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小胞体からの分泌ドメインであるER exit siteの形成機構

前田, 深春 東京大学 DOI:10.15083/0002004227

2022.06.22

概要

【序論】
小胞体で合成された分泌タンパク質は、小胞体上のドメインである「ER exit site」において形成されるCOPII小胞によってゴルジ体へ輸送され、最終的に細胞外へ分泌される(図1)。近年、ER exit siteは細胞外環境に応じてその構成因子や形態を変化させることで、小胞体からの分泌を調節することが明らかになった。特に細胞分裂期において、ER exit siteは分泌の一時的な停止に伴って崩壊し、分裂終期に再形成される。しかし、ER exit siteの形成機構に関しては知見が乏しく、その調節メカニズムも不明だった。

【結果】
1.TANGO1L/TANGO1SはER exit siteの形成と小胞体からの分泌全般に関与する
TANGO1LはER exit siteに局在する膜貫通型タンパク質である。TANGO1Lは小胞体内腔側領域で巨大分子コラーゲンと、細胞質側でCOII小胞被覆因子とそれぞれ結合することで、コラーゲンの分泌を補助する因子として単離された。その後スプライシングバリアントとして、小胞体内腔側領域をほとんど有さない短鎖アイソフォームTANGO1Sが発現していることが明らかになった。これら2つのTANGO1アイソフォームを同時に発現抑制した細胞では、コラーゲンだけでなく一般的な大きさのタンパク質に関しても分泌遅延が認められた。さらに本来ER exit siteを構成するCOPII小胞被覆因子の局在が解離していた。

2.TANGO1とSec16の結合がER exit siteの形成に必要である
COPII因子の局在にはER exit siteにおける足場タンパク質であるSec16が関与することが報告されていた。そこでTANGO1との関係性を検討したところ、Sec16はTANGO1LおよびTANGO1Sのどちらとも相互作用した。さらに結合ドメインを限定した結果、TANGO1のプロリンリッチ領域(PRD)のC末端120アミノ酸とSec16のELD領域が結合することが明らかになった(図2)。Sec16のELD領域はSec16自身がER exit siteに局在するために必要なドメインとして単離された領域(ER exit site Localization Domain)である。

次に内在TANGO1を発現抑制した細胞に対して、野生型TANGO1S、あるいはC末端120アミノ酸を欠くTANGO1S変異体(Δ120変異体)を発現させるレスキュー実験を行った。TANGO1を発現抑制した細胞ではSec16とCOPII小胞被覆因子(Sec31)が解離して存在したが、野生型TANGO1Sを発現する細胞では、Sec16とSec31の共局在率が無処理の細胞と同程度に回復した。一方でΔ120変異体を発現させた細胞では依然としてSec16とSec31の局在が解離していた。以上の結果はTANGO1とSec16の間の結合が、COPII被覆因子のER exit siteにおける局在化に必要であることを示唆している。

3.TANGO1はER exit siteの形成起点として機能する
さらにTANGO1とSec16の結合の意義を明らかにする目的でFKBPタグを付与したTANGO1PRD、およびFRAP-Tomm20(ミトコンドリア局在タンパク質)を培養細胞に共発現させ、ラパマイシン添加依存的にTANGO1PRDをミトコンドリア上に異所性局在化させる実験を行った。その結果、内在のSec16もTANGO1PRDに伴ってミトコンドリア上に局在化した。一方でSec16と結合しないTANGO1PRDΔ120変異体を用いた場合には、ラパマイシン存在下でもSec16はミトコンドリアに局在化しなかった。この結果は、Sec16がTANGO1との結合依存的にオルガネラ膜上にリクルートされることを示している。またSec31でも同様の結果が得られたことから、COPII小胞被覆因子はTANGO1とSec16が結合する場に局在化することが明らかになった。さらにER exit siteに局在する膜タンパク質であるcTAGE5およびSec12の局在もTANGO1によって制御されることが明らかになった。以上の結果はTANGO1がER exit siteの形成起点となることを示唆している(図3)。

4.CK1dはTANGO1のPPS領域をリン酸化し、ER exit site構成因子を解離させる
カゼインキナーゼ1d(CK1d)は小胞体からの輸送制御に関与することが報告されているキナーゼであるが、その詳細な機能は不明であった。タンパク質修飾リソースより、TANGO1のPRD近傍に多数のリン酸化が予測される領域(PPS領域)を見出したため、この修飾に対するCK1dの関与を検討した。その結果TANGO1のPPS領域がCK1dによって直接リン酸化されることが明らかになった。

次にTANGO1SのPPS領域にグルタミン酸を置換したリン酸化模倣変異体(SE変異体)、およびアラニンを置換した非リン酸化模倣変異体(SA変異体)を作出し、その表現型を観察した。SE変異体は、野生型TANGO1SやSA変異体と比較してSec16との結合親和性が低下していた。またSE変異体を発現する細胞では、ER exit siteの構成因子が解離しており、小胞体からの分泌も遅延していた。これらの結果はCK1dがTANGO1のPPS領域をリン酸化することで、ER exit siteの崩壊と分泌遅延が生じることを示している。

5.CK1dによるTANGO1のリン酸化は、細胞分裂期におけるER exit siteの崩壊に必要である
以前より、細胞分裂期に小胞体からの輸送が停止し、同時にER exit siteの構成因子も解離することが知られていた。そこで、細胞分裂期のER exit site崩壊にTANGO1のリン酸化が関与する可能性を検討した。ノコダゾール処理により細胞分裂期に同調させた細胞では、TANGO1のリン酸化が亢進していた。またTANGO1SSA変異体を発現する細胞では、細胞分裂期におけるER exit siteの崩壊が抑制された。同様の表現型はCK1dを発現抑制した細胞でも認められた。したがって、CK1dによるTANGO1のPPS領域のリン酸化が細胞分裂期におけるER exit siteの解離に必要であることが明らかになった。

6.プロテインホスファターゼ1(PP1)がTANGO1を脱リン酸化する
しかしながら、CK1dのキナーゼ活性は細胞周期を通して変化しないため、分裂期特異的なTANGO1のリン酸化は説明できない。そこでTANGO1の脱リン酸化過程に着目し、種々のホスファターゼ阻害剤を用いて検討を行った。その結果、プロテインホスファターゼ1(PP1)およびプロテインホスファターゼ2Aの阻害剤であるオカダ酸を添加した際に、TANGO1のリン酸化亢進とER exit site構成因子の解離を認めた。同じ表現型はPP1の触媒活性サブユニットの発現抑制でも見られたことから、TANGO1はPP1によって脱リン酸化されることが示された。PP1は細胞分裂期にCdk1/CyclinB1複合体によってリン酸化され、活性が低下する。以上の結果は、PP1とCK1dが細胞周期依存的にTANGO1のリン酸化状態を調節することで、細胞分裂期におけるER exit siteの崩壊と再形成が制御されている可能性を示唆する(図4)。

【考察】
進化的保存性からみたER exit site構成の生理的意義
以上の結果からTANGO1がER exit siteの形成起点であり、細胞分裂期におけるER exit site崩壊と再形成の主要因子であることが明らかになった。これまでER exit siteの形成にはSec16が必要であることが報告されていたが、膜貫通領域を有さないSec16がどのようにして小胞体膜を認識し、ER exit siteの場所を規定するかは不明だった。本研究によりはじめてSec16の局在化に膜タンパク質であるTANGO1が必要であることが明らかになった。一方でTANGO1ファミリーが存在しない出芽酵母では、Sec16はSec23などのCOPII小胞被覆因子依存的に局在化することが報告されており、脊椎動物とは別の機構でER exit siteが形成される可能性が考えられる。

またTANGO1ファミリーの有無は、各生物種のER exit siteにおけるSar1の活性化効率に反映される。Sar1はCOPII小胞の形成を制御する低分子量Gタンパク質であり、Sec12によって活性化される。出芽酵母ではSec12は小胞体膜上に拡散して存在するが、脊椎動物ではSec16とSec12の間にTANGO1,cTAGE5が介在することで、Sec12をより効率的にER exit siteに集積させることが可能になる(図5)。我々は以前にER exit site近傍でのSar1の効率的な活性化がコラーゲンのような巨大分子の輸送に必要であることを見出している。したがってTANGO1ファミリーを中心としたER exit siteの構成は、脊椎動物が多様なタンパク質を小胞体から輸送するために獲得した機構の一つであると考えられる。

分泌の調節点としてのER exit site
本研究により、TANGO1のリン酸化修飾が細胞分裂期におけるER exit siteの崩壊に必要であることが明らかになった。細胞周期以外にも、ER exit siteは小胞体ストレスや栄養飢餓条件下で形態を変化させ、分泌を調節する。今後は、これらの様々なストレスシグナル経路と分泌との関係性についても検討していきたい。

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