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大学・研究所にある論文を検索できる 「ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染症に有効なワクチン開発をめざして : HCMV中和活性を引き上げる真の膜糖蛋白質複合体の検索および過去30年の日本人女性におけるHCMV中和抗体保有率の変遷」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染症に有効なワクチン開発をめざして : HCMV中和活性を引き上げる真の膜糖蛋白質複合体の検索および過去30年の日本人女性におけるHCMV中和抗体保有率の変遷

柴村, 美帆 東京大学 DOI:10.15083/0002002452

2021.10.15

概要

ヒトサイトメガロウイルス(HCMV; human cytomegalovirus)はヘルペスウイルス科βヘルペス亜科に属する約235bpの2本鎖DNAウイルスである。日本国内では約300人に1人の出生児が胎内でHCMVに経胎盤感染して出生し、そのうちの約30%が先天性CMV感染症を発症する。先天性CMV感染症は感音性難聴や発達遅滞などの神経学的、身体的障害を引き起こす。また、免疫不全状態の患者においても日和見感染の原因として生命の脅威となる感染症を引き起こすウイルスである。しかし、HCMVに対する抗ウイルス薬には副作用の問題があり、抗体医薬の有効性の検証やその改善・開発も研究途上にある。さらに現時点では感染・発症予防法として最も有効なワクチンはない。

 本研究では、先天性感染症、および免疫不全患者で大きな問題となるHCMV感染症に有効なワクチン開発に資する、二つのテーマについて研究した。

 第一章では、HCMVに対する中和抗体(neutralizing antibody; NAb)が標的とするHCMVの表面膜糖蛋白質抗原複合体を同定することを目的とした。

 HCMVのエンベロープには多種の糖蛋白質が存在し複合体(glycoprotein complex; gc)を形成している。中でも、gcⅠ(glycoprotein(g)Bの多量体)、gcⅡ(gM/gNの複合体)、gcⅢ(gH/gL/gOまたはgH/gL/UL128/UL130/131A(pentamer complex; PC))の複合体が細胞への吸着・侵入・融合に関与している。つまりこれらは主要なNAbの標的と推測されている。

 また、近年の臨床HCMV分離株のゲノム解析で、長年研究に用いられていたHCMV実験室株は線維芽細胞での継代を繰り返されることで生じた変異が存在することが判明し、上皮細胞、内皮細胞、血球細胞への感染に機能するPCが発現していないことがわかっている。

 これまでの研究では、各膜蛋白質抗原におけるepitope解析・抗原ペプチド別のモノクローナル抗体(既感染ヒト血液またはマウスなどの動物を用いて作製)の中和抗体価(NAb-titer; NT)を比較し、PCの抗原ペプチドに対する抗体に強い中和活性があることが示されてきた。一方で、HCMVはヘルペスウイルスに特異的な複雑な免疫回避機構を有する。つまり宿主の免疫応答の一部の機能を阻害する能動的免疫回避のほか、潜伏感染、glycosylationによるウイルス抗原性の遮蔽、そして各膜糖蛋白質が複合体を形成しHCMV粒子の中にみせかけの抗原とNAbの真の標的を競合させる「抗原競合性」機構も併せ持っている。ワクチンおよび抗体薬開発に最適な抗原およびその組み合わせは何かという課題は未解決である。

 特定の蛋白質がHCMVに対する感染中和に寄与している場合には該当蛋白質と中和抗体価との間に有意な相関性が見られると考えられる。よって本研究では、HCMV既感染健康成人の血清と、上皮細胞に対する感染性が保持されている国内臨床HCMV分離株を用いて、上皮細胞および線維芽細胞でのNTと4種類のHCMV-gcに対する特異抗体価の相関性をすべての組み合わせにおいて求めた。

 方法は、まず、78名分のボランティア血清とEIAキット(ウイルス抗体EIA「生研」サイトメガロIgG、デンカ生研)を用いてIgG抗体価を測定し、48名分のHCMV抗体陽性血清を得た。次に、各膜蛋白質にタグを融合させる形で発現させる蛋白質発現プラスミドを作製し、それらを293FT細胞にco-transfectionすることで各gcを発現させ、その細胞を間接蛍光抗体法用のガラススライドに固定し,免疫蛍光抗体法(immunofluorescence assay; IFA)によって血清中の各抗原に対する特異的抗体価を測定した。また、in vitroでのバイオアッセイにて、血清のNTを線維芽細胞(MRC-5)および上皮細胞(RPE-1)の両方にて測定し、これらの結果から各gcに対する抗体価とNTの相関性を求めた。プラスミドベクターの構築、IFA、線維芽細胞でのNT測定に用いたHCMVはMerlin株であり、上皮細胞への感染性のあるHCMVとしては国内患者から分離された1612株を用いた。

 結果、抗gB抗体価は線維芽細胞でのNTと弱い正の相関性を認めた(Spearman R=0.36、p=0.011)が、上皮細胞でのNTとは相関性がなかった(R=0.19、p=0.17)。次に、抗gM/gN抗体価は線維芽細胞および上皮細胞いずれの細胞で調べられたNTとも相関が認められなかった。gH/gL複合体に対する特異的抗体価はいずれの細胞で調べられたNTとも中等度~強い相関性を示した(R=0.56-0.78)。

 これまでに開発された主なワクチンのストラテジーはgcIを構成するエンベロープ糖蛋白質のgBによるNAb誘導であったが、近年はgcⅢに対して誘導される免疫が感染防御に重要であることからgcⅢがワクチン抗原として注目されている。今回の結果はその知見を支持する。一方、gBは現在でも重要な抗原として注目されているが、HCMVの有する特異的な免疫回避機構によって中和抗原が遮蔽されている可能性が高く、今回上皮細胞でのNTと抗gB抗体価に相関が認められなかったことと関連があると考えられる。

 NTとの相関性が認められない抗原を、ウイルス粒子上に発現されているままの複合体の形で免疫してもNAbを十分に誘導できない、あるいは逆に免疫誘導を阻害する可能性がある。中和抗原の遮蔽を取り除くなどの工夫がワクチンや抗体医薬の開発に必要だと思われる。

 第二章では、過去30年の日本人女性におけるHCMVに対する中和抗体保有率の年代別、世代別推移を調査した。

 母体がHCMV特異的なNAbを保持していると、経胎盤感染率が低下することが示されており、NAbの保有率を把握することは重要であるが、これまで国内外ともに、抗体価保有率は中和抗体法で調査されておらず、実態は不明である。

 これまでの知見では、CMV-IgG抗体(EIA)を保有する女性の割合は先進国では30-70%と低い一方、東南アジア、アフリカ、南アメリカなどいわゆる発展途上国諸国ではほぼ100%であることが示されている。しかし、先天性HCMV感染症の発症率はむしろ発展途上国諸国のほうが高いという矛盾が存在する。この原因として、これまで示されてきた「IgG抗体保有率」は単に既感染を示すのみで実際に感染防御に働く「NAbの保有率」を正しく反映していない可能性、経胎盤感染を予防できる「高力価NAb」が誘導されていない、あるいは持続していない可能性を考える。先行研究により、低力価のNAbの存在はIgG-virion複合体によりFcレセプターを介したエンドサイトーシスをかえって促進することも言われている。

 日本においては、1990年代以前は成人女性のIgG抗体保有率はほぼ100%であったが、近年では約70%にまで低下し、短期間で発展途上国型の抗体陽性率から先進国型へと急激に変化している。こうした背景を持つ日本でのNAb保有率、およびの高力価NAb保有率の変遷を調査し、先天性HCMV感染症の発生率が抗体保有率に左右されているかどうかを評価し、また、ワクチン開発の方向性を考察した。

 方法・対象は国立感染症研究所血清銀行に保管されている血清(1980年から2015年までの20代、30代、40代の国内女性、計630人の血清)。採血年、都道府県コード、年齢以外の情報は削除されている。CMV-IgG抗体価はEIAキット(デンカ生研、第一章に用いたものと同じ)を用いて測定した。また、NTの測定には第一章と同じ国内臨床分離株、細胞には上皮細胞(RPE-1)を用いた。中和抗体価のカットオフ値は16倍、高力価のNTは100倍と定めた。地域コード別IgG保有率は単変量解析、各抗体保有率は年齢・採血年区分の独立した影響を評価するため多変量解析、さらに経年や世代の上昇による傾向はCochrane-Armitage検定によるトレンド解析を用いて統計学的に評価した。

 その結果、過去30年で国内女性成人のHCMVの既感染率は既報のとおり低下していたが、全体における高力価NAbの保有率に経年変化はなかった。一方、既感染者中の高力価NAb保有率はIgG陽性率の低い近年の群の方が高かった。また、高力価NAb保有率は、20代から40代にかけてIgG保有率とともに上昇傾向であった。

 成人期の既感染率の低下は乳幼児期に初感染する割合の低下、初感染年齢の上昇、初産年齢の上昇などが原因であり、これらの結果と背景を総合的に考えると、初感染後には比較的高いNAb活性が誘導されるが、時間経過とともに徐々にNAb活性が低下することが示唆される。これは成人のCMV-IgG保有率が100%でありほとんどが乳幼児期に水平感染を受けていると考えられる国々において、先天性感染の割合が高くなっていることの説明のひとつになると考えられる。

 先天性HCMV感染症を予防するワクチン開発には、誘導される獲得免疫の持続性の向上、あるいは妊娠可能年齢に近い時点で高力価NAbを誘導することが必要である。さらに、初感染の予防だけではなく、IgG陽性者(CMV既感染妊婦)の再活性化および再感染予防も重要である。

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