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大学・研究所にある論文を検索できる 「転写因子c-Mafは多発性硬化症におけるCD8+ T細胞のprogrammed cell death 1発現を促進し,免疫調節能を発揮する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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転写因子c-Mafは多発性硬化症におけるCD8+ T細胞のprogrammed cell death 1発現を促進し,免疫調節能を発揮する

古東, 秀介 神戸大学

2022.09.25

概要

多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)は中枢神経における慢性炎症性脱髄疾患であり,その病態におけるT細胞の自己免疫と免疫寛容の不均衡は重要な役割をもつと考えられている.これまでの研究は,病原性のあるCD4+T細胞に焦点を当てたものが多かったが,近年,調節性CD8+T細胞の関与が注目されている(Saligrama N et al. Nature 2019.).CD8+T細胞は,CD4+T細胞と比較してMS患者の脳脱髄病変に主に見られ,その数は軸索損傷と相関している(Dendrou CA et al. Nat RevImmunol. 2015.)がその役割は明らかではない.他の自己免疫性疾患である全身性エリテマトーデスなどでは,CD8+T細胞でのprogrammed death1(PD-1),cyto toxicT-lymphocyte antigen4 (CTLA-4)といった共抑制性分子の発現上昇は,良好な予後と相関している(Mc Kinney EF et al. Nature. 2015.).代表的な共抑制性分子であるPD-1やそのリガンド(PD-L1/PD-L2)を欠損したマウスではMSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)が悪化することが知られている(Carter LL et al. J Neuroimmunol. 2007.).また,MS患者においてPD-1遺伝子(PDCD1)上のSNPと病状の進行性経過との有意な関連が示されている(Kroner A et al. Ann Neurol. 2005.).一方,1型Interferon(IFN)刺激はT細胞においてPD-1発現を上昇させる(Terawaki S et al. J Immunol. 2011.)ことが知られており,1型IFNであるIFN-beta(IFN-β)は古くからMSの疾患修飾治療として用いられている(PatyDWetal.Neurology.1993.).しかし,MS患者において共抑制性分子を発現したCD8+T細胞によりもたらされる自己免疫に対する免疫寛容については不明な点が多い.

本研究ではCIS(Clinical isolated syndrome)/MS患者において,CD8+T細胞でのPD-1発現を解析し,PD-1陽性(PD-1+)CD8+T細胞の役割や転写制御機構を明らかにすることを目的とした.

2016年から2020年に当院を受診したCIS/MS患者45例及び健常人(HS)12例を対象とし,末梢血単核球細胞(PBMC)および脳脊髄液(CSF)検体を用いた.蛍光抗体を使用し,T細胞亜分画についてフローサイトメトリーで解析した.さらにPD-1+CD8+T細胞をセルソーターを用いて分離し,その細胞制御機能について,ヒト検体を用いた細胞培養系実験およびそのトランスクリプトーム解析を行った.

MS/CIS患者は寛解期無治療患者(NTx群),寛解期IFN-β治療患者(IFN群),疾患活動期患者にわけた.それぞれの患者群とHSで年齢,罹病期間,MSの身体障害度の指標であるTheexacerbation of the Expanded Disability Status Scale(EDSS)(Kurtzke J F et al. Neurology. 1983.)に差はなかった.疾患活動期のステロイドパルス療法への治療反応性は,EDSSを疾患活動期前と退院時で比較し,増悪がないものを治療反応性良好群,増悪があったものを治療反応性不良群とした.

寛解期MS患者とHSにおけるPBMC中のCD8+T細胞をフローサイトメトリーで解析したところ,NTx群ではHSに比してPD-1発現が低下していた.そして,NTx群に比してIFN群でPD-1発現は上昇しており,HSにおけるPD-1発現レベルに回復していた.MSの疾患修飾薬であるIFN-βがPD-1発現を促進していることが示唆された.IFN-βの直接作用を検討するため,invitroでHSのPBMCにIFN-βを添加したところ,CD8+T細胞でのPD-1発現は一貫して増加した.さらに,疾患活動期のCIS/MS患者におけるCSF中CD8+T細胞のPD-1発現をフローサイトメトリーで解析したところ,PBMCに比して増加していた.また,CSF中のCD8+T細胞のPD-1発現は,ステロイドパルス療法への治療反応性良好群で増加しており,入院期間と逆相関した.

次にPD-1+CD8+T細胞とPD-1-CD8+T細胞での直接的な差異を検討するため,microarrayを行った.170個の発現変動遺伝子が同定され,発現が上昇していた遺伝子群にはCTLA4,TIGIT,PDCD1といった共抑制性分子が含まれていた.興味深いことに,CCR7やSELLは発現が低下しており,PTPRCやCD27は発現変動遺伝子に含まれていなかった.これらの結果はPD-1が分化サブセットとは違った遺伝子セットであることを示唆した.MSに特異的な発現変動遺伝子を同定するため,HSでのPD-1+CD8+T細胞とPD-1-CD8+T細胞間での発現変動遺伝子データと比較したところ,PDCD1を含む14個の発現上昇遺伝子が共通していた.IFN群のPD-1+CD8+T細胞では45個の発現変動遺伝子が特異的に発現上昇しており,これらの発現変動遺伝子でGene set enrichment an alysisを行うと,ケモカイン-ケモカイン受容体結合遺伝子セット,CD28ファミリーによる共刺激遺伝子セット、IL-10シグナル遺伝子セットが上位で検出された.以上から,PD-1+CD8+T細胞が活性化細胞であり,炎症箇所への移動し,炎症の促進と抑制の2つの役割をもつ可能性が示唆された.

PD-1+CD8+T細胞の免疫調節機構を解明するため,既知の複数の機能障害状態のT細胞での共抑制性遺伝子群と比較したところ,いくつかが共通し転写因子c-Mafを含んだ.さらにPD-1+CD8+T細胞での発現上昇遺伝子をヒトT細胞のc-Mafにおけるクロマチン免疫沈降法データと比較したところ,約70%(43/59)の発現上昇遺伝子が共通した.よって,c-MafがPD1+CD8+T細胞の免疫調節における重要な調節役を担っていると考えられた.そこで,c-MafのCD8+T細胞に対する免疫調節能を確認するため,同細胞にレンチウイルスを用いてc-Mafを導入したところ,PDCD1やCTLA4の発現上昇を認めた.しかし,TIGITの発現上昇は見られなかった.CD8+T細胞はc-MafによってPD-1発現が調節され,免疫抑制作用のあるIL10の発現を誘導し,それは培養上清でも確認できた.

転写因子c-Mafを発現したCD8+T細胞の免疫調節能を検証するため,培養上清を用いて自家の混合リンパ球反応を行った.培養上清により,自家CD4+T細胞は顕著に細胞死をきたし,IL-10受容体ブロックにより回避された.よって,c-Mafを発現したCD8+T細胞により産生されたIL-10を介してCD4+T細胞の細胞死をもたらしていると考えられた

無治療MS患者では,PBMCでPD-1遺伝子発現が低下しており,EDSSと逆相関していることが知られている(Javan MR et al. Iran J Allergy Asthma Immunol. 2016.).本研究では,CD8+T細胞のPD-1はIFN-βによって誘導されることを示し.CSF中のCD-8+T細胞のPD-1発現上昇と疾患活動期の良好な治療反応性に相関がみられた.これは,炎症の不均一さや内因性のIFN-β刺激の違いによって,PD-1発現の差異が生じている可能性が考えられる.悪性腫瘍などでc-Mafと相互作用を有する共抑制性分子として,PD-1,CTLA-4,TIGIT,Tim-3などがある(Chihara N et al. Nature. 2018.).Tim-3は,進行期MS患者の脳病変での発現上昇が観察されている(van Nierop GP et al. Acta Neuropathol. 2017.).一方,IFN-βは寛解再発型MSの疾患修飾薬として用いられるが,進行期MSの進展予防効果はない(La Mantia L et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012.)とされる.進行期MSでは,CD8+T細胞の制御に別の因子が働いている可能性が考えられる.

本研究の限界として,解析した患者検体数が少ないため今後より多くの患者検体を用いた研究を要する.再発寛解型MSでは,診断時に急性期治療を行い,その後速やかに再発予防のため疾患修飾導入を行うため,無治療MS検体でのinvitro実験を行うことができず健常者検体を用いた.IFN-β治療群におけるCD8+T細胞のPD-1と共発現した遺伝子は,治療効果だけでなく,さらに研究すべきMS特異的な表現型を反映している可能性がある.しかしながら,本研究における表現系の解析や実験結果はMSにおけるCD-8+T細胞が発現するPD-1の役割を検証しただけでなく,PD-1+CD8+T細胞の転写制御機構を明らかにしており,新たな治療反応性の予測因子や治療対象となる可能性がある.また,免疫調節能の障害を克服することは,MS患者におけるより適切な治療戦略である可能性がある.

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