リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「<論説>租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察―日ルクセンブルク租税条約みなし配当事件を素材として―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

<論説>租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察―日ルクセンブルク租税条約みなし配当事件を素材として―

本田, 光宏 筑波大学

2023.07.31

概要

論 説

租税条約において定義されていない用語の
解釈についての考察
―日ルクセンブルク租税条約みなし配当事件を素材として―

本 田 光 宏
Ⅰ はじめに
Ⅱ 日ルクセンブルク租税条約みなし配当事件
 1 事実関係
 2 判旨
 3 問題意識
Ⅲ 租税条約の解釈の基本原則
 1 概要
 2 ウィーン条約法条約と OECD モデル租税条約 3 条 2 項との関係
 3 租税条約の解釈について
Ⅳ 本件文言の解釈について
 1 制度的側面
 2 目的的側面
 3 歴史的側面
 4 小括
Ⅴ おわりに

Ⅰ はじめに
日ルクセンブルク租税条約 1)10 条(配当)の規定する親子間配当の特別税率
の適用に係る株式の保有期間要件の the end of the accounting period for which
the distribution of profits takes place 2)
(以下「本件文言」という。和訳は「利
得の分配に係る事業年度の終了の日」

)の解釈が争点となった還付金(過誤納
1)

所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のた

めの日本国とルクセンブルク大公国との間の租税条約(平成 4 年条約第 11 号、改正平成 23
年条約第 14 号)

177

論説(本田)

金)返還請求事件 3)
(以下「日ルクセンブルク租税条約みなし配当事件」という。)
は、租税条約において定義されていない用語の解釈が争点とされた事件である。
OECD モデル租税条約における定義規定としては、
「居住者」
(4 条)

「恒久
的施設」
(5 条)

「不動産」
(6 条)の他、各条の定義として「配当」、
「利子」、
「使
用料」があり、また、3 条 1 項では、一般的定義として、文脈上他の意義に解
すべき場合を除き、
「者」

「法人」

「企業」

「一方の締約国の企業」・
「他方の
締約国の企業」

「国際運輸」

「権限ある当局」

「国民」、「事業」、「認定年金基
金」の定義を規定する。

2)

日ルクセンブルク租税条約 10 条(配当)

 2. However, such dividends may also be taxed in the Contracting State of which the
company paying the dividends is a resident, and according to the laws of that Contracting
State, but if the recipient is the beneficial owner of the dividends the tax so charged shall not
exceed:
 ⒜ 5 per cent of the gross amount of the dividends if the beneficial owner is a company
which owns at least 25 per cent of the voting shares of the company paying the dividends
during the period of six months immediately before the end of the accounting period for
which the distribution of profits takes place;
 ⒝ 15 per cent of the gross amount of the dividends in all other cases.
 The provisions of this paragraph shall not affect the taxation of the company in respect of
the profits out of which the dividends are paid.
 (和文)
 2 1 の配当に対しては、これを支払う法人が居住者とされる締約国においても、当該締約
国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該配当の受領者が当
該 配当の受益者である場合には、次の額を超えないものとする。
 (a)当該配当の受益者が、利得の分配に係る事業年度の終了の日に先立つ 6 箇月の期間
を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の少なくとも 25 パーセントを所
有する法人である場合には、当該配当の額の 5 パーセント
 (b)その他のすべての場合には、当該配当の額の 15 パーセント
 この 2 の規定は、当該配当を支払う法人のその配当に充てられる利得に対する課税に影
響を及ぼすものではない。(下線は筆者)
 なお、日ルクセンブルク租税条約では、正文は英文である。
3)

東京地裁判決令和 4 年 2 月 17 日(令和元年(行ウ)第 453 号、還付金(過誤納金)返還

請求事件)、LEX/DB 文献番号 25604054。

178

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

一方、その他の多くの租税条約において定義されていない用語の解釈につい
ては、3 条 2 項の規定する解釈ルールに委ねられている。
OECD モデル租税条約 3 条 2 項の解釈を巡っては、海外でも裁判例 4)や研究
者の見解の相違等 5)も見られるところ、日ルクセンブルク租税条約みなし配当
事件の東京地裁判決では、その論点の 1 つである「文脈により別に解釈すべき
場合を除くほか」については検討せずに、直ちに国内税法を参照した判断を導
いており、租税条約の固有の解釈の観点からの検討も必要ではないかと思われ
る。
本事件は、租税条約で定義されていない用語の解釈が正面から争われた初め
ての訴訟事件であり、
条約の正文である英文の本件文言の解釈が争われている。
また、争点となっている本件文言は、OECD モデル租税条約にはない我が国
独自のモデル案文で、多くの租税条約で規定されている文言である。
本稿では、まず、東京地裁判決で示された租税条約で定義されていない用語
の解釈に係る判断について考察を加え、次に、その解釈に当たり重要となる判
断枠組みを中心に、本事件を素材として考察することとする。

Ⅱ 日ルクセンブルク租税条約みなし配当事件
1 事実関係
ルクセンブルク法人 P 社は、内国法人である S1 社及び S2 社(いずれも 10
4)

海外の最近の裁判例については、今村隆「租税条約 3 条(2)と性質決定の抵触−英国

とドイツの最近の判例を検討して−」税大ジャーナル 30 号(2019 年 12 月)で詳しく紹介
されている。また、OECD モデル租税条約 3 条 2 項に関する先行研究として、谷口勢津夫『租
税条約論』(清文社・ 1998 年)がある。
5)

M. Lang, Tax Treaty Interpretation – A Response to John Avery Jones, 74 Bull. Intl. Taxn.

11(2020), Journal Articles & Opinion Pieces IBFD; J.F. Avery Jones, The Benefits of Article
3(2)of the OECD Model, Essays on Tax Treaties: A Tribute to David A. Ward(2012), A
Fresh Look at Article 3(2)of the OECD Model, 74 Bull. Intl. Taxn. 11(2020), Journal
Articles & Opinion Pieces IBFD. 研究者の見解については、坂巻綾望「租税条約において定
義されていない用語の解釈− OECD モデル租税条約 3 条 2 項は条約法条約における解釈規
則の特別法か?」国際取引法学会 7 号(2022 年 3 月)で詳しく紹介されている。

179

論説(本田)

月決算、以下「S 社ら」
)の全株式を平成 26 年 4 月 29 日に取得し、同日から平
成 26 年 10 月 31 日までの期間を通じ 100%所有し、現在に至るまでその取得し
た株式を所有し続けている。
S 社らは、平成 26 年 8 月 1 日に子会社である他の内国法人に特定の事業部門
を承継させる会社分割を行い、対価として取得した分割承継法人の持分の全て
を P 社に分配した。当該会社分割は非適格分割型分割に該当したため、みな
し配当が発生した。
P 社に生じたみなし配当につき、S 社らは、当初、国内法に基づき 20.42%
相当の税額を源泉徴収して所得税(約 28 億円)を納付したものの、P 社は日
ルクセンブルク租税条約 10 条 2 項(a)の規定する特別税率 5%の適用を受け
る旨の届出書を提出するとともに、当初納付額と 5%の税率との差額(約 21 億
円)の還付請求を行った。
これに対し、国は、P 社に対して特別税率 5%の適用は認められない伝え、
当初納付額と 10 条 2 項(b)の限度税率 15%による税額との差額部分(約 7 億円)
を還付した。
P 社は、当初の還付請求額約 21 億円と還付額約 7 億円との差額 14 億円の還
付金と還付加算金の支払を求めて訴訟に至った。
国側は、日ルクセンブルク租税条約 10 条 2 項(a)が保有期間要件を設けて
いる趣旨は、特別税率の適用対象者を適切に特定するためであり、本件文言に
ついても「利得の分配」の種類や内容に応じて解釈すべきであり、本件文言は、
利得の分配と関連付けられた一時点として配当の受領者が特定される時点を意
味するものとする。本件のような分割型分割によるみなし配当の場合には、
「分
割型分割の日の前日」がこれに当たり、その結果、P 社は日ルクセンブルク租
税条約 10 条 2 項(a)に規定する保有期間要件を満たさないとする。
これに対し、P 社は、本件文言は、
「配当を支払う法人がその原資である所
得を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する会計期間の
末日」とし、その結果、P 社は日ルクセンブルク租税条約 10 条 2 項(a)に規
定する保有期間要件を満たすとする。
180

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

争点は、本件みなし配当について、日ルクセンブルク租税条約 10 条 2 項(a)
に定める保有期間要件を満たすか否かであり、具体的には、本件文言を意味す
る日とは、いつかである。
2 判旨
(1)
 判断枠組み
本件文言の解釈を検討するに当たり、国際条約に関する基本原則を定めた
ウィーン条約 6)31 条 1 項に基づき、
「まず、①本件租税条約 3 条 2 項に定められ
た文脈に従って、日本の法令における当該用語の意義について政府訳文を参照
しつつ検討し、次いで、②ウィーン条約 31 条 1 項が提示するもう一つの規則
である『趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味』についても、
正文である英文に基づき検討する」


6)

条約法に関するウィーン条約(昭和 56 年条約第 16 号)(以下「ウィーン条約法条約」

という。)

181

論説(本田)

(2) 日本の法令における用語の意義
「本件文言は、政府訳文によれば、
『利得の分配に係る事業年度の終了の日』
であるところ、…法人税法の規定(筆者注:法人税法 13 条)の規定に照らせば、
…法令又は定款等に 1 年を超えない会計期間の定めがある法人については、そ
の会計期間が『事業年度』となる。以上によれば、本件文言は、日本の法令に
おける用語の意義としては、
『利得の分配に係る会計期間の終了の日』を意味
するものと言うべきである。

(3) 趣旨及び目的に照らして与えられる通常の用語の意味
本件保有期間要件は、
「源泉地国における配当課税の軽減に関する濫用的な
事例への対策という趣旨からは、…配当受領法人において一定期間以上、配当
支払法人の株式の保有が継続していることが求められるところ、具体的に、
…要件の定め方は、条約締結国の合意によって選択、決定すべき事柄である。
実際に二国間条約で定められた例としては、例えば、旧日英租税条約のように
『利得の分配に係る事業年度の終了の日に先立つ』期間とするものや、新日英
租税条約のように『当該配当の支払を受ける者が特定される日を末日とする』
期間とするものが見られ、また、モデル条約 2017 年版では、
『当該配当の支払
の日を含む 365 日の期間』という規定例が示されている。これらの例に照らす
と、…濫用的な事例への対策という目的を達成するためには、最低保有期間と
して定められる期間が当該配当と一定の関連性を有するものであれば足りると
いうべきであり、必ずしもこれが配当受領者の特定される時点に先立つ期間で
あることまでをも要するということはできない。


『the period』は『会計』を意味する『accounting』…という単語によって
修飾され、…かつ、
『利得の分配』
、…『行われる、起きる』…という修飾も付
されているところ、…上記の各修飾は最低保有期間について課税の対象とされ
ている配当と一定の関連性を有することを示すものであると解される。そうす
る と、 本 件 文 言 の う ち、
『the accounting period for which the distribution of
profits takes place』とは、利得の分配(配当)が行われる会計期間をいうもの
182

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

と解するのが相当である。

(4)
 小括
「以上によれば、
本件文言は、
日本の法令における当該用語の意義…としては、
『利得の分配に係る会計期間の終了の日』を意味するものであり、その趣旨及
び目的に照らして与えられる用語の通常の意味としては、『利得の分配(配当)
が行われる会計期間の終期』を意味するものであるところ、前者と後者は実質
的に同義であるということができる。そうすると、本件文言の解釈については、
正文に基づき検討した後者の表現に従い、
『利得の分配(配当)が行われる会
計期間の終期』と解するのが相当である。

(5)
 国側の主張について
①「配当受領者が特定される時点」について
「本件文言の文理に反し、文脈としても、その趣旨及び目的に照らし与えら
れる用語の通常の意味としても採用することができない」。
②「分割型分割の直前の日」について
「本件規定(a)に本件保有期間が設けられた趣旨は、同規定が 5%の軽減税
率を定めることにより課税の繰り返しを避け国際投資の促進を図ろうとする一
方、その適用について濫用的な事例への対策を図るため、配当支払法人の株式
を一時的に取得するだけでは足りず、最低保有期間においてその保有を継続す
ることを要するとしたものであるところ、このような濫用的な事例への対策と
いう目的を達成するためには、最低保有期間として定められる期間が当該配当
と一定の関連性を有するものであれば足りるものであって、最低保有期間にお
ける投資(株式保有)のすべてが当該配当の受領に向けられたものであること、
すなわち最低保有期間の全てが配当受領者の特定に先立つものであることまで
は、必ずしも必要とされるものではない」


183

論説(本田)

③親子間配当の特別税率の趣旨について
「本件租税条約において法的二重課税の除去は 24 条に定められており、両国
間の課税の公平を図るために 10 条 2 項(本件規定(b))において源泉地国の
配当課税につき 15%の限度税率が定められているところ、これに加えてさら
に 5%の軽減税率を本件規定(a)において定めたのは、相手国法人が源泉地
国への投資をする際に、源泉地国において子会社の利得に対する所得税及びそ
の利得の分配に対する配当課税という形で課税が繰り返されることが相手国法
人にとって投資の障害となるため、源泉地国における配当課税を 5%という低
い税率に軽減することによってかかる障害を除去しようとしたものと解すべき
であり、モデル条約コメンタリーもこの趣旨をいうものと解される。」
3 問題意識
上記の東京地裁判決については、以下の 3 つの点が指摘できると思われる。
(1) 判断枠組みについて
まず、
東京地裁判決は、
ウィーン条約法条約 31 条 1 項にいう「文脈」及び「趣
旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味」に基づく解釈の枠組みを
示すものの、ここでいう「文脈」に当たる日ルクセンブルク租税条約 3 条 2 項
が規定する「文脈に別に解釈すべき場合を除く」については検討されていない
点が指摘できる 7)。
日ルクセンブルク租税条約 3 条 2 項では、下記のとおり、条約において定義
されていない用語の意義については、まず文脈により別に解釈すべき場合の検
討が必要とされる。東京地裁判決では、本件文言について、直ちに国内法に定

7)

OECD モデル租税条約コメンタリー、3 条、パラグラフ 12 は、「2 は、文脈により別の

解釈を必要としない場合においてのみ、定義されていない用語を意味付けている国内法が
適 用 さ れ る 」 と す る。OECD(2017), Model Tax Convention on Income and on Capital:
Condensed Version 2017, OECD Publishing, Paris. 和訳は、水野忠恒監訳『OECD モデル租
税条約 2017 年版』(日本租税研究協会・ 2019 年)参照。

184

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

める意義を有すると解しており、条約において定義されていない用語の意義に
ついての解釈という点では、東京地裁判決の判断は十分ではないと思われる。
2. 一方の締約国によるこの条約の適用上、この条約において定義されて
いない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約の
適用を受ける租税に関する当該一方の締約国の法令における当該用語の
意義を有するものとする。
(下線は筆者)

(2)
 親子間配当の特別税率の趣旨について
次に、東京地裁判決は、親子間配当の特別税率の趣旨について、
「源泉地国
において子会社の利得に対する所得税及びその利得の分配に対する配当課税と
いう形で課税が繰り返されること」の障害の除去、いわゆる経済的二重課税の
排除と解し、法的二重課税の排除を否定する点である 8)。また、法的二重課税
の除去は、日ルクセンブルク租税条約 24 条 9)
(二重課税の排除)の規定による
と解している。
親子間配当の特別税率の趣旨を、
経済的二重課税の排除と解することにより、
保有期間要件の起算点を、配当支払法人に対する所得課税が発生する「利得の
分配が行われる会計期間の終期」
に解することと整合を図るものと思われるが、
8)

OECD モデル租税条約コメンタリー、10 条、パラグラフ 10 では、親子間配当の特別税

率の趣旨について、「課税の繰り返し(recurrent taxation)を避けるため、また、国際投資
の促進のために、当該子会社から当該親会社への配当の支払に対してはより軽減された課
税を行うべきこととされることは、合理的である」としている。
9)

日ルクセンブルク租税条約 24 条(二重課税の排除)

 2 日本国以外の国において納付される租税を日本国の租税から控除することに関する
日本国の法令に従い、
 (a)日本国の居住者がこの条約の規定に従ってルクセンブルグにおいて租税を課される
所得をルクセンブルグにおいて取得する場合には、当該所得について納付されるル
クセンブルグの租税の額は、当該居住者に対して課される日本国の租税の額から控
除する。ただし、控除の額は、日本国の租税の額のうち当該所得に対応する部分を
超えないものとする。

185

論説(本田)

租税条約の限度税率の規定は、基本的には法的二重課税の排除目的のためと解
されており、この点は親子間配当の特別税率の場合でも変わるものではないと
考えられる。
また、租税条約で規定する二重課税の排除規定は、国内法で定める二重課税
排除措置としての外国税額控除制度を規定しており、その適用方法は我が国の
法令に従って定められている。外国税額控除制度では、納税者の所得に占める
国外を源泉とするものに対応する我が国の税額を限度としており、相手国の課
する税率が高い場合には二重課税を完全には排除できないため、租税条約で限
度税率を規定することで、二重課税の排除の確実性を高めているとされる 10)。
(3) 株式の保有要件の趣旨について
第 3 に、東京地裁判決は、株式の保有期間要件の趣旨として、OECD モデル
租税条約 2017 年改正で新たに導入された保有期間要件の考え方を本件文言の
解釈に用いて、濫用的な事例への対策という保有期間要件の目的を達成するた
めには、最低保有期間が配当と一定の関連性を有するものであれば足りるとい
うべきと解する点である。
OECD モデル租税条約の 2017 年改正では、親子間配当の特別税率の適用に、
「配当の支払の日を含む 365 日の期間を通じ」た保有期間要件を追加してい
る 11)。これは、BEPS プロジェクトの行動 6:租税条約の濫用防止の最終報告
書 12)に基づいて、親子間配当の特別税率の適用を受けるために配当の支払の直
(前頁からつづき)
 (b)ルクセンブルグにおいて取得される所得が、ルクセンブルグの居住者である法人に
よりその議決権のある株式又はその発行済株式の少なくとも 25 パーセントを所有す
る日本 国の居住者である法人に対して支払われる配当である場合には、日本国の租
税からの控 除を行うに当たり、当該配当を支払う法人によりその所得について納付
されるルクセンブルグの租税を考慮に入れるものとする。
 (下線は筆者)
10) 竹内洋「我が国の租税条約締結ポリシー」水野忠恒編著『国際課税の理論と課題』(税
務経理協会・平成 7 年)33 頁参照。

186

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

前にその持分を増加させるような濫用行為に対処するためのものである 13)。
しかし、この保有期間要件の規定は、支払の日を起算日としてその前後に
365 日の期間を設定する方法であり、配当に先立つ保有期間を設定して親子関
係を判定しようとする方法を採用する本件文言とは異なるものである。
また、我が国は、この 2 項 a)を規定する BESP 防止措置実施条約 14)の第 8
条(配当を移転する取引)については、同条 2 項に基づいて 8 条の規定全体を
適用しない権利を留保している 15)ことからも明らかなように、本件文言の解釈
に当たっては、OECD モデル租税条約の 2017 年改正で追加された濫用防止の
ための保有期間要件の考え方やコメンタリーは有益な参照情報とはならないと
言える 16)。

11) OECD モデル租税条約 10 条(配当)2 項
 a)当該配当の受益者が、当該配当の支払の日を含む 365 日の期間を通じて、当該配当を
支払う法人の資本の 25 パーセント以上を直接に所有する法人である場合には、当該配当
の額の 5 パーセント。当該期間の計算に当たり、当該株式を保有する法人又は当該配当
を支払う法人の組織再編成(合併及び分割を含む。
)の直接の結果として行われる所有
の変更は、考慮しない。(下線は筆者)
12) OECD(2015), Preventing the Granting of T reaty Benefits in Inappropriate
Circumstances, Action 6

2015 Final Report, OECD/G20 Base Erosion and Profit Shifting

Project, OECD Publishing.
13) 川田剛、徳永匡子「2017OECD モデル租税条約コメンタリー逐条解説(第 4 版)」
(税務
研究会出版局・平成 30 年)276 277 頁参照。
14) 税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間
条約(平成 30 年条約第 8 号)
15) 受託書の寄託時における留保及び通告の一覧(日本国、8 条)、中澤弘治「BEPS 防止
措置実施条約について」租税研究 820 号(2018 年 2 月)172 頁参照。
16) なお、OECD モデル租税条約 3 条 2 項では、条約において定義されていない用語の意義
について、適用時点での意義を有するとする、いわゆる動態(ambulatory)アプローチが
採用されているが、あくまで適用国の国内法令の用語が適用時点で有する意義である。

187

論説(本田)

Ⅲ 租税条約の解釈の基本原則
1 概要
ウィーン条約法条約は条約解釈の基本原則として、「条約は、文脈によりか
つその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解
釈するものとする」
(31 条 1 項)と定める。ここで文脈とは、
「条約文(前文及
び附属書を含む。)」のほかに、
「条約の締結に関連してすべての当事国の間で
された条約の関係合意」や「条約の締結に関連して当事国の一又は二以上が作
成した文書であってこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認め
たもの」も含まれる(31 条 2 項)
。この基本原則は条約の種類を問わず、すべ
ての条約の共通の解釈原則として提示されたものであり 17)、したがって、租税
条約の解釈に当たっても基本原則とされる。
また、OECD モデル租税条約 3 条 2 項 18)は、条約において定義されていない
用語の解釈の基本原則を、次のとおり定めている。
2.一方の締約国によるこの条約の適用に際しては、この条約において
定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合又は両締約国
の権限のある当局が第 25 条の規定に基づいて異なる意義について合意
する場合を除くほか、この条約の適用を受ける租税に関する当該一方の
締約国の法令において当該用語がその適用の時点で有する意義を有する
ものとする。当該一方の締約国において適用される租税に関する法令に
おける当該用語の意義は、当該一方の締約国の他の法令における当該用
語の意義に優先するものとする。
17) 杉原高嶺「国際法学講義(第 2 版)」
(有斐閣・2013 年)148 頁参照。
18) OECD モデル租税条約 3 条 2 項のルーツについては、今村教授の先行研究によると、
1945 年米英租税条約に

り、租税条約上の定義規定をできるだけ減らすために規定された

とされている。また、「文脈により別に解釈すべき場合」の文言は、英国の当時の制定法
上の定義においてよく用いられていたこと等から、英国の提案によるものと考えられてい
る。前掲注 4)今村 47 頁参照。

188

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

日ルクセンブルク租税条約 3 条 2 項の規定は、1995 年改正前の OECD モデ
ル租税条約に基づくため、OECD モデル租税条約の 1995 年改正で、適用する
法令は適用時点の法令であること及び租税法の用語の意義が他の国内法令の用
語の意義に優先する第 2 文の追加及び 2017 年改正で、両国の権限のある当局
が異なる意義について合意した場合には適用国の国内法の意義に優先すること
の追加は反映されていないが、条約で定義されていない用語の解釈の基本的な
考え方は同様となっている。
2 ウィーン条約法条約と OECD モデル租税条約 3 条 2 項との関係
OECD モデル租税条約のコメンタリー、3 条、パラグラフ 11 では、3 条 2 項
を「本条約で用いられているが定義されていない用語の解釈のための一般原則」
と位置付けている。ここで、ウィーン条約法条約 31 条等との関係が問題とな
るが、租税条約の代表的なコンメンタールである『Klaus Vogel on Double
Taxation Conventions, fifth edition』
(以下、
「Vogel」)では、ウィーン条約法条
約は条約の解釈のための一般原則とし、OECD モデル租税条約 3 条 2 項を、租
税条約の解釈のための特別原則(special rule of interpretation)と位置付けて、
ウィーン条約法条約に優先して適用されるとする 19)。この両者の関係について
は、同様の見解が多く示されており 20)、いわゆる特別法と一般法の関係と言え
る。
また、OECD モデル租税条約 3 条 2 項自体が、ウィーン条約法条約 31 条にい
う「文脈」に当たることから、OECD モデル租税条約 3 条 2 項の規定に基づい
た解釈方法が、租税条約の解釈に当たっては特に重要となる。

19) Ekkehart Reimer and Alexander Rust, Klaus Vogel on Double Taxation Conventions, fifth
edition, Wolters Kluwer, 2022, p. 230 参照。
20) E. van der Bruggen, Unless the Vienna Convention Otherwise Requires: Notes on the
Relationship between Article 3(2)of the OECD Model Tax Convention and Article 31 and
32 of the Vienna Convention of the Law of Treaties, 43 European Taxation, 5, 2003, pp. 142
143 参照。

189

論説(本田)

ところで、ウィーン条約法条約 31 条及び OECD モデル租税条約 3 条 2 項の
い ず れ も「 文 脈(context)
」 を 規 定 し て い る が、 両 者 の 関 係 に つ い て は、
OECD モデル租税条約 3 条 2 項の規定する「文脈」は、ウィーン条約法条約 31
条 2 項の定める「文脈」よりも広いと解されており、Vogel は、租税条約 3 条 2
項の「文脈」には、条約本文や補助的な手段だけでなく、規定の趣旨及び目的、
締約国の法制度の適切な規定 21)、OECD モデル租税条約及びそのコメンタリー
が含まれるとしている 22)。ウィーン条約法条約にいう「文脈」は、条約解釈に
当 た っ て の 主 た る 文 書(primary material) と そ れ 以 外 の 文 書(secondary
materials)と区別するために定義されているのに対して、OECD モデル租税
条約 3 条 2 項の「文脈」は、租税条約で定義されていない用語について国内法
の意義を有するか否かの基準として用いられているためである 23)。
3 租税条約の解釈について
(1) 国内税法の解釈との相違
租税条約は 30 条程度の条文で二国間の課税権の配分等を規定しており、そ
の規定内容も、課税要件等を詳細に規定する国内税法とは異なり、かなり大ま
かなものとなっており、租税条約に特有の解釈が必要とされている 24)。
Roy Rohatgi は、租税条約の解釈と国内税法の解釈との違いとして、次の 5
21) ここでいう「締約国の法制度の適切な規定(the relevant provisions of the two national
legal systems)」には、用語に他方の締約国の立法によって意義が付与されている場合が考
えられている(OECD モデル租税条約コメンタリー、第 3 条、パラグラフ 12 参照)。例えば、
我が国の最近の条約例では、「匿名組合」についての特別な規定を設けているが(日米条
約議定書 13、日英条約 20 条等)、その定義については相手国においても我が国の商法 535
条(匿名組合契約)が参照されることになると考えられる。
22) 前掲注 19、Vogel、pp. 235 236 参照。
23) J. F. Avery Jones & J. Hattingh, Treaty Interpretation
Global Topics

Global Tax Treaty Commentaries,

5. Specific Interpretation Issues(Last Reviewed:1 February 2021), IBFD 参

照。
24) 前掲注 19、Vogel、pp. 43 62 参照。なお、本田光宏「租税条約の統一的な解釈・ 適用」
本庄資編著『租税条約の理論と実務』(清文社・平成 20 年)13 頁参照。

190

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

点を指摘する 25)。
 租税条約の解釈には、
ウィーン条約法条約の解釈原則が適用されるため、
国内税法の解釈ルールとは異なる 26)。
 国内法は各国に固有の専門的法律用語を規定するのに対し、租税条約は
両間の共通理解に基づくため、両国で共通に解釈・ 適用される必要が
ある。
 租税条約は課税を制限するのに対し、国内法は課税要件を規定する。ま
た、租税条約は一旦締結されると長期間維持されるため、国内税法の改
正に適合できるように柔軟な解釈が必要である。
 租税条約の規定は一般に詳細ではないため、実質原則に基づく目的論的
解釈が求められる。
 条約解釈は国内法解釈の単なる延長でないため、租税条約の解釈は、国
内法の解釈ルールから可能な限り距離を置くべきである。
(2)
 租税条約の解釈方法
また、Lang 教授は、OECD モデル租税条約 3 条 2 項の規定する「文脈」を
広く捉え、租税条約の解釈手法としては、
「すべての制度的、目的的及び歴史

25) Roy Rohatgi, Basic International Taxation, Second Edition, Vol. 1, Principles, BNA
International, 2005, pp. 38 39 参照。
26) ウィーン条約法条約では、①条約締約国の意思の探求を重視する主観的解釈(意思主
義解釈)、②条約条文を重視し、その文章と用語の意味に従って、内容を確認する客観的
解釈(文言主義解釈)、③条約は固有の目的をもって締結されるとの観点から、その目的
を重視して条文の意味を捉える目的論的解釈があるが、これらの解釈アプローチのいずれ
かを採用又は排除することを具体的に明記せずに、31 条 1 項で基本原則を確認している。
文言主義解釈を基本に据えつつ、主観的解釈及び目的論的解釈も方法も取り入れたものと
される。前掲注 17、杉原・147 − 148 頁参照。岩沢雄司『国際法』(東京大学出版会・2020
年)106 − 107 頁参照。
 一方、国内税法の解釈手法としては、最高裁は、「租税法規はみだりに規定の文言を離
れて解釈すべきものではない」として、文理解釈を原則とすべきする解釈姿勢を明らかに
している(ホステス源泉徴収事件、最判平成 22 年 3 月 2 日(民集 64 巻 2 号 420 頁))。

191

論説(本田)

的側面の考慮が必要とする(All systematic, teleological and historical aspects
must be considered.)
。このような解釈方法により、租税条約で定義されてい
ない用語について国内法の意義によることは限定的と考えている 27)。
このように、租税条約の解釈に当たっては、条約法条約の一般原則のみなら
ず、特に租税条約の固有の解釈方法を踏まえることが必要である。
筆者の租税条約締結の経験に照らしても、条約の締結に際しては可能な限り
相手国の租税制度を含む法制度を調査・研究するものの、両国の異なる事業体、
事業年度、所得分類等のすべてに対応した詳細な規定を設けることは困難であ
り、両国の制度上の相違を前提として、OECD モデル租税条約に沿った基本
原則及び規定について合意に至るのが実情と言える。
また、租税条約の締結以降にも両国で制度改正が行われることが多いため、
租税条約の解釈に当たっては、個々の規定の文理だけでなく、条約締結時の意
図を踏まえて、その趣旨・目的を探求することが必要と考えられる。

Ⅳ 本件文言の解釈について
ここで、Lang 教授の提示する租税条約の解釈に当たっての考慮要素として
の制度的側面、目的的側面及び歴史的側面に沿って、本件文言の解釈のあり方
について検討を加える。
1 制度的側面
①租税条約の規定
租税条約の規定はすべての取引内容を網羅するものではなく、典型的な取引
を対象としているため、個々の規定の適用・ 解釈に当たっては、その規定の
目的とともにその対象とすべき取引内容を明確にすることが重要である。
日ルクセンブルク租税条約 10 条 2 項は、配当に対する源泉地国での課税を、

27) Lang, Introduction to the Law of Double Taxation Conventions, 3rd Edition, IBFD, 2020, p.
17、pp. 27 30 参照。

192

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

親会社が子会社から受け取る配当については配当の額の 5%、その他の配当に
ついては配当の額の 15%を超えないことと規定する。親子会社間の配当に対
する税率を一般の配当に対する限度税率よりも低く定めるのは、親子会社を通
じた重複課税をできる限り排除し、直接投資に伴う課税上の障害を除去しよう
という趣旨によるものである。
和文では、ここにいう親子関係は、
「利得の分配に係る事業年度の終了の日」
に先立つ 6 箇月の期間を通じ、議決権のある株式の 25 パーセント以上を保有
することにより判定されるが、
「利得の分配に係る事業年度の終了の日」に先
立つ 6 箇月の期間を通じての保有期間要件を付していることから明らかなよう
に、本件文言の和文が念頭に置いているのは通常の期末配当である。
そのため、随時発生するみなし配当に対して、本件文言の和文を機械的に適
用してしまうと、例えば、親子関係にはない上期の期間に生じたみなし配当に
対して、下期に保有期間要件を満たすことで、親子会社間配当に係る特別税率
の適用が可能となる等、租税条約が親子会社間の配当に対する税率を一般の配
当に対する限度税率よりも低く定めるという制度趣旨から乖離した結果が生じ
ることとなる。
したがって、「利得の分配」の種類や内容に応じて、親子間配当に対する特
別税率の適用という観点からこの保有期間要件を解釈することが必要であり、
分割型分割の場合のみなし配当は、分割の直前の株主の株式の保有状況を基に
算定されることを踏まえる必要があると思われる。
②パラレル条約の重要性
租税条約は二国間条約であるため、個々の条約ごとに解釈することが原則で
あるものの、OECD モデル租税条約等に基づきつつも締約国が独自の規定を
標準的に規定する場合(own standard formulations)には、締約国の並行的な
条約(パラレル条約)を参照することが有益な場合があるとされる 28)。
28) 前掲注 19、Vogel、pp. 60 62、川端康之「我が国の租税条約の解釈適用に関する省察」
日税研論集 78 号『租税法における法解釈の方法』(日本税務研究センター、2020 年)238
239 頁参照。

193

論説(本田)

このパラレル条約の観点からは、我が国の条約例では親子間配当の特別税率
の適用に同様な保有期間要件を設けているところ、
日米租税条約 29)10 条(配当)
では、親子間配当に係る保有期間要件の起算日について、条約本文では「配当
の支払を受ける者が特定される日」としつつ、我が国の法人については、
「利
得の分配に係る会計期間の終了の日」をいうものとされており(交換公文
4 30))、いわゆる「基準日」がこれに該当すると解されている 31)点が参考となる
と考えられる 32)。
二国間条約では、双方の国がモデルとしている文言を共通の理解の下で読み
替えることは少なくなく、日米租税条約の親子間配当に係る保有期間要件の起
算日の規定は、本文において米国モデル租税条約 33)の文言を規定しつつ、交換
公文で我が国がモデルとしている文言を規定したものと考えられる。各国がモ
デルとする条約の文言は、自国の法制度等を踏まえて作成されているものの、
日米両国の理解では、本文と交換公文の規定する起算日はあくまで同じものと

29) 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメ
リカ合衆国政府との間の条約(平成 16 年条約第 2 号、改正令和 2 年条約第 8 号)
30) 交換公文(平成 16 年外務省告示第 114 号)
 4. 条約第 10 条 2 項及び 3 項に関し、日本国については、配当の支払を受ける者が特定さ
れる日は、利得の分配に係る会計期間の終了の日であることが了解される。
31) 浅川雅嗣『コンメンタール改訂日米租税条約』(財団法人大蔵財務協会・ 平成 17 年)
100 − 104 頁参照。
32) その他に、他の租税条約を参照することが有益な解釈を示す場合として、我が国の条
約例では、二重課税の排除の条項に、「日本国の法令の規定に従い」をモデル案文として
規定しているが、その意義については、日仏租税条約の議定書 12 の「条約 23 条 2 に関し、
『日
本国の法令に従い』とは、同条 2 に規定する控除の適用方法が日本国の法令に従って定め
られることをいう。」の規定が有益な解釈を示すと考えられる。本田光宏「(海外論文紹介)
国外転出をする個人及び法人に対する出国税:比較及び租税条約の分析」租税研究 788 号
(2015 年)386 頁、増井良啓「外国子会社配当益金不算入制度の導入と租税条約」『国際商
取引に伴う法的諸問題(16・完)』(財団法人トラスト 60・平成 22 年)107 頁参照。
33) Article 10 of United States Model Income Tax Convention(2016). 米国財務省ウェブサイ
ト(https://www.treasur y.gov/resource center/tax policy/treaties/documents/treaty
us%20model 2016.pdf)。

194

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

の前提で読み替えられていると考えられることから 34)、
「利得の分配に係る会
計期間の終了の日」の解釈として、
「配当の支払を受ける者が特定される日」
と同義にされていると考えられる。
なお、日米租税条約では和文も正文とされていることから、本件文言につい
ては、日米租税条約の和訳である「利得の分配に係る会計期間の終了の日」の
方が、日ルクセンブルク租税条約の和訳である「利得の分配に係る事業年度の
終了の日」よりも正確な和訳となるのではないかと考えられる。
2 目的的側面
我が国の条約例では、親子会社間配当に適用される特別税率の適用について
は、2017 年の OECD モデル租税条約の改正による保有期間要件の導入以前か
ら、特別税率の濫用防止のために保有期間要件を導入している。
本件文言が示すように、配当に先立つ株式の保有期間を設定して親子関係を
判定しようとすることを基本的な考え方としている。
この保有期間要件の考え方は、受取配当等の益金不算入(法人税法 23 条)
や旧間接外国税額控除制度(旧法人税法 69 条 4 項)において、配当等の計算
期間等を通じて株式を保有することをその適用要件とする国内税制と整合的で
あるとともに、直接投資を行い、親子関係を有する期間において、配当原資と
なる利益を生み出した者に対して、その投資リターンたる配当に対して特別税
34) 日米租税条約の Technical Explanation(米国財務省)では、次のように解説されている。
 「5%の限度税率のための 2 項(a)の最低保有を満たしているか否かは、配当の支払を受
ける者が特定される日に判定される。したがって(thus)、米国法人が配当を支払う場合
には、最低保有を満たしているかは、通常、配当の権利確定日に判定される。日本法人
が配当を支払う場合には、交換公文 4 で、利得の分配に係る会計期間の終了の日に判定
されることが了解されている。」
 Depar tment of the Treasur y, Technical Explanation of the Convention between the
Government of the United States of America and the Government of Japan for the Avoidance of
Double Taxation and the Prevention of Fiscal Evasion with respect to Taxes on Income and on
Capital Gains, signed at Washington on November 6, 2003, pp. 40 41. 米国財務省ウェブサイト
(https://www.treasury.gov/resource center/tax policy/treaties/Documents/tejapan04.pdf)


195

論説(本田)

率を適用することが、濫用を防ぎつつ、直接投資の促進に効果的とされたもの
と考えられる。したがって、親子会社間配当の特別税率の保有期間要件につい
ては、配当が行われる以前の期間、すなわち直接投資が行われた期間とリンク
させて考えることが合理的と考えられる。
期末配当に関しては、保有期間要件の起算日としては、和訳の「利得の分配
に係る事業年度の終了の日」が容易に解釈可能であるが、みなし配当に関して
は、
「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の基準と考え方を同じくする「配
当の支払を受ける者が特定される日」に先立つ 6 箇月の期間を通じて保有期間
要件を満たしているか否かで解釈することが、親子会社間配当の特別税率の規
定の趣旨からは妥当と考えられる。
3 歴史的側面
我が国の条約例では、OECD モデル租税条約 2017 年改正に先立って、旧日
オーストリア租税条約(1961 年署名)35)以降、親子会社間配当の特別税率につ
いては、「利得の分配に係る事業年度の終了の日」からの保有期間要件をモデ
ル案文として規定してきたところであるが、2003 年の日米租税条約以降に締
結又は改正された条約においては、基本的には「配当の支払を受ける者が特定
される日」に統一が図られてきている。
2003 年の日米租税条約がその後の租税条約モデルとされたこととともに、
近年の法人税法の改正によりみなし配当が生ずる場合が多くなってきたことを
受けて、みなし配当も含めて統一的に解釈が容易な「配当の支払を受ける者が
特定される日」に統一が図られたものと考えられる。
なお、日ルクセンブルク租税条約は、2010 年(平成 22 年)に改正が行われ
ているが、本改正は情報交換に係る規定を見直すために、シンガポール、マレー
シア、ベルギー租税条約と並行して改正されたものである。そのため、本改正

35) 所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とオーストリア共和国との
間の条約(昭和 38 年条約第 11 号)

196

租税条約において定義されていない用語の解釈についての考察

では情報交換規定以外は基本的に改正されておらず、親子会社間配当の特別税
率についての本件文言を起算日とする保有期間要件も従前のままとなっている
状況である。
4 小括
租税条約の解釈に当たっては、ウィーン条約法条約の基本原則のみならず、
特に租税条約に規定されている解釈方法(3 条 2 項)を踏まえることが必要で
ある。その際に、租税条約の規定の制度的、目的的及び歴史的側面を考慮に入
れて解釈することが適切である。
特に親子会社間配当の特別税率の保有期間要件については、配当が行われる
以前の期間、すなわち直接投資が行われた期間とリンクさせて考えることが合
理的と考えられる。
期末配当に関しては、保有期間要件の起算日としては「利得の分配に係る事
業年度の終了の日」が容易に解釈可能であるが、みなし配当に関しては、
「利
得の分配に係る事業年度の終了の日」の基準と考え方を同じくする「配当の支
払を受ける者が特定される日」に先立つ 6 箇月の期間を通じて保有期間要件を
満たしているか否かで解釈することが、親子会社間配当の特別税率の規定の趣
旨からは適当と考えられる 36)。

Ⅴ おわりに
企業取引のグローバル化が進展する中で、租税条約の重要性は以前とは比較
にならない程度に増しており、租税条約で定義されていない用語の解釈が問題
36) なお、国税庁では、これまでも同様な考え方に基づいて、親子間配当の特別税率の適
用に関するガイダンスを公表している(「みなし配当に係る日加租税条約の親子間配当の
軽減税率の適用要件」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/06/59.htm)、「日米租税
条約の親子会社要件における『配当の支払を受ける者が特定される日の意義』https://
www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/06/44.htm、「期中配当に対する租税条約における親子
間配当の限度税率の適用要件(所有期間要件の判定時期)」https://www.nta.go.jp/law/
shitsugi/gensen/06/02.htm」等)。

197

論説(本田)

となるケースは今後も増加すると思われる。
本件訴訟が明らかにするように、租税条約の文言の解釈に当たっては、正文
の解釈によることや国内法解釈と異なる固有の解釈原則や解釈方法が必要とさ
れるが、他方で、租税条約の適用に当たっての納税者の予測可能性や法的安定
性を高めることも重要である。そのため、当局による租税条約の適用ガイダン
スの充実や事前照会制度の活用の他、両国の当局間協議の活用等により、租税
条約の解釈・ 適用の明確化を図る方向性が望まれる。
(ほんだ・みつひろ 筑波大学ビジネスサイエンス系教授)

198

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る