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大学・研究所にある論文を検索できる 「マクロファージの加齢性変化を介した、心臓線維化・拡張障害の機序解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マクロファージの加齢性変化を介した、心臓線維化・拡張障害の機序解明

大島, 司 東京大学 DOI:10.15083/0002005050

2022.06.22

概要

心血管疾患は世界的な死亡原因の第1位を⾧年占めている。その中でも心不全による死亡率は高く、5年生存率は50%程度と非常に予後の悪い病態である。

なんらかの心臓機能障害により心臓ポンプ機能の代償機構が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴う運動耐容能が低下する症候群が心不全(Heart Failure: HF)と定義される。心臓のポンプ機能は、血液を拍出する「収縮能」と血液を蓄える「拡張能」に分類することができるが、実臨床においては、左室機能、主には左室駆出率(Ejection Fraction: EF)により治療方針が変わってくるため、EFで心不全を分類することが多い。

具体的には、拡張能に関わらず収縮能が低下した心不全を「HF with reduced EF(HFrEF)」、収縮能が保たれている心不全を「HF with preserved EF(HFpEF)」と分類するが、HFrEFに対しては薬物加療、デバイス治療など様々な治療法の有効性が証明されている。一方でHFpEFに対する有効性を示した治療法はない。HFpEFはEFが保たれているため、一見HFrEFに対して予後が良さそうであるが、その生存率には差はないと報告されている。更には、HFpEFは加齢に伴い増加すると考えられており、現代の高齢化社会において、今後増加すると推測されている。すなわちHFpEFは、EFが保たれているにもかかわらず、予後がHFrEF同等に悪く、更に今後増加傾向となり、有効な治療法も存在しない病態である。従って、有効な治療法開発が非常に重要な分野の1つである。

有効な治療法が発見されていない背景として、機序が明確でないことが挙げられる。加齢に伴う線維化が心臓を硬くすること、全身の炎症性変化などがその候補と考えられているものの、明確な機序は不明である。そのため、HFpEFの機序解明が有効な治療法開発につながるのではないかと考えた。

心臓は心筋細胞が主要な細胞集団である一方で、非心筋細胞として、線維芽細胞、内皮細胞、白血球など様々な細胞集団によって構成されており、恒常性維持、疾患発症においては、これらの細胞間相互作用が重要であることは数多く報告されている。

そこで、これまでHFpEFの機序として推測されている加齢に伴う線維化と炎症について、非心筋細胞間の相互作用において、それらが重要な働きをしていると仮説を立て、その詳細な解析が、HFpEF発症の機序解明の鍵になると考えた。具体的には、線維であるコラーゲンを生成するのが主要な役割である「心臓線維芽細胞」と、炎症の中心である白血球、中でも心臓内の白血球の80%程度を占める「心臓マクロファージ」の細胞間相互作用である。更に、これらの細胞間相互作用が加齢に伴いどのように変化するのかにも注目することで、加齢に伴う心臓の線維化、HFpEFの機序解明を試みた。

加齢に伴い心臓の線維化が進行することが、マウス、ヒトなど種を超えて存在していることが、免疫染色で既に確認されている。その一方で、心臓(左心室)全体でのコラーゲンの遺伝子発現は低下することが報告されているが、それ以上の詳細は不明である。

まず若年、中年、老年マウスの左心室から単離した心臓線維芽細胞の絶対数を評価したところ、加齢に伴い有意に心臓線維芽細胞が減少することが明らかとなった。更にCol1a1、Col3a1などの主要なコラーゲン遺伝子は有意に減少し、心臓線維芽細胞の活性化マーカーであるActa2が有意に増加することを発見した。ただ、Acta2がコードしているαSMAは心臓線維芽細胞の収縮力、移動能力に関わるタンパクであり、コラーゲンのように細胞外基質として作用するわけではないため、加齢に伴う線維化の根本的な原因とは考えづらかった。そこで、mRNAから蛋白質が合成されるまでの過程に作用する転写後調節因子の関与を疑ったところ、コラーゲン特異的シャペロンであり、コラーゲンの安定化に重要なHeat Shock Protein47(HSP47)をコードしているSerpinh1が加齢に伴い有意に増加していることが判明した。すなわち、加齢に伴う心臓線維化は、心臓線維芽細胞の数やコラーゲンの遺伝子発現は減少するが、HSP47の発現が増加する結果引き起こされる可能性が考えられた。

続いて、加齢に伴いHSP47が増加する原因を検討した。上述のように細胞間相互作用が疾患発症において重要であることを考慮し、心臓線維芽細胞と心臓マクロファージとの相互作用に注目した。若年、中年マウスから単離した心臓マクロファージと心臓線維芽細胞のmRNAシークエンスの結果から、インタラクトームのデータベースをもとに、心臓マクロファージの出すリガンドと心臓線維芽細胞上の受容体の関係性を網羅的に抽出した。その中から、新規治療標的を発見するため、これまでに線維化や心疾患との関連性の報告がほぼないリガンド・受容体セットを抽出した。更に、加齢に伴い有意に増加もしくは減少する物質に絞り込むと、増加する2種と減少する9種に絞り込めた。

続いて、これら計11種のリガンド・受容体セットが線維化へ寄与するのかを検討するために、培養心臓線維芽細胞を用いてスクリーニングを行った。安定化した線維化のみを検出可能なSirius Redの発現を評価すると、加齢に伴い減少するCCL3、CFH、TFPIの3種がSirius Redを有意に減少することが判明した。これらは若年時に心臓マクロファージが分泌している「抗線維化作用」を有するリガンドである可能性がある。更に、これらのリコンビナントタンパクを添加した培養心臓線維芽細胞の遺伝子発現を評価すると、Col1a1、Col3a1などのコラーゲン遺伝子の発現は有意な変化はないものの、CCL3、TFPIを添加した心臓線維芽細胞で、HSP47(Serpinh1)の発現が有意に低下した。ただ、TFPIは内皮細胞での発現が有意に高いため、心臓マクロファージと心臓線維芽細胞との相互作用としてはCCL3が重要であると考えた。また、CCL3に対する心臓線維芽細胞の受容体をスクリーニングした結果、CCR1、CCR5を介してCCL3が作用していることが判明した。このことは、若年時に心臓マクロファージが分泌しているCCL3は心臓線維芽細胞のHSP47の発現を抑制することで抗線維化作用を有しているが、加齢に伴いその分泌が減ることで、心臓線維芽細胞のHSP47の発現が増加し、コラーゲンの産生が増加し、その結果、線維化が進行する可能性が考えられた。この培養細胞から得られた結果をin vivoで確認するため、マウスの心臓壁へCCL3を投与したところ、Col1a1、Col3a1のmRNAの発現は変化なく、Serpinh1の発現を低下させたことから、in vivoにおいても重要な役割を担っていることが予想された。さらに、若年マウスに老化個体マウスの骨髄細胞を骨髄移植し、心臓マクロファージのみを老化させたキメラマウスが心臓線維化を呈したことから、心臓マクロファージの老化が心臓線維芽細胞などに作用して心臓線維化を生じさせている可能性が示唆された。

以上から、加齢に伴う心臓線維化の機序は、心臓線維芽細胞の絶対数の増加やコラーゲンの遺伝子発現によるのではなく、コラーゲンの安定化に必要なHSP47の発現が上昇することが原因であると考えた。その発現をコントロールしているのが、心臓マクロファージの分泌するCCL3であり、CCL3がHSP47の抑制効果を有し、加齢に伴いCCL3の分泌が減少することで、心臓線維芽細胞のHSP47が増加し、心臓線維化が進行する機序が予想された。

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