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<論説>弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

森田, 憲右 筑波大学

2023.07.31

概要

論 説

弁護士の中立公正義務の理論的分析
(2)

森 田 憲 右
第 1  はじめに(中立公正をめぐる事例とその問題意識)
第 2  中立公正さが問題となる場面と利益相反の関係
第 3  利益相反を検討する上での出発点としての「依頼者」
第 4  中立公正を検討する上での「依頼者」とその類型化

(以上、前号)

第5 
【類型 A:双方型】(依頼者と別の依頼者との利益相反)について、弁護士の中立公
正さが問題となる場合
 1 
【類型 A:双方型】について
 2 
【類型 X ①:依頼者同士型】複数依頼者間おける中立公正さ
 3 
【類型 X ②:依頼内容型】委任内容における中立公正さ  
第6 
【類型 B:非双方型】(依頼者と他の立場や役割との間の利益相反)について、弁護
士の中立公正さが問題となる場合
 1 
【類型 B:非双方型】について
 2 
【類型 Y ①:規定型】弁護士法 25 条 4 号 ・5 号、職務基本規程 27 条 4 号 ・5 号


(以上、本号)

 3 
【類型 Y ②:非規定型】弁護士法制に個別規定がない場合
第 7  まとめ

第 5 
【類型 A:双方型】(依頼者と別の依頼者との間の利益相反)につ
いて、弁護士の中立公正さが問題となる場合
1 
【類型 A:双方型】について
【類型 A:双方型】について、弁護士の中立公正さが問題となり得る場面を
検討する。
弁護士法には 25 条 1 号ないし 3 号(弁護士法人や外国法事務弁護士の場合は
67

論説(森田)

同条 6 号ないし 9 号)に規定がある。
【類型 A:双方型】の場合も【類型 B:非双方型】の場合も、いずれも事件
の同一性が要件となる。両者の差異は、
【類型 A:双方型】の場合は、実質的・
具体的な利益相反の有無が問題となり、利益相反が顕在化していることを要す
るが、
【類型 B:非双方型】の場合は実質的・ 具体的な利益相反の有無は問題
とならないところにある。
【類型 A:双方型】においては、弁護士の中立公正さが問題となり得る場合
として、【類型 X ①:依頼者同士型】複数依頼者間において中立公正さが求め
られる場合と【類型 X ②:依頼内容型】その委任内容に中立公正さが求めら
れる場合とが考えられる。
以下では、2 つの場合を分けて検討する。
2  【類型 X ①:依頼者同士型】複数依頼者間おける中立公正さ
弁護士は複数の依頼者から共同依頼を受ける場合がある。この場合、弁護士
は複数の依頼者のうち一方に与してはならない。一方の依頼者に与すると、他
の依頼者の利益を害することとなるし、職務の適正とその信頼を損なう。した
がって、弁護士は依頼者間において中立公正でなければならず、ときには依頼
者間において調整を行う場合がある。このことは【類型 B・ 非双方型】
【類型
Y ②非規定型】における破産管財人や遺言執行者が利害関係人間ないし相続人
間において調整を行いつつ中立公正でなければならないことと近似し、あたか
も【類型 X ①:依頼者同士型】と同列に論じられる危険性がある1)。しかし、
むしろそのような誤解や危険性が生じるからこそ、中立公正が多義的であるこ
と故に、
類型化をする意味がある。上記二類型のそれぞれにおいて中立公正は、
依頼者の有無という重大な差異があり、全く別の法的根拠・ 法的性質である
ことを見逃してはならない。
1)

解説 220 頁によれば「中立公正な第三者的職務を行おうとする場合について、本条〔職

務基本規程 81 条〕の適用がある場合も含め、職務基本規程 27 条、28 条等の適用があるか
否か、あるとして該当条項はいずれとなるかは難しい問題である。」などという。

68

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

【類型 X ①・ 依頼者同士型】においても、更に複数の依頼者の代理をする場
合と複数依頼者間の調整型業務をする場合とがあるので、2 つの場合に分けて
検討をする必要がある。
(1)
 複数の依頼者の代理
複数の依頼者が第三者と対立している場合、
複数の依頼者を代理することは、
依頼者間で利益相反が顕在化していない限り、許される。
典型的な事例として、遺産分割協議ないし遺産分割調停において、弁護士が
複数の相続人から受任を受けて代理人となる場合が挙げられる。遺産分割は、
被相続人の遺産を分配するものであるから、特定の相続人の利益を最大限追求
することとなれば、自ずと他の相続人が不利益を被ることとなるので、相続人
は互いに利益相反関係に立つ。しかし、例えば、弁護士は、複数の相続人から
唯一の遺産である預貯金を相続分のとおりに分割する場合であってもこれまで
のいきさつから別の相続人と直接連絡を取り合いたくないので当該複数の相続
人の代理人になってもらいたいとの依頼を受ける場合があれば、複数の相続人
から遺産の範囲、特別受益ないし寄与分をめぐって他の相続人と紛争状態にあ
ることから連携している当該複数の相続人の代理人になってもらいたいとの依
頼を受ける場合もある。このような場合、当該複数の相続人間では、利益相反
が顕在化しているとはいえず、むしろ当該複数の相続人がそれぞれ別の弁護士
に依頼をするよりも 1 人の弁護士に依頼をすることの方がより精神的・ 経済的
に優位性があり依頼の趣旨に適う。
職務基本規程 32 条は、
「弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があっ
てその相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受任するに当
たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれの
あることを説明しなければならない。
」と規定するが、複数の依頼者を代理す
ることができることを前提としている。
もっとも、このような場合絶えず利益相反が顕在化するおそれはあるのであ
るから、予め「辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれ」のあることを説
69

論説(森田)

明する義務を負う。説明の具体的内容としては、ABA 模範規則が参考になる。
同規則 1.7 条(b)によれば、利益相反が顕在化していない複数依頼者を代理す
る要件として、(1)弁護士が依頼者全員に対して有能かつ誠実に代理行為を提
供できると合理的に信じられること、
(2)当該代理行為が違法ではないこと、
(3)同一または他の訴訟事件において一方の依頼者による他の依頼者に対する
請求が含まれないこと、
(4)書面による事前の説明がなされていることが必要
とされる。また、同条のコメント 30、31 によれば、複数の依頼者間において、
秘密特権を付されず、
守秘義務は解除されて情報を共有することが求められる。
このように弁護士は複数依頼者を代理する場合、依頼者全員に対して忠実義
務を負うこととなるので、依頼者全員に対して中立公正に対応することとなる
し、万一、複数の依頼者間において利益相反が顕在化してもなお弁護士が職務
を続行すると、弁護士法 25 条 1 号及び職務基本規程 27 条 1 号違反が問題とな
るので、職務基本規程 42 条によれば「依頼者それぞれに対し、速やかに、そ
の事情を告げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置を採らなければならな
い」とされる。
(2) 複数依頼者間の調整型業務
複数の依頼者が第三者と対立するのではなく、複数依頼者同士の利害が形式
的に対立している場合に、その調整を依頼される場合がある。いわゆる調整型
の業務といわれるものである。
このような場合、複数の利害関係者間において、1 人ないし一部が「依頼者」
であるのか、関係者全員が「依頼者」であるのか、あるいは、全員が「依頼者」
ではなく弁護士が「中立の第三者」の立場として関与するのかについて不分明
となるおそれがあるから、いずれであるかを確定しておく必要がある。
2 人ないし一部が「依頼者」であり、他の関係者が相手方であるときは、前
記(1)
(複数の依頼者の代理)の場合である。
これに対して、関係者全員が「依頼者」であり、弁護士が対立する関係者全
員の利害を調整することを依頼されたときはどうか。
70

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

前記(1)と同様に遺産分割協議の事例を挙げてみると、全相続人間におい
て対立関係にはなく、すでに遺産分割協議の方向性や内容が決まっており、た
だ法的処理において遺漏がないように、1 人の弁護士に協議書のとりまとめな
どについて依頼をする場合がある。おそらく大半の相続処理は、対立関係が顕
在化しない状況下において、税理士や司法書士においてすでに取り決められた
協議内容を書面化して相続税申告や相続登記手続等をするであろうが、弁護士
においても同様の相続処理をすることの依頼を受けることは可能である。全相
続人間において依頼前に協議内容が完全に確定している場合が考えられるが、
他方、全相続人間において特定の論点について対立しておりその先の相続処理
が停滞している場合に特定の信頼できる弁護士の法的知見や助言を求めた上で
全相続人において相続処理を進めようと予定している場合も考えられる。
この場合、形式的に利害対立する関係者から同時に依頼を受けることとなる
ので、弁護士法 25 条、職務基本規程 27 条・ 28 条などの適用が問題となるが、
利害関係者全員において利益相反が顕在化していないのであれば、利益相反規
制に抵触するものではないと解される。
この点、利益相反規制に抵触しないとする結論を導く根拠として、弁護士が
代理人として行うものではないことを指摘する見解がある2)。しかし、弁護士
法 25 条 1 号は、「依頼者」の意義について、依頼を承諾して代理人として活動
する場合のほか「相手方の協議を受けて賛助」する場合をも規定しており、必
ずしも代理人として活動したことを前提としていない。また、禁止される「職
務」は弁護士法 3 条 1 項にいう「職務」すなわち「一般の法律事務」であって、
代理行為に限定するものではない。とすれば、代理人として行うものではない
ことを根拠として、弁護士法 25 条 1 号などが適用されないとするのは相当で
ない。また、調整型業務においては同条などの適用範囲ではないことを前提と
すると、例えば、その後当事者間で調整が不可能となった後においても弁護士

2)

解説 82 頁、遠藤直哉「中立型調整弁護士モデルの展望」(宮川光治ほか編著「変革の中

の弁護士─その理論と展望」有斐閣 1993.3)296 頁

71

論説(森田)

が当該業務を継続している場合に、調整型業務を捉えて同条などの適用を問題
とすることができなくなるという不都合が生じる。
複数の利害関係者間で紛争が生じ対立していても、当該全関係者において信
頼できる弁護士からの助力を得て合意に達しようと考えた上で当該弁護士に依
頼する場合、当該弁護士は全関係者の共通の利益のために行動して法的解決を
試みることを期待されているのであるから、全関係者の共同依頼による限り利
益相反が顕在化しているとはいえない。関係者全員の依頼は、弁護士に調整型
業務として合意した範囲(個々の依頼者に着目すれば、その調整にあたり、本
来の要求である最大限の利益追及が制限されたり、情報共有のためにその秘密
保護が制限されたりするが、それでもなお全関係者において解決の迅速さ・
低廉さ・ 円満さなどを優先することを共通認識とするもの)では、関係者全
員の利益相反は顕在化していない。なぜなら、ここにいう「利益」は、依頼内
容に応じて取り決められるものであるからである。このように考えると、調整
型業務の場合に弁護士法 25 条 1 号などが適用されないのは、利益相反が顕在
化していないことをもって根拠とすべきである。
弁護士は、依頼者全員から上記合意範囲における依頼内容を確定した上で、
受任をすることとなる3)。これによれば、調整型業務の場合であったとしても、
弁護士の忠実義務の内容は前記(1)
(複数の依頼者の代理)の場合と異なるこ
となく、職務基本規程 32 条 4)などの規律を受ける。職務基本規程 32 条、42 条は、
相手方のいる複数依頼者に限定しているものではなく、相手方のいない複数依
頼者間の代理行為ではない中立型調整行為についてもその適用を想定している
ものと解される。
そして、調整型業務の場合においても、
(1)
(複数の依頼者の代理)の場合
と同様に、万一、弁護士が上記合意範囲を逸脱して一方当事者に肩入れしたり
3)

ただし、全当事者が合意範囲を了解すること、それを書面化すること、合意を維持す

ることは事実上困難であり、弁護士がそのような役割を担うことを避けることが想定され
るから、現実問題として極めて限られるものと思われる。
4)

72

ABA 模範規則 1.7 条(b)

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

して、利益相反が顕在化してもなお職務を続行すると、弁護士法 25 条 1 号の
違反が問題となるので、職務基本規程 42 条が適用される。
(3) 弁護士が複数の依頼者ないし全関係者を「依頼者」とするとき、弁護
士は、依頼者全員に対して共同の忠実義務を負う。その場合、弁護士には依頼
者間において中立公正さを求められる5)。しかし、ここでの中立公正さは、対
立する当事者間における本来の意味での中立公正ではない。中立公正さは複数
の依頼者からの依頼の一内容をなしているにすぎないから、依頼者に対する忠
実義務に組み込まれたものであって、委任事項について慎重に検討を要するこ
とはあり得たとしても、あえて、弁護士の中立公正義務として独立した理論構
成をする必要はないものと思われる6)。
これに対して、弁護士がいずれの関係者をも依頼者とすることなく中立の第
三者として行動する場合は、
【類型 B:非双方型】の問題である。
3 
【類型 X ②:依頼内容型】委任内容における中立公正さ
前掲大阪高決は、責任調査委員会を論じる上で、第三者委員会についても言
及している。第三者委員会の委員と会社の訴訟代理人との兼併の問題は、新た
な問題として提起されている。前掲大阪高決は、責任調査委員会の委員に独立
性・ 中立性・ 公正性が求められることから、利益相反規制に抵触するとの結
論を導き出している。確かに、責任調査委員会や第三者委員会の各委員は、会
社とは利害関係がないことや職務の中立公正を標榜していることから、これに
より同一事件において会社の代理人となることが利益相反規制に抵触すること
が導かれるとの論理もあながち否定し得ないかのような誤解を生む。
しかし、多義的な概念から論証を試みることは極めて危険である。ここに中
5)

ABA 模範規則 1.7 条コメント 30

6)

ABA に関していえば、弁護士が依頼者を措定しない第三者として活動するときは、

ABA1.12 条、2.4 条が適用されるが、依頼者を措定するときは、通常の利益相反規定である
ABA1.7 条が適用される。

73

論説(森田)

立公正を理論的に分析し類型化をする意味がある。委員の立場や職務内容を子
細に検討すれば、委員の独立性・中立性・公正性は、
【類型 X ②・依頼内容型】
にあたるものであり、これは、弁護士が特定の依頼者から独立性や中立公正な
職務の依頼を受ける場合である。この類型で最も参考とすべき事案としては、
会社の独立役員と会社の訴訟代理人との兼併の問題があるので、先にその問題
から検討を加える。
(1) 会社の独立役員と会社の訴訟代理人の兼併
独立役員とは、会社法、金融商品取引法、金融商品取引所規則等の法令等に
より定められ、客観的独立性が要求される7)。弁護士が独立役員となるとき、
会社と委任契約を締結することとなるから、
「依頼者」は会社である。
会社の独立役員に顧問弁護士が就任することができるか、あるいは、会社の
独立役員が会社の訴訟代理人となることができるかという問題がある。監査役
が会社の使用人を兼ねることができないとする会社法 335 条 2 項は、業務執行
への従属の危険が高い地位にある者が監査役を兼任することを禁じる一般予防
規定であるとされている。顧問弁護士や訴訟代理人が会社の業務執行への従属
危険性があるとみれば客観性独立性が要求される独立役員の兼併は同条により
禁止されるという結論に導かれ、従属危険性がないとみれば許容されるという
結論に導かれる8)。昭和 61 年 2 月 18 日最判(民集 40.1.32)は、会社の独立役
員と会社の訴訟代理人の兼併について、会社法 335 条 2 項(旧商法 276 条)に
抵触するものではないし、双方代理にあたるものとはいえないとしている9)。
ここでは、独立性・ 中立性・ 公正性は、会社の業務執行について、他の役
員から従属されないという意味で用いられており、それを担保するために、就

7)

CG コード原則 4−9、日弁連 2019 年 3 月 14 日改訂社外取締役ガイドライン

8)

大塚英明「弁護士である監査役の訴訟代理の可否」有斐閣・ 会社法判例百選[第 4 版]

144 頁
9)

弁護士法 30 条にいう使用人には、監査役や顧問弁護士は含まれない(条解 260 頁、高

中正彦「弁護士法概説第 4 版」148 頁)。

74

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

任時に利害関係がないことが要求されている。独立役員に会社との利害関係が
ないことを求められることは、後述する「中立の第三者」に近似する印象を受
ける。しかし、独立役員の依頼者は会社である。依頼者である会社が独立役員
たる弁護士に求めているのは、他の役員らの違法不当な行為や責任の追及に手
心を加えないといった厳格な職務内容であり、そのような会社との委任契約の
内容に基づいた弁護士の独立性(職務基本規程 2 条・ 20 条)である。このよ
うに考えると、依頼者である会社から独立役員を依頼される場合と依頼者であ
る会社から訴訟代理人に依頼をされる場合とは利益相反関係にあたらないとし
た最高裁判例は、会社法上の利益相反にあたらないという結論にとどまらず、
弁護士法制における利益相反にあたらないとの結論にも妥当する。
会社の独立役員と会社の訴訟代理人との兼併が利益相反にあたらないとする
結論は、
事件の同一性があると否とにより影響を受けるものではない。しかし、
弁護士が訴訟代理人として活動する際に他の役員による業務執行に従属したと
される個別具体的な事実関係が認められる場合、弁護士は独立役員としての客
観性独立性に違背することとなり、会社法上会社に対する善管注意義務・ 忠
実義務違反に問われる10)。そして、弁護士法制上、弁護士は独立して職務を行
うからこそ認められた独立役員と訴訟代理人との兼併について、依頼者である
会社の信頼を裏切ったのであるから、
実質上取締役個人への服属従属を捉えて、
職務基本規程 28 条 3 号に違反することとなり得る。
以上のとおり、独立役員である弁護士が独立・中立公正と標榜したとしても、
その場合の中立公正さは会社との委任契約の内容として善管注意義務・ 忠実
義務の一部に組み込まれている。独立役員である弁護士に問題とされる利益相
反は、忠実義務違反としての利益相反である。この場合、あえて、利益相反規
制の特殊類型としての弁護士の中立公正義務を検討する必要はない。

10) 大塚 145 頁

75

論説(森田)

(2) 第三者委員会の委員
ア 前掲大阪高決は、第三者委員会について言及していたが、前掲最決は、
責任調査委員会の設置経緯や設置目的に言及して判断をしたにとどまり、第三
者委員会については言及していない。とはいえ、前掲大阪高決において第三者
委員会についても新たな問題として提起されていることから、以下では、第三
者委員会委員に就任した場合について検討する。
イ 日弁連 2010 年 12 月 17 日改訂「企業等不祥事における第三者委員会ガイ
ドライン」によれば、同ガイドラインが対象とする第三者委員会とは、企業や
組織において、犯罪行為、法令違反、社会的避難を招くような不正・ 不適切
な行為等(不祥事)が発生した場合および発生が疑われる場合において、企業
等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専
門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発
防止策等を提言するタイプの委員会をいう。第三者委員会は、依頼の形式にか
かわらず、企業等から独立した立場で、企業等のステークホルダーのために、
中立・ 公正で客観的な調査を行うとされ、企業等と利害関係を有する者は、
委員に就任することができないとされる。利害関係人を有する者として、顧問
弁護士はこれに該当し、企業等の業務を受任したことがある弁護士や社外役員
は直ちにこれに該当するものではなくケースバイケースで判断されることにな
ろう、とされる11)。
第三者委員会の委員の場合、会社の顧問弁護士は就任することができないと
されている点で、前記(1)の独立役員に比べて、実質的には、より客観性独
立性が要求されているといえる。
ウ 企業の第三者委員会の形式的な依頼者は会社(企業)であり、真の依頼
者はすべてのステークホルダーであるとされる12)。しかし、第三者委員会の委
員は、会社の独立役員と同様、会社との間で委任契約を締結した上で客観性独
11) 田中亘「会社法[第 3 版]676 頁参照
12) 日本弁護士連合会弁護士業務改革委員会編「『企業等不祥事における第三者委員会ガイ
ドライン』の解説」

76

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

立性が要求されるものであるから、
「依頼者」は会社である。
これに対して、地方公共団体において、地方自治法 138 条の 4 第 3 項に基づ
き執行機関の附属機関としての第三者(調査)委員会の設置を条例で制定して
いる例 13)や、いじめ防止対策推進法 14 条 3 項の規定に基づき教育委員会の附
属機関としての第三者委員会の設置を条例で制定している例があり、委員には
守秘義務あるいは中立公正義務が課されている。この場合、機関の長が委員の
委嘱をすることとなるが、その法的地位については、依頼者から切り離されて、
中立の第三者として定められたり、みなし公務員と規定されたりするか否かに
より、【類型 A:双方型】か【類型 B:非双方型】かが区別される。法律や条
令でみなし公務員ないし中立の第三者として規定されない限り、第三者委員会
の委員についての「依頼者」は会社(企業)その他委嘱者である。
第三者委員会の委員がその職務終了後に、会社の役員に対する責任追及のた
めの損害賠償請求訴訟の訴訟代理人に就任することについては、独立役員に関
する前掲最判の論理に従えば、特定訴訟行為の訴訟代理人に業務執行への従属
の危険性は認められないから、これを許容することができると解される14∼16)。
しかし、上記はあくまで委員が職務終了後に初めて依頼を受けた場合に妥当
する。仮に、委員がその就任中に、会社の役員に対する損害賠償請求の訴訟代
理人に就任することを意図していた場合 17)、第三者委員会の中立公正な判断や
それに対する信用は損なわれるおそれが大きく、委員の会社に対する善管注意
義務・ 忠実義務に違反することとなる。その場合、弁護士に求められる委員
としての中立公正さは、第三者委員会の委員の客観性独立性を伴う委任契約の
善管注意義務・ 忠実義務から導かれ、それに違反したときは、前記(1)
(会
社の独立役員)と同様、実質上取締役あるいは監査役個人への服属従属と捉え
て、職務基本規程 28 条 3 号に違反するか、あるいは報酬名目で委員の公正な
職務をおろそかにしたということをもって同規程 28 条 4 号違反となり得る18)。

13) 伊藤倫文「地方公共団体における第三者調査委員会について」自由と正義 Vol73No.8、
23 頁

77

論説(森田)

このように考えると、第三者委員会委員の弁護士に求められる中立公正さは
会社との委任契約の内容としての善管注意義務・ 忠実義務の一部として組み
込まれていることから、忠実義務違反として利益相反を捉えることができる。
換言すれば、弁護士が依頼者に対して忠実義務を負う場合、本来依頼者の意思
や指示に反することは許されないのに対して、独立役員や第三者委員会委員の
場合は、中立公正さや独立性を求めることにより依頼者である会社の個別具体
的な意思や指示に従わないことをもって忠実義務違反に問われないという内容
の委任契約を締結するものであり、これにより、その職務の趣旨や信頼を担保
している。その点からすると、
独立役員や第三者委員会委員が負う法的義務は、
14) 本村健ほか「第三者委員会・ 設置と運用[改訂版]」119 頁によれば、「企業等において
は、企業等に生じた損害の金銭的回復を目指すことを検討することはさしつかえない。し
かしながら、その検討は、委員会を組成するならば、第三者委員会とは別に関係者の法的
責任追及を目的とする委員会を組成すべきである(第 1 部第 1.1.(3)の脚注 1)。なぜなら、
第三者委員会は、
『依頼の形式にかかわらず、企業等から独立した立場で、企業等のステー
ク・ホルダーのために、中立・公正で客観的な調査を行う』ものであるため(第 1 部第 2.)、
調査対象とした不祥事に関し、第三者委員会の委員や補助者が企業等の代理人として活動
することは、それらの者が企業等から独立した立場であったのかにつき疑念を生じさせか
ねないからである。」とされる。
15) 会社顧問弁護士は会社の使用人に準ずる継続的利害関係が認められる危険性があると
して独立役員の就任を認めないとする見解がある。このような見解に立ったとしても、特
定の訴訟行為の訴訟代理人においては同程度の危険性は認められず、独立性は害されてい
ないと解することができる。
16) 第三者委員会の収集した証拠を不正不当に利用することの問題は、守秘義務違反等の
問題であり、利益相反とは別の検討を要する。
17) 会社において、第三者委員会の委員に在任中の弁護士にその後の訴訟代理人の依頼を
想定していないことが前提である。会社が上記を想定しているということは考えがたいが、
仮に、会社が上記を想定している場合、第三者委員会の中立公正とは名ばかりとなるので、
依頼内容が内部委員会の性質にとどまることとなり忠実義務違反にはあたらない。しかし、
その場合には虚偽公表ないし虚偽告知についての責任が生じることとなるが、別論である。
18) 職務基本規程 28 条 4 号の適用範囲について、経済的利益の相反か否かではなく、利益
相反の重大性、すなわち誠実かつ忠実な職務遂行が重大な制約を受けるか否かという実質
的な基準によるべきであるとする見解があるが(蜂須賀 24 頁)、この見解を前提としたと
しても、同条の適用を検討することは可能であると思われる。

78

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

依頼者である会社との委任契約の内容の問題に収斂され、依頼者以外(役員個
人、ステークスホルダー)との法的信頼関係にまではみ出して規律されるべき
ものではない。したがって、あえて、利益相反規制の特殊類型としての弁護士
の中立公正義務を検討する必要はないものと思われる。
エ これに対して、委員の職務終了後においても訴訟代理人に就任すること
は許されるべきではないという考えがあり得る。
1 つの考え方としては、真の依頼者をすべての利害関係人であるとして、破
産管財人や遺言執行者と同列に扱うものである。しかし、破産管財人や遺言執
行者の場合、調整型業務であること故に利害関係人に対して善管注意義務が法
定されているのであり、これに対して、第三者委員会の委員は、依頼者である
会社との委任関係の内容として独立性・ 中立公正さを保持するというにとど
まり、法律により、調整型業務を担うものとして利害関係人に対して善管注意
義務を負っているものではない。第三者委員会委員の弁護士には中立公正さが
求められるといっても、それは会社との委任契約の内容であることから、会社
との委任契約関係に基づく善管注意義務・忠実義務の一内容をなすにとどまり、
中立公正さを公表したことをもってすべてのステークホルダーに対して中立公
正義務まで負うものではない。
別の考え方としては、第三者委員会の意義からすれば、委員は依頼者その他
から圧力を受けないで、独立した第三者的立場から、評価・ 意見を述べる鑑
定人であるとして、依頼者を措定しない「中立公正な第三者」と捉えることが
想定される。中立の第三者の擬律については、米国とドイツの取扱いが参考に
なる。ABA 模範規則 1.12 条によれば、第三者の中立者として事前説明・ 同意
がない限り、当該会社の訴訟代理人に就任することは禁じられる。ドイツ
BRAO43 条 (
a 6)
項によれば、
兼職における利益相反が問題となる。日本の場合、
仮に、第三者委員会委員の法的性質について、
「中立の第三者」として位置づ
けられると解すると、弁護士法 25 条 4 号・5 号ないし職務基本規程 5 条 ・6 条
違反が問題となる。しかし、現在において、第三者委員会の委員は、法定され
ておらず、会社から依頼を受けた鑑定人であり、
「中立の第三者」たる鑑定人
79

論説(森田)

ではない。
オ 立法論としては、日弁連第三者委員会ガイドラインの趣旨を徹底しよう
とすれば、第三者委員会の委員は中立の第三者鑑定人として位置づけられるこ
とも考えられる。そのような法整備がなされたとき、弁護士の中立公正さは、
弁護士法 25 条 4 号 ・5 号ないし職務基本規程 5 条・6 条の問題となる。
しかし、現行の制度や実務による限りは、第三者委員会委員と会社の訴訟代
理人の兼併は、利益相反規制にはかからず、会社に対する善管注意義務違反・
忠実義務違反と認められる個別具体的な事情があってはじめて、職務基本規程
28 条 3 号・ 28 条 4 号違反が問題となる。
そして、このように考えると、前掲大阪高決において、責任調査委員会委員
について、その独立性・ 中立性・ 公正性から、利益相反規制に抵触するとの
判断を導いた論証は、誤りであったことが明らかとなる。
4 まとめ
【類型 A:双方型】(依頼者と別の依頼者との間の利益相反)について、弁護
士が複数依頼者間において中立公正さを堅持しなければならない場合や独立
性・ 中立公正さが求められる職務を依頼されている場合について検討を加え
てきた。これらは、依頼者との委任契約において中立公正さが求められている
のであり、その違反は忠実義務違反として、利益相反規制である弁護士法 25
条 1 号ないし 3 号、職務基本規程 27 条 1 号ないし 3 号及び 28 条 2 号・3 号等に
抵触するかどうかが問題となる。この類型において弁護士に求められる中立公
正さは、弁護士の依頼者に対する誠実義務・ 忠実義務の一内容にすぎず、あ
えて中立公正義務として取り上げる必要はない。

80

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

第 6 
【類型 B:非双方型】(依頼者と他の立場や役割との間の利益相反)
について、弁護士の中立公正さが問題となる場合
1 
【類型 B:非双方型】について
【類型 B:非双方型】は、依頼者と別の依頼者との双方代理の場合ではなく、
本来的な利益相反を取り扱うものではない。したがって、利益相反が顕在化・
現実化していることを要件とはしない。とはいえ、【類型 B:非双方型】の場
合でも、利益相反と類似し、利益相反が禁止される利益や趣旨に反する場合が
ある。そこで、
【類型 B:非双方型】について、個別具体的な利益相反状況の
有無という要件とは異なる規制をする必要がある。しかし、規制を及ぼすにし
ても、何らの基準や制度を設けずに個別具体的事例ごとに是々非々の判断をし
たり、あるいは、基準や制度を設けても広範に規制をしたりすることは、相当
でない。そこで、各国では、
【類型 B:非双方型】について、それぞれ制度を
定めるが、その適用範囲を巡って、過度な規制にあたらないようにする配慮が
必要となり、逆に、利益相反に近似する行為を新たに規制対象とする必要性が
指摘されたりするなどして、社会的背景事情や政策的見地を加味しつつ腐心を
してその改正が試みられている。
日本では、弁護士法 25 条 4 号・5 号等が設けられる。同条の制定は戦前まで
り、以来、それを引き継いだ昭和 24(1949)年現行弁護士法が制定され、
以後実質的な法改正は進んではいない19)。平成 16(2004)年職務基本規程によ
り適用範囲は拡大されたが、その後改正は行われておらず、例えば遺言執行者
をめぐっては懲戒議決例など解釈運用により規制されている状況にある。
【類型 B:非双方型】については、中立公正が問題となり得る場合として、
①【類型 Y ①:規定型】
(弁護士法 25 条 4 号・5 号及び職務基本規程 27 条 4 号・
5 号)を検討するとともに、②【類型 Y ②:非規定型】として、いわゆる公的
職務について検討を加える。
19) 弁護士法人の導入に伴い、弁護士法 25 条 6 号ないし 9 号が付加されたにとどまる。

81

論説(森田)

2  【類型 Y ①:規定型】弁護士法 25 条 4 号 ・5 号、職務基本規程 27 条 4 号 ・5
号(公務員、ADR の手続実施者)20)
(1) 弁護士法 25 条 4 号・5 号の趣旨
弁護士法 25 条 4 号の趣旨については、
「旧法では、範囲を広げて公務員一般
を対象とし、一層弁護士事務の公正たるべきことを期し、それがそのまま本号
に引き継がれている。その趣旨は、将来弁護士として事件の依頼を受けること
を予定して公職にある間に事件の処理に手心を加え、あるいは公職在職中の縁
故等を誇張して事件依頼者に対し過大な信用をもたせる弊害があるばかりでな
く、公職の立場で取り扱った事件について立場をかえて弁護士として依頼者の
ためにその処理を失当として非難すること、又は反対に、公職在職中の処理に
こだわって弁護士としての処理に無理をおかすことがあっては、弁護士として
の品位、信用を失墜させるから、このようなことがないよう配慮したものとさ
れており21)、また、特に判事・ 検事等は当該事件の内容を当事者双方の面から
知悉することができるため、退官後これを利用して事件を行うことは、弁護士
としての品位、信用を失墜させることも考慮されたものである。


「この中で
公務員の職務執行の公正担保というのは、4 号の直接の趣旨というよりその反
射的効果として認められるものと解される。


「5 号の趣旨も 4 号とほぼ同じで
ある」とされる22)。また、職務基本規程 27 条 4 号及び 5 号の趣旨についても、
同様とされる23)。
もっとも、上記趣旨説明については、抽象的なものにとどまり、拡大解釈さ
れるおそれがある。現に前掲大阪高決は、会社の責任調査委員会の委員につい
て拡張ないし類推適用している。そこで、これらの規定の趣旨について今一度
20) 本稿では、解説の定義に従う。解説 86 頁によれば、ADR とは、仲裁法に定める仲裁人、
仲裁廷や ADR 基本法に基づき認証を受けた紛争解決機関のほか、広く裁判外の紛争解決
手続機関をいい、手続実施者とは、仲裁手続の仲裁人、斡旋手続の斡旋員等紛争を解決す
るために中立的公平な立場で手続に参与する者をいう。
21) 矢野邦雄「判批」『最高裁判所判例解説民事
22) 条解 202 頁
23) 解説 77 頁

82

昭和 42 年度』(法曹会、1973 年)96 頁

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

敷衍して更なる類型化を検討する必要がある。
(2)
 沿革
弁護士法 25 条 4 号は、ドイツの弁護士法を継受している 。1878 年ドイツ弁
護士法 RAO31 条によれば、弁護士は裁判官として裁判に関与した事件の依頼
を受けることを禁じており、明治 26(1893)年旧々弁護士法 14 条は、判事検
事奉職中取り扱いたる事件について職務を禁じていた。これは主として弁護士
となる資格を有する裁判官検察官がその職にあった当時職務上取り扱った事件
について、退官後弁護士として、これに関与することを禁ずるものである24)。
昭和 8 年(1933)年旧弁護士法 24 条は、公務員として職務上取り扱った事件
と仲裁事件により仲裁人として取り扱った事件に対象を拡げた。ドイツ弁護士
法 BRAO45 条(1)項 1 号 a)
・b)は、弁護士法 25 条 4 号・5 号とほぼ同一の
規定である。その後、平成 16(2004)年職務基本規程が制定され、同規程 27
条 5 号は、仲裁人以外に、
「仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手
続機関の手続実施者」を主体に加えた。
(3)
 ドイツと米国との比較
ドイツ及び米国の規定は概要以下のとおりである。
ドイツ(BRAO)

米国(ABA 模範規則)

45 条(1)① a)公的機能行使の関与が
1.11 条 組織内弁護士の利益相反の特別
公務員(検察官) 弁護士の独立性に影響、受任後含む、
規定 受任後含む、例外規定あり
免責条項なし
裁判官

45 条(1)① a)同上

1.12 条 中立の第三者 受任後含む、免
責条項あり

仲裁人

45 条(1)① b)同上

1.12 条 同上

45 条(1)① b)③、43a ④⑥ 組織内で
ADR 手続実施者
1.12 条 同上
の活動が弁護士の独立性に影響

24) 福原忠男「弁護士法解説(5)」日本弁護士連合会会誌第 1 巻第 8 号(昭和 25 年)30 頁

83

論説(森田)

ア ドイツの場合(BRAO)
ドイツの場合、利益相反規制の趣旨を主に弁護士の独立性を侵害するものと
して把握する。そして、弁護士が他の業種を兼ねるとき、公務員、裁判官の場
合は、公的機能の行使に関与していることから、同一事件について、弁護士は
独立性(とりわけ公的機能介入からの独立性)を損なうおそれがあることを理
由に、その職務活動が禁止されている。公務員でなければ得られない内部情報
を私的利益のために利用することを防ぐことも趣旨の一つである25, 26)。弁護士
の独立性は依頼者の利益以外に弁護士の職務執行の公正、弁護士の品位と信頼
を害することから、免責事由を設けられていない。また、公務員でない者のう
ち ADR 手続実施者については、他の業種を兼ねることにより弁護士の独立性
を損なうおそれがあることから、活動禁止が規定されている。
イ 米国の場合(ABA 模範規則)
米国の場合は、公務員には利益相反規定が適用されるが、弁護士の事務所間
移動促進のため政策的に特別規定として ABA 模範規則 1.11 条を設けている。
利益相反を検討することから、免責事由(関係者の同意)が設けられている。
紛争解決機関の中立の第三者を担うとき、弁護士の典型的な代理業務とは異な
ることから、特別の規定として ABA 模範規則 1.12 条を設けている。同条は紛
争解決機関及び手続主宰者等の公正及び当事者その他からの信頼の確保の目的
とするとともに、中立の第三者が当事者から提出された情報を使用して相手方
当事者には不利益を被らせないことを趣旨とする。したがって、中立の第三者
はその役割が終了した後であっても、中立公正義務が課せられる27)。
ウ 日本の場合
日本の場合、ドイツ型の制度と米国の制度が混在している。したがって、一
25) 矢野 96 頁では、情報利用の防止を謳っている
26) なお、BRAO45 条(1)①号 c)は「公証人」を対象とする。公証人は、国家的権限を有し
弁護士の独立性を損なうおそれがあるとともに、法的紛争及び取引において中立公正であ
る必要があり弁護士の当事者に対する忠実義務とは相容れないことを根拠とする
(Anwaltliches Berufsrecht、3.Aufl.2020、786)。

84

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

般論として、ドイツのように弁護士を司法行政の独立機関として位置づけるこ
とに重きを置くのか、米国のように依頼者の利益を忠実に代理することに重き
を置き第三者の立場とは一線を画すのか、いずれの考え方もあり得るところで
ある。
(ア)
 公務員については、弁護士法 25 条 4 号がドイツの弁護士法を継受し
ていること、現行弁護士法 25 条 4 号・5 号と現行ドイツ弁護士法 BRAO45 条(1)
項 1 号 a)・ b)がいずれも公務員・ 仲裁人を主体としており近似していること
から、ドイツ弁護士法の趣旨に準じて把握すべきである。裁判官や検察官その
他公務員が公的機能を行使した場合、事後、同一事件について、弁護人として
職務を行うことは、弁護士の独立性が害されるという趣旨があてはまると思わ
れる。
これに対して公務員の職務の中立性をもって説明する考え方も想定し得る。
確かに、公務員は行政の中立や全体の奉仕者性から職務の中立性が導かれない
ではない。しかし、例えば、検事については、時の政権と距離を置くという意
味でその中立が指摘されるものの28)、刑事手続においては検察官として訴訟当
事者である。他の公務員についても、
一般に、
政治的中立性は要求されるが(最
大判昭和 49.11.6 刑集 28.9.393、最大判平成 10.12.1 民集 52.9.1761、最二判平成
27) 弁護士が ADR の手続実施者として中立の第三者を務める場合、党派的な「依頼者」を
代理するのではなく、むしろすべての当事者に奉仕し、紛争解決手続のすべての当事者に
対して公正であるべき義務を負い、当事者と手続に関して代理人とは異なる義務と責任を
遂行する(CPR−GEORGETOWN COMMISSIONON ETHICS AND STANDARDS IN ADR、
Model Rule for The Lawyer as Third−Party Neutral(Nov 2002)6)。
28) 司改審意見書 89 頁「検察官は、公益の代表者として、犯罪捜査(事件処理の適正化の
ための警察等第一次捜査機関に対する指示・ 指揮を含む。)、公訴の提起(検察官は、公訴
提起の権限を有する唯一の国家機関であるとともに、公訴提起・ 維持に十分な犯罪の嫌疑
等がある場合でも、犯罪者の改善更生等の観点から総合的に判断して公訴提起を行わない
こともできる。)、公訴の維持・ 遂行、刑事裁判の執行の監督等の権限を行使することを任
務とし、特に刑事に関して極めて重大な職責を負っている。刑罰権の適正な実現や刑事司
法に対する国民の信頼を確保するために、検察官は、これらの権限を常に厳正かつ公平に
行使することが求められている。」

85

論説(森田)

24.12.7 刑集 66.12.1337)

「事件の同一性」という視点でみるとき、行政機関は
各種行政訴訟事件においては訴訟当事者であるから、行政機関に携わる公務員
は当事者として関与する。そうすると、弁護士法 25 条 4 号が公務員まで拡げ
た趣旨について、公務員の職務の中立性をもって全てを捕捉することはできな
い。むしろ、公務員の公的機能の行使と私的利益の追求との矛盾対立を利益相
反類似のものと捉えるべきである。
(イ) 仲裁人 29)や ADR 実施者 30)について、中立の第三者であることが理由
とされる。ここでは、旧旧弁護士法が裁判官を主体とし、旧弁護士法が仲裁人
及び公務員(裁判所書記官等)に拡げ、さらにその後職務基本規程(27 条 5 号)
が ADR 手続実施者まで拡げた経緯に着目する必要がある。裁判官及び仲裁人
は判断権者として実質的正義を貫くため中立・ 公正・ 独立が要請され、あわ
せて手続的正義の観点から中立公正が要請される31)。しかし、ADR 手続実施
者については、必ずしも判断権者ではないから、専ら手続的正義の観点からの
29) 弁護士法 25 条 5 号にいう仲裁人は公務員ではない。仲裁人は、1877 年ドイツ ZPO 第 10
編仲裁裁判官の手続規定をうけて明治 23(1890)年民事訴訟法第 8 編仲裁手続の規定に取
り入れられたものであり、その後、平成 16(2004)年仲裁法が制定されてその中に取り込
まれている。仲裁手続と訴訟手続とは、民事上の紛争の解決を第三者に委ねてその判断に
服するという点で共通するが、訴訟手続が裁判官による判断であるのに対し、仲裁合意に
基づき当事者の合意により選任される仲裁人による判断である点が異なる。そして、仲裁
人には、裁判官と同様忌避の制度があり、「公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由
があるとき」等の事由が定められ、就任時には、「自己の公正又は独立性に疑いを生じさ
せるおそがのある事実の全部を開示しなければならない。」とされる(仲裁法 18 条)。この
ように、仲裁人は、裁判官が司法の分野における法律上の紛争解決機関として中立公正を
求められるのと同様、それに準じて、中立公正を求められる。なお、条解 229 頁によれば、
弁護士法 25 条 5 号の趣旨は、弁護士法 25 条 4 号とほぼ同じであるとされており、仲裁手続
における「仲裁廷には、当該事件の内容を当事者双方あるいは証人等によって知悉するこ
とができる権限(仲裁法 32 条 ・34 条 ・35 条)が与えられており、仲裁人はその構成員であ
るから、裁判官に準ずる立場にある者として、本条 4 号における場合と同様の趣旨のもと
に本号が設けられたものであって、旧々法から同様の規定がある。」とされる。確かに、
仲裁人は裁判官と同様当事者双方からの秘密情報を知り得る立場にあるが、それにより中
立公正さが求められるというより、むしろ、司法機関として中立公正さが求められると説
明するのが直裁である。

86

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

中立公正独立が重視されることとなる。紛争を第三者が介入して解決するとい
う手続においては、手続的正義が要請され、第三者には中立性・ 公平性が要
請される32)。したがって、ここに共通するのは、手続的正義の観点からの中立
公正の要請である。そのように考えると、弁護士法 25 条 4 号・ 5 号及び職務基
本規程 27 条 4 号・5 号が裁判官、仲裁人、ADR 手続実施者を主体としている
のは、ABA 模範規則 1.12 条の趣旨と合致し、同条が「中立の第三者」を主体
としていることと近似する33)。もっとも、日本の場合は、免責条項が設けられ
ていないが、それは米国のように依頼者の保護を重視するものではなく、弁護
士の職務執行の公正の確保、弁護士の品位と信用の確保についても重要である
と考えられているからである。
30) 裁判外紛争解決手続機関(ADR)の手続実施者については、裁判外紛争解決手続の利
用の促進に関する法律 2 条 2 号に規定され、同法 3 条によれば、基本理念として、「裁判外
紛争解決手続は、法による紛争の解決のための手続として、紛争の当事者の自主的な紛争
解決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施され、かつ、専門的な知見を反映して紛争
の実情に即した迅速な解決を図るものでなければならない」と規定される。また、同法 6
条によれば、業務認証の基準として、手続実施者が紛争の当事者と利害関係を有すること
その他の民間紛争解決手続の公正な実施を妨げるおそれがある事由がある場合において、
当該手続実施者を排除するための方法を定めることが求められ、また、手続実施者が業務
に関し知り得た秘密を確実に保持するための措置を定めることが求められている。この点
に関して、解説 86 頁によれば、「裁判以外の紛争の解決手段は、仲裁手続に限られない。
また、裁判外紛争手続の利用の促進に関する法律(平成 16 年法律第 151 条。以下「ADR 基
本法」という)が成立したことから、今後は紛争の解決手続として、裁判外紛争解決手続
(ADR)が広く利用されることが見込まれる。本条 5 号にいう「裁判外紛争解決手続機関」
とは、仲裁法に定める仲裁人・ 仲裁廷や ADR 基本法に基づき認証を受けた紛争解決機関
のほか、広く裁判外の紛争解決手続機関を指すものと解される。」、「本条 5 号の「手続実施
者」とは、仲裁手続の仲裁人、調停手続の調停委員、斡旋手続の斡旋員等紛争を解決する
ために中立的公平な立場で手続に参与する者をいう。
」とされている。このように、ADR
の手続実施者は、裁判官、仲裁人と同様、司法ないし司法に準じる分野における法律上の
紛争解決機関として中立公正が求められる。
31) 裁判官においても中立公正は多義的であることを示すものとして、田中成明 19 頁、高
橋省吾「『裁判官の倫理』について」(山梨学院ロー・ジャーナル、2016 年)26 頁、堂英洋
「人事訴訟における参与員関与の実情」(ケース研究 339 号、2020 年)78 頁
32) 田中成明 21 頁

87

論説(森田)

(ウ)
 類型化
以上のとおり、弁護士法 25 条 4 号・5 号ないし職務基本規程 27 条 4 号・5 号
の趣旨はドイツと米国の影響を受けて、
二元的に類型化して捉えるべきである。
検察官など公務員については、特定の事件について公的機能を行使している
のであり、それにもかかわらずその後弁護士として同一事件について職務を行
うことは、弁護士の独立性が損なわれることになるので、職務活動が禁止され
る。公務員の場合は当事者の立場で関与したのか第三者の立場で関与したのか
を問わない。
これに対して、仲裁人や ADR 手続実施者は、紛争解決に介入する第三者の
立場として関与することにより、手続的正義の観点からその中立公正の維持が
要請されることとなるので、弁護士として同一事件について職務を行うことは
禁止される。この場合は「中立の第三者」であることを要する。
裁判官は、いずれの趣旨についてもあてはまる。また、公務員にあっても、
行政 ADR に携わる場合には、いずれの趣旨についてもあてはまる。
このように二元的に類型化して捉えると、25 条 4 号・ 5 号ないし職務基本規
程 27 条 4 号・ 5 号が適用される主体は、公的機能を行使する公務員、あるいは
中立の第三者であることを要し、かつ、限定されると解すべきである。
(エ)
 その他の適用要件について
事件の同一性は、弁護士法 25 条 1 号と同義であり、必須の要件である。そ
して、同条を適用するには、25 条 1 号・2 号にいう忠実義務違反と同価値であ
ることを要する。
そのため、
「公務員、仲裁者及び ADR 手続実施者が取り扱った」といえる
ためには、その関与の度合いについて、少なくとも公務員、仲裁者及び ADR
手続実施者がその個々人において実質的に関与したことを要すると解され
33) ABA 模範規則 1.12 条は、取引の取次ぎ・ 仲介についても適用されるとするが、日本の
場合、例えば、弁護士の不動産仲介は宅地建物取引業法により禁止されていることから、
日本では取引の取次ぎ・ 仲介を想定しにくい。ABA 模範規則 1.12 条は、取引の取次ぎ・
仲介を除けば職務基本規程 27 条 5 号と重なり合う。

88

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

る34)。ABA 模範規則 1.11 条及び 1.12 条の各要件を参考にして、公務員、仲裁
者及び手続実施者がその個々人において実質的に関与をすること、具体的には
「決定、承認、不承認、勧告、助言、調査またはその他の行為」35)を要すると解
すべきである。
本条は依頼者を措定していないから、利益相反が顕在化していていることは
要件ではない36)。しかし、関与の度合いや利益相反状況を考慮要素として、実
質的に弁護士法 25 条 1 号にいう忠実義務違反と同価値とはいえない特段の事
情がある場合には、弁護士法 25 条 4 号違反が否定されると解される37)。
(4)
 従来の議論や前掲大阪高決について
従来の議論は、「依頼者」でない「第三者」について、網羅的に、中立公正
が要請されるかどうかを検討していたように思われる。しかし、前記のように
弁護士法 25 条 4 号・ 5 号の趣旨を二元的に捉えた場合、公務員であるか、ある
いは「中立の第三者」
(紛争解決手続機関の手続実施者)である場合に適用され、
それ以外の場合に拡大適用ないし類推適用することはできない38)。
前掲令和 4 年 6 月 27 日最決のとおり、責任調査委員会の委員は、公的機能を
行使する公務員ではないし39)、また、手続的正義を要請される紛争解決実施機
関における手続実施者でもない。よって、弁護士法 25 条 4 号・5 号は適用(類
34) 条解 225 頁。福原 30 頁によれば「何等かの形で本人の意思がその事件の処理等に関連
を持ったのはこれに含まれる」とされる。
35) Annotated Model Rules of Professional Conduct Ninth Edition by Center for Professional
Responsibility(Author)2019.211
36) 京都地決昭 51.9.9 判タ 351.340
37) 横浜地決昭 63.2.8 労判 525.72 は、地労委の公益委員である弁護士が自ら関与した救済申
立事件に対してなされた救済命令の取消訴訟につき、地労委の訴訟代理人として行為をし
た事案について、労働委員会の立場に立って労働委員会の判断の正当性を主張することで
あることなどを理由として弁護士法 25 条 4 号に反しないとしている。適用除外の事例とし
て参考になるが、実質的に関与している以上、適用除外の結論に反対する。
38) 公証人については、弁護士法 25 条 4 号の適用があるとされるが(条解 225 頁、東京高判
昭 46.3.9 判タ 264.351)、BRAO45 条(1)項 1 号 c)のように明文化すべきである。

89

論説(森田)

推適用)されるべきではない。
(5) 誠実義務との関係について
以上のとおり、弁護士法 25 条 4 号・5 号については二元的に類型化して捉え
るべきであるが、ここで誠実義務との関係について検討する。
ア 公務員の場合
弁護士が公務員として取り扱った同一の事件について職務を行うことは、公
務員として公的機能の行使に関与していることから弁護士の独立性を損なうお
それがあること、公務員でなければ得られない内部情報を私的利益のために利
用して相手方当事者に不利益を被らせるおそれがあることから、弁護士法 25
条 4 号はこれを禁じている。
なお、近時弁護士の職域が拡大され、行政内部において法律専門職のニーズ
が高まり、任期付き職員などの採用が増えて生きており40)、弁護士との兼業が
許可される場合が多くなっている41)。そのような場合、公務員と弁護士との二
重の立場が認められ、公務員である弁護士については、弁護士法が適用され、
公務員の職務について誠実義務を負う。そして、誠実義務の内容として公務員
の適正な服務規律 42)を含めることになる。
そうすると、弁護士公務員は在任中から少なくとも公務員に求められる誠実
義務を負う。これに対して非弁護士公務員は在任中弁護士の誠実義務を負わな

39) 仮に、監査役の委嘱した責任調査委員会の結論により監査役の意思決定が事実上拘束
されて会社(監査役)が元役員に対する損害賠償請求訴訟を提起するという仕組みがとら
れていたとすると、責任調査委員会は、あたかも弁護士懲戒手続における綱紀委員会とし
ての機能を有しているともいえる。しかし、綱紀委員会委員はみなし公務員であるから(弁
護士法 71 条の 3 第 3 項)、弁護士法 25 条 4 号にいう「公務員」にあたるが、責任調査委員
会の委員は、あくまで監査役からの委嘱にすぎず、公務員ではない。
40) https://www.nichibenren.or.jp/legal_info/legal_apprentice/sosikinai.html、 弁 護 士 法 30
条改正(2004 年 4 月 1 日施行)により弁護士の公務就任制限が撤廃された。
41) 国家公務員法 103 条、104 条、地方公務員法 38 条
42) 国家公務員法 96 条以下、地方公務員法 13 条以下

90

弁護士の中立公正義務の理論的分析(2)

い。しかし、弁護士公務員であると非弁護士公務員であると問わず、弁護士と
して活動する際に、公務員在任中の公的機能の行使に相容れない職務を行わな
いようにする誠実義務を負う。これらの誠実義務に違反して忠実義務違反と同
価値の状況を作出したとき、弁護士法 25 条 4 号・5 号等に抵触することとなる。
イ 中立の第三者の場合
弁護士が中立の第三者として取り扱った同一の事件について職務を行うこと
は、紛争解決機関及び手続主宰者等の公正や当事者その他からの信頼を損なう
おそれがあること、中立の第三者でなければ得られない情報を使用して相手方
当事者に不利益を被らせるおそれがあることから、弁護士法 25 条 4 号・5 号は
これを禁じている。
中立の第三者が弁護士である場合、二重の立場が認められ、弁護士には弁護
士法が適用され、法 1 条 2 項により弁護士は「誠実に」中立の第三者の職務を
行う。この場合の弁護士の誠実義務は、依頼者を措定していないことから依頼
者に対する忠実義務は観念されない。弁護士の誠実義務は、高度な善管注意義
務であるが、その職務に求められる中立公正さを内実とする。中立公正さの求
められる第三者の立場と代理人の立場は相容れないことから本来的な利益相反
と近似するし、
両立場を兼併することは中立公正な職務に対する信頼を損ない、
また、中立の第三者が当事者から提出された情報を使用して相手方当事者には
不利益を被らせるおそれが高く、利益相反の趣旨に反することとなるから、こ
こに忠実義務違反と同価値性が認められる。これにより、中立の第三者に求め
られる中立公正さは、中立公正義務として、弁護士法 1 条にいう誠実義務の内
容をなす。
これに対して中立の第三者が非弁護士の場合、
誠実義務を負うものではない。
しかし、中立の第三者が弁護士であると非弁護士であると問わず、弁護士とし
て活動するに際して、同一事件において一方の当事者の代理人に就任するなど
すれば、
中立の第三者弁護士が在任中に当事者の代理人を兼併するのと同様に、
本来的な利益相反と近似し、利益相反の趣旨に反することとなり、忠実義務違
反と同価値の状況を作出することとなるから、誠実義務違反が問われる。
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論説(森田)

以上から、中立の第三者に求められる中立公正義務は弁護士法 1 条 2 項の誠
実義務の内容となる。
もっとも、利益相反の適用場面でいえば、25 条 4 号・ 5 号の解釈適用の問題
に収斂されるから、あえて、弁護士の中立公正義務という概念を持ち出して一
般条項(弁護士職務基本規程 5・6 条など)の解釈適用をする必要はない。
【付記】本稿は、科学研究費補助金・ 基盤研究 C「弁護士の中立公正義務の
理論的分析」
(課題番号 22K01273)の研究成果の一部である。
(もりた・けんすけ 筑波大学ビジネスサイエンス系教授)

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