AdS/CFT 対応を用いた量子異常に由来する不安定性の解析
概要
AdS時空におけるブラックホールの不安定性はAdS/CFT対応[1]によって対応する場の理論における相転移との関連が示唆されているため,近年盛んに研究されている.先行研究[2]では量子異常によって空間方向に変調され不安定性が有限電荷密度系で生じる可能性についての重力双対を用いた解析がなされた.そこでは5次元のU(1)ゲージ場のLagrangianとしてL=−14FIJFIJ+α3!ϵIJKLMAIFJKFLMが採用されていた.この系ではChern-Simons項の存在が不安定性の発現の本質であり,電荷密度が十分大きくなるとChern-Simons項の効果でブラックホール時空が不安定化する.
本研究では,重力理論側にChern-Simons項が露わに存在しない場合でも背景ゲージ場により疑似的にChern-Simons項を誘導することで[2]で見られた不安定性と類似の空間的に非一様な不安定性が現れる可能性について解析した.AdS/CFT対応によるとこの系の解析はカイラル量子異常が存在する荷電粒子系に電場と磁場を印加した系に対応しており,この系に空間的に非一様な不安定性が発現する可能性を解析していることに対応している.解析の結果,本論文で用いたモデルでは系の不安定性が発現しないことが判明したが,それと同時に量子異常の効果が十分強い系では電場と磁場で誘導される不安定性が発現する可能性があることが示唆された.以下,本要旨では自然単位系(c=ℏ=kB=1)を用いることにする.