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大学・研究所にある論文を検索できる 「高輝度発光型デヒドロセレンテラジン類のデザインと合成および発光タンパク質フォラシンへの展開」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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高輝度発光型デヒドロセレンテラジン類のデザインと合成および発光タンパク質フォラシンへの展開

森口, 舞子 神戸大学

2021.03.25

概要

ヒカリカモメガイ由来の発光タンパク質であるフォラシンはデヒドロセレンテラジン(DCL)を基質として利用し、ROSの刺激により発光することが知られており、近年、これを利用したROS検出の為のキットが市販されるなど、フォラシンはROSを検出・可視化し、経時変化に基づく動的解析を可能にする手段として期待されている。しかしながら現状では、試験管内で、かつ細胞外の環境でしか利用できない。生体内への適用が可能であり、直接的で定量可能なROSの高感度検出手段としてフォラシンを利用するためには、輝度が十分ではなく、発光効率を高める必要があるという問題点が残されていた。そこで、本研究ではフォラシンへの改良型クロモフォアの導入による高輝度発光系の創製を研究課題とした。

 本論文の1章では様々な生物の発光現象について概説しており、2章で本研究の目的を述ベている。3草ではDCLの8位に酸素原子を導入した8-OAr-DCL誘導体の化学合成を行い、4章ではDCLの8位に窒素原子を導入した8-NAr-DCL誘導体の化学合成を行っている。また、5章では様々なDCL誘導体の化学合成を行っている。6章では市販のフォラシンを用いた合成基質の発光活性測定を行っており、7章ではカイコ-バキュロウイルス系を用いたアポフォラシンの発現と活性化を行った後に合成雜質を用いた発光活性測定を行っている。8章では得られた結果を総括し、研究成果と今後の展望について論じている。

 2章ではフォラシンを明るく光らせるための分子デザインについて説明している。フォラシンの発光は、クロモフォアが酸化分解して生成する酸化物の励起状態に由来している。特にアミドカルボニル部分が励起状態の中心を担っていると考えられている。DCLの構造を改変することで、このカルボニルのπ電子へ何らかの電子的効果をもたらすことができれば、フォラシンの発光効率を改変できるのではないかと考えた。DCLの8位にヘテロ原子を導入すれば、非共有電子対がカルボニルの励起状態に電子的効果を及ぼすことが可能になる。さらに、8位ベンゼン環を介してフッ素基が導入できれば、ヘテロ原子の電子的効果をフッ素基により調節することが可能になると考えた。一方、DCLの2位と6位のベンゼン環に存在するヒドロキシ基はタンパクによる基質認識に必須の置換基であり、修飾できないことが先行研究により明らかになっている。また、6位芳香環はピラジン環と少しねじれた方が安定であり、励起状態には電子的に関与しないと考えられている。これまで合成してきた8位に硫黄原子を導入したDCL誘導体は、過剰に存在してしまうDCLがROSと反応してしまうために、天然型基質よりもフォラシンの発光量が低下してしまう欠点があった。そこで本研究では、硫黄原子以外のヘテロ原子を導入してこの問題を回避すること、そして効率よく様々な置換基を導入する方法を確立し、フォラシンをより明るく光らせることを目指した。

 そこで3章ではDCLの8位に酸素原子を導入した8-OAr-DCL、さらに8位に隣接するベンゼン環上にフッ素原子を導入した8-OAr-DCL誘導体の化学合成に取り組んでいる。市販の2アミノビラジンを臭素化したジブロモ体を用いて、位置選択的なクロスカップリング反応を行うことにより、DCLの前駆体であるセレンテラミンへと誘導し、最後に4-ヒドロキシフェニルピルビン酸との縮合を行うことにより8-OAr-DCL類の短段階かつ高収率でDCL誘導体を合成する経路を確立した。4章では3章で確立した合成経路を基に8位に窒素原子を導入した8-NAr-DCLの合成、さらに8位窒素原子上にメチル基を導入した8-N(Me)Ar-DCL合成を達成している。5章では8位に臭素を導入したDCL誘導体、8位または8位と6位に置換基の無いDCL誘導体の合成をおこなっている。

 6章では市販のフォラシンを用いて、3、4および5章で合成した10種類のDCL誘導体の発光活性測定を行っている。活性測定の結果から、8位に酸素原子を導入した誘導体は全て活性があり、8-OAr-DCLが最も高輝度発光する基質であったのに対し、窒素原子を導入した8-NAr-DCL誘導体では、総じて天然型DCLよりも総発光還が低下した。8-OAr-DCL誘導体の中でも、電子供与基であるメトキシ基を導入したものが髙輝度発光を示し、フッ素原子のような電子吸引基を導入した8-OAr-DCL誘導体において総発光最は減少した。以上のことから8-OAr-DCLの置換基は電子供与基が適しているといえる。しかしながら活性測定に用いている市販のフォラシンには天然由来の基質が含まれているため、発光活性の評価を正確に行うことができないという欠点があった。そこで7章では天然基質の存在しない完璧なアポフォラシン発現と活性化を課題とした。

 DCL誘導体の正確な発光活性の評価を行うために、組み換えアポフォラシンを用いた発光活性測定系の確立を行った。種々検討した結果、発光活性には糖鎖修飾が必要であることが分かった。そのためカイコーバキュロウイルス系を用いて迫伝子発現させた組み換えアポフォラシンを調製した。FLAG®タグによるアフィニティ精製を行うことで高純度のアポフォラシンを得ることができ、発現精製系を確立できた。これまでに組み換えアポフォラシンの発光に成功した例はなかったが、精製アポフォラシンにDCLを加えてフォラシンを再構成した後、過酸化水素・ペルオキシダーゼ(H2O2-HRP)を加えてROSを発生させることにより発光させることに成功した。また、HRPの代わりにカタラーゼ、H2O2の代わりにTBHPを用い、組み合わせを変えて発光活性の測定を行ったが、H2O2-HRPの組み合わせが最も活性を強くした。また、天然フォラシンが示す発光と比較し、再構成系による発光は測定値が一定でありDCL誘導体効果をより正確に評価できることが確認された。DCL誘導体の正確な活性評価の結果から、フォラシン発光の構造活性相関を明らかにすることができると考えられる。7章の内容は、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 30, 127177に掲載されている。

 また、発現させたアポフォラシンと市販のPholasin®との相対的な発光量を棒グラフで表したところ、発光活性は同様の傾向を示した。このことから市販のフォラシンを用いた時の発光機構を次のように解釈することができる。市販のフォラシンに含まれる天然由来のクロモフォアはアポタンパクと平衡の関係にあるため、基質が一旦外れると別の基質が活性部位に入ることが可能となる。そのため、天然由来のDCLから過剩に存在するDCL誘導体へと基質が入れ替わり再びクロモフォアを形成して発光する発光機構が考えられる。本研究では、カイコ・バキュロウイルス系を用いたアポフォラシンの発現と活性化を行い、8-OAr-DCLが最も高輝度活性を示す基質であることを明らかにした。本研究成果は遺伝子発現させたアポフォラシンを光らせることができた世界初の例であり、これにより化学修飾したDCL誘導体の正確な発光活性の評価を行うことが可能となった。

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