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書き出し

<論説>コロナ危機と法―ドイツの法対応

村山, 淳子 筑波大学

2023.07.31

概要

論 説

コロナ危機と法
──ドイツの法対応

村 山 淳 子
第 1 章 序論
第 2 章 ドイツ法制の基本構造
  1  比較の前提となる違い
  2  形式、実質におよぶ法治原理
  3  連邦制の採用
  4  EU 法との協調
第 3 章 コロナ危機対応の体系
  1  基本法レベルの緊急事態法の不適用 
  2  法律レベルの緊急事態法の制定
  3  中央行政省への権力の集中
第 4 章 医療の強制にかかわる法制
  1  医療の強制にかかわる従来法制
  2  コロナ危機に対応した医療の強制
  3  小括──コロナ危機対応法制における人権制約手法
第 5 章 医療の供給にかかわる法制
  1  医療の供給にかかわる従来法制
  2  権利としての予防接種
  3  コロナ危機に対応した医療の供給確保法制
  4  小括──法規命令と法律の棲み分け
第 6 章 結論
  1  コロナ危機の特性
  2  対応法領域
  3  時限的、事項限定的な対応
  4  中央行政省への権力の集中
  5  形式、実質にわたる法治原理の貫徹
  6  医学的指標の法規化
  7  防御反応の存在

23

論説(村山)

第 1 章 序論
わが国では「コロナ禍」と呼ばれた、COVID−19 感染症の蔓延による長期に
わたる社会不安と経済混乱は、今般、沈静化をみせつつある1)。
この期にいたり、社会科学を研究する者は、この一連の出来事を自らの専門
分野の学術体系の中において位置づけ、その特性をふまえた知見を析出する努
力をせねばならない。本稿は、法律学の分野から、その一端をなす研究成果を
めざすものである。
法律学の観点から「コロナ禍」をみるならば、想起される先行研究は、災害
等の緊急事態の対応をめぐる非常時法論 2)である。パンデミックという、災害
とは異なる特性を有する非常事態に対して、いかなる特質を備えた法対応の類
型を構想しうるだろうか。
本稿は、これまでの非常時・ 災害法研究の成果との連続性を意識しつつ、
衛生上の非常事態の特性に応じた非常時法制のモデルを提示しようとするもの
である3)。
この目的を達成するために、本稿は、コロナ危機の前後のドイツ法制の「動
き」に注目して、その構造を動態的に分析し、パンデミックの法対応の特質を
あきらかにする。
ドイツは、平時の法において、人権保護や法治原則という点において、わが
国に先んずる国であるといえる4)。かの国が、平時の法理と、パンデミック対

1)

2023 年 3 月 31 日の状況認識である。わが国についていえば、新型コロナウイルス感染

症は感染症法上の第 5 類に引き下げられることが予定され、マスク着用をはじめ、さまざ
まな規制が解除され、コロナ前の日常が戻りつつある。本稿の対象とするドイツの状況に
ついては、後出注(146)参照。
2)

東日本大震災を題材にとった第 77 回日本私法学会シンポジウム『震災と民法学」論究

ジュリスト 6 号(2013 年)4 頁以下、災害医療をテーマとした第 49 回日本医事法学会のシ
ンポジウム『災害医療と法』年報医事法学 35 号(2020 年)91 頁以下等多数。最近では、
大橋洋一編『災害法』
(有斐閣、2022 年)。
3)

24

大橋編・前掲注(2)特に 1 頁以下〔大橋洋一]も、類型的な法制研究を志向している。

コロナ危機と法

応とのあいだで、いかなる衡量を行い、そしていかなる構造上の特質ある変化
をもって対応したのか。ドイツの経験と選択は、将来のわが国にとって示唆た
り得るだろう。

第 2 章 ドイツ法制の基本構造
1 比較の前提となる違い
非常時の法対応の分析は、相応する従来法制の理解にもとづいたものでなけ
ればならない。
一般に、ドイツ法制は、基本的な体系と論理においてわが国の法制と類似す
るといわれる。しかし、とくに本稿テーマとの関係では、ナチス政権による独
5)
裁を経験していること(この歴史的背景の影響は広範に及ぶ)
、連邦国家で

あること、そして近年 EU 法と協調関係にあることなど、前提とせねばならな
い重要な相違点が存在する。このことを前提に、ドイツの法対応の法律学上の
意味を考究せねばならない。
本章では、とくに本稿テーマの日本法との比較の前提とせねばならない、ド
イツ法制のわが国との基本構造上の違いを抽出しよう。
2 形式、実質におよぶ法治原理 6)
ドイツは、先進国の中でも突出して、法治原理がゆきわたった国である。規
則を重視する気質や文化、また戦後はナチス独裁政権に対する反動から、ドイ

4)

ドイツ法に対する一般的認識といってよいだろう。コロナ対応に関しても、この観点

からドイツ法に注目する論者は多い。横田明美『コロナ危機と立法・行政』
(弘文堂、2022 年)
はじめにⅰ等。
5)

ナチス・ ドイツ時代への反省や警戒を背景にかたる論稿は独・ 日ともにみられる。日

本では、大林啓吾編『コロナの憲法学』
(弘文堂、2020 年)100 頁以下〔石塚壮太郎〕等。
6)

ドイツにおける形式的な法治国家原理と実質的な法治国家原理につき、村上淳一=守

矢健一=ハンス・ ペーター・ マルチュケ『ドイツ法入門[改訂第 9 版]』
(有斐閣、2018 年)
47 頁以下を参照した。ほか、ボード・ ピエロートほか/永田秀樹ほか『現代ドイツ基本権
(第 2 版)』
(法律文化社、2019 年)等も参照。

25

論説(村山)

ツの法治原理は形式・実質におよび、法制の隅々にまで行き渡っている。
形式的に、すべての国家行為は、法によって根拠づけられ、そして限界づけ
られる。これにより、人は国家行為を事前に予測することができ、また、事後
的にその適法性を審査することができる。
さらに、戦後の基本法により、ドイツの法治原理は実質的・ 内容的な面に
までおよぶようになった。基本法 1 条 1 項および 2 項は、基本権に実定法を超
える普遍的な価値を認める7)。同条に抵触する基本法の改正は許されない(基
本法 79 条 3 項)。
それゆえ、基本権は、法律の規定または法律の根拠に基づいて制限されうる
ことが、基本法に明記されている場合でなければ、制限されない。そして、基
本権を制限する法律は、制限する基本権の名称と基本法の条文を、法律の中で
挙示しなければならない(以上、基本法 19 条 1 項 8))
。また、
(そうであっても)
基本権の本質的内容を侵害するような制限は許されない(基本法 19 条 2 項 9))

3 連邦制の採用 10)
(1) 基本法に従った連邦と州の権力分配
ドイツは連邦国家である11)。敗戦後 12)、連合国の介入を受ける中、ナチス独
裁体制 13)に対する反動を背景に、ドイツは伝統的な連邦制に立ち返る選択をし、
基本法で連邦主義を表明して制度化した。この連邦制は、ドイツにとって(基
7)

基本法 1 条 1 項「人間の尊厳(Würde des Menschen)は不可侵である。これを尊重し、

かつ、これを保護することは、すべての国家権力の義務である」、同法同条 2 項「それゆえ
に、ドイツ国民は、世界のすべての人間共同体、平和及び正義の基礎として、不可侵にし
て譲り渡すことのできない人権(Menschenrechte)を信奉する」
(以上、初宿正典『ドイツ
連邦共和国基本法』
(信山社、2018 年)2 頁)
8)

基本法 19 条 1 項「この基本法によって基本権が法律により、又は法律の根拠に基づい

て制限されうる限度において、その法律は、一般的に適用されるものでなければならず、
単に個々の場合にのみ適用されるものであってはならない。さらにその法律は、
〔制限する〕
基本権を条項を示して挙げなければならない」(初宿・前掲注(7)12 頁)
9)

基本法 19 条 2 項「いかなる場合でも、基本権はその本質的内容において侵害されては

ならない」
(初宿・前掲注(7)12 頁)

26

コロナ危機と法

本法改正によっても変えられぬ)本質的な体制であると意味づけられてい
る14)。
ドイツ連邦制のもとでは、連邦諸州は独立の国家権力(Staatsgewalt)を有
している。それが、基本法の分配ルールに則り、立法・行政・司法権にわたり、
権力を連邦と分かつ構造になっている。とくに本稿テーマとかかわるのは、立
法権と行政権(執行権)の分配ルールである。以下にて、順次概要を述べよう。
立法権は、原則として州に属する。基本法で定める事項についてのみ、連邦
に属する(基本法 70 条)
。そして、連邦法は州法に優位する(基本法 31 条)15)。
これが原則である。
この原則に立って、
以下のように事項ごとに立法権が分配される。すなわち、
16)
①連邦が専属的に立法権を有する事項(基本法 71 条、73 条)
、②連邦が競合

的に立法権を有する事項のうち、②− 1 核心的管轄を有する(連邦が立法権を
行使しなかった限度でのみ、
州に立法権が認められる)事項(基本法 72 条 1 項、
10) ドイツの連邦制に関する研究は、歴史的研究を中心に、多数存在している。本稿では、
制度の本質・ 概要を知るための基本的内容をもつ書籍と近時の改革の動向を伝える文献を
参照した。前者として村上=守矢=マルチュケ・ 前掲注(6)42 頁以下。後者として、渡辺
富久子「ドイツ─連邦制改革をめぐって─」114 頁以下、山口和人「道州制を考える視点
─日独比較を中心に─」19 頁以下。
11) 基本法 20 条 1 項「ドイツ連邦共和国は、民主的かつ社会的な連邦制国家である」
(初宿・
前掲注(7)13 頁)
12) 連邦制の成立要因につき、北住痘炯一『ドイツ連邦憲法体制の成立』
(成文堂、2023 年)
445 頁以下参照
13) 1933 年、ヒトラー政権のもとで、内閣に絶対的権限を付与する全権委任法が成立した。
14) 基本法 79 条 3 項「基本法の変更によって、連邦の諸ラントへの編成、立法に際しての
諸ラントの原則的協力、又は、第 1 条及び第 20 条にうたわれている基本原則に触れること
は、許されない」
(初宿・前掲注(7)48 頁)
(ラント Land は州のことである。以下、同書訳の
基本法の条文について同様)
15) 基本法 31 条「連邦の法はラントの法に優先する」
(初宿・ 前掲注(7)21 頁)。なお、憲法
については、基本法 28 条 1 項 1 文が「ラントにおける憲法適合的秩序は、この基本法の趣
旨に即した共和制的・ 民主的及び社会的な法治国家の諸原則に適合していなければならな
い」と規定する(初宿・前掲注(7)17 頁)
16) 外交、国防、国籍、通貨等

27

論説(村山)

74 条)17)、②− 2 必要的管轄を有する(生活関係の均等化や法的・ 経済的統一
18)
に必要な限りで、連邦に立法権が認められる)事項(基本法 72 条 2 項)
、そ

して②− 3 逸脱可能管轄を有する(州が連邦とは異なる立法をすることができ
19)
る)事項(基本法 72 条 3 項)
が定められる。以上の基本法の定めのない残余

事項が州の管轄になる20)。本稿テーマは、主に②− 1 に属する。
戦後、基本法制定後に、連邦が競合的立法事項の重要部分(②− 1 にあたる
部分)をほとんど立法したため、実際上、連邦が立法権を掌握している。
執行権は、原則として、州に属する(基本法 30 条、83 条 21))
。執行権につい
ては例外が限られている。すなわち、連邦固有行政について、連邦が執行権を
22)
有する(基本法 87 条∼89 条)
。加えて、連邦委任行政として、連邦の委託を
23)
受けて州が執行する事項がある(同法 85 条)
。なお、1969 年基本法改正以来、

連邦と州の共同の任務(Gemeinschaftsaufgaben)が導入され、拡充されてき
た(91a∼91e 条)。

17) 民法、刑法、刑事訴訟法等
18) 外国人の滞在・居住、社会福祉関連
19) 自然保護、水管理、大学制度等。
2006 年の連邦制改革前は、大綱的立法事項(連邦が大綱法を示し州が実施法を制定する事
項が存在してきた(基本法旧 75 条)
(同条の内容について、初宿・ 前掲注(7)44 頁注(86)参
照)。しかし、2006 年の連邦制改革により廃止され、基本的には②− 3 の競合的立法事項
に移行した。
20) 教育制度、文化政策、地方自治制度、警察制度等
21) 基本法 30 条「国家の権限の行使および国家の任務の遂行は、この基本法が別段の定め
をせず、又は許していない限度において、ラントのなすべき事項である。」
(初宿・前掲注(7)
21 頁)。基本法 83 条「ラントは、この基本法が特別の定めをなし、又は特別の定めを認め
ていない限りにおいて、その固有事務として連邦法律を執行する。」
(初宿・前掲注(7)50 頁)
22) 外交、連邦財政、航空、連邦国防等
23) 高速道路や核エネルギーなど。
州が固有事務として連邦法を執行する場合には、連邦はその適法性の監督しか行うことが
できない(基本法 84 条 3 項 1 文)。委任事務として行う場合、連邦は指示ならびに適法性・
合目的性の監督を行うことができる(基本法 85 条 3 項及び 4 項)。

28

コロナ危機と法

(2)
 連邦と州の協調関係
ドイツの連邦制は、協調型連邦制(kooperativer Föderalismus)といわれて
いる24)。これは、「連邦を構成する主体間の交渉、調整、妥協を特色」とする
政策決定方式と定義される25)。かかる体制のもと、政策の合意形成は、連邦と
州、そして州間で、公式または非公式な協議ないし交渉を通じて、行われてき
た26)。
28)
そのため、とりわけ連邦法の執行において27)、
「政策の錯綜」
(連邦の立法

と行政に州が関与し、とくに州が、法の執行権を担うことから、政策が 1 つの
主体(連邦)の中で完結しえないという現象)29)が指摘され、政策の迅速な決
定と責任の明確性を阻害すると批判されてきた30)。これを受け、2006 年の連邦
制改革は、大綱的立法事項の廃止、同意法律の削減など、州の自己責任と多様
性を重視する競争的連邦主義 31)を取り入れる方向で立法権分配の見直しを行っ
ている。
このような連邦制を前提にしてはじめて、コロナ危機に対応したドイツ法の
構造上の変化の意味を考究することができる。

24) 第二次大戦の敗戦からの復興のため、政策権限の集中と地域間の不均衡の解消の必要
から制度化され、確立・発展してきた(渡辺・前掲注(10)115 頁参照)。
25) 山口・前掲注(10)22 頁。同 31 頁で「連邦と州の権限の結合と相互依存の度合いが強い」
と説明する。
26) 北住・ 前掲注(12)444 頁参照。典型的な公式の制度を挙げると、連邦法は、(州の代表
機関である)連邦参議院の審議を経なければ成立しない。一定の種類の連邦法の成立には、
連邦参議院の同意を要する。連邦の発する法規命令又は命令には、執行権を管轄する州の
同意が必要である(80 条 2 項、84 条 2 項、85 条 2 項)などがある。
27) 連邦参議院の制度、連邦法の執行における連邦・州の官僚の密接な調整など
28) 山口・前掲注(10)22 頁(「連邦および州の政策が、それぞれの主体自身の中で完結せず、
互いが相手の領域に深く関与し、連邦と州、州と州との間の協力によって多大の調整のコ
ストをかけて公的課題が遂行されるという体制」を指している)
29) 山口・前掲注(10)31 頁参照
30) 山口・前掲注(10)31 頁参照
31) 山口・前掲注(10)31 頁

29

論説(村山)

4 EU 法との協調
ドイツ法は、1990 年代後半からヨーロッパ化したといわれる。これは、ヨー
ロッパ法との協調を意味している。
ヨーロッパ条項といわれる基本法 23 条 1 項の 1 文は、「統一された欧州を実
現するために、ドイツ連邦共和国は、欧州連合の発展に協力するが、この欧州
連 合 は、 民 主 的、 法 治 国 家 的、 社 会 的 及 び 連 邦 的 な 諸 原 則 及 び 補 完 性
(Subsidiarität)の原理(筆者注:EU 条約により、EU は、構成国によるより
も EU による方がより良く目標を達成できる場合に限り活動することができる
とされる)に義務づけられており、本質的な点でこの基本法の基本権保障に匹
敵する基本権保障を有しているものとする」32)と定める。
また、1990 年のドイツ統一条約には、
「ドイツの統一はヨーロッパの統合と
ヨーロッパの平和秩序の形成に寄与すべきである」と明記された。
そして、いまやドイツは、ヨーロッパの統合を支え、リードする国の 1 つと
して承認されている。
伝統的に全体と部分のバランスの中にあったドイツ33)が、ナチス政権による
中断、東西分断、そして再統一を経て、再び「ヨーロッパ的な普遍性を前提と
してのみ国民的個性の発展が可能である」との思想を持つに至ったのだと分析
される34)。
EU 法は、ドイツ国内法に優位する。EU が制定する拘束力ある法規範には、
①規則 Verordnung(直接的効力がある)
、②指令 Richtlinie(構成国で国内法
化する必要がある35))、そして③決定 Entscheidung(名宛人だけを拘束する)
がある。勧告(Empfehlung)や意見(Stellungnahme)は、法的拘束力はもた

32) 初宿・前掲注(10)14 頁以下
33) 村上=守矢=マルチュケ・ 前掲注(6)8 頁は、もともとドイツの伝統は求心力と遠心力、
全体と部分のバランスにあるとする、本質的な評を述べている。
34) 同書 6 頁以下参照
35) 達成されるべき結果について構成国を拘束するが、方式と手段の選択は構成国にゆだ
ねる。

30

コロナ危機と法

ないが政治的効果を担う。
本稿テーマの考察においては、医薬品の承認制度、EU 域内での移動制限な
ど、特定の事項ないし領域について、EU 法との協調関係を前提にせねばなら
ない。

第 3 章 コロナ危機対応の体系
以上のような特性ある基本構造を有するドイツは、コロナ危機に対応し、一
時的あるいは恒久的に、なぜ、どのような体系上もしくは価値衡量上の変更を
行ったのか。あるいは、行わなかったのか。本章では、まず、パンデミックに
対応したドイツ法制の体系上の変化ないし不変化を考察しよう。
1 基本法レベルの緊急事態法の不適用 36)
多くの諸国と同様、ドイツの基本法も緊急事態条項を有している。
しかし、ヒトラー政権下での緊急事態法の反動から37)、ドイツ基本法におけ
る緊急事態法は、諸外国と比べ範囲と限度において限定されている。ドイツ基
本法が対応している緊急事態は、外的緊急事態と内的緊急事態とに区分され
る38)。前者に対応する法は、
基本法 115a 条の定める防衛緊急事態条項である(一
般的に、これがドイツ基本法の緊急事態条項として取り上げられる)
。内的緊
急事態は、基本法上に散在する。それは、①「自然災害または特に重大な災厄
事故」(基本法 35 条 2 項 2 文、3 項の規定に対応)39)、②「連邦若しくはラント
の存立又はその自由で民主的な基本秩序に対する差し迫った危険」(基本法
36) 大林編・ 前掲注(5)100 頁以下〔石塚〕を参照した。国立国会図書館調査及び立法考査
局編『米国・フランス・ドイツ各国憲法の軍関係規定及び緊急事態条項』
(国立国会図書館、
2019 年)15 頁以下[河島太朗]も参照。
37) 大林編・ 前掲注
(5)101 頁〔石塚〕は、ワイマール憲法が、とりわけヒトラー政権のも
とで、緊急事態によって憲法体制が有名無実化したことへの反省から、ドイツの緊急事態
憲法は、事項的に限定され、手続・権限上も控えめなものになったとする。
38) 大林編・前掲注(5)102 頁以下〔石塚〕の整理を参考にした。
39) 初宿・前掲注(7)23 頁

31

論説(村山)
40)
87a 条 4 項、91 条の規定に対応)
、③「公共の安全及び秩序を維持し又は回

復するために……特別な重要性を有する場合」
(基本法 35 条 2 項 1 文の規定に
対応)に区分できる。以上の基本法上の緊急事態法は、州と連邦の権力分配を、
時間および事項を限定して変更し、連邦に権力を移行させる内容である。
コロナ危機──つまり、衛生上の緊急事態は、ドイツでは、基本法の想定す
る緊急事態に該当するとは判断されず、基本法上の緊急事態法は適用されな
かった。もっとも、適用可能性が全くない事例であったという位置づけではな
い。①には流行病(Massenerkrankungen)も含まれるとされるところ、そう
であれば該当する41)。また、権利制限に反対して各地で起こったデモについて
も、適用可能性が指摘されていた42)。そして、コロナ危機の中、基本法を改正
し、衛生上の緊急事態に対応した条項を追加することも主張されていた43)。
2 法律レベルでの緊急事態法の制定
緊急事態法は法律のレベルで制定された。
すなわち、2020 年 3 月 27 日に、連邦法である「全国規模の流行状況におい
て住民を保護する法律」
(以下、住民保護法という)44)が成立し、その中で、感
染症予防法(Infektionsschutzgesetz)の改正が行われた。ドイツ法のコロナ危
機対応は、基本的に、この感染症予防法の改正を頻回繰り返し45)、これを根拠
として行われた。

40) 初宿・前掲注(7)54 頁、58 頁
41) Vgl. Ipsen, Notstandsverfassung und Corona−Virus, Recht und Politik, Bd. 56, Heft2,
2020, S. 122
42) 大林編・前掲注(5)103 頁〔石塚〕
43) 出口雅久「日独交流 160 周年記念オンライン国際シンポジウム『コロナ・パンデミック
と憲法問題』」立命館大学国際平和ミュージアム紀要 23 号(2021 年)3 頁以下におけるショ
ルツ Scholz 教授の講演/出口訳(5 頁)
44) Gesetz zum Schutz der Bevölkerung bei einer epidemischen Lage von nationaler
Tragweite vom 27, März 2020(BGBl Ⅰ S. 587)
45) 横田は感染症予防法の「多段改正」と表現している(横田・ 前掲注(4)49 頁等)。

32

コロナ危機と法

この法対応は、感染症予防法 5 条 1 項の定める連邦議会による「全国規模の
流 行 状 況(eine epidemische Lage von nationaler Tragweite)
」 の 認 定 を「 前
提」46)として、それが有効である限りにおいて(つまり、廃止されるか失効す
るまで)
、さまざまな措置が発動するという構造になっている。
こ の「 前 提 」 と 位 置 づ け ら れ て い る、
「全国規模の流行状況」の認定
(Feststellung)は47)、条文の示す 2 つの理由 48)いずれかをもって、「ドイツ連邦
共和国全域で公衆衛生に対する深刻な危険が存在している」(同法 5 条 6 文)
場合に、連邦議会がその裁量をもって49)行う。
この法対応は、事項限定的、かつ時限的なものである50)。既存の条文には手
を加えず、それに限定的な条項を書き加え、それが適用される場合には、必要
な抑制や例外設定をおこなう建付けとなっている51)。感染症予防法は第一次改
正後、COVD−19 感染症の蔓延状況に応じて、幾度もの法改正によって延長、
再延長が行われ、後に 3 か月ごとの更新制 52)となっている。 
以下【図 1】にて感染症予防法の構成を示し、主要改正箇所に下線を付した。
46) 認定(Feststellung)の法的性質については、直接の法的効果に向けられたものではなく、
個々の事例に関連する具体的な法的効果の前提の 1 つにすぎないとされる(Gerhardt,
Infektionsschutzgesetz, 6. Aufl., 2022, §5, Rn. 9; Kießling/Hollo, IfSG, 3. Aufl., 2022, §5,
Rn.7)。また、これは、争うことのできる独立の手続ではないとされる(Gerhardt, ebd., §5,
Rn. 9; Kießling/Hollo, ebd., §5, Rn.7)
47) 石塚はこれを、政府による「緊急事態宣言」が発出されたわが国と対比して、議会を
主体とすることを強調する(大林編・前掲注(5)101 頁〔石塚〕)。
48) 5 条 6 文はさらに、2 つの号を設けて、かかる危険が存在していることの理由の位置づ
けで(Gerhardt, a. a. O.(Note 46)
, §5, Rn. 6)、2 つの選択肢を挙げている。すなわち、1.
世界保健機関(WHO)が国際的な規模の保健衛生上の緊急事態を宣言し、ドイツ連邦共
和国内に危険な伝染病が持ち込まれるおそれがあること、あるいは、2. ドイツ連邦共和国
の幾つもの州にわたって、危険な伝染病が爆発的にまん延するおそれがあるかまん延して
いることである。
49) Vgl. Kießling/Hollo, a. a. O.(Note 46), §5, Rn. 7
50) 石塚はこれを「法律上の緊急事態法」と位置付けている(大林編・前掲注
(5)101 頁〔石
塚〕)。
51) 横田・前掲注(4)4 頁も参照。

33

論説(村山)

(第 4 章および第 5 章の箇所は後述で改めて取り上げる)。28c 条と 5c 条を除
き53)、時限条項である。
【図 1】
 コロナ危機後のドイツ感染症予防法の構成

下線部分が主要改正箇所
第 1 章  総則規定 1∼3 条
第 2 章  調整、+全国規模の流行状況の認定 4 条、5 条+ 5a 条、5b 条、5c 条
第 3 章  監視 6 条∼15a 条
第 4 章  伝染病の予防 16 条∼23a 条 + 20a 条、20b 条、22a 条
第 5 章  伝染病の制圧 24 条∼32 条 + 28a∼c 条
第 6 章  特定の施設、企業および人物に対する感染予防 33 条∼36 条
第 7 章  水 37∼41 条
第 8 章  食品を扱う者に対する衛生上の要求 42 条、43 条
第 9 章  病原体を取り扱う活動 44 条∼53a 条
第 10 章 法律の執行と管轄官庁 54 条∼54b 条
第 11 章 共同体法との協調 55 条
第 12 章 特別なケースにおける補償 56 条∼67 条
第 13 章 裁判上の方法、費用 68 条、69 条
第 14 章 刑罰および過料規定 73 条∼76 条
第 15 章 移行規定 77 条
3 中央行政省への権力の集中
パンデミックという事実は、迅速、かつ州を超えた統一的な法対応を要請し
た54)
(そこには、情報のすみやかな流通の許容も含まれている)。
52) 2021 年 3 月 29 日「全国規模の流行状況の延長に関する規定に関する法律」Gesetz zur
Fortgeltung der die epidemische Lage von nationaler Tragweite betreffenden Regelungen v.
29, 03, 2021(BGBl. Ⅰ S, 370)は、時限条項を撤廃し、3 か月ごとの更新制とした。
53) 28c 条が時限条項でない理由については後述の内容を参照。

34

コロナ危機と法

この要請に応えるために、中央行政省である連邦保健省への法規命令制定権
限を含む執行権の付与が、感染症予防法の改正という法律の根拠をもって行わ
れた。この現象は、ドイツ法の既存の権力分配ルールとの間で、以下の 2 つの
緊張関係を意味している55)。
第一に、連邦制との緊張関係 56)である。中央行政省である連邦保健省に執行
権を付与することは、執行権を主に州に分配してきた連邦制のもとで、法律を
根拠に、一時的・ 限定的にではあっても、州から連邦に執行権を移すことを
意味している。この緊張関係を意識して、これらの根拠となる法文には、
「州
の権限を害することなく(unbescadet)

、あるいは(州の代表たる)「連邦参
議院の同意なく」という意識的な記述がみられる。
第 2 に、議会民主制との緊張関係である。行政省である連邦保健省に法規命
令制定権限を付与することは、コロナ危機対応に関する政策決定を、行政が行
うことを意味している(この動きに対し、連邦議会による「全国規模の流行状
況」の認定(5 条 1 項)を「前提」としたことは、審議過程における連邦議会
の抵抗の成果 57)であると評価されている)


第 4 章 医療の強制にかかわる法制
以上のようなドイツ法制の体系上の変化ないし不変化のもとで、コロナ危機
54) 横田・ 前掲注(4)12 頁参照(「2020 年 3 月以降の立法は、州を越えた感染症にいかに対
応するのか、そのための連邦政府の権限をどのように設定するのかという問題への対処を
常に迫られていた。」)
55) 基本法の定める国家の組織の構造に対して重大な影響が指摘された(Kingreen, Die
Feststellung der epidemischen Lage von nationaler Tragweite durch den Deutschen
Bundestag−Rechtsgutachten für die Fraktion der Freien Demokraten im Deutschen
Bundestag, 11. 6. 2020, Rechtgutachten, S. 17)
56) 横田・前掲注(4)12 頁
57) 大林編・ 前掲注(5)105 頁〔石塚〕参照(短期間の立法であったにもかかわらず「素晴
らしい行動力を発揮し、認定権限を自らの側に引き寄せた」)Gärditz, Die Feststellung
einer epidemischen Lage von nationaler Tragweite, MedR, Bd. 38, Heft9(2020), S. 741 を邦
訳して引用

35

論説(村山)

に第一次的に対応した法領域では、従前のいかなる制度と体系になぜいかなる
変更が加えられたのか。
本章では、医療の強制を含む行動制限58)にかかわる法制 59)の変化を考察する。
伝染病の予防ないし制圧を目的とするこの領域に、従来、いかなる法制が存在
し、そしてコロナ危機に対してなぜいかなる変更が加えられたのか。
1 医療の強制に関する従来法制
(1) 感染症予防法
ドイツにおいて、公衆衛生法の地位にある法律は、連邦法である感染症予防
60)
法(Infektionsschutzgesetz,IfSG)
である。本法律の射程は、わが国の感染症

法より広く、検疫法や予防接種法の内容にも及んでいる。
基本法は、
「公共の危険を伴う、又は人畜を媒介する伝染病に対する措置…」
を競合的立法事項(②−1)と定める(74 条 1 項 19 号)61)。この権限分配に従い、
連邦が立法した連邦法が、感染症予防法である。基本法の原則に従い、同法の
執行権は州が有している。連邦の権限は、
(連邦保健省所轄の)ロベルト・コッ
ホ研究所の調整権限(同法 4 条)など最低限にとどまっていた。
58) 要求(Geboten)と禁止(Verboten)を意味している(感染症予防法 28c 条参照)
59) EU 域内移動制限については、本文ではふれない。EU 域内移動については、EU 法の
規制を受けるところ、2021 年 5 月 20 日に、EU レベルでの「EU 全域で有効なデジタル証
明書」
(いわゆるワクチン・ パスポート)制度が導入された。このパスポートの発行は各加
盟国で行い、全加盟国で有効とされる。さらに、各国システムの相互接続が行われる。EU
法のドイツ国内法化として、文書のデジタル化・ システム化・ 偽造対策に関する法制の整
備が行われた(以上、濱野恵「【EU】域内移動制限の協調に関する EU 理事会勧告」外国
の立法 No.286−1(2021 年)2 頁以下、濱野恵「【EU】EU デジタル COVID 証明書規則の公
布、域内移動制限の協調に関する EU 理事会勧告の再改正」外国の立法 No.288−2(2021 年)
2 頁、濱野恵「【EU】域内移動制限の協調に関する EU 理事会勧告の全面改正」外国の立
法 No.291−1(2022 年)2 頁以下等参照)
60)「 人 を 媒 介 す る 感 染 症 の 予 防 及 び 制 圧 に 関 す る 法 律 」Gesetz zur Verhütung und
Bekämpfung von Infektionskrankheiten beim Menschen(Infektionsschutzgesetz)vom 20. 7.
2000(BGBl Ⅰ S. 1045)
61) 初宿・前掲注(7)41 頁

36

コロナ危機と法

ドイツ感染症予防法は、その 1 条 1 項で、
「ヒトを媒介する伝染病を予防し、
感染症を早期に認識し、そのさらなる蔓延を防止すること」を目的とする旨を
定めている。そして、そのための保護措置(行動制限)を定める 28 条の 1 項 4
文にて、本法律により制限されうる基本権として、身体の不可侵性(基本法 2
条 2 項 1 文)、人格の自由(基本法 2 条 2 項 2 文)
、集会の自由(基本法 8 条)

移動の自由(基本法 11 条 1 項)
、そして住居の不可侵性(基本法 13 条 1 項)を
挙示するのである。
かかる感染症予防法下で、従来、
「伝染病の予防」
(同法第 4 章)および「伝
染病の制圧」(同法 5 章)のために、以下のような医療の強制ないし行動制限
がさだめられてきた。
(2)
 予防接種の間接的な強制
直接的な強制の根拠となりうる規定自体は存在していた。すなわち、感染症
予防法 20 条 6 項は、
「重篤な経過をたどる伝染病が発生し、その疫学的な蔓延
が見込まれる場合」に、連邦保健省が、連邦参議院の同意を得たうえで、感染
の恐れのある国民に予防接種その他特別な予防法を受けることを命ずる法規命
令を制定できる旨を規定していた。この規定でいう「重篤な経過をたどる伝染
病」には、COVID−19 感染症も該当するといわれている62)。しかし、この法規
命令は発せられることはなかった。
コロナ危機の直前、麻疹の予防接種に関して、罰則はないながら、間接的な
強制が行われた63)。すなわち、2020 年 2 月 10 日、麻疹予防法 64)による感染症
予防法の改正で、同法に 20 条 8 項が挿入され、特定の施設(保育施設、避難所、

62) Rixen in Huster/Kingreen Hdb.InfSchR Kap. 5 Rn. 24; Kießling/Gebhard, a. a. O.(Note
46), §20, Rn. 27
63) 直接的な強制力をもたないと述べるものとして、BT−Drs. 19/13452, 2, 27; Kießling/
Gebhard, a. a. O.(Note 46)
, 2022, §20, Rn. 38. 間接的な強制であると述べるものとして、
Gerhardt, ebd., §20 Rn. 33b(間接的、部分的)
64) Masernschutzgesetz v. 10. 2. 2020(BGBl Ⅰ S.148)

37

論説(村山)

学校)に入所ないし訪問するにあたり、十分な予防接種を受けていることを証
明する義務が課された。麻疹が感染力の強い深刻な伝染病であること、ワクチ
ンの有効性がリスクに比して高いこと、そして対象者個人と「同時に」共同体
の保護のためであることが法案理由では強調されている65)。もっとも、罰則は
なく、当該施設への入所や訪問を諦めることでこの義務を免れることができ
た66)。麻疹の予防接種に関するこの規律の構造は、後述するコロナ危機下での
施設就業者に対する(罰則のある)間接的な強制と類似性が指摘され、条文の
利用関係がある。
(3) 監視、隔離、そして職業活動禁止
「伝染病の制圧」のための措置として、感染症予防法 28 条∼32 条は、患者等
の特定の名宛人を対象に、伝染病を制圧する(Bekämpfung)ための処分とそ
れに関する一般的規律を定めている。
すなわち、患者等が確認された(あるいは、故人が患者等であったことが判
明した)場合、一定条件のもとで、州の所轄官庁が監視(同法 29 条)、隔離(同
法 30 条)
、そして職業活動禁止(同法 31 条)のほか、必要な保護措置を行う
ことができる(同法 28 条 67))
。そして、上記措置の条件の下で、州政府は、伝
染病制圧のために相応の要請と禁止を法規命令によって発令する権限を授権さ
れている(同法 32 条)
。もっともこれらの規定は、適用例がない68)。
2 コロナ危機への段階的対応
公衆衛生と個人の自律は普遍的なテーマである。ドイツのコロナ危機対応に
おいて、医療の強制を含む行動制限は、人権保護との関係で、最も争われたテー
マであった。このテーマをめぐり、ドイツの法対応は揺れ動いた。ごく短期間
65) 法案理由 BT−Drs.19/13452,26
66) Gerhardt, a. a. O.(Note 46), §20 Rn. 33b
67) 28 条は 29∼31 条に対して一般条項の位置づけにある(28 条 1 項 1 文の文言参照)。
68) 横田・前掲注(4)42 頁

38

コロナ危機と法

に頻回の法改正が繰り返されたことは、行動制限に関するドイツの政策判断が
安定しなかったことを物語るものでもある。
本稿では、法改正の累積のすべてを時系列的に網羅するのではなく、時系列
を意識しつつ、規制方法の法学的特徴によって独自に区分し、全体を 5 期に分
けて考察する。
(1)
 第 1 期 非公式な合意に基づく法の逸脱的運用
前述したように、ドイツでは、従来、感染症予防法の 28 条∼32 条を根拠と
して、患者等を対象に感染症の制圧のための行動制限を行う仕組みが存在して
きた。
COVID−19 感染症の急拡大に接した初期、ドイツは、形式的には従来の法制
に則って、しかし実質的には州政府と連邦政府の代表者の非公式な合意に基づ
いて、その範囲と程度において従来法制の想定を超えるような69)適用をして、
初めの行動制限を行ったのである。
すなわち、2020 年 03 月 12 日に、連邦政府と州政府の代表者の合意に基づき、
社会的接触回避等を規制する「コロナウイルスの蔓延に対するガイドライン
(Leitlinien gegen Ausbreitung des Coronavirus)
」70)、さらに 16 日の蔓延危険度
中から高への引き上げを受け、22 日にはドイツ全土におよぶ強力な規制を内
容とするガイドライン71)を発した。以上を受けて、各州政府は、感染症予防法
28 条および 32 条を根拠に、ガイドラインの内容に則した州政令を発令したの
である。
この方法は、いわば、形式的には従来法制を用いながら、しかし実質的には、
69) この点につき、横田・前掲注(4)10 頁の分析を参照した
70) 基本方針およびイベントの禁止等の措置を示した。Bundesregierung, https://www.
bundesregierung.de/breg-de/themen/coronavirus/leitlinien-zum kampf-gegen-die-coronaepidemie-vom-16-03-2020-1730942(2023 年 3 月 31 日最終アクセス)
71) 規制内容は、他者との接触、公共空間における距離の確保、会合の禁止、飲食業や身
体接触を伴うサービス業の禁止など、「振り返れば……第一次ロックダウン」といえる内
容であった(横田・前掲注(4)2 頁)

39

論説(村山)

連邦政府と州政府の非公式な合意に基づき、連邦統一の、厳しい規制を行うも
のであるといえる。
(2) 第 2 期 追認的な法制化
いわば正式に、法律の改正をもって、権力分配の変更が行われたのは、第 2
期になってからである。
すなわち、前述した 2020 年 3 月 27 日に住民保護法が成立し、その中の感染
症予防法の改正 72)により、連邦議会の「全国規模の流行状況」の認定を前提と
して、事項限定・ 時限的に、コロナ感染症対策に関する執行権が連邦保健省
に移行した。
本期の改正内容は、感染症予防法の従来法制に 28a 条(コロナ規制のための
特則)73)を付加し、第 1 期で実施された措置および発せられた州政令を類型化
して列挙して74)、それらに法律上の根拠およびデータ保護法上の位置づけを与
えるというものである。
それとともに、(宗教行事や介護施設入居者面会など)行動規制を安易に行
てはならない類型を挙げて規制の補充性を明記するなど、規制に必要な考慮事
項を定めている。
そして、
規制の重要な基準とされた「7 日間指数」75)が法律の規定で定義され、
規制内容との対応関係が示された(28a 条 3 項)

72) 前出注(44)参照
73) 28a 条「COVID−19 の拡大の防止のための特別な保護措置」として、長文多数にわたる
規定がおかれた。
74) カタログ化して通例(Regelbeispiele)として挙げるものであって、他の場合を排除す
る閉じられたものではない(Vgl. BT−Drs. 19/23944, 31; Gerhardt, a. a. O.(Note 46)
, §28a,
Rn. 9)
75) 直近 7 日間以内における住民 10 万人当たりのコロナウィルスの新規感染者数であると
法律によって定義されている。連邦保健省の管轄するロベルト・ コッホ研究所が州および
市郡ごとに把握して公表している(Robert Koch Institut, https://www.rki.de/DE/Content/
InfA/N/Neuartiges Coronavirus/Daten/Fallzahlen Kum Tab.html(2023 年 3 月 31 日最終ア
クセス)。

40

コロナ危機と法

この期の対応は、第 1 期の非公式合意に基づく逸脱的な法運用に、法律上の
76)
根拠を与え、必要な考慮事項を加えた、いわば法的な「追認」
と枠づけ(歯

止め)を意味している77)。
(3)
 第 3 期 緊急ブレーキ条項とその例外
この期において、新たな構造的特徴がはっきりと現れた。本稿では、その前
段階から叙述しよう。
① 前段階──連邦と州の代表者の合意に基づく規制緩和策
この期を特徴づける構造的変化の前段階には、第 1 期にみられたのと同様、
連邦と州の代表者の非公式な合意の段階があった。
すなわち、2021 年 3 月、感染拡大に歯止めがかかり始めたことから、連邦首
相と州首相は、ワクチン接種証明等の提示を条件に、社会経済活動の再開を段
階的に行う見通しにつき合意した。その際、感染が再拡大したときには規制を
再有効化するという「緊急ブレーキ(Notbremse)」の合意が付された78)。
この規制緩和策が一部実施され、感染再拡大に転じたため、連邦と州は「緊
急ブレーキ」の発動に合意した。しかし、
「緊急ブレーキ」の適用について各
州の反応にはバラつきがあり、適用しない州もあったのである。
② 
「連邦緊急ブレーキ条項」の制定
そのため、①の合意内容を法制化し、連邦全域に統一的に発効する規制を法
律で行う必要性が認識された。2021 年 4 月 22 日に、第 4 次住民保護法改正 79)
の中で、第 4 次感染症予防法改正が行われ、同法 28b 条をもって、2021 年 4 月
76) 横田・前掲注(4)10 頁の分析
77) 横田・ 前掲注(4)4 頁も参照(「従来からの規制根拠規定である 28 条・ 32 条そのものの
内容には手をつけず、それらに基づいて規制が行われる場合には、一定の枠をはめるとい
う方法」)
78) 7 日間指数の減少した地域から、順次、社会経済活動を、陰性証明、ワクチン接種証明、
または回復証明の提示の条件付きで再開していく 5 段階のステップが示された。緊急ブレー
キとは、7 日間指数が 3 日間連続で 100 を超えた場合、その翌々営業日以降、規制が再有効
化するということである。

41

論説(村山)

23 日∼6 月 30 日までの「連邦緊急ブレーキ(Bundesnotbreme)
」条項がおか
れた。
この「連邦緊急ブレーキ」条項は、法律によって定義された科学的指標であ
る 7 日間指数 80)に対応して、一定の数値基準に該当する地域内に、自動的に再
規制を有効化することを内容とするものである81)。
この「連邦緊急ブレーキ」条項による行動制限がきわめて強力であったた
め82)、基本権侵害(執行府への権限付与の範囲が不明確、制限が過剰、科学的
知見との関係など)を理由とする憲法訴訟 83)、また不合理な保護措置の取消・
仮救済命令を求める行政訴訟が多数提起された84)。例えば、2021 年 11 月 9 日
の連邦憲法裁判所決定 85)は、外出制限等に対する憲法異議を斥けている。
③ コロナ保護措置例外規則の発令
①の合意内容の法制化のもう 1 つとして、第 4 次改正感染症予防法 28c 条は、
連邦議会・ 連邦参議院の同意を要するとの特則を付したうえで、ワクチン接
種者・ 検査済者・ それらと同等の者に関する保護措置の軽減または例外を定
める法規命令制定権限を連邦保健省に付与することを定めた86)。
本条に基づき、連邦保健省は、上記特則を受け、連邦議会・ 連邦参議院で
79) Viertes Gesetz zum Schutz der Bevölkerung bei einer epidemischen Lage von nationaler
Tagweite vom 22 04 2021(BGBl Ⅰ S. 802)。本法(条項法律)は、第 1 条 感染症予防法
改正、第 2 条 社会法典第 3 編改正(就労促進)、第 3 条 社会法典第 5 編改正(医療保険)、
第 4 条 施行日から構成されている。
80) 前掲注(75)再参照
81) ロベルト・ コッホ研究所の示す 7 日間指数が 100 を超える日が 3 日連続する群及び独立
都市内において自動的に再規制を有効化するというもの
82) とくに、夜間の外出制限に厳しい批判があったほか、州に立法管轄のある学校の授業
への規制は連邦制と抵触するものであった。
83) VGH Munchen, Beschluss v. 04. 10. 221−20 N 20. 767 等
84) 小山剛「コロナ禍の自由と安全」法律時報 93 巻 13 号(2021 年)2 頁以下で紹介の裁判
例等参照。
85) Beschluss vom 19. 11. 2021−1 BvR 781/21
86) 28c 条「ワクチン被接種者、被検査者、そしてそれらと同視する者に関する特別規定の
命令制定権限」の規定による。

42

コロナ危機と法

の同意を得たうえで、コロナ保護措置例外規則 87)を発令した。本規則は、ワク
チン接種、回復、そして検査陰性証明を提示する者(すなわち、免疫があると
推定される者、および陰性であることを証明できる者)について、感染症予防
法第 5 章に基づく要請と禁止を軽減・免除することを定めるものである。
この措置に対して、ワクチン接種率 20%にみたない中でワクチン接種者に
特権(Inpfprivilegien)を認めることになり不平等であるとの世論が発生し
た88)。しかし、これに対しては以下のように反論されている。すなわち、そも
そも基本権の制限には正当化事由が必要であって、規制は科学的知見に基づく
利益衡量に裏打ちされたものでなければならないところ、ワクチン接種等の上
記条件を充たした者については、行動制限が科学的にみて意味をもたなくなる
以上、正当化事由が失われることになる。そうであれば、基本権の制限は当然
に止めなければならない89)、と。これは政策上の裁量ではなく、憲法上の要請
に基づく措置である90)、と。
(4)
 第 4 期 ワクチン接種の間接的な強制
この期において、コロナワクチン接種に関し、はっきりと新局面を迎えたと
いえる。本項目では、同時期に現れた、対象を未接種者に絞った行動規制強化
と併せて叙述しよう。
① ワクチン未接種者に対する規制の強化
連邦ブレーキ条項の失効後、2021 年 12 月 10 日改正法による感染症予防法
28b 条によって91)、ワクチン未接種者のみを対象にした強力な行動規制が行わ
れている92)。それは、未成年、幼年者、生活必需品の店など、きわめて限られ

87) Verordnung zur Regelung von Erleichterungen und Ausnahmen von Schutzmassnahmen
zurn Verhinderung der Verbreitung von COVID−19(SchAusnahmV)
88) Vgl. Kießling, a. a. O.(Note 46), §28c, Rn. 2
89) Gerhardt, a. a. O.(Note 46), §28c, Rn. 1. また、当時の連邦司法相の立場(横田・ 前掲
注(4)103 頁)
90) Kießling, a. a. O.(Note 46), §28c, Rn. 2

43

論説(村山)

た例外しか許さない、社会経済活動全般にわたる非常に強力なものであっ
た93)。以下の②の措置と時期的にも重なり、政策判断として通底している。
② 施設就業者に対するワクチン接種の罰則を伴う間接的な強制 94)
①の時期と重なり、一部の施設の就業者に対して、事実上(あるいは、間接
95)
的に)
、ワクチン接種が義務化されるに至った。罰則付きであること、時限

条項であることを除き、麻疹の予防接種の強制と規律内容や構造が類似してい
96)
る(そのため、麻疹予防接種条文を利用している関係にある)


2021 年 12 月 10 日に、
「COVID−19 予防接種を強化し、他の COVID−19 パン
デミック関連規定を改正する法律」97)が成立し、その中の感染症予防法の改正
によって、2022 年 12 月 31 日までの時限的措置として、20a 条が加えられた。
本条の目的は、第一義的には、接種者本人ではなく、高齢者や病前の者など
の特別に脆弱な(vulnerablen)人的グループに属する者をコロナ・ ウィルス
の感染から保護することにあると明言されている98)。その目的のために、20a
91) 連邦ブレーキ条項に対する批判をふまえ、より長期に、より小さな人的集団に対する
規制に修正したという位置づけがなされている(BeckOK InfSchR/Johann/Gbriel IfSG,
§28b, Rn. 3a, 10. Edition; Vgl. Gerhardt, a. a. O.(Note 46), §28b, Rn. 2)
92) 映画館・ レストラン等での 2G ルールの徹底(例外は 18 歳未満等の者、生活必需品の
店のみ)、社会的接触制限の強化(未接種者が参加する私的な集まりには、同世帯者と他
世帯者 2 名までしか参加できない)など
93) 職場、保健施設、そして公共交通機関への立ち入りの制限を含む
94) 山本陽太「医療・ 介護従事者に対するワクチン接種証明義務は有効か?─感染症予防
法 20a 条の施行停止を求める仮命令申立てに関するドイツ連邦憲法裁判所 2022 年 2 月 10 日
決定」独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)の HP[最終アクセス日:2023 年 3
月 31 日]参照
95)「事実上」というのは等価値の機能を有するという意味であり、後出連邦憲法裁判所の
捉え方である。学説では、部分的、間接的な義務と表現されるのが一般的である(Gerhardt,
a. a. O.(Note 46), §20a, Rn. 5. 6. u. a.)。
96) Vgl. Gerhardt, ebd., §20a, 7a
97)「COVID−19 予防接種を強化し、他の COVID−19 パンデミック関連規定を改正する法律」
(Gesetz zur Staerkung der Impfpraevention gegen COVID−19 und zur Änderung weiter
Vorschriften im Zuzammenhang mit der COVID−19−Pandemie vom 10. Dezember 2021
(BGBl. Ⅰ S. 5162)

44

コロナ危機と法

条 8 項にて、(接種対象者の)身体の不可侵性の基本権が制限されることが挙
示されている。
この措置の対象となるのは、特定の職場で働く(tätig)者である。20a 条 1
項は 1 号∼3 号 1 文で、対象となる職場を詳細に挙げる。それは以下【表 2】の
とおり、3 グループに分類することができる。
【表 2】

99)

グループ 1:医療施設(1 項 1 文 1 号に対応)
グループ 2:高齢者、障害者、要介護者の世話および訓練のための完全ないし
一部入院施設(1 項 1 文 2 号に対応)
グループ 3:外来の介護関連サービス施設(1 項 1 文 3 号に対応)
上記就業者について、医学的な禁忌(Kontraindikation)を理由に接種不能
な者を除き(20a 条 1 項 2 文)
、ワクチン接種か快復のいずれかの証明ができる
ようにしなければならないとする(20a 条 1 項)
。これを担保(確保)するため
に、以下の方法をとる100)。
該当就業者は、2022 年 3 月 15 日までに、施設や企業の管理者に、①ワクチ
ン接種証明書(1 号)
、②快復証明書(2 号)
、③妊娠証明書(3 号)または④禁
忌証明書(4 号)のいずれかの証明書を提出する義務を負う(20a 条 1 項 1 文)

後出 2022 年 2 月 10 日連邦憲法裁判所決定の中で、証明書①②の内容の規定
のあり方 101)につき、合憲性に疑義が呈されたのをうけ、2022 年 3 月の改正感
染症予防法 102)22a 条 1 項および 2 項において定義され、そこにおいて具体的な

98) Gerhardt, a. a. O.(Note 46)., §20a, Rn. 6. Vgl. BT−Drs. 20/188; auch Gerhardt, ebd.,
§20a, Rn. 2ff. とくに憲法適合性については、BT−Drs.20/188 および 2022 年 4 月 27 日連邦
憲法裁判所決定(後出注(106))、auch Gerhardt, ebd.,§20a Rn. 9ff.
99) Gerhardt, ebd., §20a Rn. 19f. の整理に従った。
100)山本陽大「職場における感染防止をめぐる法政策」独立行政法人 労働政策研究・ 研修
機構(JILPT)の HP[最終アクセス日:2023 年 3 月 31 日]参照。

45

論説(村山)

基準が示された103)。
証明書が提出されなかった場合、施設や企業の管理者は、所轄の保健所
(Gesundheitsamt)に報告しなければならない(20a 条 2 項 2 文)。そして、保
健所は当該就業者に対し、当該施設・ 企業における就業を禁止することがで
きる(同条 5 項 3 文)。
未提出の就業者には秩序違反(Ordnungswidrigkeit)として 2,500 ユーロを
上限とした過料が課される(同法 73 条 1a 項 7h 号)
。これは、行政罰としての
罰金である。
2022 年 3 月 16 日以降の新規就業者については、就業開始前までに上記証明
書を提出しなければならない。提出しない場合には、その者は雇用されない。
③ 連邦憲法裁判所決定
本措置に対しては、適用企業ならびに施設就業者(医師等)らから、憲法訴
訟が提起されたが 104)、
(本訴にともなう仮命令の発出の申立てに関する)2022
年 2 月 10 日連邦憲法裁判所決定 105)、
(その本訴である)2022 年 4 月 22 日連邦
憲法裁判所判決 106)で、いずれも斥けられた。
とくに本訴である 2022 年 4 月 22 日連邦憲法裁判所判決では、施設勤務者に
限定した規制であることを前提に、当時の科学的知見に基づき、主に基本法 2
条 2 項 1 文の規定する人身を害されない権利としての基本権(ほか、基本法 12
条 1 項の規定する職業の自由に関する基本権)との関係で、比例原則の考え方
101)当初、コロナ保護措置例外規則 2 条 3 号および 5 号で要件が規定され、具体的内容につ
いてはポール・ エリッヒ研究所がロベルト・ コッホ研究所と協議して Web サイト上で定
める方法がとられていた。
102)Gesetz zur Änderung des Infektionsschutzgesetzes und anderer Vorschriften v. 18. 3. 2022
(BGBl Ⅰ S. 466)
103)Gerhardt, a. a. O.(Note 46), §20a, Rn. 1a, 13c
104)山本・前掲注(94)参照
105)BVerfG Beschl. v. 10.2.2022−1 BvR 2649/21
なお、山本・ 前掲注(94)に全文の邦訳が掲載。先立って提起された憲法訴訟を前提に、仮
命令の発出の申立てに対する判断を簡潔に示した内容である。
106)Beschluss vom 27. April 2022−1 BvR 2649/21

46

コロナ危機と法

に則った衡量判断が行われている。
(5)
 第 5 期の徴候 国民一般に対するワクチン接種の強制
その後、国民一般に対するワクチン接種の強制が政治的議論の俎上に上がっ
たことを加えておく。すなわち、2022 年 4 月に、連邦議会において、年齢を区
切った国民一般に対するワクチン接種義務化の法案が提出された107)。
法案提出段階で、与党内で意見は一致せず、政府案としては提出できず、与
党 3 党(社会民主党〔SPD〕
、緑の党〔BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN〕、自由民
主党〔FDP〕)の議員グループによって法案が提出された。その内容は、感染
症予防法の改正により、60 歳以上の国民を対象に、ワクチン接種を義務付け
るというものである。この法案のほか、複数の義務化法案、また義務化反対の
法案が提出されている。
票は拮抗したが、各法案いずれもが連邦議会で否決された108)。この結果に
対しても、賛否両論がある109)。
3 小括──コロナ危機対応法制における人権制約手法
公衆衛生と個人の自律の調整は、
伝統的なテーマである。これが、パンデミッ
ク下でいっそう先鋭化し、不確実性を加え、雇用や経済問題を取り込み複合化
して喫緊の回答を迫ったといえる。この問いに対し、ドイツはいかなる特徴を
もった規制方式や規制内容で応じたのか。
① 逸脱的運用と追認的な法制化
パンデミックに対する初期(また、その後の感染拡大期にもみられた)対応
として、連邦と州の代表者の合意を実質的な根拠として、既存の法制を本来の
107)中村容子「下院で新型コロナワクチン接種義務化法案を否決、義務化のめど立たず」
日本貿易振興機構(JETRO)HP[最終アクセス日:2023 年 3 月 31 日]
108)賛成 296、反対 378、棄権 9 で否決となった。
109)例えば、医療従事者からは、一般への接種義務付けの拡大なくば、医療従事者への義
務化は正当化できないとの意見も寄せられている。

47

論説(村山)

想定を逸脱するような範囲と程度で適用し、その後、追認的に、法的根拠や配
慮措置等が手当されるという現象をみいだすことができた。固有のバックボー
ンを有する、非常時における、1 つの、応急的な対処方法である。
② 直接に法律上の規定を根拠とした規制
行動制限は、直接に法律上の規定を根拠として、明確な範囲画定と例外設定
をもって行われた。すなわち、外出制限やワクチン接種の間接的強制は、連邦
保健省の法規命令ではなく、直接に感染症予防法に規定をおいて行っている。
これが、人権制約に対する事前の予測、事後的な司法審査、ときに事後的救済
をも可能ならしめた。 
② 科学的指標の法規化という手法の多用
行動制限については、科学的指標を法規化する手法が多用された。第 2 期の
行動規制では、感染症予防法 5 条で、ロベルト・ コッホ研究所の示す 7 日間指
数を法律上定義したうえで、規制内容の対応関係を条文に明記した。また、と
くに第 3 期の連邦緊急ブレーキ条項は、
「7 日間指数」に対応して法定された基
準に該当した地域について、自動的に、規制を再開するというものである。こ
れは、迅速な対応を要する事態にあって、行政機関の恣意的判断を排除する仕
組みである。

第 5 章 医療の供給にかかわる法制
次に、本章では、医療の供給にかかわる法制の変化ないし不変化を考察する。
安全な医療・ 医薬品を供給するための諸制度は、各国共通に有するところで
ある。この領域に、従来、ドイツではいかなる法制が存在し、そしてコロナ危
機に対応してなぜいかなる変更が加えられたのか。あるいは、加えられなかっ
たのか
1 医療の供給にかかわる従来法制
(1) 医薬品承認制度 110)──国内法と国外法による多層的な規制構造
ドイツにおける医薬品および医療機器に対する規制は、ドイツの国内法、
EU 法、そして条約等の国際法規範の適用を受け、または影響下にある(とく
48

コロナ危機と法

に医薬品法は、後述のとおり、ヨーロッパ化している)
。以下にて、とくに本
稿テーマとかかわる医薬品に対する規制について、多層的に存在する諸規範を
概観しよう。
① 国内法規範──医薬品法
ドイツ基本法は、
「公共の危険を伴う、
又は伝染性の人畜の病気に対する措置、
医業その他の治療業及び医療営業に対する許可、並びに、薬局制度、薬剤、医
薬品、治療薬、麻酔薬及び毒薬の法」を競合的立法事項と定める(基本法 74
条 1 項 19 号 111))
。これに従い、連邦が立法した連邦法が医薬品法(Gesetz über
den Verkehr mit Arzneimitteln,Arzneimittelgesetz−AMG)である。
医薬品法は、その 1 条で、
「住民への医薬品の適正な供給のために……医薬
品の流通の安全、特に医薬品の品質、有効性および安全性(Unbedenklichkeit)
を確保すること」を目的とする旨を規定する112)。医薬品法の本来的な機能と
しては、①医薬品の安全性の保証、②医薬品の供給の確保、そして③新たな疾
病の調査・ 研究が挙げられるところ、①が最も重要な任務であると位置づけ
られる113)。
医薬品法の構成を【表 3】にて示す。このうち、特に本稿テーマとかかわる
のは、第 3 章「医薬品の製造」
、第 4 章「医薬品の承認」、第 7 章「医薬品の販売」、
そして第 16 章「医薬品から生じた損害に対する責任」である。

110)Vgl. Spickhoff/Heßhaus, Medizinrecht, 4. Aufl., C. H. Beck, 2022, AMG. 天田悠「ドイツ
の医薬品承認制度」医事法研究第 5 号(信山社、2022 年)153 頁以下、ウルリッヒ・ M・
ガスナー(上野純也訳)「ドイツにおける医薬品・ 医療機器に関する法規制システムの制
度概要」明治大学 ELM=明治大学法学部比較法研究所『新たな薬事制度を求めて』
(尚学社、
2020 年)15 頁以下参照
111)初宿・前掲注(7)41 頁
112)本規定は、2021 年 9 月 27 日改正(Gesetz zum Erlass eines Tierarzneimittelgesetzes und
zur Anpassung arzneimittelrechtlicher und anderer Vorschriftem vom 29. 9. 2021, BGBl. Ⅰ S.
4530)で動物用の医薬品に関係する文言などが改められたが、本稿テーマには影響のない
変更である。
113)ガスナー/上野・前掲注(110)20 頁参照

49

論説(村山)

【表 3】医薬品法の構成

第 1 章  本法の目的、概念規定、適用領域 1 条∼4b 条
第 2 章  医薬品の要件 5 条∼12 条
第 3 章  医薬品の製造 13 条∼20d 条
第 4 章  医薬品の許可 21 条∼37 条
第 5 章  医薬品の登録 38 条∼39d 条
第 6 章  臨床試験における人の保護 40 条∼42c 条
第 7 章  医薬品の販売 43 条∼53 条
第 8 章  安全と品質管理 54 条∼55a 条
     56 条∼61 条(削除)
第 10 章 医薬品リスクの監視・収集・評価 62 条∼63k 条
第 11 章 監督               64 条∼69b 条
……略……
第 16 章 医薬品から生じた損害に対する責任 84 条∼94a 条
第 17 章 刑罰および過料規定 95 条∼98 条
② EU 法規範、国際法規範
ワクチンを含む一定の医薬品については、EC 規則(Regulation(EC)No
114)
726/2004)
が、ドイツを含む EU 加盟国に直接適用される(ドイツ医薬品法

はヨーロッパ化しているといわれる所以である)
。 
さらに、医薬品の承認の判断基準や安全規制について、国際規範による調整
や統一化が行われている。米国の食品医薬品局〔FDA〕、欧州委員会〔EC〕

日本の厚生労働省、米国研究製薬工業協会(医薬品の製造団体)
、欧州製薬団
114)Regulation(EC)No 726/2004 of the European Parliament and of the Council of 31
March 2004, Laying down Community procedures for the authorisation and supervision of
medicinal products for human and veterinary use and establishing a European Medicines
Agency(人用および動物用の医薬品の承認および監督のための共同体の手続きを定め、欧
州医薬品庁を設立する)

50

コロナ危機と法

体連合会、日本製薬工業協会からなる医薬品規制調和会議(ICH)が、基準や
提出文書のフォーマットを定めており、ドイツを含むヨーロッパ諸国はこれに
従っている。
(2)
 医薬品の製造および販売に対する規制の概要
医薬品に関しては、上記多層的な法規範により、おもに製造および販売に関
して、所轄官庁の承認を条件とするという方式で、規制が行われている。
このうち、ワクチンを含む115)一部の医薬品の承認については、欧州医薬品
庁(European Medicines Agency−EMA)による中央承認審査手続によらねば
ならない。中央承認審査については、EU 法である EC 規則(Regulation(EC)
No 726/2004)が直接適用される。中央審査においては形式的な決定権限は欧
州委員会にあって、同委員会はほとんど欧州医薬品庁の決定に従っている。そ
して、ドイツのポール・ エールリッヒ研究所は、この欧州医薬品庁が管轄す
る委員会の 1 つである。
以上の規制の対象となる(もしくは法規命令によりこれを免れる)医薬品の
使用によって人身被害が生じた場合、一定の制限を受けるが、製薬事業者が危
険責任を負う(医薬品法 84 条 116))

2 権利としての予防接種
ドイツでは、予防接種を受けることは、医療保険の被保険者の権利である。
従来、各保険者が任意に予防接種を給付として行ってきたところ、2007 年の
法定疾病保険競争強化法によって、特定の対象予防接種が共通の公的保険医療
の給付とされた。以下に全制度の概要を述べよう117)。
115)ワ ク チ ン 等 の ウ ィ ル ス 性 疾 患 に 適 応 す る 新 し い 作 用 物 質 を 含 む ヒ ト 用 医 薬 品
(Regulation(EC)No 726/2004 4 条 1 項、3 条、別表 1)は中央審査手続きの対象である。
116)詳細は条文を参照。
117)松本勝明「ドイツにおける予防接種政策」海外社会保障研究 Autumn 2015 No.192 25
頁以下参照

51

論説(村山)

(1) ドイツの公的保険医療 118)
まず、利用されるドイツの公的医療保険制度について概説しよう。 
ドイツは、保険による医療保障制度をとり、その 9 割が公的医療保険である
法定疾病保険(gesetzliche Krankenversicherung)である119)。この法定疾病保
険に関する規律は社会法典第 5 編(SGB Ⅴ)が定める。
法 定 疾 病 保 険 で は、 保 険 者 で あ る 法 定 疾 病 金 庫(gesetzliche
Krankenkasse)120)と保険医 121)とのそれぞれの連邦レベルの連合体(つまり、
連邦疾病金庫中央連合会と連邦保険医協会)が連邦枠組契約
(Bundesmantelvertrag)を締結する122)。それにしたがって、法定疾病金庫の
118)以下 2・ 3 番目の段落は、村山淳子「ドイツの医療法制─医療と法の関係性の分析─」
西南学院大学法学論集 43 巻 3・4 号(2011 年)243 頁以下の叙述を基にしている。
119)他方、民間医療保険が医療保険の 1 割ほどを占め、医療保険の重要な要素であり続けて
いる。
 2007 年の法定疾病保険競争強化法(GKV−Wettbewerbsstärkungsgesetz)によって、公
的医療保険に加入する義務がない者にも、公的医療保険に任意に加入するか、公的医療保
険を代替する基礎的内容の民間医療保険に加入することが義務づけられ、もって、(わが
国とは違う意味で)ドイツは国民皆保険を実現した。
 この改革により、ドイツの民間医療保険は、公的医療保障をも担うこととなり、私法上
の契約でありながら、公的責任に応じた法規制を受けるようになった。すなわち、民間医
療保険の保険者は、給付と保険料の点で公的医療保険と同等以上の全保険者一律の基礎タ
リフで、保険契約を締結することを義務づけられ、解約することができない。
 このような仕組みの中、予防接種権についても、民間医療保険の被保険者は、公的医療
保険の被保険者と同等以上には保障されていた。
120)前身は職種ごとの共済金庫であったものが、そのまま法定疾病保険の保険者となった。
国から独立した公法上の法人で、労使が自主管理する。
 1996 年以降、保険者の金庫選択権が拡大してゆき、2007 年の法定疾病金庫競争強化法で
は、被保険者に加入疾病金庫の包括的な選択権がみとめられた。
121)外来の保険医療を行う開業医である。保険医になるためには、保険医協会の管轄ごと
の認可委員会の認可を受けなければならない。
122)社会法典第 5 編 87 条に基づき、連邦疾病金庫中央連合会と連邦保険医協会との連邦枠
組契約によって、「保険医の診療に関する基本的な事項」に関して取り決められる。そこ
には、診療報酬算定基準である統一評価基準(Einheitlicher Bewertungsmaßstab, EBM)
も含まれる。

52

コロナ危機と法

州レベルの連合会と各保険医協会 123)とが包括契約(Gesamtvertrag)を締結す
る。それにもとづき、各保険医協会が所属の保険医に診療報酬の配分を行い、
それによって各保険医が現物給付として124)被保険者および(一定要件のもと
で)家族に医療を行う仕組みとなっている(以上は外来医療で、入院医療の場
合は、また別の法律関係が成立する)

この法定疾病保険制度は、保険者自治(労使自治、金庫自治)を基本原則と
している。そのもとでは、国は法的監督を行うにとどまり、被保険者と保険者
の代表による自主管理組織が制度の運営を行う。この原則により、法定疾病金
庫は国民の生活実態に則した規制と決定を行うことができるとされる125)。
(2)
 公的保険医療給付としての予防接種
以上の公的保険医療の仕組みにおいて、従来、各法定疾病金庫は、規約を定
めて、各々、任意に、予防接種を保険医療の給付として行ってきた。
これが、2007 年の法定疾病保険競争強化法によって、社会法第 5 編 20d 条お
よび 20i 条に基づき、特定の予防接種につき、統一的に、公的保険医療の給付
とされたのである(対象外の予防接種については、従前のとおり、各法定疾病
金庫の規約による)

この制度の対象となる予防接種は以下のように決定される。まず、ⅰロベル
ト・ コッホ研究所に設置され、多様な分野の専門委員からなる予防接種委員
会(Ständige Impfkomimission, STIKO)が、科学的知見に基づき予防接種のリ
スクと便益を考慮して、価値の高い予防接種を対象に、勧告を行う(感染症予
123)全国にある保険医協会が、さらに連邦保険医協会を構成している。いずれも公法上の
法人である。
124)給付範囲については、連邦保険医協会、ドイツ病院団体、および連邦疾病金庫中央連
合会で組織される連邦共同委員会が策定する指針によって定められる(社会法典第 5 編 91
条、92 条)。
125)地方自治に近い考えである。津田小百合「ドイツ疾病保険における事業者の役割」健
保連海外医療保障 128 号(2021 年)9 頁参照(生きた民主主義と国家からの距離を確保で
きるとする)。

53

論説(村山)
126)
防法 20 条 2 項)。
。次に、ⅱ保険者側の代表者であるドイツ病院協会ならび

に疾病金庫連邦中央連合会と診療側の代表者である連邦保険医協会により設置
される連邦共同委員会(Gemeinsamer Bundesausschuss)が、通常は予防接種
委 員 会 の 勧 告 を 踏 襲 し た 内 容 て127)、 予 防 接 種 指 針(Schutzimpfungs−
128)
Richtlinie)
を定める。そして、ⅲこの予防接種指針に基づき、法定疾病金庫

ないしその州レベルの連合会と各保険医協会が、予防接種の実施に関する契約
を締結する(以上、社会法典第 5 編 132e 条 1 項)

以上の制度により、公的医療保険の被保険者は、特定の予防接種を、公的医
療保険の給付として、無償で受けることができるのである。
なお、法定疾病金庫は、予防接種の実施を管轄する州当局と協力して、被保
険者が予防接種を受けることを促進する義務を負っている(社会法典第 5 編
20d 条 3 項)
。そのため、法定疾病金庫は、被保険者に対して、予防接種を受
けるように啓発、相談、情報提供を行わねばならない。この義務は、前述の間
接的な義務化の文脈に組み入れられてゆく129)。
2 コロナ危機に対応した医療の供給確保法制
コロナ危機に対応した医療の供給を確保するための動きは、①ワクチンを含
む医薬品等の供給確保(1)
、②コロナワクチン接種を受ける権利の保障(2)

126)これまで勧告された予防接種には、標準予防接種(Standardimpfung)
(年齢に応じて受
けるべき予防接種であり、ジフテリア、B 型肝炎、インフルエンザ、麻疹、風疹、水ぼう
そう等)と特別の蔓延状況や危険がある場合に受けるべき予防接種(コレラ、チフス等)
がある(松本・前掲注(117)27 頁の表 1 参照)
127)勧告と指針の関係につき松本勝明「ドイツ医療保険における予防接種の位置づけ」社
会保険旬報 2551 号(2013 年)29 頁
128)Richtlinie des Gemeinsamen Bundesausschusses über Schutzimpfungen nach 20d Abs.1
SGB Ⅴ .
129)2015 年に麻疹の流行を背景とした健康増進・ 予防強化法が成立し、保険医療の定期健
康診断に予防接種状況の確認と相談助言が含まれるようになるとともに、幼児が保育施設
に入所する前に、予防接種による健康の保護に関して医師の相談助言を受けたことを証明
することが求められるようになった。

54

コロナ危機と法

そして③医療トリアージに対する規制である(3)

(1)
 ワクチンを含む医薬品等の供給確保
1)法的根拠
2020 年 3 月 27 日の第 1 次改正感染症予防法は、その 5 条 2 項 1 文 4 および 5 号
で、全国規模の流行状況下に限り、医薬品等の供給を確保するための措置を行
う権限を連邦保健省に付与した130)
(下記【表 3】参照)
。それを根拠として、連
邦保健省は、医薬品等の供給を確保するために、広範にわたる措置を実施した。
これらの措置は、①直接に法律に規定されたもの(そのうえで、法規命令で
さらに詳細に規定されたものを含む)と、②法律を根拠として連邦保健省が発
した法規命令に規定されたものに分けることができる。
【表 3:医薬品等の供給確保のための措置を行う連邦保健省の主な権限】

① 
(包括的に)医薬品等の供給を確保するための措置(4 号)131)
132)
② 法令の例外の許可(4 号 a)

③ 医薬品等の譲渡の強制または禁止(4 号 e)
④ 売却、販売、価格形成ならびに設定、支給、報酬に関するルールを定める
こと(4 号 f)
⑤ 医薬品等の不足時に、
その供給の優先順位に関するルールを定めること(同
133)
上)

⑥ 特許権の放棄・制限(5 号)
130)感染症予防法 5 条 2 項は「全国規模の流行状況の範囲内で、連邦保健省には、州の権限
を害することなく、以下の権限が与えられる」とし、4 号および 5 号にて医薬品の供給等
を確保するために具体的に付与されている権限を挙げている。
131)以下a∼g に対して補充的な位置づけにある
132)医薬品法、麻酔剤法、薬局法、社会法典第 5 編、輸血法、治療薬広告法の規定およびそ
れらを根拠に発せられる法規命令、医療機器法上の規定、そして人体の防護装具に関する
規定を挙げる。
133)「ワクチンを含む医薬品の入手が制限されている場合に、特定の人的な集団のために、
連邦と州による医薬品の販売もしくは利用の優先権を予定するルールを定めること」。

55

論説(村山)

2)法律に直接に規定された事項
感染症予防法 5 条 2 項 1 文 4 および 5 号は、連邦保健省に、以下の事項を行う
権限を付与することを明記している。
すなわち、①ワクチンを含む医薬品等を確保するための措置を講ずること、
②①の措置の対象となる医薬品等の製造・ 販売に関する既存の法令(具体的
法律名を列挙)の例外を許可すること、③①の措置の対象製品の市場における
譲渡(または不譲渡を)義務付けること、④医薬品等の供給の優先順位を定め
ること、そして⑤特許権の制限を行うことである。
①は条文の体裁上、後出の規定を受け皿的に補充する包括的条項の位置づけ
になっている。
②は既存の法令に例外を許容すること自体を定めるものであり、
これを根拠に当該法令にいかなる例外が許容されるのか、その具体的内容につ
いては定めていない(その意味では、①に近い)
。③は営業活動を侵害ないし
制限を加えることを意味し、⑥は特許権を侵害ないし制限することを意味して
いる。そして、⑤は、本質的な基本権である基本法 1 条の保障する人間の尊厳
にふれかねない。当初、その具体的な内容は法規命令にゆだねられていたとこ
ろ、最終的に、(具体的な優先枠や優先順位含め)感染症予防法で明記される
に至っている。
3)法律を根拠とする法規命令で規定された事項
他方、連邦保健省は、2020 年 5 月 26 日、感染症予防法 5 条を根拠に、法規
命令である医療必需品供給確保規則 134)を制定した。そこに何をどこまで規定
しているかは、上記 2)と対応関係にある。
まず、❶連邦保健省による医薬品等の調達及び販売について、
(①のストレー
トな具体化といえるが)本規則で初めて規定された(2 条 1 項)

次に、❷医薬品法および医薬品取締規則の例外の許容について、具体的な許

134)Medizinischer Bedarf Versorgungssicherstellungsverordnung−MedBVSV(BAnz AT 26.
05. 2020 Ⅴ 1)

56

コロナ危機と法

容事項を以下のごとく各項ごとに挙げている。
❷− 1 ❶で未承認医薬品の調達・ 販売を行う場合、連邦上級官庁による審査
の結果をふまえた判断を行うべきこと(3 条 2 項)
、そして、未承認医薬品の販
売は、連邦上級官庁による品質保障とリスク・ベネフィットの関係がポジティ
ブであることの認定がなければ、許可されないこと(3 条 3 項)が規定される。
❷− 2 医薬品法 84 条(製造事業者等の危険責任)の特則(例外)として、
❶の対象医薬品につき、コロナウィルスまん延対応のために連邦保健省が流通
させ、かつ、医薬品法違反が損害を生じさせる可能性が高い場合には、製造事
業者等は、その使用効果に関し、故意または重大な過失があるときを除き、責
任を負わないことが規定される(3 条 4 項)

このように、未承認医薬品の調達と流通、それにともなう危険責任の一部制
限を認めることについては、法律上の規定をおくことなく、連邦保健省が法規
命令を発して定めている135)。
(2)
 コロナ・ ワクチン接種請求権の保障
1)公的医療保険制度の利用
従来、ドイツでは、価値の高い特定の予防接種については、予防接種委員会
の勧奨に基づき、公的保険医療の給付として、その接種は被保険者の権利とし
て無償で保障されてきた。
コロナ危機において、ドイツでは、コロナ・ ワクチン接種権の保障を、こ
の公的保険医療制度を利用し136)、改正された感染症予防法を根拠とする連邦
保健省の法規命令によって、公的保険医療の給付対象予防接種にコロナワクチ
ンを追加することで実現した。
135)なお、後述するコロナワクチン接種規則により、コロナワクチンについては、医薬品
法規による承認前であっても、科学的知見により医学的に正当とされる場合には、接種可
能とされている(コロナワクチン接種規則 1 条 2 項)
136)医療が保険制度によって組織化され、医療に対する国の統制がゆきわたっていること
が、ワクチンの効率的な普及に寄与した側面がある。

57

論説(村山)

すなわち、感染症予防法 5 条 2 項および社会法典第 5 編 20i 条 3 項 137)は、連
邦保健省に、
(ロベルト・ コッホ研究所の常設予防接種委員会と疾病金庫中央
連合会と協議の上で)被保険者がさらなる特定の予防接種または特定の予防措
置を受ける権利を有することを、
法規命令によって決定する権限を付与した(こ
の中に、SARS−CoV−2 ワクチンが含まれている)
。連邦保健省は、それを根拠に、
法規命令であるコロナ・ワクチン接種規則 138)を制定した。そこでは、コロナ・
ワクチン請求権者として、法定保険ならびに民間保険の被保険者(1 条 1 項 2
文 1 号)、ドイツ国内に住居(通常の居所)を有する者(2 号)

(後述優先順位
付規定で定義された)施設で治療・介護等を受けているかそこに勤務する者(3
号)などが挙げられている139)。
公的保険医療の給付についての決定権限が、労使の自治的な決定から、中央
行政官省による決定に移行していることが注目される。
2)ワクチン接種の優先順位の決定
そして、ワクチンの不足下にあって、ワクチン接種の優先順位が、2 で述べ
たワクチン供給の優先順位と同様、
(当初、連邦保健省が法規命令によって定
めたものが、最終的に)感染症予防法によって規定を有するにいたっている。
当初は、コロナ予防接種規則において、接種請求権者間の優先順位を定める
のみであった。そこでは、年齢、有病者、妊婦、それらと緊密な関係にある者、
(貧困層含む)職業、あるいは(2 回目接種、ブースター接種の場合には)接
種間隔・ 接種の回数などの要素によって優先順位が決せられた。2021 年 1 月
∼4 月までのワクチン接種をめぐる状況や議論の変化中で、頻繁に改正され、
追加・ 詳細化・ 順番繰り上げなどが行われている。
137)「連邦保健省は、常設予防接種委員会と疾病金庫中央連合会と協議の上、連邦参議院の
同意を得ることなく、被保険者がさらなる特定の予防接種その他特別な予防措置を受ける
権利を有することを法規命令によって決定する権限を有する」
138)Coronavirus−Inpfverordnung−CoronaInpfV(BAnz AT 21. 12. 2020 Ⅴ 3)
139)その後、改正を重ねる中で、優先順位とともに、変化がある。

58

コロナ危機と法

しかし、その後、2021 年 3 月 29 日の感染症予防法改正 140)により、同法に直
接の関連規定をもつに至った。すなわち、本改正で追加された 20 条 2a 項は、
その 1 文で、コロナワクチン接種の目的としてとくに以下を挙げる。つまり、
①「重度または死に至る病気の進行を減らすこと」
(1 号)
、②「コロナウィル
スの感染の阻止」(2 号)
、③「重度または死に至る病気の進行のリスクが特に
高い人の保護」
(3 号)
、④「障害、就業、または入所に起因して感染リスクが
特に高い人の保護」
(4 号)
、そして⑤「国家の中枢機能、重要なインフラ、生
活に必要なサービスの中心領域、そして公的な生活を維持すること」
(5 号)
を掲げた(下線は筆者)
。そのうえで、第 2 文で、ワクチン不足時にあって上
述のワクチン接種に関する法規命令が接種の優先順位をつける場合には、この
接種目的に合わせた順位付けをするように求めている。上記目的規定は、個人
の法益と、公衆の健康・公共の福祉の慎重な衡量判断に基づくものである141)。
(3) 医療トリアージへの立法対応を求める連邦憲法裁判所判決 142)とその後の
立法対応
「医療トリアージ」とは、多数の重傷(症)者がいる場合に、その中から救
命の可能性が高い患者を優先して、医療を行うことをいう。
ドイツでは、コロナによる医療トリアージに関し、立法対応といえるものは
存在していなかった。しかし、従前からの医療トリアージに関する議論と、そ
れに対応する医療の備えがあったことを基礎として、とくに「人間の尊厳」を
本質的な価値として守る憲法秩序との整合性を意識した提言が、学術団体なら
びに公的機関によって公表されている。

140)「国内の感染状況に合わせた規律に改めるための法律」Gesetz zur Fortgeltung der die
epidemische Lage von nationaler Tragweite betreffenden Regelungen vom 29. 3. 2021(BGBl.
Ⅰ 370)の中の感染症予防法改正による
141)BT−Drs.19/26545, 18; Gerhardt, a. a. O.(Note 46), §20 Rn. 10a
142)本項目については、土井健司編著『コロナ禍とトリアージを問う』
( 青弓社、2022 年)
30 頁以下〔加藤泰史]を主に参照した。

59

論説(村山)

すなわち、2020 年 3 月 25 日、ドイツ集中治療・ 救急治療医学会(DIVI)な
ど医学・ 生命倫理学系 7 学会の共同による「COVID−19 パンデミックを背景と
する救急医療資源および集中医療資源の分配に関する決定」143)が公表された。
そこでは、治療の成功の見込みという医学的基準に則ること、そして年齢、社
会的地位、基礎疾患・障害の有無を基準としないことが明記された。
続いて、2020 年 3 月 27 日、ドイツ倫理評議会が特別提言「コロナ危機にお
ける連帯と責任(Solidarität und Verantwortung)
」を公表した144)。基本的に
DIVI 臨床倫理提言を許容したうえで、とくに人工呼吸器や ECMO の事後的取
外しを禁止している。
いずれの提言も、「人間の尊厳」を本質的価値とする憲法的秩序との整合性
を意識し、社会的役割や予測生存年数によって、功利主義的に、人間の生命の
価値を比較考量することを禁止する内容となっている(とくに、社会的役割を
基準としてはならない点において、公衆衛生からくるワクチン接種の優先順位
との違いに留意されたい)

その後、障害者や基礎疾患保有者らが、立法機関による医療トリアージの基
準作成を求めて憲法訴訟を提起した。2021 年 12 月 28 日連邦憲法裁判所判決は、
障害者差別を禁止する基本法 3 条 3 項 2 文 145)を理由として、立法機関はパンデ
ミック下でのトリアージから障害者を保護するのための措置をすみやかに講じ
なければならず、それを怠ったことを違憲とした。
その後、この判決を背景に、2022 年 12 月 20 日感染症予防法 5c 条による伝
染病トリアージ規制に至った。
143)Deutsche Interdisziplinäre Vereinigung für Intensiv−und Notfallmedizin(DIVI)et al(DIVI
et al, Entscheidungen über die Zuteilung von Ressourcen in der Notfall−und der
Intensivmedizin im Kontext der COVID−19−Pandemie , 25. 03. 2020(https://www.divi.de/
empfehlungen/publikation/covid-19-dokumente/covid-19-ethik-empfehlung[ 最 終 ア ク セ ス
日:2023 年 3 月 31 日])
144)http://www.ethikrat.org/(最終アクセス日:2023 年 5 月 19 日)
145)基本法 3 条 3 項 2 文「何人も、その障害(Behinderung)を理由として不利益を受けて
はならない」初宿・前掲注(7)3 頁

60

コロナ危機と法

5 小括──法規命令と法律の棲み分け
医薬品の安全供給や医療資源の適正分配の問題は、従前から存在する医療政
策上のテーマである。しかし、これが、パンデミックによる緊急の必要や不足
の中で顕在化・ 先鋭化し、深刻な回答を迫ることになった。
コロナ危機下、医療の供給を確保するために、改正された感染症予防法なら
びに社会法典第 5 編を根拠に、連邦保健省が、広範な執行権をふるった。この
点において、全対応を通じて変わらない構造がみてとれる。
しかし、前章と異なり、このテーマでは、法律上の規定を直接の根拠とする
場合と、法律を根拠に法規命令による場合とで、規制方法に棲み分けがみられ
た。一方で、ワクチン不足時の供給ならびに接種の優先順位の決定、さらに、
コロナトリアージに関しても、ルールを法律で直接定めることが求められてい
る。他方で、ワクチンの製造・ 承認・ 販売のすべての段階で、法律による抽
象的な根拠づけに基づき、連邦保健省の法規命令によって既存法令の例外を含
む措置が認められているのである。

第 6 章 結論
以上のドイツ法制の考察により、パンデミックという 1 つの非常時の類型に
対し、いかなる法対応の在り方が構想できるのだろうか。独特の歴史、それを
背景とする独自の法思想、それらと結びついた固有の法の体系を有するドイツ
法制の変化から、わが国にも通ずる普遍的なモデルをみいだすことはできない
だろうか。
1 コロナ危機の特性
COVID−19 感染症の蔓延という事態 146)は、非常事態の中でも、いくつもの
際立った特性を有している(以下は、各国においてそう変わらない)。
第 1 に、科学的知見の不確実性である。未知のウィルスに対する不確実で流
動的な科学的知見に基づいて、重要な政策決定を積み重ねてゆかねばならな
かった。
61

論説(村山)

第 2 に、時間的制約である。人命が次々に失われてゆく、深刻な危険が迫る
中で、喫緊の対応を迫られたのである。
むろん、非常時の法対応であっても、客観的事実をふまえ、それとの間で合
理的な連関関係が求められることに変わりはない。しかし、上記のような特性
ゆえに、その立法政策判断に揺れや不精確があったことはドイツにあっても否
めない147)。そのプロセスも含めて、本対象は考察されねばならない。
2 対応法領域
ドイツ法制において、コロナ危機に対応した領域は、どこであったか。この
問いは、非常時法の射程──政策判断に帰せられる問題 148)にかかわっている。
ドイツにおいて、コロナ危機への対応は、感染症の蔓延そのものに対する第
一次的対応と、第一次的対応か生じた事態に対する第二次的対応に分けて考え
られる。
第一次的対応は、個別行政法を主とする公法領域の対応である。すなわち、
連邦法である感染症予防法が中心的な役割を果たした149)。もっとも、コロナ
危機対応は、防災(基本法 30 条及び 70 条により州の管轄)の事項にも属して
いる。たとえば、バイエルン州では、バイエルン防災法に基づく災害事態認定
がなされている150)。
146)ドイツの感染状況については、在ドイツ日本大使館のウェブサイトの新型コロナ関連
情報(https://www.de.emb-japan.go.jp/itpr_ja/konsular_coronavirus200313-1.html[最終ア
クセス日:2023 年 3 月 31 日])に掲載され、随時更新されている。なお、寺井麻也「ドイ
ツにおける新型コロナウイルスへの対応」健保連海外医療保障 No128(2021 年)31 頁以下
も参照。
147)現地に在住した横田は、はじめての感染者報告からわずか 2 か月の間に、「急速な感染
拡大と医療資源の枯渇、そして積み重なる死亡者数を前に、あれよあれよという間に規制
が厳しくなり、ロックダウンが行われ、最初の感染症予防法改正が行われた」と表現して
いる(横田・はじめにⅰ)。
148)大橋・前掲注(2)1 頁以下
149)「全国規模の流行状況」の認定要件にも、「公衆衛生に対する深刻な危険」との文言が
ある。

62

コロナ危機と法

そして、第二次的法対応といえるのは、在宅勤務・ ワクチン接種などのた
めの労働環境を整備する労働・ 雇用関係法、個人・ 団体に対する経済・ 財政
支援のための税法・ 経済法、医療体制を整備し病院を支援する病院関係法領
域での対応である。
このようにコロナ危機に対するドイツの法対応は、第二次的対応を含めると、
広範多岐にわたり、今後も拡大が予想される。政策判断であるゆえに、各国偏
差がありえようが、類似の体制の国ではかなりの共通点がみうけられる。
3 時限的、事項限定的な対応
ドイツにおいて、コロナ危機への対応は、いずれも、効力ないし適用におい
て、事項と時間を限定した対応であった(その結果、延長、再延長、あるいは
追加措置、強化措置が法律によって繰り返された)
。かかる条項を、既存の条
文はそのままに、書き加えるという方法がとられたのである151)。
たしかに、伝統的テーマに対する(より先鋭化された、しかも喫緊の問いに
対する)回答、したがって従来の法発展の延長線上でとらえられ、恒久的な示
唆を含んでいるともいえる。しかし、あくまで例外的対応であり、これを恒久
法の解釈・ 適用に還元するためには、解釈上の 1 段階をふまねばならない。
4 中央行政省への権力の集中
社会において発生する諸問題の解決を誰にゆだねるかを決定することは、1
つの法秩序にとって重要なテーマの 1 つである。コロナ危機に対し、この点に
ついてドイツは以下のような決定を行っている。
パンデミックに対応する迅速かつ効率的な政策のために、ドイツ法制は、行
150)井田敦彦「COVID−19 と緊急事態宣言・ 行動規制措置─各国の法制を中心に─」国立
国会図書館 調査と情報─ ISSUE BRIEF ─ 1100 号(2020 年)7 頁参照
151)横田・ 前掲注(4)4 頁参照(「従来からの規制根拠規定である 28 条・32 条そのものの内
容には手をつけず、それらに基づいて規制が行われる場合には、一定の枠をはめるという
方法」)

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論説(村山)

政(執行)権限を中央行政省である連邦保健省に集中させた。これは、連邦制
における州から連邦への権限移行、そして三権分立における立法権から行政権
への権力の移行を意味している。
ドイツの連邦制は、連邦と州の垂直的な権力分立を意味するものであっ


地方分権や地方自治 153)とは異質なものである154)。しかし、パンデミック

152)

における迅速かつ効率的な対応の必要に応えるための民主的国家の権力分配の
あり方が中央行政府に権力を集中させることであるという点では、大きな示唆
を与えるものである。
5 形式、実質にわたる法治原理の貫徹
ドイツにおいては、形式・ 実質にわたる法治原理が、コロナ危機対応にお
ける人権の制約の限界を画する機能を発揮した。
行動制限やワクチン接種の強制、あるいはワクチン供給ならびに接種の優先
順位など、
とりわけ基本権の制限(あるいは、
憲法秩序の変更)は、法律(Gesetz)
の規定によって直接に定めて行われた。さらに、基本権に実定法を超えた普遍
的価値を認め、憲法的秩序、とくに人間の尊厳の保護との整合性を意識するド
イツ法の特性は、コロナ・ トリアージをはじめとする、医療倫理が問題とな
る局面で端的に表れている。
6 医学的指標の法規化という手法──医学的判断と行政的判断の関係
ドイツのコロナ危機対応法制を、医療・ 保健政策における決定権限という
152)それが、立法・ 行政・ 司法の水平的な権力分立を補完している(山口・ 前掲注(22)24
頁参照)
153)最大判昭和 38・3・27 刑集 17 巻 2 号 121 頁によれば、「新憲法の基調とする政治民主化
の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手で
その住民の団体が主体となって処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものであ
る」
154)この意味では、公的医療保険の対象予防接種の決定権限が、保険者自治から連邦保健
省に移行したことのほうが、わが国にとって示唆的であるかもしれない。

64

コロナ危機と法

視点からみると、以下のような棲み分けを看取できる。
① 行動制限やワクチン接種の間接的強制、あるいはワクチン接種等の優先
順位の決定など、基本権の制限(ないしそれと機能的に等評価とみとめられる
措置)においては、科学的基準を直接に法規化する手法が用いられた(7 日間
指数や緊急ブレーキ条項などが典型例である)
。これにより、(専門家集団によ
る決定をまてない)緊急対応にあっても、行政的判断の介入を排除している。
② ①以外──つまり、未承認医薬品の使用許可やコロナワクチン接種の保
険追加など、とくに医療の供給にかかわる事項については、
(専門家集団との
協議などを経るとしつつも)最終的な決定権限が専門家集団から連邦保健省へ
の移行することを受容している。
7 防御の力の存在
コロナ危機に対応するドイツ法の動きにおいては、非常時法の動きとそれに
抗する平時法原理による防御反応という構図をみてとることができる155)。
たしかに、一方では、感染症の蔓延に対応すべく、例外的・ 一時的に、権
力分配構造および保健政策決定過程に変更がみられた。
しかし、他方で、それに対する防御反応として現れた、権力移譲や基本権へ
の介入を一時的・ 一定限度にとどめよう、あるいはそれらによる人権侵害を
事後的審査で是正しようとする動きがみられた。連邦議会による「全国規模の
流行状況」の認定、累積してゆく膨大な法律条文、そして多数の憲法訴訟の提
起はその例であるといえよう。
ドイツのコロナ危機対応法制が、手続・ 実体ともに、人権保護との関係で
歯止めがかけられたのは、かかる構図のもとで防御の力が存在してきたからで
あると評価できる。これは、ドイツ連邦共和国の健全性の証である。
155)同様の見方をするものとして、例えば、大林編・前掲注(5)
[石塚]は「法治国家的対応」
と「民主国家的対応」を強調する。また、横田・ 前掲注(4)はじめにⅱ参照(「立法府・ 行
政府・ 司法府において、強度な権利制限とそれに対し歯止めをかける動きとが同時に機能
したからこそこのような措置が可能となった」)

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論説(村山)

【謝辞】
本稿は JSPS 科研費 JP20K01439 の助成を受けた研究成果である。なお、
本稿の内容は、比較法学会第 86 回総会シンポジウム「ワクチン法制の比較:
新型コロナ感染症パンデミックの前と後」
における報告予定内容と関連があり、
本シンポジウム準備会からも貴重な示唆を受けた。
〈参考文献について〉
以下にて、本論文の全般にわたり参照した主要な参考文献をあげる。
Gerhardt, Infektionsschutzgesetz, 6. Auflage, C. H. Beck, 2022
Kießling, IfSG, 3. Aufl., C. H. Beck, 2022
大林啓吾編『コロナの憲法学』
(弘文堂、2020 年)100 頁以下〔石塚壮太郎〕
横田明美『コロナ危機と立法・行政』
(弘文堂、2022 年)
(むらやま・じゅんこ 筑波大学ビジネスサイエンス系教授)

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