。このことから、仮説1は一部支持され、進学や組替えの前後の期間は、HRQOLと服薬アドヒアランスに変動が生じ得る可能性が示唆される。また、変動する要因を検討する必要性についても同時に示された。
2) HRQOLと服薬アドヒアランスに対する、臓器移植に関する自己開示の満足度の関連(仮説2の検証)
 仮説は支持され、T1からT2にかけてのHRQOLの上昇と服薬アドヒアランスの改善には、T1からT2にかけての臓器移植に関する自己開示の満足度の上昇が影響していた。このことから、進学や組替え後の臓器移植に関する自己開示の満足度を高くするための介入を行うことで、進学や組替え後のHRQOLと服薬アドヒアランスの向上が期待される。
3) 臨床への示唆
 進級・進学に伴う友人環境の変化を想定し、臓器移植に関する自己開示への満足度を高めるための働き掛けを行うことで、進級・進学後のHRQOLと服薬アドヒアランスを高めることが可能となると考えられる。
4) 本研究の限界及び今後の課題
 調査期間と受診間隔に関連した一般化可能性の問題、MAMと臓器移植に関する自己開示の満足度尺度における信頼性・妥当性が一部未検証であること、調査期間以外(8-12月)のHRQOL等の推移と関連要因が不明であること等が挙げられる。
5) 謝辞
 本研究に御参加をいただきました対象者の皆様と、研究の遂行に際しまして御力添えをいただきました先生方に厚く御礼を申し上げます。上別府圭子教授をはじめ、御指導を賜りました先生方に感謝の意を表します。本研究は、第25回(平成27年度)公益信託山路ふみ子専門看護教育研究助成基金(研究代表者菊池良太)より資金の支援を受けて行った。
6)結論
 進学・組替えの前から後にかけて、HRQOLと服薬アドヒアランスには、維持群、改善群、悪化群が存在することを確認した。そして、進学・組替えの前から後にかけての学校の友人に対する臓器移植に関する自己開示の満足度が上昇するほど、HRQOLと服薬アドヒアランスは上昇・改善することを明らかにした。このことから、進学・組替えの前後は、思春期臓器移植患者のHRQOLと服薬アドヒランスに変動が生じ得るとともに、臓器移植に関する自己開示の満足度は、HRQOLと服薬アドヒアランスに対する重要な要因となることが示唆された。

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