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東北メディカル・メガバンク機構のコホート調査で収集したデータを用いた加齢性難聴に関連する生活習慣の疫学研究

渡来, 剛右 東北大学

2023.03.24

概要

博⼠論⽂

東北メディカル・メガバンク機構の
コホート調査で収集したデータを⽤いた
加齢性難聴に関連する⽣活習慣の疫学研究

東北⼤学⼤学院医学系研究科医科学専攻
神経・感覚器病態学講座 ⽿⿐咽喉・頭頸部外科学分野
渡来

1

剛右

⽬次


要約

p3-5



研究背景

p6-9



研究⽬的

p10



研究⽅法

p10-15



研究結果

p16-18



考察

p18-27



結論

p28



⽂献

p29-37





p38-39

10



11

謝辞

p40-46
p47

2



要約

[背景]
加齢性難聴は、⾼齢者においてコミュニケーション障害や社会活動の減少の
原因となり、社会的孤⽴やうつ・認知機能の低下などの要因となりうる。その危険因
⼦は、騒⾳暴露、喫煙、糖尿病、脂質異常症、⼼⾎管疾患など、過去に様々な報告が
あるが、報告間で結果が⼀致していないことも多く、未だ不明な点が多い。近年では、
抗酸化作⽤が聴覚保護作⽤を持つことが注⽬されており、ビタミン、オメガ 3 脂肪酸
などの抗酸化作⽤を持つ⾷品が難聴保護因⼦であるという報告も多数上がっている。
しかしながら、抗酸化作⽤を有する代表的な飲料である茶類やコーヒーと加齢性難聴
との関連性については、明らかになっていないことが多い。
[⽬的]
本研究は、東北メディカル・メガバンク機構のコホート調査で収集したデー
タを⽤いて、加齢性難聴の関連因⼦、特に抗酸化作⽤を持つ飲料の摂取に着⽬して後
ろ向きに検討することで、難聴との関連が疑われる新たな要因を発⾒することを⽬的
とした。
[⽅法]
「東北メディカル・メガバンク計画
ー型

地域住⺠コホート

宮城

地域センタ

ベースライン調査」で収集した参加者 17,123 名より対象を選択し、後ろ向き

横断研究を⾏った。

3

両⽿で 1,000Hz と 4,000Hz の検査⾳が聞こえる群を正常聴⼒群、1,000Hz の
データに左右差を認めず、両⽿で 4,000Hz の検査⾳が聞こえない群を難聴群と定義
した。検討項⽬は年齢、BMI、喫煙、飲酒、⻭の本数、運動習慣、うつ傾向、社会的
孤⽴、⼼疾患の既往、糖尿病、脂質異常症、騒⾳暴露のある職業、難聴家族歴、緑茶
の摂取頻度、紅茶の摂取頻度、コーヒーの摂取頻度、⽞⽶茶の摂取頻度、烏⿓茶の摂
取頻度、の18項⽬とし、それぞれの項⽬についてカイ⼆乗検定による単変量解析を
⾏った。有意差を認めた因⼦について、⽋損データのない参加者を対象に、ロジステ
ィック回帰分析による多変量解析を⾏い、難聴と様々な要因、特に飲料に関する関係
を検討した。
[結果]
6,171 名(男性:1,990 名、⼥性:4,181 名)について、単変量解析を施⾏し
た。男性では、年齢、難聴家族歴、騒⾳暴露のある職業、METs(Metabolic equivalent
task units)
、CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)、⻭の本数、ア
ルコール、コーヒー、緑茶、紅茶の摂取頻度で正常聴⼒群と難聴群の間に有意差を認
めた。⼥性では、年齢、⼼⾎管疾患の既往、難聴家族歴、⻭の本数、アルコール、緑
茶の摂取で正常聴⼒群と難聴群との間に有意差を認めた。有意差を認めた項⽬に関し、
⽋損データのない計 5,413 名(男性:1,746 名、⼥性:3,667 名)を対象に多変量解
析を施⾏した。多変量解析では、難聴は男⼥共に「⾼齢」、
(男性の「75 歳から 79 歳」
群でオッズ⽐(OR)
:4.51、95%信頼区間(95%CI)
:3.04〜6.70、⼥性の(「75 歳か

4

ら 79 歳」群で OR:9.54、95%CI:5.83〜15.61、)
「残存⻭数の少なさ」、
(男性の「⻭
の数が9本以下」群で OR:1.72、95%CI:1.25〜2.37、⼥性の「残存⻭の数が9本
以下」群で OR:1.73、95%CI:1.20〜2.50)
「難聴の家族歴」
(男性では OR:2.09、
95%CI:1.32〜3.31、⼥性では OR:2.66、95%CI:1.65〜4.27)と関連することが
わかった。男性の難聴者では、「騒⾳暴露のある職業」(OR:1.74、95% CI:1.25〜
2.43)、OR:2.66、95%CI:1.65〜4.27)、
「⾮飲酒者」
(OR:0.74、95% CI:0.57〜
0.96)、
「コーヒーを 1 ⽇に2回以上のむ」 (OR:0.74、95% CI:0.55〜0.98、
「コー
ヒーを週に2回以下しか飲まない」との⽐較)、「紅茶を 1 ⽇に2回以上飲む」(OR:
2.20、95% CI:1.06〜4.59、
「紅茶を週に2回以下しか飲まない」との⽐較) と関連が
⾒られた。
[考察・結論]
今回の研究結果では、過去の研究で難聴のリスク因⼦とされることが多かっ
た、加齢、難聴の家族歴、騒⾳暴露に加えて、近年の先⾏研究で指摘のあった、コー
ヒーや⻭の数が、加齢性難聴と関連している結果となり、先⾏研究を⽀持する結果と
なった。また、難聴者に⾮飲酒者が多い傾向も認められた。今後、他⾳域の聴⼒や、
聴⼒閾値を測定することで、より多くの聴⼒と関連のある⽣活習慣を発⾒できる可能
性があると考えている。また、この研究の結果は、今後の飲料摂取と加齢性難聴発症
の関連性を検討するための基礎データとして貢献するものであり、難聴についてのさ
らなる解析に役⽴つことを期待している。

5



研究背景

Ⅰ 加齢性難聴の⼈⼝推移
難聴は、Global Burden of Diseases (GBD) 2016 で、う⻭、緊張型頭痛、鉄⽋
乏性貧⾎に続いて世界で 4 番⽬に多い障害で、Global hearing health care: new findings
and perspectives によると、世界⼈⼝の 6%から 8%が罹患しており、多くの⾼齢者が
直⾯している問題である 1)2)。1985 年には全世界で 4,200 万⼈が難聴であると推定さ
れており 3)、2016 年の Global Burden of Diseases(GBD)の推定では、現在世界で 5 億
⼈が聴覚障害に苦しんでいるとされている 1)。2017 年の世界保健機関(WHO)の報
告によると、全世界の難聴問題に対処するには、年間 7,500 億ドルが必要であると推
定されている 4)。⽇本では、難聴の有病率(良聴⽿で 26dB 以上の難聴)は増加して
おり、男性では 65 歳から 69 歳の 43.7%、70 歳から 74 歳の 51.1%、75 歳から 79 歳
の 71.4%、80 歳以上の 84.3%、⼥性では 65-69 歳の 27.7%、70-74 歳の 41.8%、7579 歳の 67.3%、80 歳以上の 73.3%が難聴というデータがある 5) 。近年の難聴の増加
の理由に関しては、⾼齢化社会による影響や、イヤホンの⻑時間の装⽤、騒⾳暴露機
会の増加が考えられている。
Ⅱ 難聴の分類
難聴は⼤きく分けて、外⽿や中⽿の異常で⾳が伝わりにくくなる伝⾳難聴、
内⽿や蝸⽜神経、脳の異常により⾳を感じにくくなる感⾳難聴、それら⼆つが混在し
た状態である、混合性難聴、の3つに分けられる。

6

伝⾳難聴の原因として、⽿垢栓塞、外⽿炎や中⽿炎、⿎膜穿孔、⾃硬化症など
があり、薬物療法や⼿術療法により改善するものが多く、補聴器の効果も⾼いことが
多い。
感⾳難聴の原因として、突発性難聴や騒⾳性難聴、聴神経腫瘍などがある。加
齢性難聴も感⾳難聴に分類され、臨床的には感⾳難聴の原因の多くを占める。突発性
難聴のように限定的に薬物療法により改善するものもあるが、⼀般的には治療で改善
するものは少なく、主な治療としては補聴器の装⽤や⼈⼯内⽿⼿術となるが、語⾳明
瞭度の低下を認めるため、補聴器の効果も伝⾳難聴に⽐べると低い傾向にある。
混合性難聴に関しては、伝⾳難聴と感⾳難聴の両⽅の要素のあるものであり、
臨床的には加齢性難聴がベースにある上でなんらかの伝⾳難聴の要素が加わるもの
が多い。
Ⅲ 加齢性難聴の特徴
加齢性難聴は、加齢変化に伴う両側性の⾼⾳域から始まる感⾳難聴であり、
多くの⾼齢者に⾒られる問題である。騒⾳環境下での⾳声理解の劣化を特徴とし、コ
ミュニケーション障害から、社会的孤⽴、うつ病、認知機能低下などをもたらすとい
う報告がある 6-9)。特に、中年期(45 歳〜65 歳)の難聴を改善することで、認知症の 8%
を減らすことができるとされている6)。認知症の他のリスク因⼦としては、低教育が
7%、⾼⾎圧が 2%、肥満 1%、喫煙 5%、うつ 4%、運動不⾜ 2%、社会的孤⽴ 4%、
糖尿病 1%とされ、他の因⼦と⽐べても、難聴が最⼤の認知症のリスク因⼦と報告さ

7

れている 6)。そのため、加齢性難聴の予防や対策は注⽬を集めている。具体的な予防
としては、⽇本⽿⿐咽喉科頭頸部外科学会では、⽿栓の使⽤などの騒⾳暴露を避ける、
⽼化を遅らせるための⽣活週間の⾒直しなどが⾔われている。また、対策としては、
⽿⿐咽喉科受診での難聴の早期発⾒、早期の補聴器装⽤が薦められている。
Ⅳ 加齢性難聴の病態
加齢性難聴の主病態は内⽿機能障害である。Schuknecht によるヒト側頭⾻の
研究から、sensory(有⽑細胞の障害)、neural(蝸⽜神経の障害)、strial(⾎管条の障
害)、cochlear conductive(基底版の変性など)の 4 種類に分類されている 7)10)。
それぞれの内⽿病理学所⾒と聴⼒像について説明する。
sensory(有⽑細胞の障害)では、蝸⽜基底回転の有⽑細胞の脱落が認められ、
6,000~8,000Hz の閾値上昇を認め、⾼⾳急墜型の聴⼒像をとる。neural (蝸⽜神経の
障害)では、蝸⽜全体で蝸⽜神経の変性・消失が認められ、純⾳聴⼒検査が⽐較的良
好であるのに⽐べて語⾳明瞭度の低下が激しい傾向がある。strial(⾎管条の障害)で
は、内リンパ液の電位維持が困難となり、感覚細胞全体の出⼒の低下を認められ、⽔
平性または⾼⾳漸減型の聴⼒像をとる。cochlear conductive(基底版の変性)では、
基底板の肥厚が認められ、⾼⾳漸減型の聴⼒増をとり、⾼⾳域と低⾳域の聴⼒の差が
50dB 以上をとることが多い。以上に加え、これら上記変化が混在している混合型が
挙げられる。

8

これらの病態についての疫学研究の先⾏研究のデータは検索した限り⾒つけ
ることができなかった。理由としてそれぞれの病態について鑑別できる検査がなく、
また、治療に関してはどの病態であっても補聴器の装⽤や、⼈⼯内⽿⼿術となり、臨
床的にもこれらの病態を鑑別する意義が少ないためと考えられる。
Ⅴ 加齢性難聴の発症機序
加齢性難聴の発症機序については、動物実験から、加齢による酸化ストレス
の蓄積がミトコンドリア DNA を損傷し、蝸⽜細胞のミトコンドリア機能障害やアポ
トーシスを引き起こすことが⽰唆されている 16)。過去の疫学研究により、蝸⽜の⽼化、
騒⾳暴露などの環境因⼦や遺伝的素因、健康上の併存疾患、あるいは⽣活様式が、加
齢性難聴の危険因⼦であることが⽰されている 16)17)。
Ⅵ 加齢性難聴の危険因⼦と抗酸化物質の関与
加齢性難聴の危険因⼦としては、過去の研究により多数報告されており、も
っともエビデンスの報告の多い因⼦としては騒⾳暴露が挙げられる。喫煙、糖尿病、
脂質異常症、⼼⾎管疾患などの外的要因も報告されているが、各研究の結果は様々で、
未だに議論の余地がある 11-16)。さらに、特定の⾷事パターン 18-20)や、ビタミン 21-23)、
マグネシウム 21)、オメガ 3 脂肪酸 24)25)など特定の栄養素の影響についても関⼼を集
めている。最近では、抗酸化物質の⼀つであるコーヒーの摂取が、聴覚機能に有益な
効果をもたらすことが⽰されている 26-28)。

9



研究⽬的
これらの抗炎症作⽤や抗酸化作⽤を持つ物質が聴覚保存効果を有することを

考慮すると、同様の抗酸化作⽤を有する物質を含む他の飲料も聴覚に有益な影響を与
える可能性があると推測される。そこで、宮城県で実施された東北メディカル・メガ
バンク機構で収集された地域住⺠コホート研究のデータベースを⽤いて、特にコーヒ
ーや茶類の飲料の摂取に着⽬し、加齢性難聴と関連する⽣活習慣要因を調査すること
を⽬的とした

29)

。難聴の予防となる⽣活要因の抗酸化作⽤のある⾷品の先⾏研究は、

多くの論⽂が外国での研究であり、⽇本での先⾏研究は少ない。コーヒーと難聴の関
連に関しての論⽂も⽇本では初めてであり、茶類と難聴の関連に関しての論⽂につい
ては世界的に⾒ても先⾏研究はなく、研究の価値があると考えた。



研究⽅法

Ⅰ 研究デザインおよび設定
今回使⽤した横断研究のデータは、東北⼤学東北メディカル・メガバンク機
構が実施した「地域住⺠コホート 宮城 地域センター型ベースライン調査 18K」から
抽出した。このデータは、東北メディカル・メガバンク機構で⾏っている地域住⺠コ
ホート調査の初回のベースライン調査のものであり、研究デザインとしては後ろ向き
横断研究である。今後同じ参加者について⼆次調査、三次調査が 3-5 年間隔に予定さ
れている。⾃記式の調査票による調査、検体検査、特定健康診査はいずれも 2013 年

10

5 ⽉から 2016 年 3 ⽉に⾏われた。検体検査と特定健康診査に関しては、地域⽀援気
仙沼センター気仙沼けんこうスクエア、地域⽀援⼤崎センター、地域⽀援⽯巻センタ
ー、地域⽀援多賀城センター、地域⽀援仙台センター仙台⼦ども健康スクエア、地域
⽀援岩沼センター、地域⽀援⽩⽯センター健康スクエアの、7施設で⾏った。検体検
査会社は時期によって異なり、2013 年 5 ⽉から 2014 年 3 ⽉までは BML、2014 年 4
⽉から 2016 年 3 ⽉が LSI による検査データを使⽤した。両データ会社ともに臨床検
査室における国際規格である、
「ISO15189」の認定を取得しており、両社とも臨床検
査の品質と能⼒が国際的な⽔準にあると判断し、区別をせずに扱った。
東北メディカル・メガバンク機構は、震災の被害を受けた被災地における医
療の再⽣と地域医療の復興と⼤規模な医療情報化の流れに対応し、新たな医療を構築
することを背景に開始された復興事業である 29)。地域住⺠コホート研究は、被災地域
を対象に健康調査・整体試料採取を⽬的とした健康診断型のコホート研究であり

29、

、最低4年間の追跡調査を⾏い、バイオバンクの構築、ゲノム研究をはじめとした

30)

研究結果を参加者に還元すること、個別化医療の発展に貢献することを⽬的としてい
る。28 の市町村の特定健診会場で 20 歳以上の住⺠に対して研究への参加を依頼し、
インフォームドコンセントした上で、約 65%が参加した。2013 年 5 ⽉から 2016 年
4 ⽉までに宮城県内で研究に参加した合計 17,123 ⼈から 80 歳以上、60 歳未満の参
加者を抽出し、慢性中⽿炎の既往や後述する加齢性難聴としては典型的でない聴⼒パ
ターンを⽰す参加者を除外した。聴⼒の評価は、1,000 Hz、30 dB の検査⾳と 4,000

11

Hz、40 dB の検査⾳が聞こえるかどうかを評価した。図1は、今回の検査に使⽤した
検査⾳と、各年代の平均聴⼒と⽐べたものである。加齢性難聴の特徴である両側性で
あること、⾼⾳域から発症することを考慮し、聴覚の左右差がある症例、4000Hz の
検査⾳は聞こえるが 1000Hz の検査⾳が聞こえない症例は加齢性難聴としては⾮典
型的であるため除外した。最終的に、⽋損データのない 5,413 ⼈(男性:1,746 ⼈、
⼥性:3,667 ⼈)を多変量解析の対象とした(図 2、表 1)。両⽿で 1,000Hz と 4,000Hz
の信号が聞こえる群を正常聴⼒群、1,000Hz のデータに関わらず両⽿で 4,000Hz の
信号が聞こえない群を難聴群と定義した。難聴に⼤きな影響を与える交絡因⼦である
年齢の影響を抑えるために、60 歳から 79 歳での多変量解析とは別に、60 歳から 69
歳、70 歳から 79 歳についてもそれぞれで多変量解析を⾏なった。本研究は、東北⼤
学⼤学院医学系研究科倫理研究委員会の承認を得た(2022-1-010)。地域住⺠コホー
ト研究の参加に同意した参加者全員から、書⾯によるインフォームドコンセントを得
た。
Ⅱ 測定⽅法
聴⼒の測定は、聴⼒検査結果を使⽤した。防⾳の⼩型ボックス(AT-66;リオ
ン株式会社)内で、オージオメーター(AA-H1;リオン株式会社)を⽤いた気導聴⼒測
定で、1,000 Hz、30 dB の検査⾳と 4,000 Hz、40 dB の検査⾳が聞こえるかどうかを
測定した。この測定⽅法は、⽇本の労働安全衛⽣法で労働者の健康診断に指定された

12

聴⼒検査⽅法である。評価者は全て東北メディカル・メガバンク職員である看護師も
しくは臨床検査技師が⾏った。
BMI(Body Mass Index)、HbA1c、HDL(High Density Lipoprotein)コレス
テロール、LDL(Low Density Lipoprotein)コレステロールに関しては空腹時採⾎デ
ータの値を使⽤した。それ以外の解析に⽤いるデータは⾃記式の調査票を利⽤した。
III 層別化閾値の設定
年齢は,[1] 60〜64 歳,[2] 65〜69 歳,[3] 70〜74 歳,[4] 75〜79 歳の 4 群
に分類した。BMI は、[1] 18.5 未満(kg/m2)、[2] 18.5 以上 25 以下(kg/m2)、[3]
25 より⼤きく 30 以下(kg/m2)、および [4] 30 より⼤きい(kg/m2)の 4 群に分
類した。脳出⾎、脳梗塞、くも膜下出⾎、⼼筋梗塞・狭⼼症、動脈瘤・⼤動脈解離、
⼼不全、⼼房細動、ペースメーカー植え込み、⼼室細動の既往歴がある群を、循環器
疾患の既往あり群とした。難聴の家族歴は、実⽗、実⺟、兄弟、姉妹、⼦供の難聴歴
がある群を難聴あり群と定義した。騒⾳にさらされる職業は、林業、鉱業、建設業、
製造業での勤務とした 31)。喫煙については、これまでに吸った煙草の総数が 100 本未
満の群を「⾮喫煙群」、これまでに吸った煙草の総数が 100 本以上で、過去に喫煙し
ていたがやめた群を「過去喫煙群」、これまでに吸った煙草の総数が 100 本以上で、
現在も喫煙している群を「現在喫煙群」と定義した。糖尿病の評価には、HbA1c を使
⽤した。HbA1c が診断基準で境界型もしくは糖尿病型とされ、ガイドラインで⾎糖コ
ントロールの⽬的値とされる、6.0 以上の群を糖尿病群、正常値である 6.0 未満の群

13

を対照群とした(糖尿病診療ガイドライン 2019)。脂質異常症の指標として、近年診
断の⽬安となっている、LDL コレステロールを HDL コレステロールで割った値であ
る LDL-C /HDL-C ⽐を⽤いた。LDL-C /HDL-C ⽐は、Framingham study より、⾼
⾎圧や糖尿病、⼼疾患既往などの既往がある場合の⽬標値となる[1] 1.5 以下、特に
既往のない場合の⽬標値となる[2] 1.5 以上 2.0 未満、[3] 2.0 以上 2.5 未満、およ
び 動脈硬化や⾎栓のリスクが⾼いとされる[4] 2.5 以上の 4 グループに分類した。
運動に関する調査票結果 32)から METs(Metabolic equivalent task units)を算出し、⽇
常運動量および余暇運動量を合計して総合運動量とし、四分位範囲ごと [Q1:最低群】
0〜25%未満、
【Q2】25〜50%未満、
【Q3】50〜75%未満、
【Q4:最⾼群】75〜100%
の 4 群に分けた。うつ症状は CES-D

33)

で評価し、CES-D スコア 16 点以上をうつ傾

向あり群、CES-D スコア 16 点未満を対照群に分類した

33)

。社会的孤⽴は LSNS-6

(Lubben Social Network Scale)の短縮版 34)35)を⽤いて評価し、LSNS-6 の値が 12
未満を社会的孤⽴群、12 以上を対照群に分類した 34)35)。⻭の本数については、
「ぜん
ぶある(28 本)」、「ほとんどある(25〜27 本)」、「だいたいある(20〜24 本)」、
「半
分くらいある(10〜19 本)」、ほとんどない(1〜9 本)、
「まったくない(0 本)」から
選択された結果を、[1]なし〜9 本、[2]10〜19 本、[3]20〜28 本の 3 群に分類した。
アルコール摂取については、全てのアルコール飲料を「ほとんど飲まない」と調査票
で答えた群を「⾮飲酒群」とし、その他を飲酒習慣群とした。コーヒー、緑茶、紅茶
の摂取は、
「体質的に飲めない」、
「週に1回未満、または飲まない」、
「週に1〜2回」


14

「週に3〜4回」、
「週に5〜6回」、
「毎⽇ 1 杯」、
「毎⽇2〜3 杯」、
「毎⽇4〜6杯」、
「毎⽇7〜9杯」、「毎⽇10杯以上」から選択された結果を、[1] 週 2 回以下、[2]
週 3〜7 回、[3] 1 ⽇ 2 回以上、の 3 つに分類した。今回は体質的に飲めるかは考慮せ
ず、摂取している量についてのみ検討した。⽞⽶茶、烏⿓茶は、⽇常的に飲む⼈が少
ないため、週 1 回未満と週 1 回以上に分類した。
Ⅳ データ解析
単変量解析では、正常聴⼒群と難聴群との差をカイ⼆乗検定で評価した。加
齢性難聴の進⾏の性差は広く認識されているため

、男⼥別に解析を⾏った。次に、

36)

難聴と様々な要因、特に飲料に関する関連を調べるために、多変量ロジスティック回
帰分析を実施した。難聴の有無を⽬的変数とし、説明変数は過去の研究

7)16)17)

から

臨床的に重要な因⼦を考慮した上で、単変量解析で有意差を⽰した因⼦をもとに選択
した。多重共線性を防ぐため,互いに相関がないこと(相関係数<0.2 かつ>-0.2)を
確認した。また、VIF (Variance inflation factor; 多重共線性を判断するための指標) も
算出し、多重共線性が低いことを確認した。すべての統計解析は R version 4.2.1 を⽤
いて⾏い、両側 P 値<0.05 を統計的に有意とみなした。

15



研究結果

Ⅰ 参加者の特徴および単変量解析
男性 1,990 ⼈(正常聴⼒群 1,361 ⼈、難聴群 629 ⼈)、⼥性 4,181 ⼈(正常群
3,889 ⼈、難聴群 292 ⼈)、計 6,171 ⼈の参加者を単変量解析で分析した。難聴群の割
合は、男性 31.6%、⼥性 7.0%であった。本研究では、男性の METs 四分位は以下の
通りであった。Q1:<28.73METs/⽇、Q2:28.73-34.76METs/⽇、Q3:34.7742.93METs/⽇、Q4:≧42.93METs/⽇。⼥性については、以下の通りであった。 ...

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