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大学・研究所にある論文を検索できる 「急性心筋梗塞における院外心室細動発症に影響を与える冠動脈造影所見の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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急性心筋梗塞における院外心室細動発症に影響を与える冠動脈造影所見の検討

Sugizaki, Yoichiro 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景と目的】
抗血小板剤を含む薬物療法や経皮的冠動脈形成術(Percutaneous coronary intervention:PCI)の発達により、急性心筋梗塞(Acute myocardial infarction:AMI)の死亡率は近年大きく改善している。しかし、AMI の重篤な合併症に、院外で生じる心室細動(Out-of-hospital ventricular fibrillation:OHVF)があり、AMI の 3-20%にOHVF を伴うことが報告されている。この OHVF は、ひとたび発症するとその死亡率が極めて高いことが臨床上問題となっている。

一般的に、AMI では冠動脈造影検査により冠動脈の解剖学的な病変の評価が行われ、同時に PCI による再灌流療法が行われる。過去の報告では、院外心肺停止患者のうち、自己心拍が再開した AMI 患者では、左冠動脈近位部が責任病変であることが、心肺停止の危険因子であると報告されている。しかしながら、病院到着時に心拍再開がない患者は、救命困難な場合もあり、冠動脈造影検査が施行されない症例もあることから、先行研究でも病院到着時に心拍再開が得られていない患者は除外されている。ゆえに、来院時心肺停止である患者を含めた、OHVF を伴う AMI 症例の解剖学的冠動脈の特徴は、十分に解明されていない。

人工心肺を用いた心肺蘇生を行う施設では、心拍再開が得られず到着した患者に、人工心肺による蘇生と同時に、冠動脈造影検査を用いた冠動脈病変の解剖学的評価行うことが可能である。そこで我々は、OHVF を呈した AMI 患者における冠動脈の解剖学的特徴を明らかにするため、本研究を行った。

【方法】
研究デザインと患者群
本研究は後ろ向き観察研究であり、神戸大学医学部附属病院、神戸赤十字病院、兵庫県災害医療センターに 2010 年 1 月から 2015 年 12 月までに来院し た、AMI が疑われた症例を対象とした。本研究では Third Universal Definition of Myocardial Infarction に基づき、血栓を伴う器質的冠動脈疾患に起因する Type 1 AMI をAMI と定義した。冠動脈造影が行われなかった患者 や、AMI と診断されなかった患者、心室頻拍や無脈性電気活動、心静止、完全房室ブロックによる心肺停止の患者は解析から除外した。人工心肺を用いた心肺蘇生は、到着時も自己心拍再開を認めない患者に施行した。データ収集に関しては年齢や性別、既往歴、冠危険因子、到着時の初期心電図波形、内服歴、血液検査、心エコー図検査所見、冠動脈造影所見、転帰などの情報に関して電子カルテ上の診療録より後方視的に得た。これらの得られたデータを OHVF の有無に分け比較検討した。

冠動脈造影検査と解析項目
病院到着時も心拍再開が得られていない患者では、直ちに人工心肺を用いた心肺蘇生を行いながら、冠動脈造影を行った。冠動脈造影は複数の角度から撮像し責任血管や非責任血管の狭窄の程度、慢性完全閉塞 (Chronic total occlusion:CTO)、側副血行路の評価を行った。

OHVF は病院到着前に血行動態が破綻し、12 誘導心電図または自動体外式除細動器で QRS 波や T 波が同定できない不規則な電気信号を認めた場合、と定義した。

冠動脈は AHA 分類に基づき、セグメントに分けて評価を行った。責任病変は、冠動脈造影で新鮮血栓を疑う透亮像を伴う閉塞や狭窄を認めた病変、または血管内超音波にて血栓を認めた病変と定義した。左主幹部で 50%以上、その他の部位で 70%以上の冠動脈造影上の狭窄を有意狭窄と定義した。多枝病変(Multivessel disease:MVD)は有意狭窄が 2 枝以上の場合とし、CTO は順行性の血流が途絶し、側副血行路により閉塞の遠位が灌流されているものと定義した。側副血行路の起源の血管は、冠動脈造影で CTO の遠位を灌流する血管の起源となった血管と定義した。臨床転帰として院内死亡、神経学的予後について評価した。神経学的予後良好は退院時の Cerebral Performance Category scores 2 以下と定義した。

【結果】
患者背景
研究期間内に、連続 464 例の AMI 疑いの患者が来院した。冠動脈造影が不要と判断された 13 例、AMI の診断とならなかった 76 例、Type 1 AMI の診断とならなかった 20 例、OHVF ではなかった心停止 44 例が除外され、残り 311例を解析対象とした。74 例が OHVF を伴い(OHVF 群)、237 例が OHVF を伴わなかった(非 OHVF 群)。患者背景に関しては、男性(93.2 vs. 83.1%, P = 0.036)、 Killip class ≥ 2 (89.2 vs. 16.5%, P < 0.001)および ST 上昇型 AMI (83.8 vs. 66.7%, P = 0.003)が OHVF 群で有意に多く、また血清 K 値や (3.7 ± 0.6 vs. 4.1 ± 0.5 mEq/L, P < 0.001)、左室駆出率(29.0 ± 17.6 vs. 47.1 ± 12.2%, P < 0.001)は OHVF 群で有意に低値であった。人工心肺を用いた心肺蘇生は OHVF 群 76 例中 59 例に施行され、15 例は病院到着時までに自己心拍再開を認めた。

冠動脈造影検査所見および評価項目
PCI は解析対象となった 311 例全例で施行された。責任病変の局在は両群で異なり、OHVF 群では左主幹部、左前下行枝、左回旋枝、右冠動脈がそれぞれ 10.8%、48.7%、10.8%、29.7%であったが、非 OHVF 群ではそれぞれ 2.1%、48.9%、14.8%、34.2%であった。責任病変の局在について、右冠動脈近位部を基準として比較すると、左主幹部(Odds ratio:OR 6,93、95% Confidence interval:95%CI 1.83–26.26)や左前下行枝近位部(OR 2.39、95% CI 1.03–5.56)では OHVF の発症が多かった。MVD はOHVF 群で有意に多く(75.7 vs. 41.8%, P < 0.001)、特に 3 枝病変は OHVF 群で多かった(41.9 vs. 16.0%)。また CTO もOHVF 群で有意に多かった(43.2 vs. 10.5%, P <0.001)。ロジスティクス回帰分析により CTO の存在や(OR 8.52, 95% CI 3.35-21.65)左冠動脈近位部での AMI(OR 2.86, 95% CI 1.34-6.08)、MVD(OR 3.69, 95% CI 1.57-8.65)は OHVF の危険因子であった。

OHVF群でCTOを認めたのは32例、非OHVF群では25例であった。これらの患者を比較すると、CTOの局在は両群で有意差を認めないが、CTO 領域への側副血行路の起源となった冠動脈が責任血管である症例は、OHVF群で有意に多かった (46.9 vs. 20.0%, P=0.032)。

臨床転帰に関しては、院内死亡率は、病院到着時にも OHVF が持続していた群で 47.5%、病院到着までに自己心拍再開した群で 13.3%、非OHVF 群で 3.8%であった。また良好な神経学的転帰となったのは、各群で 23.7%、60.0%、96.2%であった。

【論考】
本研究では、AMI において、非 OHVF 群に比べ OHVF 群で、(1)左冠動脈近位部が責任病変であることや MVD、CTO の存在が有意に多く(2)これらの因子は OHVF の危険因子であった。また(3)CTO を有する患者において、OHVF 群では、側副血行路の起源になる冠動脈が責任血管であることが多いことが示された。

過去の研究でも、左室機能低下や、Killip score≥2 の割合が多いことが、 OHVF の危険因子であることが報告されている。本研究でも OHVF 群では非 OHVF 群に比べて左室駆出率は低く、Killip score≥2 は多かった。また冠動脈の解剖学的な特徴に関して、先行研究では、左冠動脈近位部が責任病変であることは、院外心肺停止と強く関連していることが報告されている。本研究で も、左冠動脈近位部が責任病変である患者は、非 OHVF 群に比べ OHVF 群で多く、OHVF の危険因子であった。CTO の存在に関しては、安定冠動脈疾患を有する虚血性心筋症患者において VF 発症の危険因子となることが報告されているが、AMI 患者における影響は解明されていない。しかし、本研究では、 CTO の存在は OHVF の危険因子であることが示された。加えて、CTO 領域への側副血行路の起源となった冠動脈が責任血管になっている患者は、OHVF 群で有意に多かった。一般的に、CTO がなければ、AMI で 1 枝の領域が虚血となるだけであるが、CTO 領域への側副血行路の起源となった冠動脈が閉塞すると、その冠動脈だけではなく、側副血行路で灌流される、CTO 遠位の心筋も虚血となり、より広範な領域の心筋が虚血に陥ると考えられる。過去の報告で も、広範な心筋虚血は AMI 患者の OHVF に関連することが示されている。このような理由によって、CTO の存在が OHVF の危険因子となると考えられる。

本研究の limitation は、後方視的な観察研究であり、選択バイアスがあることである。また、左室駆出率は OHVF 群では発症直後であり、発症前の左室駆出率は正確には把握できないこと、といった院外心肺停止例特有のデータ収集の困難さがある。このような問題点を解消するために、今後、前向き研究を含めたさらなる検討が必要と考えられる。

【結論】
AMI 患者において、左冠動脈近位部の責任病変や MVD、CTO の存在は、 OHVF の発症に関連していることを示した。本研究結果は、AMI 患者におけるOHVF 発症の危険因子を明らかにすることにより、リスクの高い患者を同定することで、OHVF を予防することに繋がる有用な研究であると考えられた。

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