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<論説>EU 国際私法と労働契約の概念

藤澤, 尚江 筑波大学

2023.07.31

概要

論 説

EU 国際私法と労働契約の概念

藤 澤 尚 江
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.日本の抵触法上の労働契約
  1 .法の適用に関する通則法
  2 .「労働契約」の解釈
Ⅲ.EU 法
  1 .制定法
  
(1)
 抵触規則
  
(2)
 国際裁判管轄規則
  2 .裁判例
  
(1)
 Holterman 事件
  
(2)
 Bosworth & Hurley 事件
  
(3)
 ROI Land Investments 事件
  
(4)
 小括
Ⅳ.検討
  1 .法性決定の方法
  2 .具体的な判断基準
Ⅴ.おわりに

Ⅰ.はじめに
近年、ギグ・ エコノミー(インターネットを通じて短期・ 単発の仕事を請
負い、個人で働く就業形態)の拡大や多様な働き方の拡大に伴い、労働関係法
令の適用のされ方について活発に議論がされている 1)。
1)

たとえば、内閣官房「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイド

ライン」
(令和 3 年 3 月 26 日)available at https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000759477.
pdfq。

147

論説(藤澤)

仕事の発注者(事業者)と就労者とが常に同一国にいるとは限らない。事業
者と就労者が異なる国にあり、当事者間の契約に争いが生じた場合、いずれの
国の法が適用されるか(準拠法)が問題となる(抵触法の問題)。日本では、
抵触法の問題は、主として法の適用に関する通則法(適用通則法)によって解
決される。適用通則法は、労働契約に関し労働者保護のために例外規定を有す
る。しかし、適用通則法は「労働契約」または「労働者」を定義する明文の規
定を有さず、例外規定が適用される範囲は明らかではない。労働者または労働
契約をどのように定義するかは各国において様々であり、欧州という限られた
地域においてでさえ判断の結果は国により差異がある 2)。労働契約と認められ
ることで、抵触法上の保護を与えられ、かつ、適用される法により得られる結
論が異なるとすれば、抵触法上の労働契約に該当するか否かの判断は重要であ
ろう 3)。
他方、欧州連合(EU)においては、近年、労働契約該当性に関して抵触法
の解釈に影響を与える裁判例が続けて示されている。そこで本稿は、EU のこ
れらの裁判例により、日本の抵触法上の「労働契約」の範囲について示唆が得
られないか考察する。EU の抵触規則は、
適用通則法を制定する際に参照され 4)、
規定ぶりも日本法に類似する。したがって、EU 法の解釈論は、適用通則法の
適用範囲を考える上で参考になりうるだろう。
以下では、まず、労働契約に関する日本の適用通則法の規定を概観し、これ
2)

ILO, The role of digital labour platforms in transforming the world of work, pp.25-26
(2021)

available at https://www.ilo.org/global/r esearch/global-r epor ts/weso/2021/
WCMS_771749/lang--en/index.htm;UGLJEŠA GRUŠI , THE EUROPEAN PRIVATE INTERNATIONAL
LAW OF EMPLOYMENT, pp.73 and 77(2015).
3)

See also, Mirriam A Chery, A Global System of Work, A Global System of Regulation?:

Crowdwork and Conflicts of Law, 94 T UL L. REV. pp.187-188(2019).
4)

たとえば、適用通則法制定のための要綱中間試案補足説明も、試案中の「労働契約」

のメルクマールが「ローマ条約 6 条における「労働契約」の概念と原則一致する」旨を記
載する(法務省民事参事官室「国際私法の現代化に関する要綱中間試案補足説明」44 頁(平
成 17 年 3 月 29 日)
『法の適用に関する通則法関係資料と解説』別冊 NBL110 号(2006 年)
(以
下では、「補足説明」))。

148

EU 国際私法と労働契約の概念

までその適用範囲につきいかなる議論がされてきたかを確認する(Ⅱ)。次に、
EU の労働契約に関する抵触規則・ 国際裁判管轄規則を概観した後、労働契約
の性質について欧州司法裁判所がいかなる判断をしたか示す(Ⅲ)
。そして、
EU の裁判例から、
日本の抵触法にいかなる示唆が得られるか考察したい(Ⅳ)。

Ⅱ.日本の抵触法上の労働契約
以下では、まず、日本の法の適用に関する通則法(適用通則法)上の「労働
契約」に関する規定を概観し、適用通則法上の「労働契約」がどのように解釈
されてきたのかを確認する。
1.法の適用に関する通則法
国際的な私法関係につきいずれの国の法が適用されるか、この決定は、主と
して、適用通則法に従いなされる。通常、契約の準拠法は、当事者が準拠法を
選択していればその法により(適用通則法 7 条)5)、当事者の準拠法選択がなけ
れば適用通則法 8 条 6)に従い当該問題と最も密接な関係がある地(最密接関係
地)の法による。労働契約には、適用通則法 12 条 7)に特例がある。本条に従っ
5)

適用通則法 第七条 法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択

した地の法による。
6)

適用通則法 第八条 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、

当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
  2  前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うもの
であるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係す
る事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に
関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主
たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。[第
3 項省略]
7)

適用通則法 第十二条 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定によ

る選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の
法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定
の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及
び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。

149

論説(藤澤)

た場合にも、当事者は契約の準拠法を選択することが可能である。しかし、当
事者が A 国法を準拠法として選択したとしても、労働者は、当該労働契約の
最密接関係地(B 国)の強行規定の適用を主張できる(適用通則法 12 条 1 項)

また、最密接関係地について、通常は適用通則法 8 条 2 項の推定規定によるが、
労働契約には本法 12 条 2 項・ 3 項に労務提供地を最密接関係地とする推定規定
がある。当事者による準拠法の選択がない場合、契約の準拠法は最密接関係地
法となるが(適用通則法 8 条)
、本法 12 条 3 項により、労働契約は反証のない
限り労務提供地の法により規律されることになる。
適用通則法に労働関係に関する特例が設けられたのは、労働者保護のためで
ある 8)。すなわち、労働者と事業者との間には交渉力に格差があるのが一般で、
通常の契約と同様に労働契約についても当事者による準拠法の選択を認めれ
ば、比較的法律知識に乏しい労働者にとって不利な法が選択され、事業者にとっ
て労働者保護を定める法制が、容易に潜脱・ 回避されうる。それゆえに本法
12 条 1 項で当事者自治に制限を設けた。
適用通則法の文言からすれば、本法 12 条は問題となる契約が「労働契約」
である場合に適用されるものと解される。しかし、日本の裁判例で、通則法上
の労働契約にあたるか否かを争ったものは見当たらない。他方、適用通則法
12 条の労働契約の範囲について問題となりうる事案として、ケイ・エル・エム・
(前頁からつづく)
  2  前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(そ
の労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れ
た事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地
の法と推定する。
  3  労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契
約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において
労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
8)

小出邦夫編著『逐条解説 法の適用に関する通則法〔増補版〕』156 頁(商事法務、
2014 年)、

櫻田嘉章=道垣内正人編『注釈国際私法 第 1 巻 §§1 ∼ 23』286 頁[高杉直](有斐閣、
2011 年)、神前禎『解説 法の適用に関する通則法 - 新しい国際私法』106 頁(弘文堂、
2006 年)。

150

EU 国際私法と労働契約の概念

ローヤルダツチエアーラインズ事件
(東地判令 4・1・17 労判 1261 号 19 頁)

ゲー
テ・ インスティトゥート事件(東地判平 28・3・ 24(平成 26 年(ワ)第 24339
号)などが見られる。実質法上の労働者性が争われ、少なくとも当事者の一方
が外国法人であることから、準拠法について争う余地もあったといえる。
2.「労働契約」の解釈
適用通則法 12 条の「労働契約」を定義する明文の規定は存在しない。他方、
適用通則法制定過程における要綱中間試案では、次の通り「労働契約」の定義
が示されていた 9)。すなわち、
「労働契約とは、労働者(労務の供給をする者
をいう。
)が使用者(労務の供給を受ける者をいう。)に対しその指揮監督に服
して労務を供給し、その対価として報酬を得る旨の契約をいうものとする」と
する。要綱中間試案補足説明はこのような定義をとる理由を説明しないが、要
綱中間試案が公表される前年の法制審議会では、事務局より「日本の労働基準
法が適用になりますところの労働契約…その定義にほぼ合致するもの」と説明
される 10)。また、適用通則法制定前の学説には、抵触法独自の性質決定が日本
の実質労働法から大きく外れないとし、その理由として、労働契約存否の判断
基準は日本、欧州の大陸国法諸国、英米法系の労働法において大きな隔たりが
ないこと、いずれの国の労働法の実質労働法の基本目的も労働者と使用者の対
等性の確保・ 労働者保護に求められ、抵触規則の法目的も同様であることを
あげるものがある 11)。
適用通則法制定後の学説は、要綱中間試案における定義にほぼ合致する。す
なわち、本法 12 条の「労働契約」を、①一方の指揮命令下において、②もう
一方が労務を提供し、③その対価として報酬を得ることを内容とする契約とす
るのが一般的である 12)。ある文献は、労働基準法 9 条の定義とその裁判例を参
9) 「国際私法の現代化に関する要綱中間試案」3 エ(イ)
(平成 17 年 3 月 22 日)、補足説明・
前掲注(4)47 頁。
10) 法制審議会国際私法(現代化関係)部会第 15 回会議(平成 16 年 7 月 20 日開催)。
11) 米津孝司『国際労働契約法の研究』157-158 頁(尚学社、1997 年)。

151

論説(藤澤)

照する 13)。他方で、同様の基準について労働契約法 6 条を参照し考えるべきと
する文献 14)もある 15)。
多くの文献が、適用通則法 12 条の労働契約は上述 3 つの要素からなると考
えるが、
より具体的にどのような基準により判断すべきか示すものは多くない。
ある文献は「使用者による指示の拘束性の存否が労働契約か否かの基準となる
から、経済的にも社会的にも他人の指示に服することなくなされる労務の提供
は委任契約などとして性質決定され」るとする 16)。また別の文献は、労働契約
と請負契約・ 委任契約との違いは「交渉力格差に鑑みて労働者の保護を図る
という、本条の趣旨を前提とすれば、労働者が使用者の指揮命令に服するかど
うかを主たる基準とすべきであろう。請負契約・委任契約においては、請負人・
受任者が労働内容を決定することができるのに対して、労働契約では労働内容
を労働者自身が決定できない(労働者の従属性ないし労働の他人決定性)とい
12) 中西康ほか『国際私法[第 3 版]』235 頁(有斐閣、2022 年)、道垣内正人『国際契約実
務のための予防法学―準拠法・ 裁判管轄・ 仲裁条項』59 頁(商事法務、2012 年)(澤木敬
郎=道垣内正人『国際私法入門[第 8 版]』208 頁(有斐閣、2018 年)も同旨)、横山潤『国
際私法』183 頁(三省堂、2012 年)、櫻田=道垣内編・ 前掲注(8)275 頁[高杉直]、須網隆
夫=道垣内正人編『国際ビジネスと法』133 頁[北澤安紀](日本評論社、2009 年)、村上
愛「法の適用に関する通則法 12 条と労働契約の準拠法」一橋法学第 7 巻第 2 号 313 頁(2008
年)、西谷祐子「契約の準拠法決定における弱者保護」法律のひろば 59 巻 9 号 28-29 頁(2006
年)、補足説明・ 前掲注(4)44 頁。神前・ 前掲注
(8)107 頁は、「指揮監督下における労務の
提供」と「それに対する報酬」の 2 つの点と整理する。
13) 神前・前掲注(8)107 頁。なお、本書は労働契約法成立前の文献である。
14) 櫻田=道垣内編・前掲注(8)
[高杉直]276 頁。
15) 労働基準法・労働契約法では適用対象を「労働者」とするため、適用範囲の問題は「労
働者」の解釈の問題としてあらわれる。労働基準法と労働契約法の「労働者」は、これを
統一的に把握すべきとする見解もあるが、それぞれの法規ごとに趣旨・ 目的に沿って判断
すべきとの見解もある(石田眞「「雇用によらない働き方」浜村彰ほか編著『クラウドワー
クの進展と社会法の近未来』424-425 頁(労働開発研究会、2021 年)、
『新基本法コンメンター
ル 労働基準法・ 労働契約法[第 2 版]』別冊法学セミナー 263 号[毛塚勝利]352 頁(2020
年))。後者の見解によれば、労働基準法を参照するか労働契約法を参照するかにより結論
が異なりうるであろう。
16) 横山・前掲注(12)183 頁。

152

EU 国際私法と労働契約の概念

う、労働者の従属的地位ゆえに、労働者を保護する必要性が認められる」とす
る 17)。そして、具体的な判断基準として、①契約締結段階における従属性・
他人決定性、②契約履行過程における従属性・ 他人決定性、③報酬の額や性
格(労働対償性)
、④材料等の経費負担や損害の負担(事業者性)をあげる 18)。
他方で、「事案ごとに弱者保護の必要性(事実上の雇用関係、交渉力の格差
など)を考慮して、国際私法独自に判断すべき」であり、請負契約や委任契約
は、「一方が独立の事業者としての実態を欠く場合は、労働契約に含まれる」
との文献もある 19)。

Ⅲ.EU 法
以下では、労働契約に関する EU の抵触規則および国際裁判管轄規則を概観
し、欧州司法裁判所の「労働契約」に関する判断を見ていく。本稿は、抵触規
則上の労働契約の範囲について考察することを目的とするが、EU 法について
は、国際裁判管轄規則についても触れる。これは、EU では国際裁判管轄規則
に関する議論が、抵触規則の解釈に大きく影響を与えるためである。
1.制定法
(1)抵触規則
準拠法選択に関する欧州の統一規則としては、1980 年契約債務準拠法に関
するローマ条約(ローマ条約)20)、契約債務の準拠法に関する欧州議会及び理
事会規則(ローマⅠ規則)21)がある。ローマ条約制定前の報告書では、個別労
働契約 22)においては当事者が同等ではないため、社会経済的観点から弱者と見
17) 櫻田=道垣内編・前掲注(8)276 頁[高杉直]。
18) 前掲注。
19) 奥田安弘『国際財産法』94 頁(2019 年、明石書店)。
20) 80/934/EEC:Convention on the law applicable to contractual obligations opened for
signature in Rome on 19 June 1980, OJ L 266, 9.10.1980, p. 1-19.
21) Regulation(EC)No 593/2008 of the European Parliament and of the Council of 17 June
2008 on the law applicable to contractual obligations(Rome I),OJ L 177, 4.7.2008, p. 6-16.

153

論説(藤澤)

なされる当事者(労働者)に対し、よりふさわしい保護を保障することが問題
とされた 23)。このような考慮にもとづいて、ローマ条約では、労働者保護のた
めに個別労働契約に関する特別規定が次のとおり設けられた。すなわち、まず、
個別労働契約に関しても、当事者による準拠法選択を認めながら、準拠法選択
のない場合に適用される法のうち、強行法規によって労働者に与えられる保護
が奪われないものとし(ローマ条約 6 条 1 項)
、次に、当事者による準拠法選
択がない場合には、
労働者が通常労務を提供する国の法 24)を準拠法とした(ロー
マ条約 6 条 2 項)25)。ローマ条約を 2008 年に規則化・ 現代化したのがローマⅠ
規則 26)である。個別労働契約の準拠法はローマⅠ規則の 8 条 27)に規定されるが、
その内容はローマ条約 6 条と大きく変わらない 28)。

22) この文言からも明らかなように、ローマ条約の労働契約に関する特例は個別的な労働
契約のみを対象とし、労働協約は対象としない。Mario Giuliano and Paul Lagarde, Report
on the Convention on the law applicable to contractual obligations, 25, OJC 282/80, 31
October 1980. 本報告書の翻訳については、野村美明ほかの一連の業績を参照するが特に、
野村美明ほか「翻訳 契約債務の準拠法に関する条約についての報告書(五)」阪大法学 47
巻 457 頁(1997 年)を参照した。
23) Giuliano & Lagarde, id.
24) ただし、より密接な関係を有する国が他にあれば、その国の法が準拠法となる(ロー
マ条約 6 条 2 項ただし書)。
25) ローマ条約 第 6 条
  1  第 3 条の規定にかかわらず、個別労働契約に関して当事者により選択された法は、労
働者に対する保護であって、法選択がない場合に、本条 2 項にしたがい適用される法の強
行規定(mandatory rule)が付与するものを、労働者から奪う結果となってはならない。
  2  第 4 条の規定にかかわらず、3 条にしたがい準拠法が決定されない場合、労働契約は
次の法により規律される。
 (a) 労働者が一時的に他国で雇用されるとしても、労働者が通常当該契約上の労務を提
供する国の法。
 (b)
 労働者が通常一国で労務を提供しない場合、労働者が雇用された事業所の所在国の法。
 ただし、個別労働契約により密接な関係を有する国がある場合には、当該国の法により規
律される。

154

EU 国際私法と労働契約の概念

(2)国際裁判管轄規則
国際裁判管轄規則は、国際的な民事事件につき、ある国の裁判所が当該事件
を扱うことができるかを規定する。欧州の国際裁判管轄権に関する統一規則と
して、1968 年に民事および商事事件における裁判管轄の執行に関する条約(ブ
リュッセル条約)29)が成立した。ブリュッセル条約は欧州共同体構成国間で締
結された。他方、欧州共同体(EC)および欧州自由貿易地域(EFTA)構成国
の間で 1988 年に締結された条約が EC・EFTA の裁判管轄及び判決の執行に関

26) 本条文の訳および改正のローマ条約からローマⅠ規則への改正点等については、高橋
宏司「契約債務の準拠法に関する欧州議会及び理事会規則(ローマⅠ規則)-4 つの視点か
らのローマ条約との比較」国際私法年報 13 号 14-15 頁(2011 年)、高橋宏司「契約債務の
準拠法に関する欧州議会及び理事会規則:ローマ条約からの主要な変更点を中心に」同志
社法学 63 巻 6 号 21-22 頁(2012 年)も参照。
27) ローマⅠ規則 第 8 条
  1  個別労働契約は、第 3 条にしたがい当事者により選択された法が準拠法となる。しかし、
法選択がない場合に本条の 2 項、3 項、4 項にしたがい適用されるべき法の中で当事者によ
る別段の合意の許されない規定によって労働者に与えられる保護は当事者による法選択に
よっても奪われない。
  2  当事者による法選択がない場合、個別労働契約の準拠法は、常に労務提供がされる国
の法となり、そのような国がない場合は通常提供される労務の起点となる国の法となる。
常に労務が提供される国は、労働者が一時的に他の国で労務を提供しても変わらないもの
とする。
 3 項 本条 2 項にしたがい準拠法が決定されない場合、個別労働契約は、労働者が雇用さ
れた事業所の所在地国法により規律される。
 4 項 本条 2 項または 3 項に示されるよりも、個別労働契約により密接な関係を有する国が
ある場合には、その国の法が適用される。
28) 個 別 労 働 契 約 の 準 拠 法 に 関 す る 規 定 の 変 更 点 と し て は、 ① 同 条 1 項 の 強 行 規 定
(mandatory)の明確化、②同条 2 項の労務提供地の文言の変更、前文(36)の一時的な労働
に関する説明の追加、④前文(20)への推定規定に関する説明の追加が挙げられる。See
also, LOUISE MERRET, EMPLOYMENT CONRACTS

IN

PRIVATE INTERNAITONAL LAW, paras. 6.21 and 6.24

(2nd ed. 2022);ROME REGULATIONS COMMENTAR Y, paras.1-3[Franzen/Wutte](Gralf-Peter
Calliess and Moritz Renner ed. 2020).
29) 1968 Brussels Convention on jurisdiction and the enforcement of judgments in civil and

commercial matters /*Consolidated version CF 498Y0126(01)
/OJ L 299, 31.12.1972, p. 32-42.

155

論説(藤澤)

するルガノ条(ルガノ条約)30)である。ブリュッセル条約とルガノ条約の内容
はほぼ同じであるが締約国が異なるため、それぞれの条約は両者の適用関係を
明記する(ブリュッセル条約 55 条、ルガノ条約 54 条 b)

成立当初のブリュッセル条約には、個別労働契約に関する規定は存在しな
かった。労働契約の特則の成文化は、時期尚早とされたためである 31)。その後、
ブリュッセル条約下での裁判例を受け、ルガノ条約は労働契約に関する特則を
設けた。これにより、個別労働契約(individual contracts of employment)に
ついては、労働者が通常労務を提供する地に管轄が認められ(ルガノ条約 5 条
1 号)、紛争発生前になされた合意管轄は効力を有しないこととなった(ルガ
ノ条約 17 条)32)。
1989 年改正ブリュッセル条約 33)は、ルガノ条約の成立をうけてブリュッセ
ル条約を改正したものである 34)。ルガノ条約とほぼ同内容であるが、若干の点
でより労働者保護に資する 35)。これを 2000 年に規則化したのが民事及び商事
事件における裁判管轄及び裁判の執行に関する 2000 年 12 月 22 日の理事会規則
(ブリュッセルⅠ規則)36)である。規則化に伴い、従来は 5 条と 17 条とに分け
て規定されていた個別労働契約に関する規定が、第 2 章第 5 節 37)にまとめて規
30) 88/592/EEC:Convention on jurisdiction and the enforcement of judgments in civil and
commercial matters - Done at Lugano on 16 September 1988, OJ L 319, 25.11.1988, p. 9-48
31) 欧州における労働契約事件の国際裁判管轄権に関する立法化の流れについては、芳賀
雅顯「労働事件の国際裁判管轄―ヨーロッパ民訴法における労務給付地の決定問題を中心
に―」法律論叢 77 巻 6 号 161-163 頁(2005 年)も参照。See also, GRUŠI , supra note 2, at 59.
32) ルガノ条約 第 5 条
 締約国の領域内に住所を有する者は、次に定められる場合においては、他の締約国の裁判
所において訴えられる。
 一 契約事件については、義務履行地の裁判所。個別労働契約事件については、労働者が
通常その労務を提供する地であり、労働者が通常、同一国で労務を提供しない場合には、
労働者を雇用した営業所の所在地の裁判所となる。[以下略]
 ルガノ条約 第 17 条[1 項から 4 項まで略]
  5  個人の労働契約については、管轄合意は、紛争発生後に行われた場合にのみ、法的効
力を有する。
  日本語訳については、奥田安弘『国際取引法の理論』308 頁以下(有斐閣、1992 年)参照。

156

EU 国際私法と労働契約の概念

定されることになった。これによる内容の変化はほとんどない。その後、ルガ
ノ条約が 2007 年にブリュッセルⅠ規則の内容を反映した改正を行い(改正後
の条約を「ルガノⅡ条約」38)とする)
、2015 年にはブリュッセルⅠ規則がブ
33) 1968 Brussels Convention on jurisdiction and the enforcement of judgments in civil and
commercial matters(consolidated version)(OJ C, C/27, 26.01.1998).本規則の翻訳につい
ては、中西康「民事及び商事事件における裁判管轄及び裁判の執行に関する 2000 年 12 月
22 日の理事会規則(EC)44/2001(ブリュッセルⅠ規則)
〔 上〕
〔 下〕」国際商事法務 30 巻 3
号 311 頁(2002 年)、30 巻 4 号 465 頁(2002 年)を、開催の背景やその内容については、中
西康「ブリュッセルⅠ条約の規則化とその問題点」国際私法年報 3 号 147 頁以下(2001 年)
を参照。
34) 報告書の日本語訳は関西国際民事訴訟法研究会の一連の成果を参照するが、特に、関
西国際民事訴訟法研究会「民事及び商事に関する裁判管轄並びに判決の執行に関するルガ
ノ条約公式報告書〔全訳〕〔3〕」国際商事法務 29 巻 6 号 755-757 頁(2001 年)を参照する。
35) 第一に、5 条について、ルガノ条約では、労働者が同一国で通常労務を提供しない場合、
労働者も雇用者も労働者を供した営業所の所在地で訴えられるのに対して、改正ブリュッ
セル条約は、これを労働者のみにしか認めない。第二に、17 条の管轄合意に関しても、ル
ガノ条約では、個別労働契約に関する紛争発生前の合意は効力を有しないとされていたと
ころ、改正ブリュッセル条約では、労働者が合意を主張する場合には、紛争発生前の合意
であっても効力を有することになった。See, P. Jenard and G. Moller, Report on Convention
on jurisdiction and the enforcement of judgements in civil and commercial matters done at
Lugano on 16 September 1988(90/C 189/07)C189/57, pp.72 and 76.
36) Council Regulation(EC)No 44/2001 of 22 December 2000 on jurisdiction and the
recognition and enforcement of judgments in civil and commercial matters OJ L 12, 16.1.2001,
p. 1-23.
37) ブリュッセルⅠ規則 第 2 章第 5 節 個別労働契約事件の管轄
 第 18 条
  1  個別労働事件における管轄は、本節による。ただし、第 4 条及び第 5 条第 5 号の適用を
妨げない。
  2  労働者と個別労働契約を締結する雇用者が、構成国の領域内に住所を有していない場
合であっても、その者が構成国に支店、代理店その他の営業所を有しているときは、その
業務に関する紛争については、その構成国の領域内に住所を有するものとみなす。
 第 19 条
 構成国の領域内に住所を有する雇用者は、次のいずれかの裁判所に訴えられる。
   1  住所を有する構成国の裁判所
   2  他の構成国で、次のいずれかの裁判所

157

論説(藤澤)

リュッセルⅠa 規則 39)へと改正する。しかし、個別労働契約に関する規定は、
ブリュッセルⅠ規則とほぼ同内容である 40)。
2.裁判例
以下では、欧州司法裁判所の裁判例 3 点を紹介する。これらはいずれも、労
働契約に関する国際裁判管轄規則の適用が争われた事例である。しかし、これ
(前頁からつづき)
  a  労働者が通常その労務を給付する地若しくは通常その労務を給付した最後の地の裁判所
  b  もし労働者が同一の国で通常その労務を給付しているのではなく、また同一の国で通
常その労務を給付したのでもない場合には、労働者を雇用した営業所の所在地若しくは所
在していた地の裁判所。
 第 20 条
  1  雇用者がなす訴えは、労働者が住所を有する構成国の裁判所においてのみ提起するこ
とができる。
  2  本節の規定は、本節の規定に従い本訴が係属する裁判所において、反訴を提起する権
利を損なうものではない。
 第 21 条
 本節の規定は、次のいずれかの場合にのみ、これと異なる合意をすることができる。
  1  紛争が生じた後に合意がされたとき
  2  その合意が、労働者に対し、本節により管轄が認められる裁判所以外への提訴を認め
るとき。
38) Convention on jurisdiction and the recognition and enforcement of judgments in civil and
commercial matters, OJ L 339, 21.12.2007, p. 3-41.
39) Regulation(EU)No 1215/2012 of the European Parliament and of the Council of 12
December 2012 on jurisdiction and the recognition and enforcement of judgments in civil and
commercial matters(recast)OJ L 351, 20.12.2012, p. 1-32.
  日本語訳は、春日偉知郎訳「民事及び商事事 件における裁判管轄並びに裁判の承認及び
執行に関する 2012 年 12 月 12 日の欧州議会及び理事会の(EU)Nr. 1215/2012 規則(官報
- 略称「ブリュッセルⅠ a 規則」法務資料 464 号(2015、法
ABl.(EG)2012 Nr. L 351, 1.)
務大臣官房法制部)47 頁も参照。
40) ただし、他の規定の変更により、個別労働契約事件に関する第 2 章第 5 節の条文番号が、
ブリュッセルⅠ規則では 18 条から 21 条であったところ、ブリュッセルⅠ a 規則では 20 条
から 23 条となった。ブリュッセルⅠ規則の改正の経緯等については、岡野祐子「Brussels
I 規則改正に見る諸問題」国際法外交雑誌 113 巻 1 号 30 頁(2014 年)も参照。

158

EU 国際私法と労働契約の概念

らの裁判例は、準拠法決定に関する Rome I 規則の解釈にも適用されうると考
え ら れ る 41)。 第 一 に、 ル ガ ノ 条 約 お よ び ブ リ ュ ッ セ ル Ⅰ お よ び Ⅰa 規 則、
Rome I 規則のいずれもが、個別労働契約に関する規定は労働者保護を目的と
しているということ、第二に、Rome I 規則前文 7 条により、Rome I 規則の適
用範囲および規定はブリュッセルⅠ規則と調和すべきとされるためである。
(1)
 Holterman 事件 42)
本件は、ブリュッセルⅠ規則 2 章 5 節「個別労働契約事件の管轄」に規定さ
れる「個別労働契約(individual contract of employment)
」への該当性が問題
となった事案である。本件で争われたのは、ある持ち株会社のマネージャー
(manager)
、ディレクター(director)
、株主であり、当該持株会社の子会社の
マネージャーである者と当該持ち株会社・子会社との関係である。
(a)事実の概要
本件の当事者は、ドイツ国籍・ ドイツに住所を有する Spies von Bullesheim
氏(以下、
「Spies 氏」
)と、オランダで設立された持株会社である Holterman
Ferho Exploitatie BV(以下、
「Holterman 社」
)およびそのドイツ法上の子会社
3 社(以下、Holterman 社および子会社 3 社をまとめて「Holterman 社ら」)で
ある。Spies 氏は子会社 3 社の署名の権限を有するマネージャー(manager)
であったが、2001 年 4 月 25 日の Holterman 社の株主総会で同社のディレクター

41) PETER STONE, STONE

ON

PRIVATE INTERNATIONAL LAW

IN

THE EUROPEAN, paras.16.34 and 16.35

(4th ed. 2018);Franzen/Wutte, supra note 28, para.6;MERRET, supra note 28, paras.3.23 and
6.49. そのままローマⅠ規則の解釈に適用することはできないが、同様に従属関係がない場
合には契約当事者を弱者とみなすことはできず、ローマⅠ規則 8 条の対象とはならないと
するものとして RICHARD PLENDER AND MICHAEL W ILDERSPIN, THE EUROPEAN INTERNATIONAL LAW
OF

OBLIGATIONS, para. 11-024(5th ed. 2020).

42) Holterman Ferho Exploitataie BV v von Bulleshein, Case C-47/14, ECLI:EU:C:
2015:574[2015].野村秀敏「〈資料〉EU 司法裁判所民事手続規則関係判例概観(2015 年)
(I)」専修法学論集 138 号 420-423 頁(2020 年)、橋本陽子『労働者の基本概念、労働者性
の判断要素と判断方法』307-308 頁(弘文堂、2021 年)も参照。

159

論説(藤澤)

(director)に任命された。2001 年 5 月 7 日にドイツで、Spies 氏をディレクター
(director)(Geschäftsführer)とする契約が Holterman 社と Spies 氏との間で
締結された。2001 年 7 月 20 日、Spies 氏は Holterman 社のマネージャーとなっ
た。Spies 氏 は Holterman 社 の 株 式 を 保 有 し て い た が、 株 式 の 過 半 数 は
Holterman 氏により保有されていた。2005 年 12 月に子会社のうちの一社と
Spies 氏との契約が終了し、2006 年 12 月 31 日には子会社 2 社および Holterman
社との契約も終了した。
Holterman 社 ら は、Spies 氏 に 対 し て、 義 務 履 行 に つ き 重 大 な 違 反 行 為
(misconduct)があったとして、責任の確認と損害賠償を求めてオランダの
Almelo 裁判所に提訴した。Holterman 社らは、マネージャーとしての義務を
不適切に履行したことによりオランダ法に基づき責任を負うことに加え、主位
的 に、 オ ラ ン ダ 法 上、 労 働 契 約 上 の 履 行 に 欺 罔 ま た は 無 謀(deceit or
recklessness)があり、予備的に義務の不履行がオランダ法上の不法行為
(wrongful conduct)となると主張した。
Spies 氏は、オランダの裁判所が国際裁判管轄権を有しないと主張した。
Almelo 裁判所は、
ブリュッセルⅠ規則 5 条 1 項(義務履行地管轄)または 3 項(不
法行為地管轄)に従い国際裁判管轄権を有しないと判断した。控訴審もこの判
断を是認し、オランダ最高裁は、欧州司法裁判所に先決裁定を求めた。
(b)判旨 43)
ま ず、 欧 州 司 法 裁 判 所 は、Brussels I 規 則 は「 個 別 労 働 契 約(individual
contract of employment)
」についても「労働者(worker)
」についても定義し
ないとし[35]44)、これらの法性決定は内国法によらず[36]、全ての加盟国に
共通の独立した解釈が与えられなければならないとする[37]

次に、
ブリュッセル条約 5 条 1 項(義務履行地管轄)に関し、労働契約(contract
of employment)の特徴として、欧州司法裁判所は次を示しているとする。す
43) 本件では「個別労働契約」への該当性以外に、義務履行地管轄や不法行為地管轄につ
いても判断をするが、本稿の対象から外れるためにこれらについては省略する。
44) 以下を含め「[(数字)]」は、欧州裁判所の裁判例のパラグラフ番号を示す。

160

EU 国際私法と労働契約の概念

な わ ち、
「 労 働 契 約 は、 労 働 者(worker) を 企 業 ま た は 雇 用 者 の 事 業 組 織
(organizational framework of the business) に 一 定 程 度 組 込 む 継 続 的 な 関 係
(lasting bonds)を構築するものであり、強行規定および集団協約の適用を決
める活動の遂行地に結びつけられる」45)
[39]
。こうした解釈は、ルガノ条約に
関する Jenard/Moller 報告書でも裏付けられ、当該報告書によれば、独立した
「雇用契約」の概念は、雇用者に対する労働者の従属関係を前提として考えう
るとする 46)
[40]。また、他の EU 法上の「労働者(employee)」に関する判断
において、
欧州司法裁判所は次を示すとする。すなわち、
「労働関係(employment
relationship)の重要な特徴とは、ある者が一定期間、他者のためにその者の
指示に従い労務を提供し、賃金を対価に労務を提供すること」47)である[41]

以上を踏まえ、付託裁判所は次の判断をしなければならないとした。すなわ
ち、「Spies 氏が Holterman 社のディレクター(director)またはマネージャー
(manager)として、一定期間、当該会社のためにその指示に従い労務を提供
しその対価として報酬を受領していたか、当該会社の事業組織に一定程度組み
込まれるような継続的関係(lasting bonds)に拘束されていたか」
[45]である。
特に従属関係(relationship of subordination)については、「個々の事案ごと
に、当事者間の関係を特徴づけるあらゆる要素や状況をもとに検討しなければ
ならない」
[46]とする。そして、
「Spies 氏が Holterman 社の株主としての資
格において、自らがマネージャーである会社の運営機関(administrative body)
の意思決定にどの程度影響を与えることができたかを検討し、Spies 氏に指示

45) Hassan Shenavai v Klaus Kreische, Case 266/85, ECLI:EU:C:1987:1;ブリュッセ
ル条約 5 条 1 項(義務履行地管轄)に基づく国際裁判管轄権が問題となった事件である。
ドイツの建築家である Shenavai 氏が、オランダに住所を有する Kreische 氏にドイツの別
荘を設計した報酬を求めてドイツの区裁判所に訴えを提起した。
46) Jenard & Moller, supra note 35, para.41.
47) 労 働 者 の 移 動 の 自 由 に 関 す る 裁 判 例(Deborah Lawrie-Blum and Land BadenWürttemberg C-66/85 EU:C:1986:284, paras.16 and 17)および Directive92/85(母性
保護指令)に関する裁判例(Dita Danosa v LKB Līzings SIA, C-232/09, EU:C:2010:674,
para.39)が参照される。

161

論説(藤澤)

を出しその指示の遂行を監督(control)する権限を有していたのは誰かを確
認する必要があり、Spies 氏の運営機関への影響力が軽微なものでないとすれ
ば、労働者(worker)の定義に関する裁判例の目的からすれば従属関係は存
在しないと結論付けるのが適当である」とする[47]。
以上から導き出される本裁判所の回答は次のとおりである。すなわち、ブ
リュッセルⅠ規則 2 章 5 節の規定は「ディレクターおよびマネージャーとして
の資格で、一定期間当該会社のため当該会社の指示に従って労務を提供し、そ
の対価として報酬を受領するのであれば、
当該規則 5 条 1 項[(義務履行地管轄)]
および 3 項[
(不法行為地管轄)
]の適用を排除するものとして解釈されなけれ
ばならない」

[ ]内は筆者)
[49]

(2) Bosworth & Hurley 事件 48)
本件はルガノⅡ条約の「個別労働契約」該当性が問題となった事件である。
契約の当事者は、企業グループの CEO(Chief Executive Officer)
、CFO(Chief
Financial Officer)であり、グループ会社のディレクター(director)であり、
株主であった。
(a) 事実の概要
Arcadia London、Arcadia Singapore、Arcadia Switzerland(以下では三社を
まとめて「子会社ら」
)は、いずれも Farahead Holdings Ltd の 100%子会社で
あり Arcadia グループに所属し、粗製油と油のデリバティブ取引事業を行って
いた。Bosworh 氏および Hurley 氏
(以下では両者をまとめて「Bosworth 氏ら」)
はそれぞれ Arcadia グループの CEO(Chief Executive Officer)
、CFO(Chief
Financial Officer)であり、ともに英国国籍を有しスイスに住所を有していた。
また、両者は、Arcadia London、Arcadia Singapore、Arcadia Switzerland のディ
レクター(director)であり、これらの会社を一方当事者とする雇用契約の当

48) Peter Bosworth and Colin Hurley v Arcadia Petroleum Ltd and Others, C-603/17 EU:C:
2019:310,[2019]I.L.Pr.22.

162

EU 国際私法と労働契約の概念

事者であった。当該雇用契約は、Bosworth 氏らが起草するかまたは彼らの指
示 に 従 い 起 草 さ れ た も の で あ っ た。Arcadia London、Arcadia Singapore、
Arcadia Switzerland、Farahead Holdings Ltd(以下では、
「Arcadia ら」)は、グ
ループ会社に関連する不正取引によって Arcadia グループが損害を被ったとし
て Bosworth 氏らを英国で訴えた。Arcadia らによる訴えは、不法な方法での
共同謀議(unlawful means conspiracy)
、忠実義務(fiduciary duty)違反、雇
用契約上の明示または黙示の義務違反に基づくものであった。
Bosworth 氏らは、本件訴えはルガノⅡ条約の個別労働契約に関する規定の
対象となり、原告らが住所を有するスイスの裁判所に提起されるべきものであ
ると異議を申し立てた。これに対して、Arcadia らは訴えを修正し、契約違反
に基づく請求および共同共謀(conspiracy)の不法な手段による契約違反に基
づく請求を取り下げた。
2015 年 4 月 1 日、高等法院女王座部(商事法廷)は、忠実義務違反および不
法な方法での共同謀議に関する請求には管轄権を認めたが、忠実義務について
は、Bosworth 氏らが Arcadia らのうち一社と締結した雇用契約の当事者であ
る時に生じたものに限り、これらの請求は個別労働契約に関するものであるか
らルガノⅡ条約に基づきスイス裁判所が管轄権を有するとした。
Bosworth 氏らは、控訴院(民事部)に控訴したが棄却されたため、本件の
付託裁判所である連合王国最高裁判所に上訴した。連合王国最高裁判所は欧州
司法裁判所に、ルガノⅡ条約 2 章 5 節[個別労働契約事件の管轄]の「個別労
働契約」と判断するためにはどの程度の従属関係(relationship of subordination)
が求められるか、契約当事者である個人が会社の日常的な業務や当該個人の義
務の履行につき管理・ 決定できるが、株主が当該関係を終了させる権限を有
するような場合にも従属関係は存在しうるのか、先決裁定を求めた 49)。

49) 連合王国裁判所は、欧州司法裁判所にその他 3 点の裁定を求めたが、欧州司法裁判所は
その他の問題は Lugano II 条約 2 章 5 節の個別労働契約該当性を前提とするものであり、回
答の必要はないとした[36]。

163

論説(藤澤)

(b) 判旨
裁判所は、まず、ブリュッセルⅠ規則 2 章 5 節とルガノⅡ条約 2 章 5 節の個
別労働契約事件に関する規定の文言の類似性から、前者の規定に関する欧州司
法裁判所の解釈を、後者の規定の解釈に適用できるとする[22]
。そして、
Bosworths 氏らがルガノⅡ条約 18 条 2 項の「個別労働契約(individual contract
of employment)
」の当事者であり、
「労働者(employee)
」であるかを考える
必要があり[23]、これらの「個別労働契約」や「労働者」の判断は、国内法
により解釈されるのではなく、全ての締約国に共通の独立した解釈がなされる
べきとした[24]。
「労働者」の概念については、欧州司法裁判所は一貫して、「問題となる者の
権利及び義務を考慮し労働関係(employment relationship)を特徴づける客観
的な基準により定義されなければならない」と判示してきたとし、さらに「労
働関係」について次の通りとする。すなわち、
「労働関係の重要な特徴とは、
ある者が一定期間、他者のためにその者の指示に従い労務を提供し、賃金を対
価に労務を提供すること」であり[25]

「労働関係は、労働者と雇用者の階層
的な関係の存在を前提とするものであり、かつ、このような関係の存在は個々
の事案ごとに、当事者間の関係を特徴づけるあらゆる要素や状況をもとに検討
しなければならない」

[26]
さらに、ルガノⅡ条約 2 章 5 節の規定に従えば、これらの規定の適用は、形
式的な契約の存在を要件とするものではなく[27]
、労働関係は会社と取締役
との間に従属関係(relationship of subordination)が存在する場合にのみ、「個
別労働契約」として扱われうるとした[28]

裁判所は、本件における次の事情を示す。すなわち、Bosworth 氏らは、
Arcadia グ ル ー プ の CEO ま た は CFO で あ り、 子 会 社 ら の デ ィ レ ク タ ー
(director)である。Bosworth 氏らが締結した雇用契約は自ら起草するか彼ら
の指示に従い起草されたものであり、Bosworth 氏らは Arcadia グループの全
会社を代表して活動していた。
[29]また、Bosworth 氏らは、誰をどこでどの
ような条件で雇用するかも管理していた[30]

164

EU 国際私法と労働契約の概念

以 上 か ら、 裁 判 所 は 次 の 通 り 判 断 す る。 す な わ ち、「Bosworth 氏 ら は
Arcadia らに影響力(ability)を有しており、この影響力は些細な(negligible)
ものではなく、それゆえ、彼らが Arcadia らの株主であるかどうかに関わらず、
従属関係は存在しないと結論付けなければならない」[31]。そして、当該判断
に関し、Arcadia グループの株主らが原告らの「雇用および解雇」の権限を有
していることは無関係であるとする[32]

本裁判所は、本件で示された状況のもとでは、ある会社と当該会社のディレ
クターとの間で締結された契約は、ルガノⅡ条約 2 章 5 節における個別労働契
約にあたらないとする「34」

以上から導き出される本裁判所のルガノ条約 2 章 5 節の規定の解釈に解する
回答は次のとおりである。すなわち、
「ある会社と当該会社のディレクターと
しての義務を遂行する者の間の契約であって、従属関係を形成しないものにつ
いては、当該規定における個別労働契約として扱われえない。たとえ当該会社
の株主が当該契約を終了させる権限を有していたとしても、当該者が自らの義
務の履行や当該会社の日常的な業務に対してコントロール権や自治権
(autonomy)を有しており、当該契約の文言を決定したりこれを決定しうる場
合にはそうである。

[35]
(3)
 ROI Land Investments 事件 50)
本件は、
ブリュッセルⅠa 規則上の「個別労働契約」への該当性が問題となっ
た事件である。本件の当事者もディレクター(director)であるという点で上
述の二つの判例と共通するが、問題となった契約が、雇用契約ではなく雇用契
約から生じる報酬の支払いを保証する契約であるという点に特徴がある。
(a)
 事実の概要
ROI Land 社(以下「ROI 社」
)は、カナダに本拠を有する不動産会社であっ
た。FD は、 ド イ ツ に 住 所 を 有 し、2015 年 9 月 か ら ROI 社 で「Deputy vice
50) ROI Land Investments Ltd v. FD, C-604/20[2022].

165

論説(藤澤)

president investors relations(投資家向け情報担当代理副部長)」として働いて
いた。FD と ROI 社は、設立予定のスイス会社に契約関係を移すこととし、
2015 年 11 月に雇用契約を

及的に終了することで合意した。

2016 年 1 月 24 日、ROI 社を親会社とし、
スイス法に基づいて R Swiss AG 社
(以
下、
「R Swiss 社」
)が設立された。2016 年 2 月 12 日、FD は R Swiss 社と文書
による雇用契約を締結した。R Swiss 社は FD をディレクター(director)に任
命し、スタートアップボーナスとして 17 万米国ドル、毎月の給与として
42,500 米国ドルを支払うものとした。また、FD は、ROI 社との間で 2015 年 10
月 1 日に

り FD が 17 万米国ドルの融資を受ける契約を締結した。当該融資契

約の目的は、雇用契約上の 4 か月分の FD への報酬を、スタートアップボーナ
ス同額を ROI 社に弁済する融資へと変えることにあった。同日、FD と ROI
社は、R Swiss 社との雇用契約から生じる FD への義務を ROI 社が直接負う契
約(本件保証契約)へ署名した。
2016 年 7 月 11 日に FD は R Swiss 社に解雇され、ドイツのシュトゥットガル
ト労働裁判所へ異議を申し立てた。同裁判所は解雇無効と FD への給与および
ボーナスの支払いを認めた。しかし、R Swiss 社は支払いをなさず、2017 年 3
月上旬に R Swiss 社倒産手続が開始されたが財産不存在により終了した。
FD は、同裁判所に、ROI 社と FD との間の本件保証契約を理由に、R Swiss
社が FD に負う債務を ROI 社が支払う命令を求めた。しかし、国際裁判管轄
権を有しないとして、
訴えは却下された。FD が控訴したところ、バーデン=ヴュ
ルテンベルク州労働裁判所がドイツの国際裁判管轄権を認めたため、ROI 社が
ドイツ連邦労働裁判所へ上訴した。本件は、ドイツ連邦労働裁判所が、雇用契
約から生じる債務を保証する契約に関する訴えについて、ブリュッセルⅠ規則
の個別労働契約事件の規定に従い管轄権の判断をなしうるか等 51)に関して先決
裁定を求めたものである。

51) 本件の訴えが Brussels I 規則の個別労働契約事件に当たらない場合についても判断され
るが、本稿の対象から外れるために省略する。

166

EU 国際私法と労働契約の概念

(b)
 判旨
裁判所は、まず、ブリュッセルⅠa 規則 2 章 5 節の規定は、弱者の利益によ
り適した規定をおくことで弱者を保護することを目的とするという[25]

そして、ブリュッセルⅠ規則との関係から次を示す。すなわち、ブリュッセ
ルⅠ規則 19 条 2 項[
(ブリュッセルⅠa 規則 21 条 2 項の前身)
]に関する欧州司
法判所の判例によれば、
「当該規定の法的概念は、すべての加盟国で統一的な
適用がされるために、自律的に解釈されなければならない」とされる[28]

ブリュッセルⅠa 規則 21 条 2 項はブリュッセルⅠ規則 19 条 2 項に対応するもの
であり、ブリュッセルⅠa 規則 21 条 2 項も自律的に解釈されなければならない
(ブリュッセルⅠa 規則 80 条および Annex III)

[ ]内は筆者)[29]

さらに裁判所は、ブリュッセルⅠa 規則 21 条の適用には、労働者と雇用者の
間の労働関係(employment relationship)が前提となるとする[30]
。そして、
この「労働関係」については、
判例法から次が明らかであるとする。すなわち、
「労働関係は客観的な基準により定義されるが、その主要な特徴は、ある者が
一定期間、他者のためにその者の指示に従い労務を提供し、賃金を対価に労務
(service)を提供することである」
[31]
。また、「形式的な契約の不存在は雇
用関係の存在を排除するものではなく、労働関係は、労働者と雇用者間の従属
関係(relationship of subordination)を前提とするものである。このような従
属関係の存在は、当事者間の関係を特徴づけるあらゆる要素や状況を考慮して
事案ごとに検討されなければならない。

[32]
裁判所は「考慮すべき状況」として次を示した。すなわち、「考慮すべきは、
FD と ROI 社との保証契約や FD と R Swiss 社との間の雇用契約締結に関する
状況であり、たとえば、当該雇用契約の締結前に FD は ROI 社との雇用契約
に拘束されていたという事実や ROI 社が保証契約を締結しなければ本件雇用
契約は成立しなかったであろうという事実、そして、本件保証契約は FD の給
与の支払いを保証することを意図していたという事実などである。また、これ
らの契約の締結が、FD が初めは ROI 社のために、次に ROI 社の 100%子会社
である R Swiss 社のために行っていた活動の性質を変えるものではなかったと
167

論説(藤澤)

いう事実も関連するものである。

[35]
以上から導き出される欧州司法裁判所の回答は次のとおりである。すなわち、
「労務を提供する相手方が加盟国に本拠を有するかどうかにかかわらず、形式
的な雇用契約には拘束されないが、第三者との雇用契約が依拠する保証契約に
より当該第三者の義務履行について労働者に直接責任を負う者は、当該者と労
働者との間に従属関係があれば、
」労働者はブリュッセルⅠa 規則の労働契約
の規定に従い訴えを提起することができる。
[36]
(4) 小括
以上の裁判例からは、次の(i)から(v)のルールを導き出すことができる。
(i)
 ブリュッセルⅠ規則、ブリュッセルⅠa 規則、ルガノⅡ条約上の概念は、
内国実質法によらず自律的に解釈されるべきである(Holterman 事件[36]

[37]、
Bosworth & Hurley 事件[24]

ROI Land Investments 事件[28]
[29])。
これらの条約・ 規則上の概念については、準拠法に従い法性決定すべきと
の見解も見られた。しかし、上述裁判例により、自律的に解釈されることが明
らかになったとされる 52)。
(ii) 「労働契約(contract of employment)は、労働者を企業または雇用者の
事業組織(organizational framework of the business)に一定程度組込む継続
的な関係(lasting bonds)を構築するものであり、強行規定および集団協約
の適用を決める活動の遂行地に結びつけられる」
(Holterman 事件[39])
(iii) 「労働関係(employment relationship)の重要な特徴とは、ある者が一
定期間、他者のためにその者の指示に従い、賃金を対価に労務(service)を

52) 第 4 版では準拠法により判断すべきとしていたところ、見解を変えたものとして
PLENDER & W ILDERSPIN, Supra note 41 paras.11-022 and 11-023(5th ed. 2020).

168

EU 国際私法と労働契約の概念

提供すること」である(Holterman 事件[41]

Bosworth & Hurley 事件[25]、
ROI Land Investments 事件[31]


(iv)
 労働関係(employment relationship)は雇用者と労働者の間の従属関係
(relationship of subordination) を 前 提 と す る(Holterman 事 件[40]、ROI
Land Investments 事件[28]


(v)
 従属関係(relationship of subordination)は、「個々の事例に応じて、当
事者間の関係を特徴づけるあらゆる要素や状況をもとに検討しなければならな
い 」
(Holterman 事 件[46]
、Bosworth & Hurley 事 件[26]、ROI Land
Investments 事件[32]



以上の(ii)(v)からは、個別労働契約を判断するため、次の要素が考慮さ
れていることがわかる。すなわち、①契約の他方当事者への労務提供、②当該
労務の対価として報酬の受領、③契約の他方当事者による指示・ 管理、④契
約当事者間の従属関係、⑤契約の他方当事者の組織への組入れである。上述三
判例では、特に従属関係の存在を重視していた 53)。そして、従属関係は、個々
の事案ごとに判断がされなければならないとする。ここでいうあらゆる要素や
状況とは、事業のリスク分担、労働時間を選択できたり、アシスタントを雇用
したりする自由などをいうとされる 54)。
しかし、これらの要素については不明確な点もある。第一に、⑤の要素であ
る。①②③④の要素は、
3 つの裁判例のいずれでも示されていたが、⑤の要素は、
Holterman 事件にのみ示される。また、文献によっては、これを個別労働契約
の判断要素に挙げないものがある 55)。
次に、④の従属関係である。Holterman 事件では、Jenard/Moller 報告書に
より、「雇用契約」の概念は、雇用者に対する労働者の従属関係を前提にする
53) ADRIAN BRIGGS, THE CONTRLICT

OF

LAWS, 228(2019);PLENDER

&

W ILDERSPIN, supra note 41,

para.11-015 note 30;Staudinger-BGB/Magnus(2021)Rom I-VO Art. 8, Rn. 37.
54) C-3/87 The Queen v. Ministry of Agriculture, Fisheries and Food, ex parte Agegate Ltd.
[1989]ECR 4459;[1990]1 CMLR 366,[36].See also, GRUŠI , supra note 2, at 79.

169

論説(藤澤)

ものと考えられるとする[40]56)。また、ROI Land Investments 判決も同旨を
示す[28]。他方、Bosworth & Hurley 事件では「労働関係は…従属関係が存
在する場合にのみ、…「個別労働契約」として扱われうる」
[28]とする。こ
の判示からは、従属関係と独立して労働関係は存在し、
「個別労働契約」とし
て認められるためには従属関係の存在が求められるようにも読める。しかし、
本判決では同時に「労働関係は、労働者と雇用者の階層的な関係の存在を前提
とする」
[26]ともされており、
「階層的な関係」が「従属関係」を意味するの
であれば Holterman 事件・ROI Land Investments 判決の趣旨に沿う。

Ⅳ.検討
1.法性決定の方法
欧州司法裁判所は、上述の条約や規則上の個別労働契約の概念を自律的に解
釈することを示した。自律的な解釈がされる理由として、まず、適用の統一性
を促進するという点があげられる 57)。また、自律的解釈によれば、保護の必要
な労働者すべてを個別労働契約に含むことができることから、労働者保護に資
するという点もあげられる 58)。他方で、法性決定を個別準拠法によらせるとす
れば、準拠法を決定する法性決定のために準拠法を決定しなければならず循環
論に陥る 59)。日本でも、同様の理由から、抵触規則の概念の解釈は国際私法独
55) 判 断 基 準 に 挙 げ る も の と し て、Staudinger-BGB/ Magnus(2021)Rom I-VO Art.8,
Rn.36;1 CHITTY

ON

CONTRACTS, para.33-204[Louis Merret](Hugh G. Beale Gen. ed. 34th

ed. 2021);Wolfgang Kozak, Crowdwork mit Auslandsbezug, available at https://www.gigeconomy.at/kapitel-11-crowdwork-mit-auslandsbezug/;McClean et al. THE CONflICT

OF

LAWS, para.15-401(9th ed. 2016)があり、判断基準に挙げないものとして、2 DICEY MORRIS
&

COLLINS

ON

THE CONflICT

OF

LAWS, para.33-279(16 ed. 2022)、MER RET, supra note 28,

para.6.49 がある。
56) See also, MERRET, supra note 28, para.3.48
57) Id.
58) GRUŠI , supra note 2, at 68;Franzen/Wutte, supra note 28, para.6. 同様の趣旨から、適用
通則法 18 条は「製造物責任」等の文言を用いず、適用通則法に特有の「生産物責任」等の
文言により規定される。

170

EU 国際私法と労働契約の概念

自の立場から行うとする考え方が、広く受け入れられ 60)、適用通則法の立法担
当者による解説書でも適用通則法上の「労働契約」は「実質法上の契約の累計
名(雇用、請負、委任等)に左右されるものではない」とされる 61)。法性決定
を国際私法独自の立場によるとしたとき、次に問題になるのは、いかなる方法
により国際私法独自の概念を導き出すかである。これには、世界各国の実質法
を比較して得られる共通法概念を基準とすべきとの考え方もあるが現実的では
なく、抵触規則の趣旨・ 目的を考慮して検討すべきとの考え方が有力であ
る 62)。この考え方によれば、性質決定は、日本の国際私法の体系の中で決めら
れ、個々の抵触規則の解釈を行うことで、規定に含まれる事項的概念の適用範
囲が確定されるというのである。
2.具体的な判断基準
上述の考え方によれば、国際私法上の法性決定を行う際、考慮すべきは適用
通則法 12 条の趣旨・ 目的である。適用通則法 12 条は、契約において弱者であ
る労働者の保護を目的として規定される(上述Ⅱ1)

EU の裁判例において、従属関係の存在が決定的な要素とされていたのは、
労働契約事件の特則が弱者である労働者保護を目的とするためである。弱者で
なければ保護の必要性はなく、特則を適用する必要もないからである 63)。労働
者保護を目的とするのは、日本の適用通則法 12 条も同じである。実質法によ

59) MERRET, supra note 28, para.3.11.
60) 中西ほか・前掲注(12)
61 頁、澤木=道垣内・前掲注(12)
21 頁、櫻田嘉章『国際私法〔第
7 版〕』77 頁(有斐閣、2020 年)、山内惟介=佐藤文彦編『〈標準〉国際私法』20 頁(信山社、
2020 年)、神前禎ほか『国際私法〔第 4 版〕』34 頁[元永和彦](有斐閣、2019 年)、山田
鐐一『国際私法〔第 3 版〕』51 頁(有斐閣、2004 年)。横山・ 前掲注(12)38-39 頁も同旨か。
61) 小出編著・前掲注(8)156-157 頁。
62) 中西ほか・ 前掲注(12)63 頁、櫻田・ 前掲注(60)79 頁、山内=佐藤・ 前掲注(60)20 頁、
横山・ 前掲注(12)40 頁、山田・ 前掲注(60)52 頁、木棚照一ほか『国際私法概論〔第 5 版〕』
39 頁(有斐閣、2007 年)。
63) PLENDER AND W ILDERSPIN, supra note 41, para.11-015.

171

論説(藤澤)

れば労働契約の存在が認められる場合にも、当事者の一方が弱者であると言え
ない場合には、日本の抵触法上も保護を与える必要はないだろう。
しかし、当事者保護の必要性判断を EU に倣い従属関係により行うとすれば、
次の点に注意が必要である。第一に、従属関係という概念自体が必ずしも明確
ではないという点である。ある文献では、従属関係の決定的な要素は、労務の
経済的かつ社会的リスクの保有であるとする 64)。他方、別の文献は、従属関係
の判断要素として雇用者の指揮命令権を重視しているように読める 65)。
第二に、労働契約の多様性から判断の予測可能性や確実性の確保が難しいと
いう点も挙げられよう。労働契約は多様である。それゆえに、消費者契約に関
する適用通則法 11 条が消費者の常居所地法の適用を認めるのに対して、労働
契約に関する同法 12 条は最密接関係地法によらせるものとし、柔軟性を確保
する 66)。近年、テレワークやギグワークの進展など、2006 年の適用通則法制
定時以上に働き方はますます多様化しているといえる 67)。このような労働契約
の多様性からすれば、従属関係が一定程度明確化されたとしても、労働者保護
の必要性は、EU の裁判例が示すように当事者間の関係を特徴づけるあらゆる
要素・ 状況を考慮し、事例ごとに判断しなければならない。この時、判断は
裁判官の裁量によるところが大きくならざるをえず、結果の予測可能性や確実
性が十分に保証されうるとは言い難い 68)。日本の実質法においても、労働者性
の判断は「使用従属性」69)に基づいてなされるが、ケース・ バイ・ ケースの判
64) Staudinger-BGB/Magnus(2021)Rom I-VO Art.8, Rn.3. また、従属関係の判断要素
と明記はしないが、雇用者への経済的な依存を労働概念(concept of employment)の重要
な考慮要素とするものとして、MERRET, supra note 28, para.3.45 at 59。
65) Franzen/Wutte, supra note28, para.s. 6a and 8. これによれば、
Holterman 事件の裁判所は、
自身へ指示・ 監督する会社の機関に、取締役が影響力を有しそれが些細なものではない場
合に従属関係を認めないものとしており、抵触規則について定めたローマⅠ規則の労働者
の解釈においても、雇用者が指揮命令をする権利を重視している
66) 補足説明・前掲注(4)158 頁。
67) いわゆるプラットフォームワークについても、その種類は様々であることを示したも
のとして、Janine Berg et al. Digital Labour Platforms : A Need for International Regulation?,
Revista de Economia Laboral 16(2)105(2019)などを参照。

172

EU 国際私法と労働契約の概念

断となることが多いとされる 70)。
第三に、近年の働き方の変容に伴い、実質法にも変化が見られるという点が
あげられる。確かに、上述の EU の裁判例は、役職者と会社との関係について
はある程度判断の基準を明らかにした。しかし、これらは、プラットフォーム
を介して行うような新しい働き方について明確な基準を示すものではない 71)。
新しい働き方について、EU では、プラットフォーム就労指令案(プラット
フォーム就労における労働条件の改善に関する欧州議会および閣僚理事会によ
る指令案)72)が提案されているところであり 73)、日本でも「フリーランスに係
る取引適正化のための法制度」74)について検討が進んでいる。また、日本の実
質法に関する学説にも、労働者の判断は使用従属性によりなされるとするのが
現在の支配的な見解であるが 75)、働き方の変容から、労働契約法について次の
ように考えるものがあらわれている。すなわち、労働契約法が「契約の成立、
変更、
解約に関する私法的保護を中心とする契約保護をはかるものであること、

68) MERRET, supra note 28, para.3.37 at 56. また、従属性基準は不明確であるとの見解として、
BRIGGS, supra note 53, at 228。また、指揮や組織への参入にという基準についても判断に幅
があり 明確(hard-edged) な基準ではないとする見解(2 DICEY, MORRIS

&

COLLINS, supra

note 55, para.33-279) や、 そ の 柔 軟 性 を 指 摘 す る 見 解(Louise Merret, The Contract of
Employment in its Inernational and European Law Setting, THE CONTRACT OF EMPLOYMENT, 632
(Mark Freedland ed. 2016))がある。
69) 日本における「使用従属性」は「指揮監督下の労働」と「賃金支払」の 2 つの基準を総
称するものとされる(労働基準法研究会「労働基準法の「労働者」の判断基準について」
1 頁、 昭 和 60 年 12 月 19 日 available at https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbwatt/2r9852000000xgi8.pdf。
70) 橋本・前掲注(42)92 頁。
71) See also, MERRET, supra note 33, para.3.59.
72) Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on improving
working conditions in platform work, COM/2021/762 final. 条文および解説についての日本
語訳として、井川志郎「EU のプラットフォーム就労指令案:条文全訳と解説」労判 1261
号 5 頁以下(2022 年)、本指令案の解説として、濱口桂一郎「EU のプラットフォーム労働
指 令 案 」『 労 基 旬 報 』2022 年 1 月 5 日 号(available at http://hamachan.on.coocan.jp/
roukijunpo220105.html)(2022 年 11 月 2 日確認)も参照。

173

論説(藤澤)

また、事業概念を用いず、労働者の定義を与えていることを考えれば、労契法
上の労働者は、契約当事者の交渉能力の不均衡を基準に捉えるべき」とするも
のである 76)。確かに、日本法・EU 法ともに、国際私法上の労働契約の概念は、
独立・ 自律的に解釈すべきとされている。しかし、実質法上の概念の影響は
否定できない。プラットフォームを介して仕事を請け負うような新しい働き方
に関しては、今後の実質法の進展にも注視しながら、改めて検討する必要があ
ると考える。

Ⅴ.おわりに
本稿では、EU の裁判例から、日本の適用通則法の個別労働契約の判断に、
得られる示唆があるかを考察した。
欧州裁判所は、近年、個別労働契約事件の国際裁判管轄に関して、3 件の判
73) プラットフォーム就労令案(就労指令案)の目的は、プラットフォーム就労者の就労
従事者の労働条件を改善することにある(就労指令案 1 条 1 項)。労務の提供が EU 域内で
提供されれば適用されるとし(就労指令案 1 条 3 項)、プラットフォームが労務提供をコン
トロールしている場合に、当該プラットフォームとそのプラットフォームを介して働く労
働者との間には労働関係(employment relationship)の存在が推定される(就労指令案 4
条 1 項)。労務提供に対するコントロールは、次の 2 つ以上を行っている場合に認められる
(就労指令案 4 条 2 項)。すなわち、①報酬額の実質的な決定または報酬水準の上限設定
(effectively determining, or setting upper limits for the level of remuneration)、②外見、サー
ビス受領者に対する振舞い、または労務提供に関連する特定の拘束ある規律への順守を労
働者に要求、③電子的な方法によるものも含め、労務提供の監督または労務の成果の審査、
④制裁による場合も含め、労務の編成にかかる自由、とりわけ、労務に従事する時間もし
くはしない時間の選択、または下請けもしくは代替要員の利用についての裁量に対する実
質的な制約、⑤顧客基盤の形成または第三者への労務提供の可能性への実質的な制約、で
ある。
74) 2022 年 9 月にパブリックコメントが求められ、その結果が公表されている(「フリーラ
ンスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集の結果について
available at https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&i
d=060830508&Mode=1.)。
75) 新基本法コンメンタール・前掲注(15)82 頁[毛塚勝利]参照。
76) 前掲注。石田・前掲注(15)431 頁も同旨。

174

EU 国際私法と労働契約の概念

断を示している。裁判例はいずれも、当事者間の従属関係の存在を重視し、労
働契約の有無を判断する。従属関係を重視する理由は、労働契約に適用される
規定の労働者保護にあるためである。保護に値すべき弱者でないとすれば、保
護の規定は適用されないとするのがその趣旨である。
日本の抵触法でも、法律関係の性質決定は、その規定の趣旨・ 目的を考慮
してなされるべきと考えられる。適用通則法 12 条も、労働者保護をその目的
とする。従って、EU の裁判例と同様に、本条は、保護に値しない者への適用
を排除すべきものと考える。
しかしながら、保護の妥当性の具体的な判断基準を、本稿で取り上げた EU
の裁判例に倣うべきか考える際には注意が必要である。第一に、欧州裁判所の
示す「従属関係」の概念それ自体が明確とは言えず、第二に、従属関係の概念
がある程度明確になったとしても、契約の多様性から判断はケースバイケース
になり、予測可能性や確実性に不安があり、第三に、本稿で取り上げた裁判例
は、従来の働き方を前提とし役職者と会社との間の関係について判断するもの
であり、情報技術の進展に伴う新しい働き方に妥当しうるか疑問が残るからで
ある。
現時点、新しい働き方に対する労働法規のあり方が実質法においても検討さ
れ、欧州・ 日本で立法化が進んでいるところである。また、本稿では扱いき
れなかったが、国際裁判管轄権に関する日本の民事訴訟法の規定でも、EU 法
と同様に労働契約に関して適用範囲が問題となりうる(民訴法 3 条の 4 第 2 項・
第 3 項、3 条の 7 第 6 項)
。実質法の進展にも注視しさらに検討していきたい。
【謝辞】本研究は、JSPS 科研費 22K01172 の支援を受けたものである。
(ふじさわ・なおえ 筑波大学ビジネスサイエンス系准教授)

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