リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「O3型遷移金属層状岩塩酸化物の合成とそのナトリウム電池特性」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

O3型遷移金属層状岩塩酸化物の合成とそのナトリウム電池特性

坪田, 隆之 TSUBOTA, Takayuki ツボタ, タカユキ 九州大学

2020.03.23

概要

本論は、遷移金属のカチオンミキシングを抑制し、充放電サイクル特性の向上を目指した,ナトリウムをインターカレーションゲストとした O3 型遷移金属層状岩塩構造酸化物に関する研究である.

Ni,Mn,Co を遷移金属として使用する正極材料 Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2 を使用したリチウムイオン電池は,電気自動車の電池や定置型蓄電池として使用されており,市場での実績もある.ただし,今後の EV 化や再生可能エネルギーの増加に伴うピークカット,ピークシフトの需要に応えるために,リチウムイオン電池の生産量が拡大すると,リチウムの供給に問題が出る可能性がある.そのため,リチウムイオン電池に替わる新型電池の開発は不可欠である.豊富に存在しているナトリウムを用いたナトリウムイオン電池は安価な二次電池として期待されている.筆者らはナトリウムイオンをインターカレーションゲスト,遷移金属の一部に鉄を使用した O3 型遷移金属層状岩塩酸化物に着目し研究を行った.ナトリウム含有系では A+と M3+のイオン半径の違いが大きいため,結晶内でこれらの原子が入れ替わるカチオンミキシングがリチウム含有系と比較して起こりにくいと考え,充放電サイクルにおけるカチオンミキシングを伴う結晶構造変化による電池特性の劣化を抑制できると予想され,これを検証するための研究を進めた.

第 2 章では,市場で使用されているリチウムイオン二次電池について層状岩塩構造酸化物の劣化機構について述べた.内部抵抗の増大が確認された正極活物質 Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2 は,充放電サイクルにより表層にて立方晶岩塩構造への結晶構造転移が確認された.この結晶構造転移は,反応サイトを減少させ,電解液/活物質界面の電荷移動抵抗を増大させると考えられる.また,長期サイクルにおける,Mn,Co の酸化物層,フッ化物層の存在もまた,反応サイトを減少させ,電解液/活物質界面の電荷移動抵抗を増大させると考えられた.さらに,遷移金属がリチウムイオンサイトへ移行するカチオンミキシングは,リチウムイオンの固相内の拡散を阻害し,拡散抵抗を増大させると考えられた.

一方で,充放電サイクル試験において,正極,負極ともにリチウムイオンを挿入,脱離する能力は失っておらず,充放電可能なリチウムイオンが減少していることが明らかとなった.グラファイト表面にリチウムを含む皮膜が形成され,特に長期サイクルにおいて LiOx の皮膜が厚く形成されることで,充放電可能なリチウムイオンが捕らわれ,結果として充放電容量を低下させていると考えられた.

第3章では,ナトリウムイオンをインターカレーションゲストとし,遷移金属の一部に鉄を用いたO3型層状岩塩構造酸化物であるNa (Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2,Na (Ni1/3Fe1/3Co1/3)O2,Na (Ni1/3Mn1/3Fe1/3)O2,及びNa (Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2を合成し,その電池特性,遷移金属の価数について述べた.ナトリウムイオン電池用の正極材料として,新規のO3型層状岩塩構造であるNa (Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2の合成に成功した.対極を金属ナトリウムとしたハーフセルにて,25 ℃にて電圧範囲2.0-4.0 V,0.05 Cにて可逆的に充放電が可能であることを確認した.放電容量84.4 mAh/g,平均作動電圧3.25 Vを確認した.

遷移金属K端XAFS測定,及び57Feメスバウア測定にて,Na (Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2では,合成後では Fe, Coは3価,Mnは4価であることを確認した.充電によりFeは3価,4価の混合となり,酸化還元反応への関与が認められた.Coは充電により3価から4価となり,酸化還元反応へ関与する.一方で,Mnは4価のままで,酸化還元反応へ関与しないことを明らかにした.

第 4 章では,ナトリウムイオン電池用の新しい O3 型層状岩塩構造である Na(Fe1/3Mn1/3Co1/3) O2 のサイクル劣化機構について述べた.1C レートで 100 サイクル後の 95.0%の高い容量維持率と,50C レートで 37 mAh/g(1C レートでの初期容量の 47%)の放電容量を備えた優れた電気化学性能を示した.

O3-Na(Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2 はO3-Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2 と比較して,優れたサイクル特性を示した.充放電サイクル試験後の O3- Na(Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2 表面の結晶構造変化はわずかであり,結晶構造の変化はリチウムの変化と比較して小さく,高い結晶構造安定性を有していることが明らかとなった.

本研究により,仮説であったナトリウムをインターカレーションゲストとした O3-層状岩塩構造酸化物はカチオンミキシングが起こりにくいことが実証された.O3 型層状岩塩構造の酸化物である O3-Na(Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2 が,優れた出力特性,サイクル特性を有することを明らかにし,今後のナトリウム電池用正極材料の有益な設計指針が得られた.

この論文で使われている画像

参考文献

[1] N. Yabuuchi, Y. Koyama, N. Nakayama, T. Ozuku, J. Electrochem. Soc., 152 (7) (2005) A1434.

[2] N. Yabuuchi and T. Ozuku, J. Power Sources, 146 (2005) 636.

[3] H.-J. Noh, S. Youn, C.S. Yoon, Y-K. Sun, J. Power Sources, 233 (2013) 121.

[4] A. Verma, K. smith, S. Santhanagopalan, D. Abraham, K. P. Yao, P. P. Mukherjee, J. Electrochem. Soc., 164 (13) (2017) A3380.

[5] Y. Hwa, C.-M. Park, H.-J. Sohn, J.Power Sources, 222 (2013) 129.

[6] K. Pan, F. Zou, M. Canova, Y. Zhu, J.-H. Kim, J.Power Sources, 413 (2019) 20.

[7] J. Saint, M. Morcrette, D. Larcher, L. Laffont, S. Beattie, J.‐P. Pérès, D. Talaga, M. Couzi, J.‐M. Tarascon, Adv. Funct. Mater., 17 (2017) 1765.

[8] M. Yamada, A. Ueda, K. Matsumoto, T. Ozuku, J. Electrochem. Soc., 158 (4) (2011) A417.

[9] P. Hovington, M. Dontigny, A. Guerfi, J. Trottier, M. Lagace, A. Mauger, C. M. Julien, J.Power Sources, 248 (2014) 457.

[10] C. K. Chan, R. Ruffo, S. S. Hong, Y. Cui, J.Power Sources, 189 (2009) 1132.

[11] N. Yabuuchi, H. Yoshida, S. Komaba, Electrochem., 80 (2012) 716.

[12] J. Zhao, L. Zhao, N. Dimov, S. Okada, T. Nishida, J. Electrochem. Soc, 160 (2013) A3077.

[13] X. M- Ma, H. L. Chen, G. Ceder, Electrochem. Soc., 158(2011) A1307.

[14] P. Vassilaras, X. H. Ma, X. Li, G. Ceder, J. Electrochem. Soc., 160 (2013) A207.

[15] S. Komaba, C. Takei, T. Nakayama, A. Ogata, N. Yabuuchi, Electrochem. Commun., 12(2010) 355.

[16] J. J. Ding, Y. N. Zhou, Q. Sun, Z. W. Fu, Electrochem. Commun., 22(2012) 85.

[17] D. Hamani, M. Ati, J.M. Tarascon, P, Rozier, Electrochem. Commun., 13 (2011) 938.

[18] C. Didier, M. Guignard, C. Denage, 0. Szajwaj, S. Ito, I. Saadoune, J. Darriet, C. Delmas, Electrochem. Solid State Lett., 14 (2011) A75.

[19] N. Yabuuchi, M. Kajiyama, J. lwatate, H. Nishikawa, S. Hi omi, R. Okuyama, R. Usui, Y. Yamada, S. Komaba, Nat. Mater., 11 (2012) 512.

[20] S. Komaba, N. Yabuuchi, T. Nakayama, A. Ogata, T. Ishikawa, I. Nakai, lnorg. Chem., 51 (2012) 6211.

[21] M. Sathiya, K. Hemalatha, K. Ramesha, J.M. Tarascon, A. S. Prakash, Chem. Mater., 24 (2012) 1846.

[22] D. Kim, E. Lee, M. Slater, W. Q. Lu, S. Rood, C. S. Johnson, Electrochem. Commun., 18 (2012) 66.

[23] R. Berthelot, D. earlier, C. Delmas, Nat. Mater., 10 (2011) 74.

[24] J. J. Ding, Y. N. Zhou, Q. Sun, X. Q. Yu, X. Q. Yang, Z. W. Fu, Electrochim. Acta, 87 (2013) 388.

[25] M. D'Arienzo, R. Ruffo, R. Scotti, F. Morazzoni, C. M. Maria, S. Polizzi, Phys. Chem. Chem. Phys., 14 (2012) 5945.

[26] A. Caballero, L. Hernan, J. Morales, L. Sanchez, J. S. Pena, M.A. G. Aranda, J. Mater. Chem., 12 (2002) 1142.

[27] D. Carlier, J. H. Cheng, R. Berthelot, M. Guignard, M. Yoncheva, R. Stoyanova, B. J. Hwang, C. Delmas, Dalton Trans., 40 (2011), 9306.

[28] Z. H. Lu and R. Dahn, J. Electrochem. Soc, 148 (2001) A1225.

[29] D. Buchholz, A. Moretti, R. Kloepsch, S. Nowak, V. Siozios, M. Winter, S. Passerini, Chem. Mater., 25 (2013) 142.

[30] D. D. Yuan, W. He, F. Pei, F. Y. Wu, Y. Wu, J. F. Qian, Y. L. Cao, X. P. Ai , H. X. Yang, J. Mater. Chem. A, 1 (2013) 3895.

[31] D. Kim, S. H. Kang, M. Slater, S. Rood, J. T. Vaughey, N. Karan, M. Balasubramanian, C. S. Johnson, Adv. Energy Mater., 1 (2011) 333.

[32] F. Sauvage, L. Laffont, J.M. Tarascon, E. Baudrin, lnorg. Chem., 46 (2007) 3289.

[33] Y. L. Cao, L F. Xiao, W. Wang, D. W. Choi, Z. M. Nie, J. G. Yu, L.V. Saraf, Z. G. Yang, J. Liu, Adv. Mater., 23 (2011) 3155.

参考文献をもっと見る

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る