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大学・研究所にある論文を検索できる 「小脳が司る協調運動における DGKγ- PKCγ機能協関と加齢との関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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小脳が司る協調運動における DGKγ- PKCγ機能協関と加齢との関連

Tsumagari, Ryosuke 神戸大学

2021.03.06

概要

ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)は、ジアシルグリセロール(DG)をホスファチジン酸(PA)に変換する脂質キナーゼである。DGとPAは共に脂質メッセンジャーとして機能し、プロテインキナーゼC(PKC)を含む様々な酵素の活性を制御することから、DGKは脂質シグナルを調節する重要な役割を果たしていると考えられている。これまでに哺乳類のDGKは10種類のサブタイプが同定されており、その中でもDGKγは神経系、特に小脳プルキンエ細胞に多く発現していることが知られている。小脳の唯一の出カニューロンである小脳プルキンエ細胞は、平行線維とプルキンエ細胞間のシナプス可塑性の一つである長期抑圧(LTD)を制御しており、小脳が司る協調運動において重要な役割を果たしている。PKCγもまた小脳プルキンエ細胞に豊富に発現しており、ΡΚCγの機能不全はLTDやプルキンエ細胞の樹状突起形成を阻害することから、PKCγ活性の精密な制御が協調運動に関与していることが示唆されている。また、DGKγはPKCγと直接相互作用し、PKCγによるリン酸化により酵素活性が上昇するため、結果としてPKCγの基質であるDG量を低下させることでPKC活性を調節することができる。これらのことから、DGKγはPKCγ活性を制御することで小脳が司る協調運動に重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、小脳プルキンエ細胞におけるDGKγの生理機能は未だ明らかとなっていない。そこで本研究では、小脳が司る協調運動におけるDGKγ-PKCγ能協関の解明とその応用を目的とした。

 第1章では、まず、DGKγノックアウト(DGKγ KO)マウスを作製し、協調運動におけるDGKγの生理機能を調べた。協調運動を評価するrotarod試験、footprint試験、beam試験においてDGKγ KOマウスの運動協調性を調べたところ、DGKγ KOマウスは、rotarod試験において、ロッドでの滞在時間が野生型(WT)マウスに比ベて有意に短いことが明らかになった。また、footprint試験ではWTよりも歩幅が短く、beam試験では後肢のスリップ数が有意に増加していた。すなわち、DGKγ KOマウスは協調運動障害を引き起こしていることが明らかとなった。また、DGKγ KOマウスは運動協調性の基盤となるLTDの障害と、プルキンエ細胞の樹状突起が著しく退縮するという神経細胞形状異常を呈していた。興味深いことに、cPKC阻害剤であるGö6976をDGKγ KOマウスの初代培養プルキンエ細胞に処置すると、樹状突起の退縮がWTレベルまで改善された。一方、PKC活性化剤である12-o-テトラデカノイルフェノール13-アセテート(TPA)を処置すると、WTマウス由来の初代培養プルキンエ細胞の樹状突起は大きく退縮した。そこで、DGKγ KOマウスの小脳でPKCが実際に活性化されているかどうかを確認したところ、DGKγ KOマウスの小脳では、PKCγは活性化されていたが、PKCαは活性化されていなかった。そこで、PKCγ阻害効果を持つscutellarinを処理したところ、DGKγ KOウスで認められたPKCγの異常な活性化とLTD障害は回復した。

 ついで、DGKγ KOマウスにおけるLTD障害の詳細なメカニズムを検討した。まず、LTDに必要なPKCαの活性化がLTD刺激によって引き起こされるかどうかを調べたところ、DGKγ KOマウスの急性小脳スライスへのK-glu(50mM KC1+100μΜ L-glutamate)刺激では、PKCαは活性化されなかった。次に、異常なΡΚCγ活性がLTDの障害にどのように関与しているかを調べた。PKCγ阻害薬であるscutellarinをDGKγ KOマウスの小脳スライスに前処置すると、PKCαの活性化が引き起こされ、LTDが改善された。また、DGKγは海馬錐体細胞や小脳顆粒細胞など脳の他の領域にも多く発現しているため、我々はプルキンエ細胞特異的DGKγ KOマウスを作製し、プルキンエ細胞特異的なDGKγの機能とLTD障害のさらに詳細なメカニズムを調べた。その結果、プルキンエ細胞特異的DGKγ KOマウスは、DGKγ KOマウスと同様に、PKCγの異常な活性化により、LTD障害や協調運動障害を示し、PKCαを負に制御していることが確認された。さらに、プルキンエ細胞特異的DGKγ KOマウスでは、非選択性陽イオンチャネルの一種であるTRPC3がΡΚCγによって負に制御されていることを明らかにした。これらの結果から、DGKγ KOマウスのプルキンエ細胞では基底状態におけるPKCγの異常な活性化によって、形態異常とLTDの誘発が阻害され、協調運動障害が生じることが示唆された。本研究によって、DGKγとΡΚCγの機能協関がLTD及び協調運動を制御していることが明らかとなった。

第2章では、加齢に伴う協調運動障害とDGKγとPKCγの機能協関との関係性について研究を行った。加齢とは避けられないプロセスであり、加齢に伴う微細な運動制御の欠損は日常活動に影響を与え、小脳機能の劣化は協調運動障害を引き起こす。小脳プルキンエ細胞はPKCシグナル異常といった加齢に伴う障害を受けやすく、海馬におけるPKC活性の変化は加齢に伴う空間記憶障害と相関していることが明らかとなっている。一方、1章で明らかになったDGKγとPKCγの機能協関が加齢に伴う協調運動障害に与える影響については、未だ不明である。そこで、本章では、DGKγとΡΚΟγの機能協関が加齢に伴う運動協調障害に関与しているかどうか検討した。まず、中枢神経系障害の老化促進モデルマウスであるSAMP8を用いた。SAMP8は学習や記憶、情動に障害を示すが、その運動協調性は不明であった。6週齢SAMP8はrotarod試験ではコントロールマウス(SAMR1)と同等の運動協調性を示したが、24週齢SAMP8はrotarod試験での滞在時間が有意に少なく、beam試験での後肢のスリップ数が多く、協調運動障害を引き起こしていることが明らかとなった。また、24週齢SAMP8の小脳ではDGKγの発現量が低下し、PKCγの活性が上昇していた。これらの結果から、SAMP8は加齢に伴う協調運動障害の有用なモデルマウスであり、DGKγによるPKCγの活性制御が加齢に伴う協調運動障害に関与していることが示唆された。

ついで、野生型マウスを用いて老化による運動協調変化を調べた。その結果、rotarod試験において、48及び60週齢マウスは、8週齢マウスに比べて有意にロッドでの滞在時間が減少した。さらに、beam試験では後肢のスリップ数が有意に増加した。一方、wire hang試験では、60週齢マウスは落下までの時間が8週齢マウスに比べて有意に短かったが、48週齢マウスでは有意な差が認められなかった。このことから、60週齢マウスの運動障害は筋力低下によるものと考えられたが、48週齢マウスは加齢に伴う協調運動障害を示していることが示唆された。次に、加齢マウスの小脳におけるΡΚCγ活性を調べたところ、予想通り、48及び60週齢マウスでは、8週齢マウスに比べてPKCγ活性が上昇していた。しかし、48週齢及び60週齢の加齢マウスの小脳におけるDGKγの発現量は、8週齢マウスと同程度であった。これらのことから、加齢野生型マウスではDGKγの発現量ではなくその活性低下や他の因子により、ΡΚCγが活性化されていることが示唆された。少なくともPKCγの活性異常が加齢に伴う協調運動障害と関係していることが考えられたため、PKCγ阻害薬であるscutellarinの経口投与によって老化による運動協調性が改善するかどうかrotarod試験を用いて検討した。その結果、scutellarin(100mg/kg)投与群では、コントロール群(8週齢マウス)に比べてロッドでの滞在時間が増加した。以上の結果から、老化に伴う協調運動障害においても、PKCγの活性異常が関与していることが示唆された。

以上本研究により、小脳が司る協調運動にはDGKγによるΡΚCγ活性の精密制御が重要であり、PKCγの活性亢進が加齢に伴う協調運動障害の原因の一つであることが明らかなった。本研究は、協調運動制御メカニズム解明に新たな知見を与えるものであり、DGKγまたはΡΚCγが加齢に伴う協調運動障害改善の標的となる可能性を見出した。

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