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大学・研究所にある論文を検索できる 「キラルアミノ酸の二次元LC-MS/MS精密定量法開発とD-アミノ酸酸化酵素欠損および腎機能低下による内在性含量変化」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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キラルアミノ酸の二次元LC-MS/MS精密定量法開発とD-アミノ酸酸化酵素欠損および腎機能低下による内在性含量変化

石井, 千晴 ISHII, Chiharu イシイ, チハル 九州大学

2021.02.28

概要

生命活動に必須のタンパク質構成アミノ酸には、グリシンを除くすべての分子に鏡像異性体が存在する。分析技術の向上により、L-アミノ酸過剰のホモキラリティーを示す生体内において内在性含量が比較的多量な D-セリン(Ser)や D-アスパラギン酸(Asp)が発見され、L 体と異なる体内分布や生理機能を有することが明らかにされてきた。一方近年では L 体の 1%程度以下の様々な D-アミノ酸も哺乳類体内に存在することが確認されており、含量制御機構、組織分布の解明や、疾患との関連解析等が期待されている。しかし、アミノ酸鏡像異性体の識別定量を可能とする既存の分析技術は殆どが一種類の固定相を用いる一次元の分離分析法であり、選択性の不足に起因して研究が停滞していた。微量 D-アミノ酸について詳細な検討を推進するためには、極めて高い選択性を有する分析法が必須である。そこで本研究では選択性の飛躍的向上をねらい、二次元の液体クロマトグラフィー(LC)分離および二段階の質量分離(MS/MS)を組み合わせた二次元 LC-MS/MS 法を開発し、哺乳類血中キラルアミノ酸の内在性含量解析を行った。

第一章では、哺乳類体内で存在が報告されている D-アラニン(Ala)、D-Asp、D-グルタミン酸、 D-ロイシン(Leu)、D-リジン、D-メチオニン(Met)、D-フェニルアラニン(Phe)、D-プロリン(Pro)、D-Ser および D-バリンの計 10 種を分析対象として生体試料中における精密定量法の開発を行った。本法では 4-Fluoro-7-nitro-2,1,3-benzoxadiazole を用いて誘導体化したアミノ酸について、逆相分離カラムを用いた精製および光学分割カラムを用いたキラル分離を行い、更に三連四重極型質量分析装置を用いた二段階の質量分離を行う。一度の試料注入ですべての対象アミノ酸の全自動分析を可能とするオンラインシステムを開発するため、分離、検出条件を検討した。その結果、一次元目では微粒子充填型ミクロ ODS カラム(Singularity RP18, 1.0 mm i.d. x 500 mm)を固定相とし、すべての対象アミノ酸を D 体と L 体の混合物として疎水性の差により相互分離し、体積を低減した分取を可能とした。各対象アミノ酸画分の分取および二次元目への導入は、高圧マルチループデバイスおよび六方バルブを組み合わせて全自動化した。二次元目ではすべての対象アミノ酸について Pirkle 型セミミクロカラム(Singularity CSP-001S, 1.5 mm i.d. x 150 mm)を用いた良好な光学分割が可能であり、MS/MS を用いた検出においても十分な感度が得られた。構築した二次元 LC-MS/MS 法を用いてアミノ酸標品およびヒト血漿中キラルアミノ酸の分析を行った結果、良好な定量性、再現性および真度が得られ、血中微量 D-アミノ酸の正確な全自動精密定量を達成した。

D-アミノ酸酸化酵素(DAO)は内在性 D-アミノ酸の主要な含量制御機構として知られており、in vitro で幅広い中性、塩基性 D-アミノ酸を分解することが報告されている。一方で、内在性キラルアミノ酸分析が定量妨害を受け易いことに起因して、生体内における DAO の作用については報告が限られていた。そこで第二章では、開発した二次元 LC-MS/MS 法を用いて正常な酵素活性を有する野生型動物(C57BL/6J マウスおよび F344 ラット)と DAO 活性を欠損したモデル動物(B6DAO-/-マウスおよび F344Daoldao ラット)の血中 D-アミノ酸含量を解析し、DAO が内在性キラルアミノ酸に与える影響について評価した。その結果、マウス、ラットともにすべての対象アミノ酸について夾雑成分による妨害を殆ど受けること無く高選択的な一斉分析を達成し、従来は詳細な解析が困難であった D-アミノ酸についても信頼性の高い定量値を得ることが可能であった。また、DAO 活性を欠損したマウスおよびラットにおいて血中 D-Ala、D-Leu、D-Met、D-Phe、D-Pro および D-Ser の有意な含量増加が認められ(P<0.01)、これらの中性 D-アミノ酸が生体内において DAO による含量制御を受けていることが示された。

内在性 D-アミノ酸は種々の疾患によって含量変動を示すことも報告されており、なかでも D-Serは慢性腎臓病(CKD)患者血中で腎機能低下に伴い増加することから、新規診断マーカー候補として注目されている。CKD は世界的に罹患率が高く、重症化すると腎機能の回復が見込めないため正確な早期診断が肝要である。しかし、既存の診断マーカーを利用した腎機能評価法は個人差や測定法による誤差が生じ易いという問題があり、D-アミノ酸の網羅的解析は正確で鋭敏な早期診断法開発の糸口として期待されている。そこで第三章では、二次元 LC-MS/MS 法を用いて健常人および CKD 患者の血中キラルアミノ酸を解析し、本法による腎機能評価の検討ならびに新規診断マーカー候補の探索を行った。その結果、複数の対象アミノ酸において L 体の 0.1-10%程度の D 体が検出された。これまでに腎機能の低下に伴う血中含量の増加が報告されている D-Ala、D-Pro および D-Serでは、今回の検討でも健常人群と比較して CKD 患者群において%D 値の上昇が認められたことから、本分析法が腎不全検体においても良好に適用可能であることが示された。また、今回新たに数種の D-アミノ酸で健常人群と中軽度腎障害群の間に有意な含量差が認められ(P<0.05 または P<0.01)、 CKD 早期診断における新たな指標候補となる可能性が示された。

以上の様に、本研究で開発した二次元 LC-MS/MS 法は従来法を凌駕する高い選択性を備えており、これまで夾雑成分の共溶出等により定量が困難であった様々な微量 D-アミノ酸についても詳細な解析を実現した。本法は種々の組織や疾患試料の分析に適用可能であり、今後は分析対象 D-アミノ酸の拡充を行うとともに、組織分布や生理機能の解明、疾患診断法や病態評価法の開発等、幅広い領域における貢献が期待される。

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