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大学・研究所にある論文を検索できる 「サルエイズモデルにおけるウイルス特異的中和抗体応答に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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サルエイズモデルにおけるウイルス特異的中和抗体応答に関する研究

菅野, 芳明 東京大学 DOI:10.15083/0002002396

2021.10.13

概要

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は、後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こす感染症であり、抗レトロウイルス薬を一生継続することによってウイルス量制御及びAIDS発症遅延が可能となっているが、現時点で根治は不能であり、世界の罹患人口、新規感染者は多く、予防ワクチンを代表とする免疫学的な介入戦略が強く求められている。

 HIV/SIV(サル免疫不全ウイルス)はCCR5陽性メモリーCD4陽性T細胞の感染急性期における大規模な破壊を来し、ウイルス特異的適応免疫応答の全般的な障害を起こすことが免疫学的に最も著明な特徴である。特にHIV/SIV感染では、中和抗体(NAb)の誘導効率が感染急性期から慢性期に至るまで非常に低いことが持続感染の成立に寄与するが、このウイルス特異的NAb誘導障害が生ずる全容は明らかではない。逆に感染急性期に一定量のNAb応答が存在すれば、特異的T細胞応答の誘導亢進などの機序を介して高度のウイルス複製制御を惹起し得ることも近年判明しており、その存在はウイルス制御に非常に重要である。従ってHIV/SIV特異的NAb応答の性質を解明することは重要であり、特にサルエイズモデルを用いたSIV特異的NAbの性状、とりわけエンベロープ(Env)標的性の解析は、抗体誘導型のHIV制御戦略の開発に必須と考えられる。

 所属研究室ではサルエイズモデルを用いた先行研究において、高度の中和抵抗性を示すSIVmac239株に感染したアカゲザルにおける抗SIV抗体応答の長期フォローアップを行ってきた。70頭につき当該の解析を行ってきた中で、このウイルスに特異的なNAbを誘導する個体が群単位で初めて同定された。NAb誘導個体と非誘導個体を比較することで、NAb誘導に重要な特徴を見出せることが期待され、当該モデルのさらなる描出が見込まれる。そこで私は、この同定されたSIVmac239特異的NAb誘導サル群(n=8)に注目し、対照NAb非誘導群(n=7)との比較を交え、NAb応答が標的とするEnv領域の解析を行った。

 最初にNAb誘導群とNAb非誘導群の感染慢性期における血漿中ウイルスRNAのenv配列をダイレクトシーケンシングにより経時的に解析し、共通選択の傾向を示したEnvアミノ酸置換を探索した。結果、NAb誘導群においては可変領域V1(variable region 1、以下同様)、V2、V4、V5をコードする4領域にアミノ酸置換やアミノ酸欠失を生ずる変異が高率に認められた。

 次に、NAb誘導群及びNAb非誘導群におけるウイルスEnv領域に対する選択圧の解析を行った。NAb誘導期及び非誘導群において時期的に対応する感染慢性期の血漿中ウイルスRNAより、各個体につき20個のenvgp120コード領域のサブクローニングを行った。まず平均の総塩基変異個数をSIV感染後週数に対してプロットした結果、NAb誘導群はNAb非誘導群と比べて異なる線形回帰の傾向を示した。そこで平均の総塩基変異個数をSIV感染後週数で除した値を総塩基変異蓄積速度と定義し、各個体の代表パラメータとし両群間で比較を行った結果、NAb誘導群における蓄積速度はNAb非誘導群と比べて有意に亢進していた。次に総塩基変異のうち同義変異を除いた非同義変異の蓄積速度も同様に計算し群間で比較を行った結果、同様にNAb誘導群ではNAb非誘導群と比べて有意に非同義変異蓄積速度の亢進を認めた。すなわち、NAb誘導群においてはEnvgp120領域に対する宿主選択圧の亢進が生じていた。さらにウイルスチャレンジからNAb誘導までの2タイムポイント間と、NAb誘導以降の2タイムポイント間でのダイレクトシーケンシングによるドミナントなアミノ酸変異の蓄積速度を比較した結果、NAb誘導後に蓄積速度の増加が認められた。NAb非誘導群で同様の解析を行ったところその傾向は認めず、従ってこのEnv選択圧の亢進はNAb誘導により加速することが示唆された。

 以上のEnv選択圧を呈したNAb応答のEnv標的特異性の解析を行うため、中和逃避変異と推定した各Envアミノ酸変異をコードするenv変異体ウイルスのパネルを作製した。具体的には、V1領域A138S、V2領域G201D、V4領域A417T、V4領域420~426KPKEQHK欠失(420~426del)、V5領域N476Dの5種類をEnv多型解析の結果及び既報からNAb逃避変異と推定し、各々の変異を単独、もしくは組み合わせで有する[V1+V4A138S+A417T(V14mt)、V1+V2+V4A138S+G201D+A417T(V124mt)、V1+V2+V4+V5A138S+G201D+A417T+N476D(V1245mt)]変異体SIVmac239を作製した。増殖曲線を評価した結果、これらの各ウイルスは、それぞれ変異導入による複製能の低下は来さなかった。

 この作製した野生株およびEnv変異体ウイルス群をパネルとして、NAb誘導群及びNAb非誘導群における各ウイルスの中和能を10TCID50ウイルスキリング型中和アッセイで評価した。その結果、NAb誘導個体の血漿はいずれもおおむね、野生型SIVよりも変異SIVに対する中和抗体価が低く、複数変異を有するSIVに対する中和抗体価はさらに低かった。NAb非誘導個体の血漿は野生型SIVに対する中和抗体価のみならず、すべてのEnv変異SIVに対して中和抗体価が陰性であった。NAb誘導群の各頭において、野生型に対する中和抗体価と各変異ウイルスに対する中和抗体価を比較解析した結果、EnvA138S、G201D、A417T、420~426del及びN476Dはいずれも野生型と比して有意に低い中和抗体価を示し、本研究の検定水準でNAb逃避変異と認められた。V1、V2、V4、V5単独変異体と同様にV14mt、V124mt、V1245mtもそれぞれNAb逃避変異体と認められた。最後にNAb誘導群とNAb非誘導群につき各ウイルスに対する中和抗体価の比較を施行し、群間での中和能の差が消失する水準の存否を検討した。結果、各Env単独変異体に対する中和能はNAb誘導群で依然NAb非誘導群より高く、V14mt、V124mtでも中和能はNAb誘導群において保たれたが、四重変異体V1245mtに対する中和能はNAb誘導群で8頭中5頭で検出限界以下であり、有意に高くならなかった。すなわち、本研究における動物群を全体として見たときに、中和逃避変異体として定義できるのはV1245mtであることが明らかとなった。

 本研究では中和抵抗性SIVmac239株に対して血漿中にNAb誘導を示したアカゲザルの群単位におけるEnv標的領域の解析を初めて行った。今回評価対象としたEnv変異のうち、複数が中和逃避変異であると認められ、さらにその2つ以上の組み合わせにより中和能は更なる低下傾向を示した。特にV1、V2、V4、V5領域の点変異を四重に有するEnv変異体SIVに対するNAb誘導群の中和能は、NAb非誘導群と比較して有意でない水準まで低下した。本結果は中和抵抗性SIVに対するNAb応答がEnvの独立した複数領域を多重に標的とすることで達されている可能性をin vivoで初めて描出するものである。本研究は抗体誘導型HIV制御戦略の作出に向けて重要な知見を与えるものである。

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