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大学・研究所にある論文を検索できる 「Treatment of retinal fibrosis using a recently developed mouse retinopathy model」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Treatment of retinal fibrosis using a recently developed mouse retinopathy model

梶川 清芽 富山大学

2022.03.23

概要

[目的]
糖尿病網膜症は糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害と並ぶ糖尿病の三大合併症の一つであり、高血糖状態の持続により発症し、増悪とともに視力低下を引き起こし患者の QOL 低下につながる重要な合併症である。糖尿病網膜症では病的血管新生ならびに増殖膜の発生による牽引性網膜剥離を発症し、発症後は不可逆な病態とされている。臨床上、血管新生阻害薬は上市され使用されているが、現時点で増殖膜の形成による牽引性網膜剥離の進行を阻止する薬剤はない。

ペリサイトは微小血管を被覆する細胞の一つであるが、牽引性網膜剥離の発症には、網膜微小血管におけるペリサイトの線維芽細胞への変異(pericyte-fibroblast transition ; PFT)とそれによる増殖膜の形成が深く関与していることが示唆されている。近年我々は、神経系特異的 PDGFRβ ノックアウトマウスを作出し網膜の解析を行った結果、牽引性網膜剥離を発症する網膜症モデルマウスとして有用であることを報告している。本研究ではこのマウスを用いて PFT と牽引性網膜剥離の原因である網膜の線維化(増殖膜形成)について評価し、さらに増殖膜に対する治療について検討を行った。

[方法ならびに成績]
本研究では、2つのloxP配列に挟まれるPdgfrb遺伝子を有するマウス(Pdgfrbflox / floxマウス)とネスチンプロモーター下流で核移行型Creリコンビナーゼ発現するマウス(Nestin-Creマウス)をかけ合わせた結果得られるN-PRβ-KOマウスを使用した。N-PRβ-KOマウス は、このような方式でNestinを発現した細胞でPDGFRβをノックアウトしたマウスであり、近年我々の研究室で糖尿病網膜症モデルとして有用であることが確認されている。これまでの検討結果から、N-PRβ-KOマウスの表現型は、8~12週齢において硝子体混濁がみら れ、野生型マウス(WT)ではカップ様の形状である網膜が、牽引性網膜剥離の発症により異常なV字型に変形している。N-PRβ-KOマウスの90%以上でこのような異常な構造の網膜がみられ、この構造異常は1〜4週齢前後から発症し始めることがわかっている。 さらに、N- PRβ-KOマウスでどのような細胞がPDGFRβノックアウトを受けているのか探る目的で、 Nestin-CreマウスとCre反応でmCherry蛋白質が発現するマウス(Rosa26-mCherryマウス)を掛け合わせたN-MCマウス、N-PRβ-KOマウスとRosa26-mCherryマウスを掛け合わせることで作出される、PDGFRβノックアウト細胞がmCherryで可視化できるN-PRβ-KO-MCマウスを実験に用いた。これらマウスの網膜組織を取り出し、免疫染色を行うことで血管、ペリサイト、増殖膜を評価した。一次抗体としてhamster抗CD31抗体、rabbit抗NG2抗体、rabbit抗 collagen type IV抗体、mouse抗αSMA-Cy3抗体を、二次抗体として、それぞれの一次抗体由来動物に対する抗体にAlexa-Fluor488、Alexa-Fluor568、Alexa-Fluor633で標識してある抗体を用いて染色を行った。核はヘキスト33258を用いて染色した。マウントした網膜は共焦点顕微鏡を用いて撮影し、αSMA陽性領域をImageJを用いて解析した。治療実験としては、抗PDGFRβ抗体(APB5)、抗PDGFRα抗体(APA5)、PDGFRα、PDGFRβの両方を阻害する低分子化合物のクレノラニブを用いた。生後1~4週期間、N-PRβ-KOマウスにそれらを投与し、上述の方法で網膜組織の免疫染色と評価を行った。対照群として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはDMSOを投与したN-PRβ-KOマウスを用いた。

WT の網膜血管では、血管を被覆しているペリサイトが NG2 陽性/αSMA 陽性ペリサイト亜集団と NG2 陽性/αSMA 陰性ペリサイト亜集団によって被覆されていたが、N-PRβ-KO マウスでは NG2 陽性/αSMA 陰性ペリサイト亜集団が消失することで病的血管新生が引き起こされ、さらに残存している NG2 陽性/αSMA 陽性ペリサイト亜集団が PFT を起こし、αSMA 陽性線維芽細胞に移行することで増殖膜が形成されていた。Nestin を発現した細胞を mCherry で可視化できる N-MC マウスの解析では、大多数のペリサイトが mCherry 陽性であり、神経堤細胞由来であることが明らかとなった。一方、Nestin を発現した細胞で PDGFRβ がノックアウトされ、ノックアウト細胞が mCherry で可視化できる N- PRβ-KOMC マウスの解析では、PFT を起こした αSMA 陽性線維芽細胞は mCherry 陰性であり、PDGFRβ がノックアウトされていないことが確認できた。

N-PRβ-KOマウスでは、αSMA陽性線維芽細胞はPDGFRβがノックアウトされていないことから、PFTを阻害し増殖膜形成を抑制する目的でAPB5の投与を行った。その結果、対象群と比較してAPB5投与群では、わずかにαSMA陽性線維芽細胞が見受けられたが、統計的に有意とは考えられない程度であった。PDGFRαは固形腫瘍におけるPFT後の線維芽細胞の遊走/増殖において重要な役割を果たすことが知られていることから、増殖膜形成阻害を期待してAPB5の投与を行った。その結果、対象群と比較してAPA5投与群では、有意差は認められないものの、αSMA陽性線維芽細胞の減少が観察された。PDGFRα、PDGFRβの両方を阻害するクレノラニブを投与した場合では、対象群と比較して有意差にαSMA陽性線維芽細胞の減少がみられた。これより、PDGFRαおよびβの両方を同時に阻害することで、増殖膜形成を抑制することが可能であった。

[総括]
N-PRβ-KOマウスでは、過剰なPDGF-BB-PDGFRβシグナルにより、NG2陽性/αSMA陽性ペリサイト亜集団がPFTを引き起こし増殖膜形成の原因となる可能性が示唆された。抗体を用いたPFTに関与するPDGFRβの阻害、線維芽細胞の遊走/増殖に関与するPDGFRαの阻害では、対照群と比較していずれも有意差はみられなかった。しかし、クレノラニブ投与でPDGFRαおよびPDGFRβを同時に阻害することにより、N-PRβ-KOマウスにおいて増殖膜形成が有意に抑制された。これより、PDGFRαおよびPDGFRβの両方を同時に阻害することが網膜線維化を抑制するために重要である可能性がある。この結果は、糖尿病網膜症の牽引性網膜剥離に対する効果的な薬剤開発につながることが期待される。