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大学・研究所にある論文を検索できる 「大腸癌におけるバンド3異所性発現は赤血球膜結合IgGの増加を誘発し、免疫関連貧血の原因となる可能性がある」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大腸癌におけるバンド3異所性発現は赤血球膜結合IgGの増加を誘発し、免疫関連貧血の原因となる可能性がある

Kitao, Akihito 神戸大学

2020.03.25

概要

背景と目的:癌関連貧血は悪性腫瘍患者の生活の質に影響するものであり、その原因は多岐にわたる。大腸癌では消化管出血が原因となることが多いが、しばしば便潜血陰性であっても貧血を認める症例がある。バンド 3 は赤血球膜に最も豊富に存在する蛋白で、自己免疫性溶血性貧血では抗バンド 3 抗体が増加する事で赤血球膜結合 IgG 量が増加し、網内系での破壊が亢進する事で血管外溶血が起こる。我々は過去に、大腸癌で腫瘍組織にバンド 3 蛋白を発現し、自己免疫性溶血性貧血を合併した症例を経験した。この症例から、大腸癌では一般的にバンド 3 蛋白が異所性に発現して抗バンド 3 抗体産生を誘導する事で赤血球膜結合IgG が増加しているのではないかと仮説を立てた。すなわち、大腸癌に自己免疫性溶血性貧血を合併する例は稀であるが、臨床的溶血をきたさないまでも赤血球膜結合 IgG が増加する事で、網内系において赤血球が破壊される事で寿命が短縮して、大腸癌で便潜血陰性のような症例についてはこの機序で貧血が生じている可能性があり、癌関連貧血の新たなメカニズムの一つとなりうる。この仮説を検証するため、大腸癌患者を前向きに登録し患者検体を使用してバンド 3 異所性発現と赤血球膜結合 IgG 量を健常人と比較した。また、大腸癌細胞株移植マウスを用いて赤血球結合IgG 量と抗バンド 3 抗体産生量増加を調査した。さらに大腸癌細胞においてバンド 3 の異所性発現を制御している因子を調査するため大腸癌細胞株を用いて実験を行った。

方法:神戸大学病院 食道・胃腸外科で 2016 年 9 月から 2018 年8月に大腸癌手術を実施され、同意の得られた 50 名の患者を対象として前向き研究を行った。患者術前の血液を採取し、直接クームス試験を実施した。引き続き、患者赤血球の 1%浮遊液を作成し、抗ヒト IgG 抗体を用いて、赤血球膜に付着している IgG 量の測定をフローサイトメトリー法で行った。患者データとの比較のため 26 名の健常ボランティアの参加を得て、同様の解析を行った。

また、患者手術検体を用いて免疫組織化学染色を行い、バンド 3 異所性発現を確認した。さらにバンド 3 をコードする SLC4A1 遺伝子の mRNA in situ hybridization を実施し、大腸癌組織での SLC4A1 mRNA 発現を確認した。

続いて、血清に含まれているIgG 中の抗バンド 3 抗体量上昇を確認するため、赤血球からヘモグロビンを除去した蛋白と血清から単離した IgG を反応させ免疫沈降を行い、血清 IgG に結合する蛋白の解析を行った。得られた蛋白で western blotting 法を実施し、抗バンド 3 抗体を用いて IgG に結合して沈降されるバンド 3 蛋白量を大腸癌患者と健常ボランティアで比較した。

動物実験で再現性を確認するため、マウス大腸癌細胞株 Colon-26 をBALB/c マウスに移植し、赤血球膜結合 IgG 量の測定を行った。また、バンド 3 を発現しているマウス骨髄腫細胞株WEHI-3 を移植して血清 IgG と赤血球膜蛋白を使用し免疫沈降を行った。

大腸癌組織でバンド 3 が異所性発現する機序を明らかにするため、低酸素刺激に対する応答性が異なるヒト大腸癌細胞株 HCT-116 と SW480 を用いて実験を行った。通常環境下と塩化コバルトを添加し低酸素環境を模倣した状態下とで培養し、それぞれにおいて SLC4A1 の遺伝子発現を real time PCR 法で、バンド 3 蛋白発現を western blotting 法で確認した。また、バンド 3 を認識するヒト IgG type 抗 Diego-b 抗体を用いてこれらの培養細胞株の表面にバンド 3 蛋白が発現しているかをフローサイトメトリー法で確認した。
統計解析は Prism software v8.0.0 を用いて行った。

結果:大腸癌患者 50 名の Hb 値は 12±1.82(平均±標準偏差:以下同様)であり、健常ボランティアの Hb 値 13.4±1.56 よりも有意に低値であった(p=0.01)。大腸癌患者では平均赤血球容積(MCV)値は 88.3±7.0 と正球性であり、慢性的な出血で見られる鉄欠乏性貧血パターンを示す小球性とは異なっていた。網状赤血球数も健常成人より有意に増加しており(p=0.05)赤血球のターンオーバー亢進を示唆する結果であった。また大腸癌患者では直接クームス試験が 10 例陽性であったのに対し、健常人では 0 名であった(p=0.01)が、臨床的に溶血性貧血の診断基準を満たす症例はなかった。大腸癌患者 50 名のうち、便潜血陽性例 24 名、便潜血陰性例 26 名であり、Hb 値はそれぞれ 12.4±2.1 と 11.5±1.25 で便潜血陰性例の方が低い傾向にあった。また便潜血陽性例 4 名、陰性例 6
名で直接クームス試験が陽性の結果であり差は認めなかった。

免疫組織化学染色の結果は大腸癌患者手術検体の 97%にバンド 3 蛋白の異所性発現を認めた。同一組織で SLC4A1 mRNA の発現を認め、免疫染色が特異的であることを確認した。これらの結果はコントロールで用いた正常大腸組織では認めなかった。

赤血球膜結合IgG 量をフローサイトメトリーで測定した結果は、大腸癌患者で平均蛍光強度(MFI)値 38.8±14.7 であり、健常人は MFI 値 29.9±15.6 と有意に大腸癌患者で増加していた(p=0.02)。大腸癌患者で増加している赤血球膜結合 IgG 量については、大腸癌の臨床病期、年齢、便潜血の有無で差は見られなかった。さらに、大腸癌患者と健常人の血清からIgG を単離し免疫沈降を実施したところ、大腸患者の血清中には IgG 分画中の抗バンド 3 抗体量が健常人に比較して有意に増加していた。

マウスモデルで実験をした結果、大腸癌細胞株を移植したマウスにおいて、コントロールと比較し有意に赤血球膜結合 IgG 量が増加していた。また、免疫沈降を実施したところ、バンド 3 を発現している細胞株を移植したマウス血清中では、コントロールと比較して IgG 分画中の抗バンド 3 抗体量が増加していた。

細胞株を用いた実験では、HCT116 細胞株では塩化コバルト添加で HIF-1α蛋白が増加し、低酸素刺激がトリガーとなって上昇する事が知られ、糖・脂質代謝などを調整するセリン・スレオニンキナーゼの AMP-activated protein kinase (AMPK)のリン酸化蛋白が増加していた。バンド 3 については mRNA の発現量は塩化コバルトの添加濃度によっては差が認められず、蛋白発現は 100kDa のバンド 3 は変化がなく 75kDa のバンド 3 が減少していた。一方で、SW480 細胞株では塩化コバルト添加で HIF-αは増加するものの、AMPK リン酸化蛋白の増加は認めなかった。バンド 3 については塩化コバルト 200nmol/L で SLC4A1 mRNA は 50 倍に発現上昇を認め、蛋白発現は 100kDa のバンド 3が増加し 75kDa のバンド 3 は変化がなかった。これらの細胞株の実験結果から、低酸素刺激下では AMPK のリン酸化蛋白の増加が 75kDa のバンド 3 発現を抑制し、HIF-1αが増加する一方で AMPK リン酸化蛋白の増加がない場合に 100kDa のバンド 3 発現が増加する事が分かった。バンド 3 発現の総量では HCT116 が SW480 よりも少なく、ヒト型抗 Diego-b 抗体を用いたフローサイトメトリーでも同様の結果が得られた。

考察:今回の研究で、大腸癌患者の 97%で腫瘍組織にバンド 3 異所性発現をしている事が明らかになった。また、大腸癌患者では赤血球膜結合 IgG 量が増加しており、血清 IgG分画中にも抗バンド 3 抗体が増加していた。マウス実験でも同様の結果であり、異所性発現しているバンド 3 が刺激となって抗バンド 3 抗体産生が増加している結果と考える。生理的状態において、赤血球は老化すると自然に血漿中に存在する抗バンド 3 IgG 抗体が赤血球膜に結合する事によって網内系で処理される事が知られている。臨床的に溶血所見を示すには赤血球膜結合IgG 分子量に一定数以上が必要であるが、大腸癌患者ではその閾値以下のレベルで赤血球膜結合IgG 量が増加しており、溶血を呈さないまでも同様の機序により貧血が起こっている事が示唆された。

大腸癌での直接クームス試験が 20%の症例で陽性であったが、通常スクリーニングで陽性になるのは約 0.01%であり、大腸癌で抗バンド 3 抗体産生が増加している結果を反映している。これらの結果は大腸癌の臨床病期や年齢、便潜血の有無にかかわらず同様の結果であった。つまり、進行癌であり便潜血陽性例といった大腸癌病変からの持続的出血が原因と考えらえる以外の症例による貧血は、前述の免疫学的機序が一因となっている可能性を示唆する。

細胞株を用いた実験では低酸素刺激下で、バンド 3 蛋白発現は HIF-1αとAMPK のリン酸化蛋白の発現バランスよって制御されている事が明らかになった。これは赤血球細胞の成熟過程においてバンド 3 発現が AMPK リン酸化蛋白によって制御されている事と一致する。この実験系で観察された 75kDa のバンド 3 は通常サイズより小さく、腎尿細管で発現しているものと同一のアイソフォームである。腎尿細管で発現するバンド 3 は独自の転写開始部位を持っており、AMPK リン酸化蛋白が作用するプロモーター部位と HIF-1αが作用するプロモーター部位が異なっている事が、低酸素環境下で発現するバンド 3 分子量に差がある原因と考える。

結語:大腸癌において赤血球膜結合 IgG 量が増加している事は癌関連貧血症の一因である事が示唆された。この結果は免疫チェックポイント阻害薬などを含む、がん免疫治療によって引き起こされる貧血の病態解明に寄与すると考える。

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