Enhancing the role of poly(lactic acid) in the circular economy: from chain extending polymerization to identification of a degrading microorganism
概要
本博士論文では、バイオプラスチックを代表するポリ乳酸(PLA)の新規な役割の発掘や強化を目的として、これまでのラクチド法や直接重合法に代わる鎖延長法によるPLAの新規合成法と、PLAを分解する新規な菌をコンポストから単離・同定する研究を中心に行った。
第二章では、ヒドロキシ末端とカルボン酸末端を接続するための鎖延長剤としてジイソシアネートを使用して、比較的容易に得られる低分子量PLAから高分子量PLAを合成するシンプルで効率的な鎖延長法に成功した。イソシアナートとカルボキシル基の反応は通常は遅い。イソシアネートとヒドロキシ基の反応によって生成されるウレタン結合は、イソシアナートとカルボキシル基の反応によって生成されるアミド結合よりも比較的熱安定性が低い。これらの解決のために低分子量PLAのヒドロキシ末端をカルボン酸末端に変換してアミド結合に転換することにより、熱劣化に対してより耐久性のあるPLAを得ることができた(Scheme1)。この方法は、PLAブロックコポリマーの合成などのポリマーデザインや、使用後に低分子量化したPLAから分子量を復元するためのメカニカルリサイクルまたはリペアに適用することができる。
第三章では、家畜の糞を成分とするコンポストを使ったPLA分解菌の単離・同定を行った。これにより、PLA分解菌として、放線菌の一種であるNocardiopsis chromatogenesを初めて単離・同定することに成功した(Figure1)。この研究では、PLAの分解菌を単離するために、加水分解によるポリ乳酸の分解を排除するアプローチをとった。具体的には、さまざまな種類の家畜の糞に由来する堆肥は、タンパク質分解とともに高温化し、アンモニア生成によりポリ乳酸の加水分解を促進する可能性があるため、スクリーニングにおいて37℃未満に制御した。その結果、非酵素的分解が回避された。今後の研究では、PLA分解に関与する酵素を明らかにして、分解メカニズムを解明し、使用後のPLA製品の効率的な処理システムの作成と設計につながることが期待される。
第四章では、社会実装を念頭に置いて、PLA製食器を食品残渣とともにパイロットスケールでコンポスト化試験を行った。その結果、PLAの有無がプロセスに影響を与えないこと、得られたコンポストは高品質で安全であり、植物の成長に悪影響を及ぼさないことも示された。このような包括的なパイロット規模のコンポスト化試験は、使用後の生分解性製品と一緒に有機廃棄物を処理して、廃棄物を堆肥という付加価値品に転換するという社会システムの設計に役立つ。そして、第五章では、PLAの事業開発の経験からの学びにより、原材料から廃棄物管理までを考慮したバリューチェーン全体での独自の循環経済モデルがデザインできた。
本論文では、環境と資源転換に貢献する新たな材料開発や社会システム構築につながるPLAの新規な鎖延長合成法や分解菌の単離・同定を含む包括的な成果が得られた。