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英国における日本庭園の変遷の過程と特徴に関する研究

熊倉, 早苗 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23529

2021.09.24

概要

19世紀後半以降、日本庭園は日本を代表する文化の一つとして欧米を中心とする地域に作庭されるようになった。日本庭園の作庭は現在も世界各地に対象を広げて文化交流の象徴として継続されているが、その維持管理が重要な課題となっている。この課題を解決するためには、日本庭園それぞれが存在する国や地域の歴史的背景や文化的価値を理解するための調査が重要である。適切な管理が行われない庭園は消滅する恐れもあり、日本庭園のリストの作成と存続方法の検討、日本側からの現地管理者に向けた指導が必要であり、国土交通省はその事業を重要な国家事業の一つに位置付けている。そのため、外国の日本庭園の維持管理の方向性を考察し、議論することは不可欠になっている。

本論文は、諸外国の中でも独特の日本庭園の定着過程が認められる英国における日本庭園の変遷の過程と特徴について、文献調査による日本庭園文化の英国文化との融合と歴史的変遷の解析、アンケート調査に基づく日本庭園観の日英間比較、および英国に現存する日本庭園についての文献調査と現地調査による現状と作庭時期ごとの特徴の解析を行い、これらに基づいて、英国の日本庭園の存続方法に関する検討と提案を行うことを目的としたものである。

第1章では、序論として、既往研究を網羅的に検討し、諸外国の日本庭園作庭の歴史と現況を概観している。さらに、英国における19世紀のプラントハンターによる植物を通した日英の文化交流を整理し、英国における日本庭園の歴史的特徴に及ぼした影響について検討している。以上を踏まえた上で、本研究の目的と意義を示し、最後に本論文の構成について述べている。

第2章では、19世紀に創刊された英国の四大園芸雑誌の中で、誌名を変えながらも現在まで発刊を続けている『Gardeners’Chronicle』誌について、創刊年である1841年から刊行スタイルが変更された1967年までの127年間の掲載記事すべてを対象として、日本関連のタイトルがついた記事、347件を抽出し、内容を解析している。その結果、日本に関する記事は1910年の日英博覧会以前により多く認められた。最も多かった記事は、植物に関する記事で283件であり、46件が日本庭園に関する記事であった。日本庭園に関する記事の内容を詳細に分析した結果、前述の日英博覧会を境にして記事の内容が大きく変化したことが示された。すなわち、それ以前には日本のさまざまな植物種の英国における造園利用に関する記事が中心であるのに対して、それ以降には日本文化や慣習を介して日本庭園を紹介する記事が多くなった。これは日本に関する十分で広範な情報がさまざまな媒体によって直接入手できるようになったことと関係していると考察している。

第3章では、日本庭園に対する日英間の現在のイメージの相違を解析するために、植物および自然風景や庭園要素に関する写真を提示して、日本庭園との関係性の強さを問うアンケート調査を、英国の2団体(日本庭園に関心がある団体と日本庭園の知識はないが植物に関心がある団体)と日本の1団体(造園関係の団体)の会員を対象に行った研究について述べている。その結果、植物に関する分析では、国による差ではなく、日本庭園に関する知識の有無に起因する違いが認められることが示唆された。一方、自然風景や庭園要素に関する分析では、英国と日本の間に違いが認められ、文化的背景の違いによるものと考察されたことから、英国人の日本庭園空間の捉え方については、日本庭園に関する知識による違いは大きくなく、英国人特有の共通のイメージがあることが示唆された。最後に、これらの結果に基づいて、英国の日本庭園のあり方や維持管理に関する考察を試みている。

第4章では、英国内のEnglandに現存する日本庭園について、その現状と課題及び管理の在り方を考察することを目的として、文献調査によって抽出した41の日本庭園について作庭後の変遷を把握したほか、その中の12庭園について現地調査を行った結果を解析している。抽出された日本庭園に関しては、先行研究に基づいて作庭時期を 1950年を境にした黎明期と近代期に分類し、現地調査結果からは各庭園の空間構造を分析している。その結果、英国の日本庭園は黎明期にはマナーハウス等の貴族階級が所有する広大な庭園内の一部に回遊式庭園として作庭されることが多く、そのモデルは日本開国時に江戸で一般的であった大名庭園の影響を受けていることを明らかにしている。一方、近代期の日本庭園には枯山水庭園が導入されるようになり、小面積の庭園も作庭されるようになったことが明らかになった。また、黎明期の古い日本庭園においては、維持管理が途絶える、あるいは一部が廃墟となる一方で、新たに近代期に作庭された日本庭園が付け加えられる例も認められ、黎明期の日本庭園維持の重要性を示唆している。

第5章では、各章で得られた結果を統合し、英国に日本庭園が根付いた過程について考察を行うほか、日本庭園の維持管理に関する方向性を検討している。その結果、英国の日本庭園を維持するために求められることとして、主に2つの視点が必要であることを見出した。それらは、現存する日本庭園の歴史的背景と文化的価値を見出すことの重要性と、現地調査に基づく適切な管理と指導の重要性である。また、その実現のためには、日本からの技術指導により現地管理者の技術を向上させることに加えて、英国の場合には日本庭園から英国人が受けてきたインスピレーションによって独自に形成された文化を尊重することが不可欠であり、そのためには日英両国の明確な役割分担を考えることが必要であることが示唆された。本論文で得られた知見は、諸外国の日本庭園の維持と継続のためには、継続的な日本からの支援が重要であると同時に、画一的ではなく各国・地域の日本庭園の特徴や歴史的背景にあわせた支援が必要であることを示しており、日本庭園の現状評価や特性を抽出する調査・研究が重要であることを示している。

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参考文献

01) 岡崎文彬 (1999):ヨーロッパの造園:鹿島出版会 SD(43), 209, 236

02) 中村一・尼崎博正共著 (2001):風景をつくる:昭和堂, 123-124

03) 熊倉早苗・柴田昌三 (2019):英国園芸雑誌ガーデナーズ・クロニクルからみた 日本庭園に関する記事内容の推移: ランドスケープ研究(オンライン論文集)(12), 45-49

04) Josiah Conder (1893):Landscape Gardening in Japan:Tokyo, 161pp,148-149

05) 白幡洋三郎 (2020):大名庭園江戸の饗宴:ちくま学芸文庫,270-271

06) 劉銘・下村彰男・中村和彦・山本清龍 (2019):海外の日本庭園に対する違和感にみる日本庭園らしさの認識構造:環境情報科学学術研究論文集(33),19-24

07) 片平幸 (2010):往還する日本庭園の文化史‐ジョサイア・コンドルの日本庭園論の考察を中心に‐:桃山学院大学総合研究所紀要 35(2),33-53

08) 楫西貞雄 (1948):海外萬國博覽會に於ける日本庭園:造園雑誌 12(1), 4-8

09) 佐藤昌 (1986):外国における日本庭園‐初期の造園‐:造園雑誌 49(3), 167-188

10) 鈴木誠 (2006):海外につくられた日本庭園の系譜:ランドスケープ研究 69(3),192-198

11) 大出英子 (2008):1910 年の日英博覧会日本庭園の歴史と現状について:目白大学短期大学部研究紀要 45, 27-41

12) 金鍾龍・朴仁煥 (2017):大韓民国内に造成された日本式庭園の特性研究:ランドスケープ研究(オンライン論文集)(10), 134-141

13) 趙啓蒙・呂文静・鄧舸・真田張格瑋・服部勉・鈴木誠(2018): 現代中国の日本庭園の現況・利用・評価に関する研究:ランドスケープ研究 81(5), 461-466

14) 東京農業大学:2020 海外の日本庭園,庭園一覧:< http://www.nodaigarden.jp/gardens-all/>, 2020 更新,2020.11.16 参照

15) Japanese Garden Society, Garden Visits:<https://www.jgs.org.uk/what-we-do/garden-visits/>, 2020 更新, 2020.11.16 参照

16) 福原成雄 (2007):日本庭園を世界で作る:学芸出版社, 187-189

17) Jill Raggett (2006):Early Japanese-style Gardens in Britain – an Overview Shakkei 13(2), 6-9

18) Jill Raggett (2011): Gardens Speaking with a Japanese Accent: Shakkei 17(4),4-5

19) Historic England,Search the List:< https://historicengland.org.uk/listing/the-list/ >,2020.11.10 参照

20) 森蘊 (1962) : Typical Japanese Gardens : Shibata Publishing, 23-98

21) 小野健吉・W.エドワーズ (2001) : 日本庭園用語辞典 : 関西プロセス, 15, 20

22) 久末弥生 (2017):イギリスの考古遺産法制と都市計画‐イングリッシュ・ヘリテッジに着目して‐:創造都市研究 e 12(1),1-8

23) Gardeners’ Chronicle(1906):Purnell & Sons Ltd, 104

24) Gunnersbury Park and the Rothschilds(1993):Heritage Publications London Borough of Hounslow, 34, 43-44

25) 飛田範夫 (1999):日本庭園と風景:学芸出版社,120-124, 184

26) Gardeners’ Chronicle(1905):Purnell & Sons Ltd, 302

27) 鈴木誠 (1998):ランドスケープ・デザインにおける「枯山水」の考察:ランドスケープ研究 61(5), 413-416

28) 丹羽鼎三 (1943):日本文化としての庭園:造園雑誌 10(1), 19-26

29) 海外日本庭園再生プロジェクト:国土交通省ホームページ<https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi10_hh_000301.html>,2020.02.14 参照

30) Fanhams Hall (1901):Japanese gardens, Mr. Suzuki 作庭 Fanhams Hall an exclusive venue, History of Fanhams Hall(ホテルパンフレット参照)

31) Sally Miller (2012):The Pleasure Grounds of Holland House:Scotforth Books, 10-11, 78-79(写真参照)

32) Gardeners’ Chronicle(1902):Purnell & Sons Ltd, 228

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