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大学・研究所にある論文を検索できる 「内臓脂肪組織内の時計遺伝子Dbpの発現変動に伴うインスリン感受性への影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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内臓脂肪組織内の時計遺伝子Dbpの発現変動に伴うインスリン感受性への影響

鈴木 智理 Chisato Suzuki 東京理科大学 DOI:info:doi/10.20604/00003618

2021.06.09

概要

地球上の生物には約24時間周期の概日リズムを有しており、これは時計遺伝子と呼ばれる転写調節因子群のnegative feedback loopにより厳密に制御されている。日内リズムが24時間周期で構成されているのは光や食事による外界からの刺激が中枢での体内時計システムをリセットしているためであり、規則正しい生活は健康的な生活を送るために非常に重要である。しかし、近年の先進国では24時間化した社会活動の影響を受けて夜型生活をする人やシフトワーカーが増加しており、生活リズムが不規則となりやすい環境となっている。不規則な生活リズムはメタボリックシンドローム発症の要因の1つとして近年の疫学研究により明らかとなっている。これまでの先行研究から主要な時計遺伝子であるclockを変異させたマウスにおいて過食に伴う体重増加や高血糖を呈すること、また糖尿病モデル動物であるob/obマウスは高血糖や高インスリン血症の発症に先行して、末梢臓器における時計遺伝子mRNAの発現量が正常マウスよりも低下していることが明らかとなっており、時計遺伝子の発現異常が糖尿病発症の要因の1つとして考えられる。さらに、コントロールマウスと比較してob/obマウスの精巣上体脂肪組織では、PAR-bZIP時計遺伝子に類するdbpの転写調節領域においてヒストンH3K9のアセチル化レベルが有意に低いため、ob/obマウスの脂肪組織においてDbpmRNAの発現量が暗期開始時で有意に減弱していることも明らかとされている。しかし、ob/obマウスは変異型leptinを分泌することで肥満を引き起こす特殊な2型糖尿病モデルマウスであり、内臓脂肪組織中の時計遺伝子の発現異常と糖尿病発症の関与について普遍的であるかは不明である。先進国において、2型糖尿病患者およびその予備群が増加傾向にある中で、時計遺伝子発現異常による糖尿病発症のメカニズムを解明することは糖尿病治療に新たなアプローチをもたらすと考えている。そこで、本研究では内臓脂肪組織中のDbp発現量が糖尿病の発症に関与しているか、また時計遺伝子dbpがどのようなメカニズムを介すかを解明することを目的に以下の解析を行った。

第1章では、先行研究結果をもとに普遍性を明らかにするため、ヒト内臓脂肪組織を用いて、非糖尿病患者(NDM)および糖尿病患者(DM)における時計遺伝子発現の比較検討を行った。内臓脂肪組織を得るために、自治医科大学附属病院消化器外科に入院中で胃癌のためにリンパ節廓清を伴う摘出術を受ける患者を対象とし、文書による同意を得た。その結果、DM群の内臓脂肪組織内でDbpmRNA発現量のみがNDM群と比較して有意に低値を示した。DM群のDbp遺伝子におけるヒストンH3K9のアセチル化レベルはNDM群と比較して有意に低値を示しており、内臓脂肪組織におけるDbpmRNA発現量とH3K9アセチル化レベルには有意な正の相関が認められた。以上の結果より、ヒト内臓脂肪組織中のDbp発現異常が糖尿病の発症に関与していること、また糖尿病患者の内臓脂肪組織においてもヒストンH3K9の低アセチル化がDbpmRNA発現量の低下に寄与していることが示唆された。さらに、血中DbpmRNA発現量には変化が見られないことから、内臓脂肪組織中でのDbp遺伝子の役割についてより詳しく解析する必要がある。

第2章では、マウスの内臓脂肪組織を用いて、脂肪組織中のDbp発現異常がどのような分子メカニズムを介して糖尿病発症に関与するかの分子メカニズムを解明することを目的に以下の検討を行った。雄性Wildtupe(WT)マウスおよびob/obマウス10週齢の血液および精巣上体脂肪組織を採取し、生理学的解析および遺伝子解析を行った。脂肪組織を構成している脂肪細胞は大きさによりアディポカインの分泌に大きく関与する。小型の脂肪細胞はインスリン感受性ホルモンであるアディポネクチンを分泌することでインスリン感受性を向上させるが、肥大した脂肪細胞はアディポネクチンの分泌抑制ならびに炎症性サイトカインの分泌促進によりインスリン抵抗性を引き起こすことが既に知られている。そこで、脂肪細胞の大きさについて解析を行ったところ、ob/obマウスの脂肪細胞径分布はコントロールマウスと比較して、大きい脂肪細胞の割合が多いことが明らかとなった。また、ob/obマウスの血中アディポネクチン濃度はWTマウスと比較して有意に低値を示した。脂肪細胞の大きさの変化の要因として、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化促進が考えられ、脂肪細胞分化にDbp遺伝子が関与している可能性がある。そこで、マウス前駆脂肪細胞である3T3-L1細胞にDbpsiRNAをトランスフェクトさせ、定法により脂肪細胞の分化誘導を行った。その結果、DbpsiRNAをトランスフェクトした細胞では脂肪細胞の割合が少なく、脂肪細胞分化マーカーの発現量が有意に低値を示していた。以上のことから、Dbpの発現量は脂肪細胞の分化誘導に関与していることが明らかとなった。脂肪細胞分化に重要な遺伝子のPpar-γの転写調節領域にDBPの結合領域(D-box)が発見され、DBPにより転写が促進されるアイソフォーム(Ppar-γ1svmRNA)が報告されているため、脂肪組織から前駆脂肪細胞を分画して遺伝子解析を行った。前駆脂肪細胞中のDBPは脂肪細胞分化に大きく関与するPpar-γ遺伝子の転写調節領域にあるD-boxに直接結合し、Ppar-γ1svmRNAへの転写を促進することが明らかとなった。以上をまとめると、ob/obマウスは内臓脂肪組織中での時計遺伝子Dbpの発現異常の結果、Ppar-γ遺伝子へ転写が抑制され、脂肪細胞の分化が抑制されている。これにより、脂肪組織中の脂肪細胞の形態が変化し、肥大した脂肪細胞が増加することで炎症性サイトカインの分泌が促進されインスリン抵抗性を呈したと考えられる。つまり、Dbpは時計遺伝子としての機能だけでなく、脂肪細胞の分化のスイッチ機能を有している重要な遺伝子であり、脂肪組織中のDbpの発現是正はインスリン感受性を改善させる可能性がある。

第3章では、これまでの検討で得たDbpを介したインスリン感受性調節のメカニズムをもとにDbp発現是正に伴うインスリン感受性の改善が行えるか検討を行った。Dbpの発現是正のためにDbp遺伝子の転写調節領域におけるヒストンアセチル化レベルを促進させるHDAC阻害薬であるMS275を本研究で使用した。雄性ob/obマウス8週齢にVehicleもしくはMS275を3週間隔日で明期開始時に腹腔内投与し、インスリン負荷試験を行った後、血液および精巣上体脂肪組織を採取し、遺伝子解析および生理学的解析を行った。MS275群の前駆脂肪細胞におけるPpar-γの転写調節領域におけるDBP結合量およびPpar-γ1svmRNA発現量は暗期開始時において、Vehicle群と比較して有意に高値を示していた。また、脂肪細胞径分布を測定したところ、MS275投与により小さい脂肪細胞の割合が増加したこと、MS275群の血中アディポネクチンがVehicle群と比較して有意に高値を示したことが明らかとなった。最後に、インスリン負荷試験を行ったところ、インスリンによる血糖値の低下はVehicle群と比較して、MS275群で有意に大であった。以上の結果から、ob/obマウスの脂肪細胞中におけるDbpの低アセチル化レベルの是正は脂肪細胞への分化を促進させ、さらに小型脂肪細胞の割合増加によりインスリン感受性向上を引き起こしたことを明らかとした。

以上の結果をまとめると、ヒト内臓脂肪組織を用いた研究結果から内臓脂肪組織中において時計遺伝子Dbpの発現異常が糖尿病発症の原因の1つであることが示唆され、この要因としてDbp遺伝子のヒストンの低アセチル化が関与していることを明らかとした。また、マウスを用いた研究成果により、時計遺伝子Dbpは脂肪組織中において前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化誘導を調節するスイッチ機能を有した重要な遺伝子であることを見出した。脂肪細胞分化の促進はインスリン感受性ホルモンであるアディポネクチンの分泌を促し、インスリン感受性を向上させる。つまり、時計遺伝子Dbpは内臓脂肪組織中の脂肪細胞の形態変化および血糖値の調節に重要であり、今後糖代謝治療を行う上で時間の概念を考慮した治療法を確立するべきである。

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