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大学・研究所にある論文を検索できる 「ヒトヘルペスウイルス6B病態を模倣する動物モデル」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ヒトヘルペスウイルス6B病態を模倣する動物モデル

Wang, Bochao 神戸大学

2020.03.25

概要

【序論】
ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)は約70%の乳幼児に発症する突発性発疹の原因ウイルスであり、時に脳炎や脳症など重篤な合併症を引き起こし、その50%に神経学的後遺症を残す。またHHV-6Bは、初感染後ほぼすべての人に潜伏感染するが、臍帯血移植後などに再活性化し、重篤な脳炎を引き起こすことが問題視されている。しかし、その病原性発現機構は未だ明らかではなく、現状では確立された制御法も存在しない。

HHV-6Bは自然環境下においてヒトのみを宿主とし、活性化したT細胞に発現するCD134分子を細胞侵入の受容体として、その発現細胞にのみ感染するため、生体内での病態を研究するための動物モデルが存在しない。近年では先天性免疫不全マウスにヒトの造血幹細胞を移植することにより、ヒトの免疫システムを再構築させたヒト化マウスが注目されており、ヒト免疫不全ウイルスを始めヒト感染症の研究においてその有用性が証明されている。

本研究は HHV-6B 感染病態モデルの新規創出を目的とし、造血幹細胞を移植したヒト化マウスを用いて実験を行った。まず HHV-6B の感染に適した、活性化したヒト T 細胞がヒト化マウス体内に豊富に存在する環境の構築を試みた。試行錯誤の結果、ヒト造血幹細胞移植により作成したヒト化マウスに、追加でヒト臍帯血由来単核球(CBMC)を投与すると著しいヒト T 細胞増殖が生じることが明らかとなった。さらに、これらのマウスの解析により、臨床での造血幹細胞移植後に急性移植片対宿主病(GVHD)が発生する状況を模倣している事も明らかとなった。このヒト化マウスに HHV-6B を感染させ、その感染動態を解析したところ、各臓器からウイルスが検出され、一部のマウスが感染後 7-10 日で死亡した。特に高いウイルス量が検出された脾臓と肺ではヘルペスウイルス感染に特徴的な巨細胞を示す病理所見が見られた。感染マウス血液中のヒトサイトカイン及びケモカインを測定した結果、HHV-6B感染患者からの臨床検体と同じ種類のものが検出され、HHV-6B 病態との関連性が示唆された。

【実験方法と結果】
1. ヒト化マウスの作成
129S4-Rag2tm1.1Flv Il2rgtm1.1Flv Tg(SIRPA)1Flv/J (hSIRPα-DKO)免疫不全マウスにヒト臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞を移植し、ヒト免疫システムを再構築させる事で、ヒト化マウスを作成した。二ヶ月後、作成したヒト化マウスから定期的に採血し、ヒト細胞の生着率をフローサイトメトリーでモニタリングした結果、ヒトB細胞優位であることがわかった。

2. HHV-6B感染条件の最適化
本マウスのヒト単核球分画を見たところ、T細胞優位ではなかった。そこで、ヒトT細胞の増殖及び活性化を誘導するために、ヒトCBMCを追加でヒト化マウスに投与することを試みた。投与後、毎週採血し、ヒト細胞の生着率と構成比率の変化をフローサイトメトリーで解析した。その結果、約2週間後にヒト細胞の増殖が見られ、一転してT細胞が優位となった。細胞表面に発現するヒト主要組織適合遺伝子複合体の一種であるHLA-A2をマーカーとして、増殖した細胞の由来を同定した結果、すべてが追加で投与したCBMC由来であることがわかった。マウスの容態として体重減少などのGVHD様症状が見られ、一部のマウスはCBMC投与後一ヶ月以内に死亡した。

3. ヒト化マウスへのHHV-6B感染
HHV-6Bを静脈投与でヒト化マウスに感染させ、その後ヒト細胞の変化とマウス体重など容態の変化を定期的に記録した。その結果、非感染マウスと比べ、ヒト細胞の有意な減少が見られた。また、感染後のマウスにおいて体重の減少が見られ、そして一部のマウスは7-10日後に死亡した。感染マウスの各臓器からDNAを抽出してウイルスゲノムの定量解析を行った結果、主要臓器である脾臓、肝臓、脳、腸、腎臓、心臓、肺からウイルスが検出された。中でも脾臓及び肺において高いウイルス量が見られた。さらに組織切片を作成して病理解析を行った結果、この2つの臓器内にヒトリンパ球の浸潤とヘルペスウイルスに特徴的な巨細胞が見られた。

4. ヒトサイトカイン及びケモカイン測定
感染マウスから採取した血清から、Bio-Plexシステムを用いて40種類のヒトサイトカイン及びケモカインの含有量を網羅的に解析した。非感染マウスと比べた結果、13種類のサイトカイン及びケモカイン(IL-6、IL-10、CCL2、CCL8、CCL15、CCL17、CCL19、CCL22、 CCL24、CXCL8、CXCL-9、CXCL11、CXCL15)が感染によって誘導され、また1種類のケモカイン(CXCL13)が感染によって抑制されたことがわかった。

【考察】
本研究は幹細胞移植によって作成したヒト化マウスを用いて、HHV-6B の感染に適した条件を見出し、HHV-6B では初となるマウス感染病態モデルを作成した。ヒト化マウスに CBMCを投与することによって、ヒト T 細胞が増殖し、活性化することが HHV-6B 感染の鍵と考えられる。ウイルスは感染後 7-14 日後に最も多く検出され、臓器ごとの比較では脾臓と肺に多く検出された。免疫器官である脾臓に多くのウイルスが検出されたことは予想通りであったが、肺においてもほぼ同じ量のウイルスが検出された。近年いくつかの臨床研究では、造血幹細胞移植後の合併症の一つである特発性肺炎症候群に関して、HHV-6B 感染との関連が示されている。したがって、本モデルは HHV-6B 感染による特発性肺炎症候群の解明に貢献することが期待される。

潜伏感染しているHHV-6B の再活性化による感染は、造血幹細胞移植を受けた患者で多発し、詳細なメカニズムは未だ不明であるが、GVHD を合併することがその危険因子の一つであると多くの臨床研究で示唆されている。GVHD に関する研究では、マウスにヒト由来 T 細胞(CBMC など)を投与することで GVHD の発症を誘発させるモデルが利用されている。今回作成したモデルにおいても CBMC の投与によって T 細胞の増殖と活性化が誘導され、HHV-6B 感染を促進する結果が得られた。活性化したT 細胞に発現する CD134 は HHV-6B の細胞侵入に関わる受容体であり、造血幹細胞移植患者における HHV-6B 感染に関連することが我々の研究室の報告によって示されている。本モデルにおいても T 細胞の活性化に伴う CD134 の発現が HHV-6B の感染と深く関わることが示唆された。

ヒト免疫細胞を投与したマウスの GVHD モデルでは、その発症によって体内でのヒト免疫 細胞の増殖に伴い強烈な拒絶反応が起こる。その結果として、マウスの体重が迅速に減少し、時に死に至ると考えられ、実際に本モデルでもその傾向が見られた。

感染マウスの血液について、40 種類サイトカイン及びケモカインを解析した結果、感染により 13 種類が誘導されていた。我々の研究室では HHV-6B 初感染患者の血液で検出されるサイトカイン及びケモカインを報告しており、共通のものとして、CCL2、CCL8、CXCL11、 CXCL16 が見出された。これらのサイトカイン及びケモカインは、HHV-6B 感染病態に関与することが示唆される。

総括として、本モデルは HHV-6B 病態を模倣し、その感染を示す初の小動物モデルであり、今後、本モデルを応用する事で、生体内における HHV-6B 感染機構及びその病態の解析が可能となるだけでなく、新規抗ウイルス剤やワクチンの研究への応用も期待できる。

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