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Variation of transcription factor profiles and their roles in mammalian evolution

趙, 新威 東京大学 DOI:10.15083/0002006863

2023.03.24

概要



査 の 結 果 の 要









新威

表現型の変化には、しばしば遺伝子発現の変化が関わっている。関連遺伝子の発現の
調節には、転写因子などトランスに働くものとプロモーターやエンハンサーなどシスに
働くものが関係している。シスエレメントの変化は当該遺伝子の発現のみに影響するの
に対して、転写因子の変化はしばしば少なからずの標的遺伝子の発現を変化させる。そ
のため、表現型の進化には、トランス因子の変化よりもシスエレメントの変化による貢
献が大きい、と信じられている。転写因子の寄与を調べる研究の多くは、オーソロガス
な転写因子を種間比較し、これらが進化の過程で保存されていることを確認している。
これに対して、パラロガスな転写因子を含めて総合的に分析し、転写因子の変動を生物
のマクロ進化に関連付けた研究はほとんど見られない。そこで本研究は、転写因子の出
生と死滅を調査し、その生物のマクロ進化への寄与を調べることを目的とした。ゲノム
データと発現データに加えてノックアウトマウスの表現型のデータが充実しているこ
とから、哺乳類を研究対象とした。
1 ネットワークで孤立した転写因子群の変動と種の固有性
分析に先立ちまず、たんぱく質ファミリーデータベース Pfam を土台として哺乳類転
写因子のデータベースを構築した。DNA 結合領域(DNA binding domain, DBD)の隠れマ
ルコフモデルで特徴づけられた 66 の転写因子ファミリーの配列を哺乳類 96 種のゲノム
に照らし合わせ、140,821 個の転写因子を得た。遺伝子重複により新しいメンバーが生
まれ、偽遺伝子化あるいは DBD の喪失によりメンバーが消失する。転写因子ファミリ
ーは哺乳類の進化の過程で、37.8%の出生と 15.0%の死滅を経験していた。
どのようなメンバーが出生・死滅しているか調べるために、ヒトの転写因子間相互作
用ネットワークをマウスのそれと比較した。その結果、最大の連結成分を構成する 3 分
の 2 の転写因子はヒトとマウスで保存されていることが確認された。一方、先行研究で
はほとんど調べられてこなかった残りの約 500 個の転写因子はネットワークの中で孤
立し、ゲノムから失われやすい可変的な転写因子であった。他の転写因子との関連が薄
い孤立した転写因子があたかも遺伝子の発現制御ネットワークにおいて随所に配置さ
れたスイッチのような役割を果たし、それらの ON/OFF が適応度を落とすことなく遺伝

子発現ネットワークのプロファイルを調節し、種の固有性を醸し出す、という描像が示
唆された。
2 転写因子の刈り込みと哺乳類のマクロ進化
分子系統樹と種系統樹を突き合わせることにより、遺伝子重複と消失のイベントを推
定し、転写因子の出生数と死滅数を種系統樹上にマッピングした。その結果、有袋類か
ら有胎盤類が分岐する以前は百万年あたり 58 個の転写因子を獲得し、8.9 個の転写因子
を消失したが、その後は転写因子ファミリーへの新規の加入は少なく、急速にメンバー
をふるい落としてきたことが明らかになった。メンバーの消失率の時系列変化には2つ
の大きなピークが見られたが、第1のピークはおよそ1億年前で百万年あたり 192 の転
写因子を消失した。この時期は有胎盤類が真主齧上目、ローラシア獣上目、アフリカ獣
上目に分かれた哺乳類の初期進化の時期と重なる。第2のピークはおよそ 65 百万年で、
百万年あたり 68 の転写因子を消失した。この時期は恐竜が絶滅し、哺乳類の適応放散
の引き金となった K-Pg 境界(中生代と新生代を分ける境界)に当たる。これに対して、
転写因子獲得率の時系列変化には目立った特徴は見られなかった。
転写因子の消失がその標的遺伝子に及ぼす影響を調べるために、その分子進化速度を
分析した。その結果、現在も存続する標的遺伝子においては、転写因子の消失後分子進
化速度が低下する傾向が認められた。このことはこれらの遺伝子における機能的な制約
が強まったことを意味する。分子進化速度と遺伝子発現は負に相関する傾向があること
が知られているが、確かにヒトとマウスを比較したところ、一つの転写因子を失った標
的遺伝子は高発現をする傾向が認められた。転写因子の消失が遺伝子ネットワークの再
構成を引き起こし、標的遺伝子の新たな発現調節を醸成したことをうかがわせる。ヒト、
マウス、ラットの遺伝子オントロジーを調べたところ、それぞれの機能に対して、これ
に関わる転写因子の数は 3 種間で同じであるが、多くの転写因子が働く機能においては
オーソロガスな転写因子は半分程度にまで低下していた。
最終的な表現型である生活史の変化とどう関係したか、見るために、生活史の諸形質
を転写因子の種間の存否に回帰した。その結果、昼行性にはコレステロールの蓄積に関
わる遺伝子、社会性には癲癇に関わる遺伝子、食虫性には視覚に関わる遺伝子、繁殖の
季節性には胎生に関わる遺伝子が関連していた。
本研究で得られた知見はいずれも、転写因子の出生と死滅、とりわけ消失が、哺乳類
の大進化に大きく関わっていたことを示唆している。今後、こうしたゲノムの構成の変
化が生物のマクロ進化に与える影響を調べる研究が勃興することが期待される。これら
の研究成果は、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審査委員一同は本
論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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