Alberta context tool日本語版の開発および病棟の contextと病棟看護師の研究成果活用の関連

概要

［課程－２］
審査の結果の要旨
氏名

二見 朝子

本研究は、本邦の病棟看護師の研究成果活用と病棟の context の関連を明らかにするた
め、context を測定できる尺度を翻訳し、看護師の研究成果活用および患者アウトカムと
の関連を検討したものであり、下記の結果を得ている。
1． Alberta Context Tool（以下、ACT）日本語版の信頼性と妥当性が確認され、本邦で
使用可能な context を測定する尺度を確立した。
2． ACT 日本語版で測定された病棟の context は、国外での先行研究と同様に看護師の
主観的な研究成果活用と有意な関連があった。ACT における「文化」と「フィードバッ
ク」ドメインは先行研究と同様に、高い方が研究成果活用を行っているという一貫した
関連が認められたが、情報共有に関するドメイン（「定期的に開催される場以外での情
報共有／交換」ドメイン・
「人々のつながり」ドメイン）では、低い方が研究成果活用
を行っているという一貫した関連が認められた。これは、外部からの新たな知見の流入
機会が少ないといった、本邦の看護師の研究成果活用を取り巻く状況の特徴を表してい
る可能性があると考えられた。
3． 一部の context と看護師の個人特性については、有意な交互作用が見られ、context
の高い群と低い群では研究成果活用への個人特性の影響が異なる可能性が示唆された。
4． 一部の context については、ケアプロセス（褥瘡のリスクアセスメント・手指消毒剤
使用量）と患者アウトカム（褥瘡推定発生率・新規 MRSA 発生率）といった客観的な
指標とも有意な関連が認められ、病棟の context は看護師の主観的な研究成果活用のみ
ならず、ケアプロセスや患者アウトカムとも関連する可能性があることが示唆された。
以上、本論文は context を測定できる日本語版の尺度を開発し、病棟の context は本邦
においても看護師の主観的研究成果活用と関連がある事を明らかにした。また、一部の
context は、これまで先行研究が行われてきた西洋諸国とは関連が異なる可能性を示し
た。さらに、これまで知見が少ない、ケアプロセスや患者アウトカムとも関連する可能性
を示唆した。
本研究は、これまで主に西洋諸国で知見が蓄積されてきた看護師の研究成果活用への
context の影響について、本邦で初めて検討したものであり、本邦において看護師の研究
成果活用を促進する上で重要な貢献をなすと考えられる。
よって本論文は博士（保健学）の学位請求論文として合格と認められる。