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書き出し

法科学的応用を指向した高極性低分子化合物の高感度分析法の開発

大塚, 麻衣 東京大学 DOI:10.15083/0002006397

2023.03.24

概要

審 査 の 結 果 の 要 旨

氏 名 大塚 麻衣

法科学は、犯罪の事実の有無を証明することを目的とした学術領域である。その一分野である
法中毒学は、しばしば犯罪に使用される薬物や毒物の使用証明に関わる、法科学の中でも最も重
要な分野の一つである。中毒や乱用の程度を判断するためには、薬物乱用者または犯罪被害者の
生体試料から薬毒物の関連物質を検出することが重要であるが、薬毒物は生体内では代謝物や分
解物として存在することも多い。このような代謝物や分解物は一般に極性が高く、未変化体より
精製や分析が難しいことが知られている。大塚は、特に分析が困難であった高極性低分子化合物
としてアルキルメチルホスホン酸類及びエタノールアミン類を選択し、その高感度分析法の開発
を計画した。従来よりその高い感度と定性能力の高さゆえに法薬毒物分析において汎用されてき
た直接 LC-MS(/MS) 法を用いたこれらの化合物の分析においては、感度や特異性が不十分であ
るなどの問題が残されていた。そこで大塚は、高分解能 LC-MS/MS 法を利用することで、法科
学的に重要な高極性低分子化合物の高感度分析法を開発するべく研究を行った。
1:エタノールアミン類の HILIC-MS/MS 法による
分析
エタノールアミン類は、ヒドロキシエチル基を一
つ以上有するアミン化合物である(図1)。洗剤や
化粧品などの日用品に使用されている化合物もあ
るが、メチルジエタノールアミンなど一部の化合物
は有毒物質の分解物であり、法科学的に分析が必要
とされる。しかし、これらの化合物は通常の逆相カ
ラムには全く保持されないため、LC-MS/MS 分析
においては高極性化合物の分析に適性を有するカ
ラムの使用が必要となる。これまでに、親水性相互
作用を利用したカラムである HILIC カラムを使
用した分析例は複数報告されているが、カラムの特
性としてピーク形状がブロードになる傾向がある
ため、保持時間による定性能力が不十分である場合
が多かった。特に、メチルジエタノールアミンとエ
チルジエタノールアミンはアルキル基の長さが一

O

R

Me P OR
HO
RMPA 類

HO

N

OH

エタノールアミン類

図1 法科学的に分析が必要とされる高極性低分子化合物の例

疎水性相互作用

SiR3 SiR3 SiR3
O
O
O

逆相カラム
・全く保持されない

R
HO

N

OH

エタノールアミン類:
アセトニトリル層
分配平衡
水層

SiOH SiOH SiOH
O
O
O

HILICカラム
・保持はされるがピーク形状、ピーク分離に問題
カラムの種類を検討し、LC 挙動を改善

図2 HILIC カラムを用いたエタノールアミン類の分析

つ異なるだけであるため、これら二つの化合物の分
離が不十分である例もあった。そこで大塚は、より定性能力の高い分析法を開発するべく、様々
なカラムを用いて新規分析法を検討した(図2)。一般的な逆相カラムに加え、3 種類の HILIC
カラムを検討した結果、コアシェル粒子を基剤とし、表面に両性イオンであるスルホベタインを
固定化したカラムによりシャープなピーク形状、十分な保持時間、3 種類のエタノールアミン類
の良好な分離が達成された。また、法科学的試料への応用を指向し、尿及び血清への添加回収実
験を行った。その結果、シリカベースの陽イオン交換型固相抽出カラムによりエタノールアミン

類は良好な回収率で回収され、検出限界 15–20 ng/mL という高感度分析を達成した。また、
MS/MS におけるフラグメンテーションについて DFT 計算による反応経路解析を行った。その
結果、単純な結合切断ではなく隣接基も関与する反応によりフラグメンテーションが起きている
ことが予想された。
2:アルキルメチルホスホン酸類の誘導体化 LC-MS/MS 法による分析
F
次に分析対象としたアルキルメチルホスホ
F
O
ン酸 (RMPA) 類は、リン酸と類似した構造を
O
P O
PFBn 誘導体化 Me
F
有する有機リン系高極性化合物群である(図
Me P OH
RO
F
RO
1)。これまでに報告されている分析法の中で
F
RMPA 類
PFBn-RMPA
も直接 LC-MS/MS 法は高感度であるが、高極 ・逆相カラムに保持されにくい
・逆相カラムに十分保持される
・フラグメントイオンが生成しにくい
・フラグメントイオンが容易に生成
性化合物であるため通常の逆相カラムでは十
図3 誘導体化 LC-MS/MS 法による RMPA 類の分析
分に保持されず、保持時間による正確な定性の
ためには HILIC カラムなどの使用が必要であった。また、MPA についてはフラグメントイオ
ンが生じにくく、高いコリジョンエネルギーを必要とすることによる感度低下が見られていた。
そこで大塚は、通常の装置構成を変えることなく高感度分析ができるように、分析前に誘導体化
を行うことで逆相カラムへの保持とフラグメンテーションを改善することを考えた(図3)。ペ
ンタフルオロベンジルブロミド (PFBnBr) により 6 種類の RMPA 類を誘導体化して逆相カラ
ムを用いた LC-MS/MS 分析を行ったところ、特に極性が高いメチルホスホン酸 (MPA) を含む
全ての RMPA 類が逆相カラムに十分に保持され、それぞれのピーク分離も良好であった。また、
検出限界を従来法である誘導体化 GC-MS 法及び直接 LC-MS/MS 法と比較したところ、ほぼ全
ての RMPA 類について今回開発した手法が最も高感度であった。一部感度が低下した化合物に
ついてはイオンソースでのインソース分解が観測された。このインソース分解は、チロシンと
RMPA が結合した化合物においても観測されている。そこで、誘導体化により O–アルキル結合
が弱くなっていることを予測し、DFT 計算により結合エネルギーを比較した。その結果、無置
換の RMPA 類と比較して、PFBn-RMPA 及び Tyr-RMPA では O–アルキル結合が弱くなって
いることが示唆され、インソース分解が起こるという実験結果と合致していることが確認された。

次に、法科学的試料への応用を指向し、生体試料への添加回収実験を行った。従来、RMPA 類
の生体試料からの抽出については陰イオン交換カラムを使用することが一般的であったが、回収
率の再現性に乏しいことも報告されていた。そこで、高濃度の塩を加えることで塩析効果を利用
した液-液抽出を使用することとした。検討の結果、生体試料内に存在するリン酸などのアニオ
ン性化合物との分離抽出が極めて困難である MPA を除いて、良好な回収率で抽出及び誘導体
化が可能であった。また、検出限界については法科学的分析の要求を十分に満たす値であった
(5–300 ng/mL)。
3:誘導体化がイオン化効率に与える影響の考察
アルキルメチルホスホン酸の誘導体化 LC-MS/MS 法による分析法の検討の間に、インソース
分解などの例外はあるものの、誘導体化を行うことで質量分析における感度も向上することが見
出された。このことから、分子量が増大すること、あるいは芳香環を導入することによる電子的
効果が質量分析計のイオン化効率にも影響を与えていることが予想された。アミノ酸や脂質など
の化合物については、分子量や pKa を含む物理化学的パラメータとイオン化効率の関連を調べ
た先行研究が報告されているが、本研究のターゲットである有機リン系化合物やエタノールアミ

ン類について同様の検討を行った例はない。そこで大塚は、これらの化合物の分析において誘導
体化がイオン化効率に与える影響を検討するべく、物理化学的パラメータとイオン化効率につい
て多変量解析を行うこととした。化合物のイオン化効率を表す指標としては、標準溶液を質量分
析計に直接導入して得られたピークの面積値または希釈系列を作成して得られた検量線の傾き
を用いた。物理化学的パラメータとしては分子量、pKa または pKBH+、 logP、極性表面積、体積
などを選択した。Excel を用いた多変量解析の結果、イオン化効率の値は物理化学的パラメータ
の線形結合として表された。また、標準化した数値により Python を用いた多変量解析を行った
結果、ESI のイオン化の極性及び標準溶液作成に用いた溶媒により違いはあるものの、logP、分
子体積及び分子量の係数が相対的に大きい正の値を示し、イオン化効率に大きく影響しているこ
とが予想された。このことから、RMPA 類の分析において誘導体化により感度の向上が見られ
たことは、分子量が増大したことと、芳香環が導入されたことにより logP の値が増大したこと
が要因の一つであることが示唆された。
4:エタノールアミン類の誘導体化 LC-MS/MS 法による分析
誘導体化により逆相カラムへの保持だけでなく質
R
量分析計における感度も向上することが予想された
N
HO
OH
ことから、エタノールアミン類についても誘導体化
エタノールアミン類
LC-MS/MS 法 を 開 発 し 、 大 塚 に よ り 開 発 さ れ た
HILIC-MS/MS 法と、同じ分析装置を用いて検出限
PFBz 誘導体化
界を比較した(図4)。ペンタフルオロベンゾイルク
F
F
R
O
O
ロリド (PFBzCl) を用いて誘導体化した後に、逆相
F
F
N
カラムを用いて LC-MS/MS 分析を行ったところ、
O
O
MDEA 及び EDEA について検出限界はいずれも F
F
F
F
0.01 ng/mL であり、HILIC-MS/MS 法(検出限界
F
F
PFBz-EA
MDEA:4.5 ng/mL, EDEA:4.5 ng/mL)と比較して高感
・逆相カラムを用いた装置構成で分析可能
・HILIC-MS/MS 法よりも高感度化
度であることが確認された。また、保持時間の日内
図4 誘導体化 LC-MS/MS 法によるエタノールアミン類の分析
及び日間変動を確認したところ、HILIC-MS/MS 法
の場合には長期には 1 分近い保持時間のずれが観測されたのに対し、本法では同程度の期間に
おいても 0.1 分程度のずれであり、保持時間が安定していることが確認された。尿及び血清へ
の添加回収実験を行った結果、検出限界は 1–10 ng/mL であり、生体試料の分析についても従来
法より高感度であることが確認された。
以上、大塚は、法科学的に重要な高極性低分子化合物の新規高感度分析法の開発を目指し、実
験と理論を組み合わせながら、(1) エタノールアミン類の HILIC-MS/MS 法による分析 (2)アル
キルメチルホスホン酸類の誘導体化 LC-MS/MS 法による分析 (3) エタノールアミン類の誘導
体化 LC-MS/MS 法による分析 という 3 種類の新規分析法を開発した。その過程で、誘導体化
を行うことにより LC カラムの分離挙動だけでなく質量分析計における感度も向上することを
見出した。これらの知見は、今回検討した化合物以外の高極性化合物にも応用することができる
と考えられ、法科学及び分析化学のさらなる発展に寄与することが期待される。
よって本論文は博士(薬科学)の学位請求論文として合格と認められる。

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