リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「幹細胞移植による歯周組織再生誘導時に併用する炭酸アパタイトの有効性検証」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

幹細胞移植による歯周組織再生誘導時に併用する炭酸アパタイトの有効性検証

川嵜, 公輔 大阪大学

2022.03.24

概要

【研究目的】
 我々の研究室では、脂肪組織由来多系統前駆細胞(Adipose tissue-Derived Multi-lineage Progenitor Cell: ADMPC)の自己移植による歯周組織再生療法の開発に取り組んでいる。これまでに、皮下脂肪組織より単離・培養したADMPCを、フィブリンゲルを足場材として歯槽骨欠損部に自己移植し、当該治療法の安全性と歯周組織再生効果を重度歯周病患者を対象とした臨床研究にて評価した。その結果、12名全例で重篤な有害事象を認めることなく、術前と比較し有意な歯周ポケットの減少、臨床的アタッチメントレベルの獲得、X線解析における歯槽骨の再生が認められた。また、一壁性、四壁性骨欠損などの既存の歯周組織再生療法では十分な再生効果を期待できない症例においても、ADMPC自己移植による歯周組織再生効果が確認された。一方で、一部の重症例において、移植部位に歯肉の退縮や陥凹が術後に生じることにより、歯周組織再生効果が制限されたと考えられる症例が存在した。そこで本研究では、ADMPCの足場材をフィブリンゲルから、生体吸収性と高いスペースメイキング能力を有する人工骨補填材である炭酸アパタイトへ変更することが、当該再生療法の有効性に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。

【材料および方法】
 炭酸アパタイトがADMPCの細胞機能に及ぼす影響についてin vitroにて評価するため、ディスク状に成型した炭酸アパタイト上で培養したADMPCとプラスチックプレート上で培養(以下、通常培養)したADMPCの細胞機能を比較検討した。すなわち、各条件で培養後にパラホルムアルデヒドにて固定したADMPCをRhodamin Phalloidin、Hoechstにて染色し、蛍光顕微鏡にて細胞形態を観察した。一方で、ADMPCを樹脂包埋し、超薄切切片を作製して、透過型電子顕微鏡にて細胞内小器官を観察した。また、培養上清中に含まれる乳酸脱水素酵素を計測することにより死細胞数を評価した。細胞増殖については、ATPアッセイにて、硬組織形成細胞への分化能については、石灰化誘導培地(10mM β-glycerophosphate、5μΜ Ascorbic acid、0.1μΜ Dexamethasone、 10%FCS含有D-MEM)にて6日間培養した後のRUNX2遺伝子発現をリアルタイムPCR法(qPCR法)にて検討した。ADMPCの液性因子分泌能については、IGFBP6(Insulin-like Growth Factor Binding Protein-6)、HGF(Hepatocyte growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)の遺伝子発現をqPCR法にて検討した。また、培養上清中に含まれるIGFBP6濃度をELISAにて検討した。
 in vivoにおける検討として、イヌ実験的歯周病モデルを用いたADMPC自己移植に際し、炭酸アパタイトの併用が歯周組織再生効果に及ぼす影響について解析した。すなわち、ビーグル犬の下顎第四前臼歯を抜去し、12週後に下顎第三前臼歯遠心あるいは下顎第一後臼歯近心に二壁性骨欠損あるいは一壁性骨欠損を作製した。ADMPCはビーグル犬腹部大網を採取し、単離・培養した。二壁性骨欠損モデルでは、対照群にADMPC・フィブリンゲル複合体(以下、フィブリンゲル群)を、試験群にADMPC-炭酸アパタイト複合体(以下、炭酸アパタイト群)を自己移植した。なお、試験群の炭酸アパタイトは第二前臼歯遠心には粒径が0.3〜0.6mm(Sサイズ)、第一後臼歯近心には粒径が0.6〜1.0mm(Μサイズ)のものを用いた。一壁性骨欠損モデルでは、骨欠損のみ作製したsham手術群、炭酸アパタイトのみ埋植した炭酸アパタイト単独群、ADMPC移植に炭酸アパタイトを併用した炭酸アパタイト・ADMPC移植群の3群を設定した。炭酸アパタイトはSサイズを用いた。移植から6週後あるいは12週後に顎骨を採取し、マイクロCT解析にて硬組織を評価するとともに、HE染色およびAZAN染色を行い組織学的な解析を行った。

【結果】
 in vitroの解析結果より、通常培養したADMPCと比較し、炭酸アパタイトの上で培養したADMPCの細胞形態および細胞内小器官の構造に差異は観察されず、死細胞数も同等であった。また、炭酸アパタイト上のADMPCにおいて通常培養と同様にRUNX2(D遺伝子発現上昇を認めた。さらに、IGFBP6、HGF、遺伝子発現、IGFBP6のタンパク発現は通常培養と同程度であった。一方で、炭酸アパタイト上で培養したADMPCは通常培養と比較し、細胞増殖率の有意な上昇を認めた。
 ビーグル犬二壁性骨欠損モデルのマイクロCT解析および組織学的解析から、炭酸アパタイト群では、フィブリンゲル群と比較し、移植6週後の骨欠損部におけるX線不透過物の体積が有意に多かった。また、炭酸アパタイトの顆粒径はΜサイズと比較し、Sサイズを移植した群で歯槽骨再生率が有意に高かった。なお、組織学的解析から、フィブリンゲル群、炭酸アパタイト群ともに炎症所見や異常治癒所見を認めず、歯槽骨の再生量は両群で差を認めなかった。また、炭酸アパタイトの顆粒周囲には、多核巨細胞や骨芽細胞を認めた。
 ビーグル犬一壁性骨欠損モデルのマイクロCT解析および組織学的解析から、Sham手術群、炭酸アパタイ単独群と比較し、炭酸アパタイト・ADMPC移植群において有意な新生骨の形成を認めた。また、Sham手術群と比較し、炭酸アパタイト単独群と炭酸アパタイト・ADMPC移植群において有意な新付着の獲得が観察された。

【結論および考察】
 本研究結果から、ADMPC移植療法における炭酸アパタイトの併用は、歯周組織再生効果を向上させることが示唆された。炭酸アパタイト上で培養されたADMPCが増殖の亢進、通常培養と同程度の分化能および液性因子の分泌能を示したことは、炭酸アパタイトがADMPCにその細胞機能を発揮できる環境を提供する足場材であることを示唆している。また、炭酸アパタイトにはタンパク質の吸着能が報告されていることから、炭酸アパタイトに吸着したADMPC由来の液性因子の一部が、オートクラインに作用してADMPCの増殖の亢進に寄与した可能性が考えられる。一方で、分化のマスター遺伝子であるRUNX2の発現解析から、炭酸アパタイト上のADMPCが硬組織形成細胞への分化能を示したことは、ADMPC・炭酸アパタイト複合体移植において、ADMPCの分化過程が活性化され得ることを示唆している。次に、二壁性骨欠損モデルにおけるX線不透過物体積と結合組織下の組織再生スペースの面積の解析結果より、炭酸アパタイト群がフィブリンゲル群を有意に上回ったことで、フィブリンゲルに対する炭酸アパタイトのスペースメイキング能力における優位性が明らかとなった。また、炭酸アパタイト顆粒周囲に好中球等の炎症性細胞浸潤を認めず、多核巨細胞と骨芽細胞を認めたことは、正常な骨リモデリングに基づく炭酸アパタイトの生体吸収過程が進行していることを示唆している。また、炭酸アパタイトの顆粒径が異なるSサイズとΜサイズの比較において、操作性、賦形性の観点に加え、フィブリンゲル群からのX線不透過物の体積変化率において、ΜサイズよりSサイズの炭酸アパタイトが良好な結果を示し、炭酸アパタイトのSサイズがADMPC移植治療の足場材としてより適切であると考えられた。一壁性骨欠損モデルでは、術後12週の組織学的解析、マイクロCT解析の結果から、炭酸アパタイト単独群ではsham手術群の約2〜2.5倍の歯槽骨再生が認められ、ADMPCと炭酸アパタイト併用群ではさらに有意な歯槽骨再生量の増加を認めたことは、ADMPCと炭酸アパタイトの併用が重度歯周組織欠損に対する再生療法として有効であることを示唆している。今後は、歯周組織に炎症を惹起した後に移植を行うイヌ分岐部病変モデルや自然発症歯周炎モデルを用いて再生効果を検討することで、ADMPCによる歯周組織再生効果をより明確に示すことが可能なのではないかと考えられる。本研究にて得られた知見は、既存の歯周組織再生療法では十分な再生効果を期待できない重度歯周病患者を対象とする、ADMPC移植による新規歯周組織再生療法の樹立・改良に寄与するものと考えられる。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る