リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「局所麻酔薬の神経毒性のメカニズム:ナノ磁性体を用いた探索研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

局所麻酔薬の神経毒性のメカニズム:ナノ磁性体を用いた探索研究

石田, 高志 信州大学

2021.02.22

概要

1.研究開始当初の背景
近年、様々な手術の周術期鎮痛法に区域麻酔が盛んに用いられ、局所麻酔薬(局麻薬)の重要性が増している。しかし、局麻薬は決して安全な薬物ではなく、中枢・局所の神経毒性が知られているにも関わらずその機序の詳細はいまだ明らかになっていない。

局麻薬は血中濃度が高くなると痙攣を引き起こすだけでなく、痙攣を起こさないレベルの血中濃度でも海馬や扁桃体の神経細胞に形態学的異常を引き起こす(Vabessa et al., Life Sciences 2007)。さらに、脊髄くも膜下や硬膜外に局麻薬を投与した際に馬尾症候群や一過性神経症状が報告されており、対麻痺などの重篤な障害も報告されている(Wu et al., Reg Anesth Pain Med, 2004)。これらの中枢・局所神経毒性は局麻薬による神経細胞のアポトーシスが原因と考えられている(Johnson et al. Anesthesiology 2004)。

局麻薬による神経障害は様々な実験モデルで示されおり、薬剤の濃度、薬剤の暴露時間が関与し(Myers et al., Anesthesiology, 1986)、局麻薬のナトリウムチャネル阻害作用は直接は神経障害に関与していないことが示されている(Sakura et al., Anesth Analg, 1995)。リドカインは局麻薬の中で神経毒性について最も研究されている薬剤である。リドカインによる神経障害の機序として細胞膜への直接的な破壊作用(Kanai et al., Anesth Analg, 2000)、細胞内カルシウム濃度の上昇(Gold et al., J Parmacol Exp Ther, 1998)、アポトーシス(Boselli et al., Anesth Analg, 2006; Werdehausen et al., Anesthesiology 2007)などが考えられている。しかし、神経障害を起こす起点や経路の詳細、局麻薬の作用部位については明らかとなっていない。神経細胞のアポトーシスの原因の一つに Transient receptor potential vanilloid type-1(TRPV1)の活性化がある。TRPV1 の活性化により、細胞内へ Ca2+の流入が起き、p38 MAPKが活性化されアポトーシスが誘導されることが知られている(Lee et al., Cancer Lett., 2000)。リドカインも TRPV1 を活性化することが知られており、この経路によりアポトーシスを誘導している可能性がある。アポトーシスは様々な経路で起こりうるが、いずれも膜タンパク、ミトコンドリア、核内タンパクなどのタンパクにリガンドが結合することで細胞内伝達系が活性化し誘導される。局麻薬が結合するアポトーシスの起点となるタンパクを同定できれば局麻薬の神経障害を予防する方法を開発できる。

従来、局麻薬のような低分子が結合するタンパクを網羅的に調べることは困難であったが、機能性ナノ磁性微粒子を用いて薬剤の標的となるタンパクを同定する手法が近年開発された(Nishio et al., Colloids Surf. B., 2008)。この手法を用いて様々な領域で薬剤の標的となるタンパク質が同定され、薬剤の作用や副作用のメカニズムが明らかとなってきている(Uga et al., Mol Pharmacol, 2006; Ito et al., Science, 2010)。本研究でもこの手法を用いれば局麻薬が結合する全てのタンパクを網羅的に探索でき、その中から局麻薬の毒性に関与しうるタンパクを同定することができる。アポトーシスの起点となるタンパクが明らかとなればその経路も明らかとなり、アポトーシスの経路を阻害し神経毒性の予防研究を行い、臨床での神経毒性予防法が確立できる可能性がある。

2.研究の目的
本研究ではリドカインが結合する標的タンパクの中からアポトーシスに関与する蛋白を明らかにし、リドカインが中枢・末梢で神経毒性を起こすメカニズムを明らかとすることを目的とした。リドカインの中枢・末梢神経毒性のメカニズムが明らかとなれば、その機序を阻害することで神経毒性の予防が行えるか検討を行うことを目的とした。

3.研究の方法
(1) リドカイン固定化ビーズの作成
リドカインの非活性部位にアミド基を結合させた薬剤を作成し、磁性ビーズを固定化させる。リドカイン固定化ビーズの薬効および毒性を評価するために、磁性ビーズを固定化する部位にメチル基を結合させたリドカインを作成し、以下の実験で用いる(図 1)

(2) リドカイン固定化ビーズの作用評価
ラットくも膜下にカテーテルを留置し、カテーテルよりくも膜下にリドカイン、メチル基結合リドカイン、溶媒をそれぞれ投与し、足底への機械刺激逃避閾値、下肢運動麻痺の程度を評価する。

(3) リドカイン固定化ビーズによる結合タンパク探索
HeLa 細胞を用いて Dignam 法にて細胞破砕液を作成する。100 mM KCl バッファーにて調整した細胞破砕液を遠心分離し不溶物を除去する。遠心分離した細胞破砕液とリドカインを固定化したビーズを混合し、ローテーターにて撹拌しながら結合反応を行なう。結合反応後、混合液の磁気分離を行いバッファーにより洗浄を行う。1 M KCl バッファーを用いて溶出させた後、上清を回収し加熱処理を行なう。溶出サンプルを電気泳動し結果を解析する。単離されたタンパク質の中からアポトーシスへの関与が示唆されるタンパク質を同定する。

(4) リドカイン固定化ビーズの特異的結合の探索
前実験より網羅的に抽出されたタンパクの中からより特異的にリドカインに結合しているタンパクを抽出するために競合阻害、競合溶出実験を行なう。これにより得られたタンパクを候補タンパクとしてアポトーシスに関与するタンパクの同定を行う。

4.研究成果
(1) リドカイン誘導体の作成
リドカイン誘導体を作成し、磁性ビーズを結合させることに成功した。

(2) リドカイン誘導体の薬効
ラットくも膜下にリドカイン、リドカイン誘導体、溶媒を投与したところ、リドカイン、リドカイン誘導体では投与 5 分後から 30 分後まで歩行障害、運動麻痺を認め、投与 45 分後まで足底機械刺激逃避閾値の上昇を認めた。溶媒投与群では運動麻痺は認めず、投与前と比べ機械刺激逃避閾値の上昇は認めなかった。
以上の結果より、リドカイン誘導体はリドカインと同等の薬理学的作用を有していることが明らかとなった。

(3) リドカイン誘導体結合タンパクの探索
リドカイン誘導体が結合するタンパクを探索するために HeLa 細胞から抽出を行った HeLa 細胞破砕液を用いて研究を行った。リドカイン誘導体に磁性ビーズを結合させ、HeLa 細胞破砕液と反応させ結合蛋白の抽出を行いウエスタンブロットを行ったところ、図2のように薬剤溶出、塩溶出どちらでも 60 KDa, 50 KDa, 40 KDa 付近を主とした多数の結合タンパクのバンドを認めた。

以上の結果より、リドカイン誘導体が様々なタンパクに結合することが明らかとなったが、ターゲットタンパクの絞り込みには至らず、より特異的な結合を示すタンパクを探索するためにリドカインによる競合阻害実験を行うこととした。

(4)競合阻害実験
リドカイン誘導体がより特異的に結合するタンパクを探索するために、リドカイン誘導体に磁性ビーズを結合させた化合物とリドカインを加え、リドカインによって競合的に結合が阻害されるタンパクの同定を行った(図3)。その結果、リドカイン濃度を上昇させても結合蛋白に変化はなく特異的な結合が起こるタンパクを明らかとすることができなかった。リドカイン誘導体の結合するタンパク量が過多であることが一因と考えられたため、リドカイン誘導体濃度、細胞破砕液濃度の調整を行ったが、結果は同様であった。

以上の結果より、本研究で認められたリドカイン誘導体が結合するタンパクは特異的な結合により得られたタンパクである可能性は低いと考えられた。リドカインの毒性に関しても非特異的に作用することで毒性を表している可能性が示唆された。

この論文で使われている画像

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る